黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

王太子の悪友

物凄い速さで資料を読んでいた宰相が手を止め、デイビッドに紙束を返すと深く礼をした。

「素晴らしい今後の計画の片鱗、しかとお見受けいたしました。私からも陛下へご進言致します。」
「お時間頂き、ありがとうございます。」

宰相が部屋から居なくなり、二人だけになった事を確認すると、デイビッドはアーネストの前に一通の封書を差し出した。

「何だこれ…?」
「アデラのサラムのとこに、キリフのシャーリーンが輿入れを決めたそうだ。公表はまだ先になるが、その前に一泡吹かしてやりたくて、新式の魔導式パドルシップでも送りつけてやろうと思ってんだけど、乗らねぇか?」
「なんだそれ?サラム殿が結婚するって?!それも北方の王女と?何も聞いてないぞ?!」
「忘れたのか?俺の婆さんはアデラの元王族だぞ?」
「あ!そうだ、元第七王女か!」
「憂さ晴らしに船首飾りをサラムの顔にしてやろうかと思ってんだ。金ピカのデカいやつ。」
「壮大な嫌がらせだな…乗った!」

暗かったアーネストの表情が、ようやく明るくなる。

「お前、また禄に食ってないだろ?」
「忙しくしてたからね…一段落ついたらちゃんと休むよ。」
「先は長ぇぞ?その前にちゃんと食って寝ろよ?」


そうしている内に使者が来て2人は会議室へと案内される。
既に陛下並び王族と大臣や重鎮の貴族が集まり、その円座の中に座らされ、まるで尋問の様な会議が始まった。
今回うるさいのは、10年前国王にヒュリスの箝口を勧めた王室直属の研究者達だ。
何としてもヒュリスの研究を認めさせなければならない。

「王家に仇なす危険な魔草を栽培しようなどと、貴様本気で考えているのか?!」
「仇なしたのは今回粛清された貴族のお偉方でしょう?草に罪はありませんよ。既に栽培も実証段階に入っておりますし、危険と言うならきちんと取扱い指定の危険魔性植物として認定して頂きたいですね。」

「未知の魔性植物だぞ?!危険極まりない!まずは専門家の見解をしかと得るべきで…」
「その専門家の意見を以ってこちらに資料をお作りしました。そもそも、ヒュリスは祖父の研究対象でしたから。それを禁忌として取り上げた挙げ句、十年以上も“未知”のまま放ったらかしにしていたのは…そちら側の落ち度では?」

「我が研究所はこの研究結果に異議を申し立てる!個人で好き勝手に弄っただけの資料を、研究の成果とは認められない!」
「え?だそうですよ、王弟殿下…殿下が6年前広めた熱病の特効薬も、市井の若者が個人で研究を続け、改良を重ねたものではありませんでしたか?王家の許可も医師会の承認も得たのに、個人の研究は認められないそうですよ?どうします?」

「素人が触れて良い領域ではなかろう!?麻薬になるのだぞ?どんな邪な考えが過ぎるとも分からんではないか!?」
「麻を育てる農家にも同じ事を仰いますか?芥子の花を育てる従事者にも?麻薬の原料に触れる者は信用に値しないと?それは流石に偏見が強過ぎませんか?逆ですよ、麻薬の原料などにされないよう、安全かつ厳重な管理が必要なのです。そのための研究ですよ!?あ、資格ならあるのでご安心下さい。」

「経験の無い若造が、こんな短期間で何が分かったと言うのだ!」
「それをコチラにまとめました!かなりの量になりましたよ?!毎日観察し、細かな変化や適切な環境、見込める薬効、栽培時の注意点…実物を没収されてしまってから、全く進展のないまま十年経ち、当時のサンプルは全滅したと聞きましたが、今回で一気に進みました!やはり研究対象は鮮度が命ですね!?」

「王族の命を脅かした毒物を育てるなど、反逆の意思ありと見做されても良いのか?」
「それを言ったら、現在陛下がご使用中の薬の成分で亡くなった王族もおりますよ?第二王子殿下にお使いの鎮静剤も、過去に王宮で死者が出ています。ああ、酒の飲み過ぎで亡くなった方もおりましたね?!なんなら塩でも人は死に至ります。それらにも反逆の意思を問いますか?」

「陛下、この者の思想は、無辜の民を悪戯に危険に晒し、恐怖を煽る愚行に過ぎません!どうかご懸命な判断を!!」
「無辜の民にも知る権利はあるでしょう?過去の被害者の大半は何も知らない善良な民草でしたよ?わけもわからず危険に晒され、ただ命を散らした哀れな国民が大勢いました。これ以上過去に蓋をするべきではない。知る事を奪われた衆人は、いずれ疑心に満ちてその不安と怒りの矛先を探します。矢面に立つのはどの道王族でしょう?その時、盾になる覚悟がお有りですか?民を教え導く事もまた、貴族の務めではありませんか?」

「しかし、何の成果も得られない可能性もあるのでは?その間に争いの種にならんとも限らんだろう?」
「ヒュリスの有用性は、既に先代達が道筋を付けておりました。志半ばで諦めざるを得なかった祖父に代わり、必ず証明して見せます。争いも、もし起こるなら丸く収めて見せましょう。流すのは己の汗だけで十分、余計な血は流さないのがデュロックのやり方ですので。」

やがて広い部屋が静まり返り、陛下と王弟殿下が何か短く話し合うと、承認の拍手が送られ、その場のほぼ全員がそれに賛同したことで、会議の終わりを告げるベルが鳴らされた。


「やっと終わった…」
「スカッとした!!ここ数年分のストレスが一気に解消した気分だ!」
「相手がお山の大将で助かった。もし後ろで既に解析が進んでたらお手上げだったな。運も良かった。」
「お前と口論になっても一切勝てる気がしなくなった。なぁ…頼むから僕の代で離れて行くなよ?お前だけはどうあっても敵に回したくない…」
「それはお前次第だよ。あーー疲れた!早いとこ帰るか。」
「ちょっと待てよ!せっかく来たのになんでもう帰るんだよ!?」
「用が終わったからだよ!1秒も長く居たくねぇよ!遊びに来たんじゃねぇんだぞ?」
「遊びに来たっていいじゃないか!!」
「好きで来るかこんなとこ!!嫌々しかたなく来てんだよ!お前も息抜き終了して仕事に戻れ!!」

縋り付く王太子を振り払い、案の定、食事会への参加を促す声がかかる寸前でデイビッドは城を後にした。


「ただいま…」

商会に戻った頃には、もう月が高く昇っていた。
部屋で正装を脱ぎ捨て、私服に着替えるとすかさず商会の者達が現れて大きな箱をいくつも渡してくる。

「なんだこれ…?」
「ヴィオラ様のお召し物です!少し遅くなりましたが、新作の秋と冬物をご用意致しました!こちらはお洒落着、こちらは少しカジュアルな物を、こっちは靴と小物と装飾です。」
「この色の違うのは…?」
「もちろんデイビッド様の分ですよ?」
「いらねぇー!」

持って帰るのを頑として断り、商会から直に学園の寮へ届けるよう念を押すと、隙をついてムスタを走らせ、また逃げていく。


やっと学園に帰り、いつも門を開けてくれる守衛達に礼を言ってから研究室に戻ると、ようやく肩の力が抜けた。
ソファにひっくり返り、ふとデスクを見ると、一瞬何かが光って見える。
(やっぱ、なんか居るんだな。)

「あの時、声かけてくれたのお前か?」

暗闇に向かって話しかけてみても、何も返っては来ない。

「誰だか知らねぇけど、助かったよ。」

独り言のようにつぶやくと、鈴の音のような、泉に落ちる雫のような、澄んだ音が微かに聞こえたような気がした。
(今度、眼鏡借りて見てみるかな…?)

デスクの上でくすくす笑っている存在に、デイビッドは気付かず眠ってしまった。
感想 5

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