黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

協力者

「やはり騎士科で指導を!!!」
「何度来てもお断りしますけど?!!」

ようやく騎士科の訓練が終わり、解放されたデイビッドは、またうるさくなって来たコールマン卿からなんとか逃げ切り、研究室で地図を広げていた。
(そろそろヴィオラが来るかな?)

そう思っていると、今日は足音が3つ聞こえてきた。

「デイビッド様!」

いつもの明るい声ではなく、不安げな緊張した声音でヴィオラがまず入って来る。

「何があった?」
「アリス様をお連れしました…」
「アリスティアを?」

ヴィオラの後ろから、シェルリアーナに肩を支えられたアリスティアが入って来る。

「ごめんなさい…少しこちらをお借りしますね…」

真っ青な顔で少し震えているようだ。

「深刻そうだな…」
「…こちらを…」

差し出されたのは、分厚い封筒。
見慣れたアーネストの字が書いてある。

「エリック、頼む。」
「了解しました。」

エリックがドアの鍵をかけ、部屋全体に隠蔽魔法を掛けると、アリスティアは声を出して泣き出した。
ヴィオラは何も言わずに隣に座り、その肩を抱きしめる。
シェルリアーナも黙ったまま、隣で震える背中を擦っていた。


アリスティアが持ってきたアーネストの報告書には、信じられない事が書かれていた。
ヒュリスの蜂蜜を作らせていたのは、なんと公爵家のひとつで、犠牲者は複数に渡り、その中にクロード第二王子の名前があったという。
強固な貴族至上主義で選民意識の強い当主が、王族の手駒欲しさに王子を狙ったものらしい。
蜂蜜は定期的に贈られてくるキャンディに使われていたそうだ。
幸い、治療を行えばまだ回復できる段階らしく、しばらく離宮にて隔離されるそうだが、早くも禁断症状が出始めているので、長くかかりそうだ、と書かれていた。

「そうか……アイツがなぁ……」

道理でおかしな言動ばかり繰り返していたわけだ。
あれは王家の教育が悪かった訳でも、本人の気質がそうさせていた訳でもない。
薬物を使った洗脳だったのだ。

(国の情勢がまた変わるな…二度も兄弟を狙われて、アーネストも相当参ってんだろうに…)

デイビッドは立ち上がると、部屋に3人とエリックを残し、外に出…ようとして見えない壁にぶつかった。

「いてっ!」
「隠蔽魔法かけろって言ったの貴方でしょ!?」
「あー…ちょっと出てくる。3人の事頼んだ。」

そのまま温室に向かい、ベルダを探すと、水辺で記録を取っていた。

「順調ですか?」
「やぁ、君か!ご覧の通りさ!!先日王立研究所で新種の登録が完了したよ!それで現地名以外にも新しい正式名を決めないとでね…」

青々と生い茂る薬草は、既に実用段階に入っている。

「その話は後でゆっくり…ところで、これの薬効で解毒の効果はどの程度予想できますかね?」
「…そうだね、かなり期待できるよ。例えば体内に蓄積したの成分を排出させる働きは充分見込めるだろうね。」

デイビッドが驚くと、それを見てベルダは声を出して笑った。

「ハハハ!君、驚いた顔がお父上そっくりだねぇ!?安心したまえ。僕もこう見えて関係者だ。ヒュリスの件もデュロック伯爵から聞いているよ。」
「…まさか、こんな近くに親父の協力者がいたとは…」
「いや?僕と繋がりがあるのはカトレア夫人の方だよ。」

そう言えば、確かに学園に来る前に言っていた。
知り合いに手紙を出しておくから、何かあったら相談するように、と。

「なんで黙ってた?」
「だって君、それ言ったら来なくなりそうだったからね。」

デイビッドは図星を突かれて何も言えなくなった。

「君の事を気に掛けるよう言われてね。どうやって接触しようか悩んでいたら、君の方から来てくれて助かった。しかし、逆に僕の方が世話になってしまうとはね。この薬草は本当に素晴らしい。この功績ひとつで、君の名を世に広く知れ渡らせることができるけど、どうする?」
「それが嫌で貴方にお任せしたんですよ。」
「そう言うと思った。君はお父上とタイプが全然違うから。薬草の件は任せておきなさい。王族の解毒に使うなら、それこそ慎重にいかないと。しかし君も相当なお人好しだね。自分を追放した王族に、新しく作った薬を届けてやろうなんて、普通考えないよ?」
「制約の範囲としか。下手したら先に依頼が来てたかも知れないし。」
「こんなすごい話、広まれば一気に英雄だぞ?そういうの興味ない?」
「全く…」
「本当に似てないなぁ!人生をドラマチックに生きる事をモットーにしてた伯爵とは正反対だ。現実的でストイックで、なのに破天荒。実に面白い!」

植物の事以外でベルダがこんなにも饒舌になるのは珍しい。
デイビッドは今まで気楽に接していたベルダが、少しだけ苦手になった。

「そうそう!ヒュリスの事だけどね。残念だが、君の目では見つけられないよ?!」
「え?!」
「あれは擬態型の魔草だ。魔力が無い者には見分けがつかない。これを使いたまえ!」

手渡されたのは、薄青いガラスの入った眼鏡だった。

「精霊水晶を磨いた魔道具だよ。君の事だ。討伐前には必ずここへ来ると思って用意しておいた。かけてごらん?」
「こうですか?あ!」
「見えたかい?あれは魔物だよ。」

眼鏡越しに温室の中を見渡すと、中央の木の影に人の姿をした大きな植物が生えていた。

「ドライアドだよ。他の植物と同調して育成を手伝ってくれる。この温室の影の管理人さ。普段は人に認識されないように隠れているが、その眼鏡でなら見えるだろう?」
「…あんなの置いてて危険はないのか?」
「一応資格は持っているからね。君のヒポグリフと同じだよ。」
「なるほど。眼鏡、ありがたく使わせてもらいます。薬の事もよろしく…」
「ああ!君も、気をつけて行くんだよ?!」

ベルダに礼を言い、眼鏡をしまって、今度はアリスティアと話をしに戻る。

「いてっ!」
「何回やるんですかそれ?!」

再度、隠蔽の壁に額をぶつけてから中に入ると、シェルリアーナとヴィオラはソファに倒れて眠っていた。
目元を赤くしたアリスティアが、ハーブティーを飲みながら俯いている。

「ごめんなさい…少し込み入った話をしようと思いまして、お二人には眠って頂きました」
「そうか…クロードの治療に使えそうな薬の調合を、今頼んできた所だ。」
「そんな事まで…?!あれだけ酷い目に遭って、尚私達の事を考えて下さるのですね。度量の広さがお兄様とは段違いてす…」
「今回のはただアーネストに同情しただけだよ。」
「……クロード兄様は…昔はもっと優しかったんです…私が勉強で躓くと、いつも庇ってくれて、一緒に頑張ろうって言ってくれて…いつからかおかしくなってしまったのが怖かった…それがまさか麻薬のせいだったなんて…」
「早いとこ見つかって良かったな。」
「悔しいです…私達…また何も気付けない内に、家族を失う所だったなんて…」

摂取していた期間に対して量はそれ程ではないが、物が飴だけにほぼ毎日食べていたようで、恐らく解毒に苦しむ時間も長いだろう。
それでも、若く健康な内に発見できたのは幸いだった。

「ヒュリスの発生地に当たりがついた。明日にも行ってこようと思う。」
「無理はなさらず、調査だけでもかまいません。必要とあらば、王家の手もいくらでもお貸しします!」
「その時はまた頼むよ。じゃ、そろそろ寝てる2人を起こしてやってくれるか?」

にっこり微笑んだアリスティアは、またいつもの雰囲気に戻っていた。
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