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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
妖精の箱庭
「全く、どこで道草食ってんでしょうね?!」
昼餉の支度をしながら、エリックはなかなか帰らない主人にイラ立っていた。
すぐ戻るよう言ったはずが、もう昼過ぎだ。
(面白い本でも見つけたのかな?想像つかないけど…)
のんびり構えていたエリックが焦りを感じたのは、夕刻を過ぎて学園の門が閉まる時刻。
「外には出ていないですって?!」
「はい…デイビッド先生はどちらの門からも外出はされていません。」
図書室も閉まり、いい加減心配になって探しに出てきたら、本当にどこにも居なくなっていた。
守衛や事務に尋ねても誰も姿を見ていないと言う。
念の為、商会にも聞きに行ったが、無駄足に終わった。
(一体どこに行ったんだ…?)
デイビッドは放浪癖はあるものの、出ていく時は必ず置き手紙や符丁を残して行く。
それが何もないまま、いなくなるということは、今まで一度も無い。
しかし、その夜デイビッドが研究室に戻る事は無かった。
次の日は学園の外まで探し回り、商会や関係者を片っ端から訪ねたが、誰も行方を知る者はいなかった。
やがてエリックは、魔法学棟で恐ろしい話を耳にした。
誰かが妖精に連れて行かれた…と。
魔法学棟には、いくつもの不思議な決まりがある。
鏡に話しかけられても返事はしないこと。
広間の肖像画を馬鹿にしてはいけないこと。
廊下のアーチでキスしてはならないこと。
満月の夜に屋根の上で1人では踊らないこと。
ロウソクの火が緑になったら必ず目を背けること。
決して直してはならない魔導書、火を絶やしてはならないランプ…
そして、西の中庭の茂みには決して近づかないこと。
なぜなら、そこは妖精の箱庭だから。
魔力持ちの中には、数は少ないが、特殊な血統や精霊等に愛された、特別な力を持つ者達がいる。
精霊や妖精の力を借りて、魔法を行使する、所謂、精霊魔法の使い手達だ。
力を消耗した精霊や妖精達は、この箱庭へやって来て体を癒し、力を蓄える。
そこは、とても強力な大精霊の住まう聖域と繋がっていて、人間は入ることが許されない。
むやみに近づくと、怪我をしたり、不運に見舞われたりするという。
先々代学園長の契約精霊と妖精が作り上げたという、そこは現世と切り離された異空間への入り口なのだ。
「シェルリアーナ様!大変です!箱庭の入り口が開いています!!」
「なんですって?!」
シェルリアーナは同級生達に呼ばれ、大急ぎで魔法学の研究室を出た。
中庭へ駆けつけると、どんなに日の差す昼間でも薄暗い茂みの一箇所が、まるで何かを飲み込もうとしているかのように明るく口を開けていた。
誘うように揺れる花々を唖然と見つめていると、中から笛の様な音が聞こえてくる。
その怪しい音色は、妖精の歌声。
妖精の声は本来人には聴こえない。
それが人の耳に届く程、大勢の妖精が騒いでいるのだ。
「こんなの初めて見ましたわ…何が起きているの…?」
「先生達にもわからないそうで…シェルリアーナ様なら何かご存知かと思ったのですが…」
「いいえ、私にもさっぱりですわ。しかし危険な事には変わりありませんわね…一応人払いの結界を張って、外出中の学園長先生のお帰りを待ちましょう。人の出入りを確認して、誰が中へ入ったか調べますわ!」
時は少し遡り、前日の昼過ぎ頃。
デイビッドはその時すでに、聖域の最奥部まで来てしまっていた。
(いい風が吹いてるなー…静かで、あっけぇし…いい場所だな…)
日溜まりの乾いた草の上に腰を下ろすと、ポケットから土の笛が転がり落ちた。
(あれ?懐かしいな、入れっぱなしだったのか。ガキの頃、領地の森で良く吹いてたヤツ…まだ覚えてるかな…)
土笛から軟らかな音色が滑り出し、辺りの木々がざわついて、光の中で何かが踊り出す。
この異常事態にもデイビッドはまだ気付かない。
そもそも魔術式を組んだベストから、持ち主の意思に反して物が落ちるという現象自体がまずおかしい。
魔力の無いデイビッドには全く見えていないが、デイビッドの周りには辺り一面妖精が集まって笛の音に合わせて大騒ぎしているのだ。
(けっこう吹けるもんだ…さてと、一休みしたらそろそろ…あれ…なんだっけ…おもいだせない…?なんだ…ねむくなってきた……)
微睡んだら最後、徐々に思考が奪われ、意識が曖昧になり、魂の境界が薄れて、人は妖精に捕われるのだと、昔から言われている。
「ミス・シェルリアーナ!!少しよろしいですか?!」
「エリック先生?今忙しいのですけれど、何のご用ですの?」
(デイビッド様、見ませんでした?)
(エリック…それについて、いい話と悪い話があるわ…)
シェルリアーナの、まず、いい話。
デイビッドは昨日の昼過ぎ、確かに魔法学棟へ来ているという。
次に、悪い話。
しかし、出て行ってはいないそうだ。
そして先程の妖精の話…
「それは本当なのですか?」
「正面入り口のノッカーに聞いたので間違いありませんわ!」
「ノッカーにですか…?」
「あの馬鹿が妖精に引き込まれたのは確かでしょうね。昨日の昼過ぎということは、既に丸一日経ってますわ…無事で済むかどうか…入り口が閉じるのも時間の問題ですわね…ちょっと!どこへ行くの?!」
エリックは話を聞くと、すぐさま西の中庭へ向かって走り出した。
「待ちなさい!まさか、あの中へ入るつもりですの?ダメよ!貴方まで捕らわれてしまうわ!!そもそも入れるかどうか…」
「大丈夫、道の開き方は知ってますから。妖精が少し荒れるかも知れませんが、こう見えて扱いには慣れてますので…」
「貴方…精霊魔法が使えるの?!」
「言ってませんでした?血統だけで言えば、妖精の愛し子と、精霊の末裔のごっちゃなんですよね、僕。」
「せめてハーフと言いなさいよ!」
一見平和そうな、明るい茂みの入り口から、恐ろしい程の魔力が噴き出している。
引き入れようとする力と、拒む力が拮抗し、誘われているのに中へ入れない。
「え?シェルリアーナ様も来るんですか?」
「こうなったら、中がどうなってるのか気になりますもの。少なくとも数十年は開かなかった箱庭に入れるチャンスですわ!大丈夫、私だって魔女なんだから!」
「シェルリアーナ様のそういう肝の座ってるとこ、僕けっこう好きですよ。」
「いちいち茶化さないで!!」
エリックはポケットから、いつの間に持っていたのか、細い縄を取り出し、その先をシェルリアーナに差し出した。
「じゃあこれ、腕に巻いて下さい。」
「ロープ…?」
「泣き糸杉と星柳の皮を、ドライアドのツルと編んだ物ですよ。これには妖精は触れません。お互い繋いでないと、たぶんすぐ迷子になりますよ?」
「手を繋ぐとかではダメなの?」
「その手が僕のものでなくなった時、それに気が付けるなら良いですよ?」
「…っわかったわ…これでいい?」
「なんか美女と紐で繋がるって背徳感ありますね!」
「首に巻かれたい?!」
箱庭の入口に、意を決して足を踏み入れると、押し潰されそうな程の圧が体に伸し掛かり、弾き返されそうになるのに、強引に引きずり込まれる感覚もあって、無性に恐怖が掻き立てられる。
「周りの気配に飲まれないように…妖精の意見が割れて喧嘩してるんですよ。他の妖精がそれを面白がって、好きな方に加勢してるんです。今のところ、まだ誘う力が優先の様ですね。」
「息が…うまくできないわ…」
シェルリアーナは震える足をなんとか動かし、エリックについて更に奥へと進んで行った。
昼餉の支度をしながら、エリックはなかなか帰らない主人にイラ立っていた。
すぐ戻るよう言ったはずが、もう昼過ぎだ。
(面白い本でも見つけたのかな?想像つかないけど…)
のんびり構えていたエリックが焦りを感じたのは、夕刻を過ぎて学園の門が閉まる時刻。
「外には出ていないですって?!」
「はい…デイビッド先生はどちらの門からも外出はされていません。」
図書室も閉まり、いい加減心配になって探しに出てきたら、本当にどこにも居なくなっていた。
守衛や事務に尋ねても誰も姿を見ていないと言う。
念の為、商会にも聞きに行ったが、無駄足に終わった。
(一体どこに行ったんだ…?)
デイビッドは放浪癖はあるものの、出ていく時は必ず置き手紙や符丁を残して行く。
それが何もないまま、いなくなるということは、今まで一度も無い。
しかし、その夜デイビッドが研究室に戻る事は無かった。
次の日は学園の外まで探し回り、商会や関係者を片っ端から訪ねたが、誰も行方を知る者はいなかった。
やがてエリックは、魔法学棟で恐ろしい話を耳にした。
誰かが妖精に連れて行かれた…と。
魔法学棟には、いくつもの不思議な決まりがある。
鏡に話しかけられても返事はしないこと。
広間の肖像画を馬鹿にしてはいけないこと。
廊下のアーチでキスしてはならないこと。
満月の夜に屋根の上で1人では踊らないこと。
ロウソクの火が緑になったら必ず目を背けること。
決して直してはならない魔導書、火を絶やしてはならないランプ…
そして、西の中庭の茂みには決して近づかないこと。
なぜなら、そこは妖精の箱庭だから。
魔力持ちの中には、数は少ないが、特殊な血統や精霊等に愛された、特別な力を持つ者達がいる。
精霊や妖精の力を借りて、魔法を行使する、所謂、精霊魔法の使い手達だ。
力を消耗した精霊や妖精達は、この箱庭へやって来て体を癒し、力を蓄える。
そこは、とても強力な大精霊の住まう聖域と繋がっていて、人間は入ることが許されない。
むやみに近づくと、怪我をしたり、不運に見舞われたりするという。
先々代学園長の契約精霊と妖精が作り上げたという、そこは現世と切り離された異空間への入り口なのだ。
「シェルリアーナ様!大変です!箱庭の入り口が開いています!!」
「なんですって?!」
シェルリアーナは同級生達に呼ばれ、大急ぎで魔法学の研究室を出た。
中庭へ駆けつけると、どんなに日の差す昼間でも薄暗い茂みの一箇所が、まるで何かを飲み込もうとしているかのように明るく口を開けていた。
誘うように揺れる花々を唖然と見つめていると、中から笛の様な音が聞こえてくる。
その怪しい音色は、妖精の歌声。
妖精の声は本来人には聴こえない。
それが人の耳に届く程、大勢の妖精が騒いでいるのだ。
「こんなの初めて見ましたわ…何が起きているの…?」
「先生達にもわからないそうで…シェルリアーナ様なら何かご存知かと思ったのですが…」
「いいえ、私にもさっぱりですわ。しかし危険な事には変わりありませんわね…一応人払いの結界を張って、外出中の学園長先生のお帰りを待ちましょう。人の出入りを確認して、誰が中へ入ったか調べますわ!」
時は少し遡り、前日の昼過ぎ頃。
デイビッドはその時すでに、聖域の最奥部まで来てしまっていた。
(いい風が吹いてるなー…静かで、あっけぇし…いい場所だな…)
日溜まりの乾いた草の上に腰を下ろすと、ポケットから土の笛が転がり落ちた。
(あれ?懐かしいな、入れっぱなしだったのか。ガキの頃、領地の森で良く吹いてたヤツ…まだ覚えてるかな…)
土笛から軟らかな音色が滑り出し、辺りの木々がざわついて、光の中で何かが踊り出す。
この異常事態にもデイビッドはまだ気付かない。
そもそも魔術式を組んだベストから、持ち主の意思に反して物が落ちるという現象自体がまずおかしい。
魔力の無いデイビッドには全く見えていないが、デイビッドの周りには辺り一面妖精が集まって笛の音に合わせて大騒ぎしているのだ。
(けっこう吹けるもんだ…さてと、一休みしたらそろそろ…あれ…なんだっけ…おもいだせない…?なんだ…ねむくなってきた……)
微睡んだら最後、徐々に思考が奪われ、意識が曖昧になり、魂の境界が薄れて、人は妖精に捕われるのだと、昔から言われている。
「ミス・シェルリアーナ!!少しよろしいですか?!」
「エリック先生?今忙しいのですけれど、何のご用ですの?」
(デイビッド様、見ませんでした?)
(エリック…それについて、いい話と悪い話があるわ…)
シェルリアーナの、まず、いい話。
デイビッドは昨日の昼過ぎ、確かに魔法学棟へ来ているという。
次に、悪い話。
しかし、出て行ってはいないそうだ。
そして先程の妖精の話…
「それは本当なのですか?」
「正面入り口のノッカーに聞いたので間違いありませんわ!」
「ノッカーにですか…?」
「あの馬鹿が妖精に引き込まれたのは確かでしょうね。昨日の昼過ぎということは、既に丸一日経ってますわ…無事で済むかどうか…入り口が閉じるのも時間の問題ですわね…ちょっと!どこへ行くの?!」
エリックは話を聞くと、すぐさま西の中庭へ向かって走り出した。
「待ちなさい!まさか、あの中へ入るつもりですの?ダメよ!貴方まで捕らわれてしまうわ!!そもそも入れるかどうか…」
「大丈夫、道の開き方は知ってますから。妖精が少し荒れるかも知れませんが、こう見えて扱いには慣れてますので…」
「貴方…精霊魔法が使えるの?!」
「言ってませんでした?血統だけで言えば、妖精の愛し子と、精霊の末裔のごっちゃなんですよね、僕。」
「せめてハーフと言いなさいよ!」
一見平和そうな、明るい茂みの入り口から、恐ろしい程の魔力が噴き出している。
引き入れようとする力と、拒む力が拮抗し、誘われているのに中へ入れない。
「え?シェルリアーナ様も来るんですか?」
「こうなったら、中がどうなってるのか気になりますもの。少なくとも数十年は開かなかった箱庭に入れるチャンスですわ!大丈夫、私だって魔女なんだから!」
「シェルリアーナ様のそういう肝の座ってるとこ、僕けっこう好きですよ。」
「いちいち茶化さないで!!」
エリックはポケットから、いつの間に持っていたのか、細い縄を取り出し、その先をシェルリアーナに差し出した。
「じゃあこれ、腕に巻いて下さい。」
「ロープ…?」
「泣き糸杉と星柳の皮を、ドライアドのツルと編んだ物ですよ。これには妖精は触れません。お互い繋いでないと、たぶんすぐ迷子になりますよ?」
「手を繋ぐとかではダメなの?」
「その手が僕のものでなくなった時、それに気が付けるなら良いですよ?」
「…っわかったわ…これでいい?」
「なんか美女と紐で繋がるって背徳感ありますね!」
「首に巻かれたい?!」
箱庭の入口に、意を決して足を踏み入れると、押し潰されそうな程の圧が体に伸し掛かり、弾き返されそうになるのに、強引に引きずり込まれる感覚もあって、無性に恐怖が掻き立てられる。
「周りの気配に飲まれないように…妖精の意見が割れて喧嘩してるんですよ。他の妖精がそれを面白がって、好きな方に加勢してるんです。今のところ、まだ誘う力が優先の様ですね。」
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カクヨムで公開したものに手を入れたものです。