黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

開き直り

すっかり遅くなったデイビッドは、昼は簡単に大皿のグラタンとスープと残り物で作り、ヴィオラ(とシェルリアーナ)と他愛ない話をした。
そして昼休みが終わり、2人が授業へ戻って行くと、昼前の騒動を思い出し、デスクにうなだれた。

「アーハッハッハッハッ!!馬小屋半壊させて始末書って!?ウケるーー!!めっちゃ恩を仇で返されてる!!」
「うるせぇよ!!」
「まぁまぁいいじゃないですか、貴方は減給されたって痛くも痒くもないでしょ?」
「処分を受けた事自体が問題なんだよ!!」

午後も遅くになって帰って来たエリックは、始末書を横から覗き込み、大爆笑している。

「えー…なんか、すっごい書き慣れてません?始末書なんてそんなスラスラ書ける人あんまりいませんよ。経験豊富なんですね。」
「受け取る側のな!!?書かれたヤツ散々見たから書けるだけで!俺が書くのは初めてだよ!!」
「え!?意外!!」
「お前は少し黙ってろ!!」

無事始末書を提出すると、今度はファルコを引き取りに行く。
壊れた馬房にいた馬達は、一時別の厩舎に移したが、ファルコを見ると怯えてしまうようになったので、完全に切り離さないとストレスを与えてしまう。

半壊した屋根の下でのんびりしていたファルコを連れて行こうとすると、まだ残っていたムスタが髪を引っ張った。

「痛い痛い!!わかったよ!お前も連れてくよ!!」

大砂鳥もいることで、この際大きめの畜舎でも建てようか考えながら歩いていると、遠目から生徒達がこっちを見ているのに気がついた。
やはりヒポグリフは特に男子生徒からの人気が高い。

「良かったなお前、人気者じゃねぇか…イダダダダ!!ちょっ…待て!頭に羽を刺そうとするな!!そこには刺さらない!!むしろ刺さる!なぜ脳天?!そこは野生のヒポグリフでも無理だろ!!」

立派な尾羽根を引き抜いて、なぜかデイビッドの頭のてっぺんに刺そうとするファルコ。

「普通は羽毛とか!人間相手なら髪に刺すのは聞いたことあるけどよ!?なぜそこに刺したがる!!逆に本当に刺さってみろ!人間が頭のてっぺんから羽生やしてたらアホみてぇだろ!ここには刺さない!だ!め!だ!」

羽を取り上げ叱りつけると、シュンとして上目遣いにこっちを見上げて来る。
叱ると一応止めてはくれるので、そこそこ聞き分けはいい方のようだ。

「求愛行動にしちゃ乱暴過ぎないか?それじゃ相手に嫌われちまうぞ?…そもそも俺にするな!!」

ヒポグリフは、気に入った相手の羽毛に、自分の羽根や綺麗な他の鳥の羽根を拾って来て飾る習性がある。
若い個体のファルコは、仲間と離されて暮らしていたのか、本来は親兄弟や群れから教わるはずの行動が、いまいちうまいことできていない。
それを見て、しかたないとでも言うように、今度はムスタが手本を見せる。

「いっってぇ!!いきなり髪を引くなムスタ!!鞭打ちになるわ!!あーもーなんでこんな人の頭ばっかり狙って…イデデデ!真似するなファルコ!!それは違う!!尻尾じゃない!!離せ!!その先輩の言う事は聞くんじゃない!」
「…コントですか?」
「笑ってみろ、ぶっ飛ばすぞ?!」

エリックは改めて見るヒポグリフにやや引き気味だ。
研究室の前の庭先にムスタを繋ぎ、ファルコは一番太い木の根本に鎖を掛けて、更に縄も太い物に替えた。

「動物系は控えるとか言ってたクセに、1年立たずに動物園ですね?!」
「自前はムスタだけだろ?その内、そっちの空き地に畜舎を作らせてもらえないか申請してみる。それまで雨が振らないといいんだがなぁ…」

文句も言いながら、益々賑やかになる庭先が、悩みの種であると同時に、少しだけ嬉しく感じるデイビッドだった。


次の日の授業は領地経営科。
生徒達は、なかなか集中できなかった。

「先生…イメチェンですか…?」
「あー、こうしてないと馬に食われるから、しかたなくだ…」

今日のデイビッドは、長い髪をかんざしにグルグル巻き付けて、高い位置に括り付け、派手なヒポグリフの羽根を刺している。
デイビッドが自分の羽を身に着けているとわかると、ファルコも満足するのかイタズラがいくらか内場になる。

「先生…窓の外にいるのって…」
「俺の馬とヒポグリフだ。気にするな。」
「え、でも…めちゃくちゃこっち見てる…」
「かまって欲しいだけだ。気にしたら負けと思え!それじゃ前回の続きからーーー」

ファルコはデイビッドの声が聞こえる場所にいると、安心するのか静かだ。
日溜まりでムスタにじゃれながら、チラチラ教室の方を見ているが、もう音を立てたり鳴いたりはしない。

ファルコが落ち着くまで、デイビッドは自分の授業に2頭を毎度連れて行くことにした。
これなら監視もできて、ファルコもムスタも大人しい。
簡易の柵も付けて、生徒とも距離を設け、これで文句は無いだろうと開き直って学園内を堂々と連れ回すようになった。

おかげで、ファルコの人気はどんどん高くなる。

「デイビッド様…頭エライことになってますよ?」

ファルコは気に入った物をなんでもデイビッドの頭に刺すので、カラスの羽や木の枝や、落ちていた紐や紙切れなど、好き放題くっつけられて、とんでもないことになっている。
エリックが遠巻きにそれを見て、怪訝な顔をする。

「…毟られるよりマシだろ…」
「虫の羽根まで突っ込まれてますよ…髪、ちゃんとよく洗って下さいね?!」

ゴミを払って髪を解くと、ヒポグリフの羽が落ちる。
髪を結い直し、羽根を拾おうとすると、丁度研究室のドアが開いた。

「デイビッド様!今日の髪型とっても素敵でした!!」
「ヴィオラ…アレをステキと言われても、ちょっと嬉しくはならないなぁ…」

羽根を拾い、立ち上がるとシェルリアーナと目が合った。

「…ねぇ、貴方、その手に持ってるの…」
「あぁ、聞いてないか?保護したヒポグリフの…」
「欲しい!!」
「え?!」
「欲しい!欲しい!欲しい!!ちょーだい!!」
「シェルが幼児退行した!?」

常日頃、魔術式超過重ね掛けのベストやら、魔鉱石やら、アダマントやら、王宮の魔術師でさえ、早々お目に掛かれないようなお宝を見せびらかされて来たシェルリアーナは、デイビッドのことだから、ねだればもしかしたらくれるかもしれないヒポグリフの羽に、食いついて離れなかった。

「ちょーだい!ちょーだい!!」
「こんなんでいいのか…?変な奴。」

腕程ある大きな羽を渡すと、シェルリアーナの目がキラキラした。

「すごい…綺麗な尾羽根…古くなって抜けた羽じゃないのね!!」
「自分で引っこ抜いて、人にぶっ刺してきたヤツだからな。」
「これがあれば、魔法の錬成の精度が更に上がりますの!先生達が話してましたわ!うふふ。魔法棟で一番に手に入れたのは私ですわ!ありがとう!」
「やけに素直だな…雨でも降るのか…?」
「お礼にそのうっとうしい髪、私が引き千切って差し上げましょうか?!」
「やめてくれ!」

デイビッドはそれからしばらくの間、いきなり髪を引かれる恐怖から、無意識に髪をまとめ上げるのが癖になった。
感想 5

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