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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
疲れ気味
デイビッドが夕方の教員室に、特殊生物の飼育について許可を得るため書類を出しに行くと、ちょっとした騒動になった。
「ヒポグリフを飼うですって?!」
「いや…飼うと言うか、保護と言うか…」
「大型の魔獣を学園で世話するなど、前例がありません!!」
「引き取り先が見つかるまでの間だけでも…」
「万が一生徒に危害が及んだらどう責任を取るおつもりですか?!」
「周囲への危害防止策は取りますので…」
「第一、指定の危険魔法生物の飼育には、専門家の指導と管理が必要なのですよ?!それはどうなさるのですか?」
「資格は持ってるので…後は敷地の問題だけなんですよ…」
「いや!しかし、ヒポグリフですよ?!魔力量も非常に高く、魔術の素材としても大変優秀な生物です!」
「滅多に見られない魔生物を、生きた資料として飼育するのも学園の役割のひとつかと!」
「魔獣とは言え、飼育方法も確立していますし、このチャンスは逃すべきではありません!我々からもお願いします!」
反対意見も多く、今回は諦めた方がいいかと思っていたら、魔法棟の教員達という、思わぬ援護がついて、ついに教頭が折れ、学園長の承認が下りた。
「ハァーー疲れた!ムスタもご苦労さん。今日は助かったよ。」
馬房にファルコを繋ぎ、愛馬の背中を磨いてやり、新しい寝藁を敷いて、特別製の餌をやる。
よたよたと、昼間の元気もなく、直ぐに座り込んでしまうファルコに薬を塗り直し、潰した樹の実と果物を喉に流し込んだ。
ファルコはおとなしく口を開け、嫌々ながらちゃんと餌を飲み込んでくれた。
「腹の中の傷が治るまで、しばらくこれで我慢しろよ。お前等ヒポグリフはグルメなんだってな。身体が治って、好みが分かったら肉でも何でも用意してやるよ。」
甲斐甲斐しく世話していると、隣のムスタがデイビッドの髪を引っ張った。
「いだだだ!!やめろムスタ!!何度も言うがこれは尻尾じゃねぇんだよ!!なんだお前拗ねてんのか?!仕方ないだろ!コイツは怪我してんだぞ?!いだだだだ!!離せコラ!!」
仕方なく、間仕切りの板を外すと、ムスタもファルコの隣に寝転んだので、デイビッドはその間に挟まれてしまった。
「しゃぁねぇか…今夜だけだぞ!?ったく、散々な1日だ!」
今日は昼前にはヴィオラと(シェルとエリックもいるが)研究室へ戻り、食事をしながら初授業について色々聞くつもりでいたが、何ひとつできなかった。
(明日、謝らないと…)
やがて夜の涼風が立つ頃、2頭にもたれ掛かったまま、デイビッドは藁の上で眠ってしまった。
そして次の朝、日もまだ昇りきらない時刻、デイビッドは馬房でひとり死にかけていた。
「ぐぁぁぁ…潰れる!潰れる!両サイドから魔獣と軍馬にすり寄られたら人間は潰れる!!甘えるにしても限度ってもんがあんだろ!!クソッ…力強ぇなコイツら!!ちょっと離れろ!頼むから!」
ボロボロになりながら、なんとか逃げ出し、寝藁を掃除して餌を足すと、2頭はやっと大人しくなった。
「ファルコはまだわかるとして、ムスタは完全にワザとやってんだろ…お前…いい加減俺を人と認識しないといつか死ぬぞ?俺が!!」
2頭の馬房は、板でなく棒柵で仕切り、顔が見えるようにしてやると、ファルコは少し安心したようだった。
「じゃあな。また様子見に来るからよ。」
外に出ると朝日が眩しく、生徒達が起き出す時間になっていた。
(身体中、獣クセェ……おまけに昨日の昼からなんも食ってねぇから、そろそろ頭が回んねーや…)
研究室に戻り、まずはシャワーを浴びて服を着替えると、ようやく人心地着いたが、料理をする気も起きないので、籠にあったリンゴをかじってごまかした。
「うわっ!!デイビッド様、いつ戻ったんですか?」
ソファに座ると、当然のようにカウチで寝ていたエリックが飛び起きた。
「…ついさっきだよ…」
「いきなり馬で駆けてくから何事かと思ったら、すごい噂が出てますよ?でっかい魔物拾って帰って来たとかなんとか。」
「ヒポグリフの世話して馬小屋で寝てたんだよ…」
「真相の方が恐ろしかった!!なんでそんなもん拾っちゃったんですか!?」
「んー…成り行き…?」
「その毎度変なもん拾って来る癖、直しましょうよ!!」
「拾いたくて拾ったんじゃねぇよ…」
「…なんか隈できてません?」
「そりゃ魔獣の横でちゃんとは休めねぇよ。少し寝る…」
(この人…意識が低下すると存在が薄くなって怖いんだよなぁ…)
昔から眠りにつくと、やたら静かになり、人の気配まで曖昧になるデイビッドの謎の性質(体質?)が、エリックは苦手 だった。
部屋の中で、そこにいるはずの人間を見失うのが恐怖らしい。
普段なら叩き起こすが、今日はそうもいかず、自身の身支度を済ませるとさっさと部屋を出て行ってしまった。
今日は水曜日。
二学期からデイビッドの受け持ちは、月曜と火曜の3校時目と、木曜と金曜の最終校時になるので、今日は非番となる。
それでも授業時間には目が覚めて、早めに昼の支度に掛かる。
(腹減ったなぁ…)
この状態で、料理場に立つ危険性を、本人はもう少し自覚するべきだった。
「だから普段からあれだけ言ってるじゃないですか!?アンタぼんやりしてると、なんでもかんでも作りすぎるんだって!!」
焜炉には三口全部に鍋が掛かり、オーブンも外の焼き窯もフル稼働で何か焼いている。
テーブルにはすでに、大皿のオムレツや、魚の包み焼きや、塊肉の料理が所狭しと並んでいる。
午前中の授業を終えて戻ったエリックは、ただ呆れるしかなかった。
「どうするんですか?こんなに…ってさては、まだ頭が働いてないなこの人?!」
そこへいつもの2人がやって来た。
「デイビッド様!!良かった!心配したんですよ?!授業の後、直ぐにどこかへ呼ばれてしまって、それきり戻らないから…でも馬に乗るデイビッド様もカッコよかったです!!」
「おかげで昼食はヴィオラと上のカフェに行きましたの。味気なくて、食べた気がしませんでしたわ!」
「ヴィオラ!昨日は部屋にいなくて悪かった。ちょっと出先で問題が起きて帰れなかったんだ。」
「良かったご無事で!でも、なんだか顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
「このくらい食えばすぐ治るよ。」
ヴィオラの授業の感想やカフェの話を聞きながら食事をしていると、満腹とは別に何かが満たされていく感覚がして、ようやく頭がまともに動き出すのがわかる。
「ヤバい…作りすぎたな…」
「気づくのが遅いんですよ…」
食べても食べてもなくならず、残った大量のごちそうは、その後、騎士科の腹ペコ男児達を召喚し、なんとか消費した。
「ヒポグリフを飼うですって?!」
「いや…飼うと言うか、保護と言うか…」
「大型の魔獣を学園で世話するなど、前例がありません!!」
「引き取り先が見つかるまでの間だけでも…」
「万が一生徒に危害が及んだらどう責任を取るおつもりですか?!」
「周囲への危害防止策は取りますので…」
「第一、指定の危険魔法生物の飼育には、専門家の指導と管理が必要なのですよ?!それはどうなさるのですか?」
「資格は持ってるので…後は敷地の問題だけなんですよ…」
「いや!しかし、ヒポグリフですよ?!魔力量も非常に高く、魔術の素材としても大変優秀な生物です!」
「滅多に見られない魔生物を、生きた資料として飼育するのも学園の役割のひとつかと!」
「魔獣とは言え、飼育方法も確立していますし、このチャンスは逃すべきではありません!我々からもお願いします!」
反対意見も多く、今回は諦めた方がいいかと思っていたら、魔法棟の教員達という、思わぬ援護がついて、ついに教頭が折れ、学園長の承認が下りた。
「ハァーー疲れた!ムスタもご苦労さん。今日は助かったよ。」
馬房にファルコを繋ぎ、愛馬の背中を磨いてやり、新しい寝藁を敷いて、特別製の餌をやる。
よたよたと、昼間の元気もなく、直ぐに座り込んでしまうファルコに薬を塗り直し、潰した樹の実と果物を喉に流し込んだ。
ファルコはおとなしく口を開け、嫌々ながらちゃんと餌を飲み込んでくれた。
「腹の中の傷が治るまで、しばらくこれで我慢しろよ。お前等ヒポグリフはグルメなんだってな。身体が治って、好みが分かったら肉でも何でも用意してやるよ。」
甲斐甲斐しく世話していると、隣のムスタがデイビッドの髪を引っ張った。
「いだだだ!!やめろムスタ!!何度も言うがこれは尻尾じゃねぇんだよ!!なんだお前拗ねてんのか?!仕方ないだろ!コイツは怪我してんだぞ?!いだだだだ!!離せコラ!!」
仕方なく、間仕切りの板を外すと、ムスタもファルコの隣に寝転んだので、デイビッドはその間に挟まれてしまった。
「しゃぁねぇか…今夜だけだぞ!?ったく、散々な1日だ!」
今日は昼前にはヴィオラと(シェルとエリックもいるが)研究室へ戻り、食事をしながら初授業について色々聞くつもりでいたが、何ひとつできなかった。
(明日、謝らないと…)
やがて夜の涼風が立つ頃、2頭にもたれ掛かったまま、デイビッドは藁の上で眠ってしまった。
そして次の朝、日もまだ昇りきらない時刻、デイビッドは馬房でひとり死にかけていた。
「ぐぁぁぁ…潰れる!潰れる!両サイドから魔獣と軍馬にすり寄られたら人間は潰れる!!甘えるにしても限度ってもんがあんだろ!!クソッ…力強ぇなコイツら!!ちょっと離れろ!頼むから!」
ボロボロになりながら、なんとか逃げ出し、寝藁を掃除して餌を足すと、2頭はやっと大人しくなった。
「ファルコはまだわかるとして、ムスタは完全にワザとやってんだろ…お前…いい加減俺を人と認識しないといつか死ぬぞ?俺が!!」
2頭の馬房は、板でなく棒柵で仕切り、顔が見えるようにしてやると、ファルコは少し安心したようだった。
「じゃあな。また様子見に来るからよ。」
外に出ると朝日が眩しく、生徒達が起き出す時間になっていた。
(身体中、獣クセェ……おまけに昨日の昼からなんも食ってねぇから、そろそろ頭が回んねーや…)
研究室に戻り、まずはシャワーを浴びて服を着替えると、ようやく人心地着いたが、料理をする気も起きないので、籠にあったリンゴをかじってごまかした。
「うわっ!!デイビッド様、いつ戻ったんですか?」
ソファに座ると、当然のようにカウチで寝ていたエリックが飛び起きた。
「…ついさっきだよ…」
「いきなり馬で駆けてくから何事かと思ったら、すごい噂が出てますよ?でっかい魔物拾って帰って来たとかなんとか。」
「ヒポグリフの世話して馬小屋で寝てたんだよ…」
「真相の方が恐ろしかった!!なんでそんなもん拾っちゃったんですか!?」
「んー…成り行き…?」
「その毎度変なもん拾って来る癖、直しましょうよ!!」
「拾いたくて拾ったんじゃねぇよ…」
「…なんか隈できてません?」
「そりゃ魔獣の横でちゃんとは休めねぇよ。少し寝る…」
(この人…意識が低下すると存在が薄くなって怖いんだよなぁ…)
昔から眠りにつくと、やたら静かになり、人の気配まで曖昧になるデイビッドの謎の性質(体質?)が、エリックは苦手 だった。
部屋の中で、そこにいるはずの人間を見失うのが恐怖らしい。
普段なら叩き起こすが、今日はそうもいかず、自身の身支度を済ませるとさっさと部屋を出て行ってしまった。
今日は水曜日。
二学期からデイビッドの受け持ちは、月曜と火曜の3校時目と、木曜と金曜の最終校時になるので、今日は非番となる。
それでも授業時間には目が覚めて、早めに昼の支度に掛かる。
(腹減ったなぁ…)
この状態で、料理場に立つ危険性を、本人はもう少し自覚するべきだった。
「だから普段からあれだけ言ってるじゃないですか!?アンタぼんやりしてると、なんでもかんでも作りすぎるんだって!!」
焜炉には三口全部に鍋が掛かり、オーブンも外の焼き窯もフル稼働で何か焼いている。
テーブルにはすでに、大皿のオムレツや、魚の包み焼きや、塊肉の料理が所狭しと並んでいる。
午前中の授業を終えて戻ったエリックは、ただ呆れるしかなかった。
「どうするんですか?こんなに…ってさては、まだ頭が働いてないなこの人?!」
そこへいつもの2人がやって来た。
「デイビッド様!!良かった!心配したんですよ?!授業の後、直ぐにどこかへ呼ばれてしまって、それきり戻らないから…でも馬に乗るデイビッド様もカッコよかったです!!」
「おかげで昼食はヴィオラと上のカフェに行きましたの。味気なくて、食べた気がしませんでしたわ!」
「ヴィオラ!昨日は部屋にいなくて悪かった。ちょっと出先で問題が起きて帰れなかったんだ。」
「良かったご無事で!でも、なんだか顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
「このくらい食えばすぐ治るよ。」
ヴィオラの授業の感想やカフェの話を聞きながら食事をしていると、満腹とは別に何かが満たされていく感覚がして、ようやく頭がまともに動き出すのがわかる。
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