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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
ラドフォード将軍
デイビッドの予想通り、それから更に2週間後、帝国から一通の手紙が届いた。
ハヤブサの紋章が刻まれた手紙には、問い合わせの手紙に同封されていた写真が、行方不明のヒポグリフに良く似ているため、遠征訓練のついでに確認しに来るという内容が記されていた。
予定は1週間後。
何でもない振りをしながら、デイビッドの心中はかなり動揺していた。
何をしていても上の空で、ふとすると直ぐ表情が曇る。
時間を見つけてはファルコを構い、やり切れない気持ちを振り切るように空に逃げて行く。
「あれは相当参っているのではなくて?」
「すいぶんかわいがってましたからね。引き取り手も、もう現れないだろうと思っていた矢先でしたし…でも、凄く珍しい事なんですよ。何かに執着する事自体ほとんどない人なので…」
ヴィオラのいない部屋の中で、シェルリアーナとエリックはあからさまに様子のおかしいデイビッドの事を心配していた。
「普段、人にも物にも簡単に別れを告げられるように生きている人なので、あの凹み方はちょっと見た事ないです。」
「なんでそんな修行僧か世捨て人みたいな人生送ってんの??」
「デュロックの、特に男性は、他者や物に執着し過ぎて身を滅ぼす者が多いので、とにかく自分はそうなりたくないと…」
「前にも聞いたけど、何なのその一族!?」
「必要な物を揃えるは得意なんですけどね、何かを個人的に欲しがった経験がほとんど無いので、別れが惜しいって感情を処理し切れないんだと思います。」
「生きにくそうとしか言えないわ!」
デイビッドは自分の事となると、何も語らず吐き出しもしない。
そのまま時間だけが過ぎ、いよいよ将軍と顔を合わせる日が来てしまった。
朝靄の中、ファルコの背に乗って王都の周りを一周し、朝日の眩しい雲の上まで昇り更に上を目指す。
「上手くなったなぁ!もう手を離しても全然落ちないぞ?!」
「キュルルルル!!」
「今日で最後かぁ…」
「キューールルル……」
「楽しかったなぁ…」
ファルコは、木の葉のように舞い落ちながら、途中で体勢を変え、翻るように回旋すると、逆さまになったり真横になったりしながら、曲芸の様な飛び方をして見せ、日が高くなる頃、また静かに学園の演習場に降りてきた。
そこへエリックが走ってくる。
「デイビッド様ぁっ!!先触れの使者の方がお見えですよぉっ?!」
「え、もう?」
見ると、厳格な衣装を纏った騎士姿の男性が、凛々しいヒポグリフを連れてこちらへ向かって来る所だった。
((本来ああなるもんなんだ…))
あのキリッとしたヒポグリフは、たぶん飼い主の頭をかじったりはしないのだろう。
「貴殿がデイビッド・デュロック殿で間違いないか?」
「は、はい!」
「情報の提供感謝する。閣下がお見えになる前に、まずはそのヒポグリフの実見をさせてもらいたい。」
騎士は懐から紙を取り出し、ファルコに近づいた。
ヒポグリフはクチバシの形や馬脚部分の模様で個体を判別する。
ファルコは怯えたように身を縮こませたが、デイビッドが宥めると大人しくなった。
「間違い無い!1年前、移送中に行方不明になったヒポグリフだ。まさかラムダ王国に運ばれていたとは…」
「積荷の中から出てきたと聞いています。」
「麻酔が切れて暴れたのだろうな。貴殿が保護してくれて本当に助かった。閣下に代わり礼を言う!」
「いえ…こちらこそ、大切な騎獣を勝手に乗り回して申し訳ありませんでした…」
「…乗り回した…?」
騎士は、言葉に詰まるように黙り込んだ。
(乗ったらまずかったかな…)
(なんか言われたら知らなかったで通しましょう?!)
その時、上空から10頭以上のヒポグリフが、整列しながら舞い降りてきた。
旋回しながら順序よく地に降り立つと、身を正して乗り手が降りるのを待ち、ピタリと動かなくなる。
(あれがヒポグリフ部隊か…)
(かぁっこいいぃ…)
ちら、と隣のファルコを見ても、とても同じ生き物とは思えない…
先触れの騎士が、一番大きな個体に乗ったマントの騎士に傅き、報告をすると、マスクを取った騎士がこちらへ近づいて来た。
「手紙をありがとう。私はラドフォード。君が我が部隊のヒポグリフを発見し保護していたというのは本当かね?」
「ご高名は兼々…デイビッド・デュロックと申します。積荷を運んだ責任者として、勝手ながらこちらで保護させて頂きました。」
「なるほど。栗毛に脚の星模様…ベルンシュタインに違いない!」
((そんな名前だったのか!!!))
散々ファルコで呼び通してきたので、今更軌道修正ができるか、少し不安になる。
「時に…あの鞍を着けたのは君かね?!」
「あ!はい!誠に勝手ながら、運動も必要かと思い、取り寄せました。」
「何人がかりになったかわからないが、大変だっただろう?」
「…いえ?1人で着けました。」
「1人で…?」
「初めは嫌がる素振りもありましたが、基本的に大人しくこちらの指示にも従ってくれますので、苦労は然程ありません。」
「報告では…君は騎乗もしたそうだな?」
「申し訳ありません。身勝手な好奇心でした!」
「責めているのでは無い…それはつまり…馬としてではなくその…」
「はい、飛行訓練をしておりました。」
ラドフォード将軍も、さっきの騎士同様、黙り込んでしまう。
(やっぱダメだったのかな…)
(骨は拾いますよ?!)
デイビッドが、他人事の様に哀れむエリックの足をこっそり踏みつけていると、ラドフォード将軍はファルコ…否、ベルンシュタインに近付き、体をあちこち調べ始めた。
「傷もなく羽も脚もきれいだ。尾羽根がやや足りないのは?」
「その…自分で引き抜いてしまって…」
「まぁ、よくある事だ。しかし相手の馬も迷惑しただろう。」
「いえ、馬でなく私にくれるんです。必要とあればお持ちしますが…」
「いいや…それよりも、飛行訓練をしたと言ったな?今ここで乗って見せてはくれないか?」
「ここで?!」
言葉がわかるのか、ファルコはデイビッドの襟をくわえて何度も引っ張り、乗れと合図する。
「わかったわかった!乗るから離せよ!」
振り向きざまに背に跳び乗ると、助走もなしにいきなり後ろ脚で跳ね上がり、翼を広げ空中へ舞い上がった。
タイミングを合わせて手綱を握り、鐙に足を掛けたらそこからほぼ垂直に上昇し、体勢を変えて演習場の上空をぐるり一周してまた元の場所へ。
地に蹄がつく前に飛び降りて、靴底で地面を蹴りながら着地すると、隣にファルコがぴったりついてくる。
顔を上げると、ラドフォード将軍が信じられないと言う顔をしてこちらへ寄って来た。
「君の…訓練講師は誰だ?!」
「すみません、独学なんです。」
「独学で…どうやって乗れるようになった!?」
「いえ、乗せてもらっているんです。俺には馬に乗るくらいの実力しかありません。この騎獣はとても賢く、素晴らしい能力を…」
「いいや……ベルンシュタインは、騎乗不可で除隊を受けた、未調教個体なんだ……」
「はい…?」
ラドフォード将軍の話によると、ベルンシュタインは3歳の成獣で、他の個体より気性が荒く、調教施設にいたが2度脱走し、調教師と隊員を6人も病院送りにした事で除隊を受け、保護と繁殖を目的とした専門施設へ移送される所を盗まれてしまったのだそうだ。
その場の全員の視線を集めたベルンシュタインは、デイビッドの腕に首をこすりつけ、しきりに撫でろと絡みついていた。
ハヤブサの紋章が刻まれた手紙には、問い合わせの手紙に同封されていた写真が、行方不明のヒポグリフに良く似ているため、遠征訓練のついでに確認しに来るという内容が記されていた。
予定は1週間後。
何でもない振りをしながら、デイビッドの心中はかなり動揺していた。
何をしていても上の空で、ふとすると直ぐ表情が曇る。
時間を見つけてはファルコを構い、やり切れない気持ちを振り切るように空に逃げて行く。
「あれは相当参っているのではなくて?」
「すいぶんかわいがってましたからね。引き取り手も、もう現れないだろうと思っていた矢先でしたし…でも、凄く珍しい事なんですよ。何かに執着する事自体ほとんどない人なので…」
ヴィオラのいない部屋の中で、シェルリアーナとエリックはあからさまに様子のおかしいデイビッドの事を心配していた。
「普段、人にも物にも簡単に別れを告げられるように生きている人なので、あの凹み方はちょっと見た事ないです。」
「なんでそんな修行僧か世捨て人みたいな人生送ってんの??」
「デュロックの、特に男性は、他者や物に執着し過ぎて身を滅ぼす者が多いので、とにかく自分はそうなりたくないと…」
「前にも聞いたけど、何なのその一族!?」
「必要な物を揃えるは得意なんですけどね、何かを個人的に欲しがった経験がほとんど無いので、別れが惜しいって感情を処理し切れないんだと思います。」
「生きにくそうとしか言えないわ!」
デイビッドは自分の事となると、何も語らず吐き出しもしない。
そのまま時間だけが過ぎ、いよいよ将軍と顔を合わせる日が来てしまった。
朝靄の中、ファルコの背に乗って王都の周りを一周し、朝日の眩しい雲の上まで昇り更に上を目指す。
「上手くなったなぁ!もう手を離しても全然落ちないぞ?!」
「キュルルルル!!」
「今日で最後かぁ…」
「キューールルル……」
「楽しかったなぁ…」
ファルコは、木の葉のように舞い落ちながら、途中で体勢を変え、翻るように回旋すると、逆さまになったり真横になったりしながら、曲芸の様な飛び方をして見せ、日が高くなる頃、また静かに学園の演習場に降りてきた。
そこへエリックが走ってくる。
「デイビッド様ぁっ!!先触れの使者の方がお見えですよぉっ?!」
「え、もう?」
見ると、厳格な衣装を纏った騎士姿の男性が、凛々しいヒポグリフを連れてこちらへ向かって来る所だった。
((本来ああなるもんなんだ…))
あのキリッとしたヒポグリフは、たぶん飼い主の頭をかじったりはしないのだろう。
「貴殿がデイビッド・デュロック殿で間違いないか?」
「は、はい!」
「情報の提供感謝する。閣下がお見えになる前に、まずはそのヒポグリフの実見をさせてもらいたい。」
騎士は懐から紙を取り出し、ファルコに近づいた。
ヒポグリフはクチバシの形や馬脚部分の模様で個体を判別する。
ファルコは怯えたように身を縮こませたが、デイビッドが宥めると大人しくなった。
「間違い無い!1年前、移送中に行方不明になったヒポグリフだ。まさかラムダ王国に運ばれていたとは…」
「積荷の中から出てきたと聞いています。」
「麻酔が切れて暴れたのだろうな。貴殿が保護してくれて本当に助かった。閣下に代わり礼を言う!」
「いえ…こちらこそ、大切な騎獣を勝手に乗り回して申し訳ありませんでした…」
「…乗り回した…?」
騎士は、言葉に詰まるように黙り込んだ。
(乗ったらまずかったかな…)
(なんか言われたら知らなかったで通しましょう?!)
その時、上空から10頭以上のヒポグリフが、整列しながら舞い降りてきた。
旋回しながら順序よく地に降り立つと、身を正して乗り手が降りるのを待ち、ピタリと動かなくなる。
(あれがヒポグリフ部隊か…)
(かぁっこいいぃ…)
ちら、と隣のファルコを見ても、とても同じ生き物とは思えない…
先触れの騎士が、一番大きな個体に乗ったマントの騎士に傅き、報告をすると、マスクを取った騎士がこちらへ近づいて来た。
「手紙をありがとう。私はラドフォード。君が我が部隊のヒポグリフを発見し保護していたというのは本当かね?」
「ご高名は兼々…デイビッド・デュロックと申します。積荷を運んだ責任者として、勝手ながらこちらで保護させて頂きました。」
「なるほど。栗毛に脚の星模様…ベルンシュタインに違いない!」
((そんな名前だったのか!!!))
散々ファルコで呼び通してきたので、今更軌道修正ができるか、少し不安になる。
「時に…あの鞍を着けたのは君かね?!」
「あ!はい!誠に勝手ながら、運動も必要かと思い、取り寄せました。」
「何人がかりになったかわからないが、大変だっただろう?」
「…いえ?1人で着けました。」
「1人で…?」
「初めは嫌がる素振りもありましたが、基本的に大人しくこちらの指示にも従ってくれますので、苦労は然程ありません。」
「報告では…君は騎乗もしたそうだな?」
「申し訳ありません。身勝手な好奇心でした!」
「責めているのでは無い…それはつまり…馬としてではなくその…」
「はい、飛行訓練をしておりました。」
ラドフォード将軍も、さっきの騎士同様、黙り込んでしまう。
(やっぱダメだったのかな…)
(骨は拾いますよ?!)
デイビッドが、他人事の様に哀れむエリックの足をこっそり踏みつけていると、ラドフォード将軍はファルコ…否、ベルンシュタインに近付き、体をあちこち調べ始めた。
「傷もなく羽も脚もきれいだ。尾羽根がやや足りないのは?」
「その…自分で引き抜いてしまって…」
「まぁ、よくある事だ。しかし相手の馬も迷惑しただろう。」
「いえ、馬でなく私にくれるんです。必要とあればお持ちしますが…」
「いいや…それよりも、飛行訓練をしたと言ったな?今ここで乗って見せてはくれないか?」
「ここで?!」
言葉がわかるのか、ファルコはデイビッドの襟をくわえて何度も引っ張り、乗れと合図する。
「わかったわかった!乗るから離せよ!」
振り向きざまに背に跳び乗ると、助走もなしにいきなり後ろ脚で跳ね上がり、翼を広げ空中へ舞い上がった。
タイミングを合わせて手綱を握り、鐙に足を掛けたらそこからほぼ垂直に上昇し、体勢を変えて演習場の上空をぐるり一周してまた元の場所へ。
地に蹄がつく前に飛び降りて、靴底で地面を蹴りながら着地すると、隣にファルコがぴったりついてくる。
顔を上げると、ラドフォード将軍が信じられないと言う顔をしてこちらへ寄って来た。
「君の…訓練講師は誰だ?!」
「すみません、独学なんです。」
「独学で…どうやって乗れるようになった!?」
「いえ、乗せてもらっているんです。俺には馬に乗るくらいの実力しかありません。この騎獣はとても賢く、素晴らしい能力を…」
「いいや……ベルンシュタインは、騎乗不可で除隊を受けた、未調教個体なんだ……」
「はい…?」
ラドフォード将軍の話によると、ベルンシュタインは3歳の成獣で、他の個体より気性が荒く、調教施設にいたが2度脱走し、調教師と隊員を6人も病院送りにした事で除隊を受け、保護と繁殖を目的とした専門施設へ移送される所を盗まれてしまったのだそうだ。
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カクヨムで公開したものに手を入れたものです。