黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

使い魔

「るー!」

シェルリアーナの去り際、アリーは流れる銀髪に、小振りの花をひとつ挿し、納得したような顔でリディアの元へ駆けて行った。

「またおいで!って言いたいところなんだけど、まだあの通り調整中なんで、デイビッド君がいない時は来ない方がいいよ?!」
「立入禁止の看板がなくなるまで来ませんわ!絶対に!」

外に出ると日はすっかり落ちて、辺りは薄暗くなっていた。
シェルリアーナの手にした花が淡く光り、とても幻想的だ。

「貰ってしまったわ…」
「エリックも薬作ってたな。なんか魔法的な奴に使うんだろ?」
「こんな高級品、おいそれと使えると思ってますの??アルラウネの生花よ?!乾燥させた花弁ですら金貨1枚以上するのよ?!わかってる??」
「…ベルダ先生が浮かれるワケだ…」
「これだから物の価値が分からない奴は!!」

シェルリアーナが怒りながら寮に戻るのを見送り、デイビッドも研究室のドアを開けると先に帰ったエリックが、早くもくつろいでいた。

「謎生き物が復活してる…?」

カウチでまったりしているショッキング斑蛙は、デイビッドを見ても気にしない。

「宣言した通り、休憩を頂いています!!」
「いや、自分の部屋に帰れよ!?」
「明日の朝はエッグソルジャーとソーセージが食べたいです!」
「当然の様にリクエストすんな!!」

そう言いながら、なんだかんだ忙しく、しばらく料理場に立てていなかったので、手が勝手にあれこれ作ろうとしてしまう。
この夜は、新しいパン種の試作と、帝国から入ってきた大粒のトウモロコシの使い方を少し考え、大量の秋芋の消費に悩んでから横になった。


次の日、あの事故で怪我をしたチェルシー達は、傷や痛みがほとんどないことに驚いていた。

「けっこう深く切ったから、跡が残るか心配だったのに
!」
「起きたら足が治ってて、跳ねても痛くないの!」
「包帯を解いて驚きました!もうカサブタがとれて、傷跡が見えないんです!」

シモンズ先生経由で貰ったは、素晴らしい効き目を発揮した。
(ニ十倍希釈でもこの効果か…精霊薬すげぇ…)
やり過ぎでシモンズ先生に怒られたデイビッドは、傷の塞がった自分の左手をじっと見た。
(いざって時にしか使えねぇなこりゃ…)
こんな速さで傷が治る薬など異常中の異常。
エリック製精霊薬は、早くも封印が決定されることになった。


昼休み、ヴィオラが久しぶりの研究室へ向かっていると、途中でアニスがついてきた。

「珍しいね。何かあったの?」
「うーん、ちょっと仕事の話…かな?」

研究室で、同級生がいようがお構い無しに、デイビッドに抱きつくヴィオラを見て、アニスはニヤニヤが止まらない。
先に来ていたシェルリアーナに呼ばれて、やっと離れたところを見計らい、アニスはデイビッドを手招きした。

「よぉ!昨日は大変だったな!?」
「もう皆すっかり元気なので心配しないで下さい。じゃなくて、今日は大事な話があって…んんっ!」

アニスは姿勢を正し、咳払いしてから胸を手を当て軽く会釈した。

「ウイニー・メイより、お客様のご注文の品が完成したことをお知らせ致します。」

「?…あっ!!あー!そっか!そうだ、お前そういやそうだった!!なんか最近、義叔母上からチクチク手紙が来てると思ったらそういう事か!お前…人の情報リークしてるだろ…?」
「失礼な!現状報告ですよ!!」

この夏からミス・アプリコットのアトリエで見習いをしているアニスは、デイビッドやヴィオラの事を上司にペラペラ喋っていた。

「より良い作品を作るために、依頼人を知る事も重要な仕事のひとつなんですよ?!」
「あー…そー…順調そうで何よりだ…」
「夏休み中は毎日が夢のようでした!今は日曜日だけの通いだから、次の連休が楽しみで!」
「ところで、俺が注文掛けたのは商会の服飾課なんだけどよ?なんで義叔母上から連絡が来るんだ?」
「あれぇ?知らなかったんですか?この夏からウイニー・メイとグロッグマン商会の服飾のドレス部門が共同事業になったの。」
「聞いてねぇ~…完全に情報遮断されてる…」

フィズ夫人は、デイビッドの耳に入れば確実に邪魔されるとわかっていたため、この事業展開を商会主のみを通して秘密裏に進めていたようだ。

「フィズ夫人、ヴィオラのドレスはひとつ残らず自分が手掛けるんだ!って、物凄く張り切ってらっしゃいましたよ?!」
「ヴィオラのドレスはそれでも構わねぇよ!?“ヴィオラの”は!!」
「先生の分、そろそろ15着目くらいが完成しそうでした。諦めましょ?」
「暴走してんじゃねぇか!誰か止めろよ!!」

アニスが行ってしまうと、ヴィオラがそろそろ近づいて来て、デイビッドの背中をつついた。

「今、ドレスって聞こえました…」
「ん…完成したってよ…今度見に行こうか?」
「はいっ!!」

元気良く返事をすると、ヴィオラは飛び跳ねながら昼食の支度を手伝った。
シェパーズパイにポトフと、トウモロコシのサラダ、甘めの白パン。

「わぁ!シェパーズパイの中に色んな物が隠れてる!」

チーズ、ソーセージ、ゆで卵、トマトにペコロス、ズッキーニ、大きなマカロニ。
フォーチュンスタイル、またはトレジャーBOXと呼ばれる仕立てのパイにヴィオラは嬉しそうだ。

「やっぱりここで食べるご飯が一番美味しいです!」
「そう言ってもらえると作り甲斐があるな。」
「ところで…」

ヴィオラはチラッと、後ろのカウチを見た。

「エリック様は…どうされたんですか?」
「何でもない!元々アレはああいう生き物だから、人間じゃない時はあの姿でいるだけだ…あんまり見ると目がおかしくなるぞ?!」
「驚きましたわよ!最初、また貴方が何か余計な物拾って来たんじゃないかと思って警戒したら、中身がまさかのエリックだなんて…」
「アレは落ちてても拾う勇気ねぇなぁ…」
「でもぐっすりお休みになってますね。気持ちよさそう…」

毛布にくるまり、丸くなって眠るエリックは、侍従でも教員でも人間ですらもなくなって、惰眠を貪っている。

「お休みなら好きに過ごすのが一番ですよね!」
「アレを許してるアンタもアンタよ!あれほど言ったのにすぐ甘やかして!!」
「口出すのが面倒なだけだ…どうせすぐ親父のとこに戻るんだし、いいだろ。」

デザートのババロアを食べて一息つくと、シェルリアーナとヴィオラは、持って来ていた大きな鞄から錬成釜を取り出して何かの錬成を始めた。

「何ができるんだ?」
「これから使い魔を作るんです!」

使い魔とは、魔法使いが自らの魔力を糧に使役する存在。
仮初の命を吹き込まれた物や道具であったり、特殊な契約の下に妖精や、聖獣、魔獣などを使う場合もある。

「私達にできるのは簡単な伝達かお使い程度のものですけれど、仕事や戦闘の補助が出来るほど知能が高くて大きなものもありますのよ?!」
「魔法学の二学期の共通課題で、一番初歩の合成獣に挑戦するんです!」

ヴィオラの釜の中には鳥の羽と、小さな魔石の欠片と、何かの実と、土の塊が入れられている。
これらに魔力を与え、釜の中で融合させれば使い魔が完成するらしい。

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