黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

成長

「おお、なんか久々に席が埋まった感じがするな?!次はもう期末テストか、学生は大変だなぁ!?」

領地経営科の教室は、また席が埋まり生徒達が真面目にノートを取っている。

「前回、課題が切れて新しい題材募集してたとこだ。が、国内の交易路とインフラ整備についてはサイモン先生の授業でテスト課題にするから外すよう言われてる。他になんか面白いのあったら言ってくれ。」

すると、1人の生徒が手を上げた。

「あ…あの…」
「おう、テレンスか。珍しいな初参加か?」

テレンスが後ろの方でおそるおそる立ち上がる。

「鉄道を…領地内に通すには、どうしたら良いですか…?」
「それな!!」

やや食い気味に応えたデイビッドは、黒板に大雑把な地図を描き始めた。

「エルム帝国からラムダに向けて走る鉄道は、国境よりはるか手前で駅が終わってる。キリフも同じく、ラムダに向かう列車はあっても線路は自国内ギリギリの所が最終駅だ。なんでだと思う?」

他の生徒も何人か手を上げ、自分の意見を述べていく。

「土地が適してないとかですか?」
「いや?土地の条件ならキリフの方がよっぽど厳しい。でもラムダの主力は未だに馬車と水路だ。おかしいよな?」

「じゃぁ、採算が合わないとか?」
「鉄道がもたらす恩恵は支出の比じゃない。莫大な資金を要する代わり、半永続的に収入源となる事は既に他国が証明してる。」

それを聞いてテレンスは納得がいかない顔をした。

「なら…どうして反対されるんですか…?」
「目をつけられるからだ!」

デイビッドは地図の上に何本か線を描き込んだ。

「これが列車の開発当時、ラムダ国内に通す予定だった線路図だ。現在、汽車自体も従来型から魔導式まで製作は可能で技術も確立している。でも、この国じゃ自領内でも鉄道は1本も通す事が出来ずにいる。何故か!四大公爵家と八大侯爵家が必ず割り込んで来て待ったをかけてくるからだ!」
「金利とかの関係、ですか…?」
「と言うより、莫大な税を掛けようとしてるんだ。要は汽車の恩恵を貴族に集中するよう仕向けたいんだろうな。開発当初も国の許可が降りるギリギリで余計な口出ししてきたもんだから、開発者と揉めて、だったら体制が整うまでどこにも技術は提供しないという事になっちまった。それが今も続いてる…はた迷惑な話だよな…」

線路に車体に運行に、それぞれ重税を掛け、甘い汁だけ吸い上げようという下衆な提案を、悲しいかな受け入れる貴族も多かったそうだ。
走れば走っただけ領地が損をする、そんな乗り物など作らない方が良いだろう。

「だもんだから現在ラムダで運行してる鉄道は、開発の中心地に通した試作線の一本のみ。ただし、線路だけなら計画中に先走って作り出した所にいくつか残ってて、トロッコなんか走らせてるらしい。」
「じゃぁ、トロッコなら通せるんですか?」
「そこなんだよな!領内の輸送の簡略化とかなんとか言って申請すると、小型貨物系ならすんなり通るんだよ!ここだけの話だが…輸送貨物に客車をつなぐ許可は必要無い…元々鉱山なんかでも鉱夫の移動手段だからな。つまり、列車にこだわらなければ、自領内だけで線路を通して移動手段にする事は十分可能だって事。かなり簡易になるが、後々汽車が通せるようになった時の実績にもなるしな。もし通すなら、こっちの方が現実的だと思うぞ。ただし、駅を作ると地図に反映しなきゃならなくなるから、バレる可能性が高いんで要注意だ。」

教室に視線を戻すと、質問したテレンスは黙ったまま固まっていた。

「…………」
「え…?知りたいとこ違ってた?」
「いえ……ありがとうございます……」
「たまに話が質問の意図とズレることもあるからな?途中で軌道修正してくれないと、勝手に喋り切って次行くぞ俺は!虚しいだけだからそこは声上げてくれよ?!」

そこへ他の生徒がまた手を上げる。

「先生、汽車の通ってるごく一部地域ってどこですか?僕いつか乗ってみたいんです。」
「あー…観光地だよ。」
「どこのですか?」
「……デュロックの東、ナナの港からアレルの街まで……」
「先生の自領じゃん!!」
「えー?じゃあ乗ったことあるんですか?!」
「ガキの頃はよく乗ってた…」
「えー!いーなぁー!!」
「はい、この話は終了!次行くぞ次!!」

デイビッドは、何故かいつも自領の話になると直ぐに切り上げてしまう。
新しい課題をいくつか預かり、今日の授業も無事終わった。


授業のある日の食事は基本作り置き。
オーブンに火を入れ、色々温め直していく。
午前中に仕込んで置いたスープが目減りしていても、気にしない。
メインのローストビーフの仕上げをしていると、ヴィオラが走ってやって来た。

「見て下さい!ついに完成しました!!」

肩に羽の生えた小さなブタを乗せ、頬ずりしながらウキウキしている。

「先生に満点もらいました!もう30分以上一緒にいるんです!かわいいでしょう!?」
「そのモチーフは…変えないのか?」
「変えません!かわいいので!」

何度作ってもヴィオラの使い魔はディディの形をしている。
デイビッドは、ヴィオラの膝の上にちょこんと座るブタを見て、つまみ出してやりたくなる気持ちをぐっと堪えた。

「私のウィンディも成功しましてよ?!」

シェルリアーナは例の高速鳥の制御が上手くいき、名前を付けて可愛がり、指に止まらせて撫でている。

「ピンクだと武器にするにはちょっと見立ちすぎないか?」
「武器じゃないって言ってんでしょ?!ウィンディ、やっておしまい!!」
「イダダダダ!!人の頭をつつくな!!」

ウィンディはデイビッドの頭に止まり、キツツキのようにくちばしを突き刺して攻撃してくる。
(やっぱ武器だろ…)

小豚は食事中もヴィオラの皿の周りをくるくる歩き回り、隙あらばすり寄っていく。
その様子を、デイビッドは若干イライラしながら眺めていた。

「プゥ、プゥ」
「先生に教わったんです。魔力を定期的に与えると1日くらいなら持つって!」
「これも使い魔ならどっか飛んでったりするのか?」
「私の魔力を込めた魔石を目指して飛んでいきます!」
「そういや、迷子探しもそんな感じだったな。」
「そうですよ!あれも使い魔の一種です。」

迷子探しとは、子供や冒険者が森などに入った時、見つからなくなった場合に探し出す魔術の事。
良く使われるのは魔道具の仲間で、探査機能の付いた一対の魔石の片割れを持っていると、離れた所で迷っても、もう片方の魔石が小鳥などに姿を変えて探してくれるという物だ。

「だからデイビッド様も持ってて下さい!教材用の魔石ですけど、私の魔力が込めてあります!」

ヴィオラに差し出されたのは薄青い小指の先程の魔石の欠片だった。

「これでデイビッド様がどこにいても、私が探し出します!」
「ヴィオラ…ありが…」
「プゥ!」

ヴィオラからの贈り物に感動し、手の平に乗せて眺めていたら、横から飛んできたディディが魔石を一口で飲み込んでしまう。

「おぉぉぉい!!何しやがんだこのブタ!!」
「ブタがブタにキレてるわ…」
「ダメよディディ!それはあなたのご飯じゃないのよ?!」
「ヴィオラの魔力に反応したんでしょうね。」
「返せ!俺の魔石!!」
「いい子だから、返してちょうだい?」
「プェェ」

ディディの口から吐き出された魔石はすっかり色を失い、くすんだ石の欠片に戻っていた。

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