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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
特別側近
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使者はジェットの周りを何度も回り、本当に危険が無いか良く調べ紙に書き記していく。
「して?これを作った術者は…」
「最初に申しました通り、合成なのですよ。ロシェ家の令嬢の魔力と精霊の力と特殊な素材を使って作られた、それこそ唯一無二の守護霊獣です!」
材料は…確かに色々特殊かも知れない。
「なるほど…ではその様に報告させて頂きます。ここで聞いた話は全て王家にお伝え致しますのでご了承を。それでは失礼。」
使者は納得したようなしなかったような顔で帰って行った。
「さて、僕等も帰りましょ?ヴィオラ様もそろそろ門限でしょう?」
「エリック様!お願いがあります!!」
「僕にですか?」
「ジェットに乗って帰ってもいいですか?!」
「え?!まぁ…その代わり落ちないよう気を付けて下さいね…?」
「はいっ!」
ヴィオラはためらいもせずジェットに跨ると、羽ばたきに合わせて地面を蹴った。
「ヒュルルルッ!」
「わぁぁ!!すごいすごい!こんなに高ぁい!!見て下さい!デイビッド様、私飛んでますよ!?」
飛ぶ高度を建物の2階程度の高さまでにしているとは言え、落ちるという不安が全く無いかのように振る舞うヴィオラを、下の2人は若干ハラハラしながら見守った。
「俺より度胸があるかも知れねぇな…」
「あんな乗り難そうなモノによく怖気もせず…せめてベルトくらい着けないと危ないですね。」
あっという間に寮に着き、ヴィオラはジェットから降りるとデイビッドに抱きついた。
「すごかったです!空を飛ぶって楽しい!ファルコに乗るデイビッド様の気持ち、よくわかりました!」
「そ…そうか?!」
「いつかファルコにも乗せて下さいね!約束ですよ?!」
「わかった、約束な?!」
寮の鐘がなり、玄関に明かりが灯ってもヴィオラは手を離さない。
「ヴィオラ?」
「空中は寒かったので…もう少しこうしてたい…」
「早く入って来なさいヴィオラ!!鍵かけられるわよ?!」
その時、甘い空気に痺れを切らしたシェルリアーナが、引きつった顔で玄関から現れた。
「人目につくとこでベタベタしないの!そういうのは2人っ切りの時にして!!」
「ねぇじゃん…そんな時…」
「デイビッド様、今日もありがとうございました!お休みなさい!」
ふわふわの小兎がドアの向こうへ消えて行くと、ジェットもスルリと魔石に戻った。
「僕達も帰りましょ!帰って朝から煮込んでたシチュー食べたいです!」
「お前から食い気が消えたら何が残るんだ?」
その夜、シチューを鍋半分も平らげるエリックの胃袋に疑念を抱きながら、デイビッドはノエルパーティーの支度について書かれた資料を読み込んだ。
教員陣で分担する役割、会場の見取り図、業者や出演者の搬入口と警備体制、当日の参加者の大まかなリスト。
公共の場を借りるため、前回のような失態は何が何でも阻止せねばならない。
一人で気負う気など無いが、以前から何かと絡まれやすく、トラブルに巻き込まれやすい事から、心構えと対策は万端にしておきたい。
学園中が浮足立つ中、試験後の休みが明けて、木曜の商業科は少しざわついていた。
「あの、先生…イメチェンですか?!」
「あ?ああ、コレか。事故だ!」
事故であんなに長い髪が無くなるのだろうか。
生徒の間に色々な憶測が飛び交う中、気にせず板書を書いていく。
それも近頃輸入品の品質管理が甘くなっている事を話すと、すぐに話題は逸れ、何人かが反応した。
「家は仕入れたトウモロコシがカビてた事がありました!」
「小麦も、なんだか古い物が混じってる気がして…」
輸出側に問題があるのは分かるが、輸入する側の検問体制にも大きな穴がありそうだ。
一度検問所に問い合わせる必要があることは確かだが、その前に帝国側には抗議文を出しているので、今は返信待ちという所だ。
「健康被害が出てからじゃ遅い。なるべく仕入れの際に細かい確認ができるといいんだが、この分だと自国内にも問題がありそうでキナ臭いな。関係者は充分注意してくれ。」
いい感じにまとまった所で終業の鐘が鳴り、解散しようとするとまた質問が上がる。
「ところで先生、パーティーには出ないんですか?」
「出るも何もずっといるな。搬入口の通路に。」
「なんで搬入口に?!」
「…担当だから?」
「婚約者居るのに!?」
「居ようが居まいがホールにはほとんど出ねぇよ?」
「婚約者居ても?!」
「関係ねぇだろ!!」
その日から教員達も慌ただしくなり、ヴィオラと会える時間も少なくなっていった。
そんなパーティーも目前のある日、ヴィオラはまた妹に絡まれ、少々面倒なことになっていた。
「お姉様、どうかパーティーはご辞退下さい。これ以上お姉様が傷付く所を私は見たくありません!」
相変わらず取り巻きを連れたリリアが、人の多い廊下で肩を震わせて涙を浮かべている。
今日はヴィオラ1人の時を狙ってきたので、前回の言い返しが余程悔しかった様だ。
「王都の中央にも近い聖堂にお姉様が受け入れて貰えるはずはありません…ここは引き下がって頂けませんか…?」
「ごめんなさいね、ミス・リリア。私の参加は王族命令なのよ。取り消したいなら、私ではなく、王太子殿下に直接申し出て下さらないと。」
「何を言っていますの?そんなはずありませんわ!」
ヴィオラはにっこりと王家の紋章に金の線が入ったタイ着きのバッヂを見せた。
「この通り、私はアリスティア姫殿下の特別側近なの。お側を離れてしまう訳にはいかないのよ。それに、今回使われるのは教会が国に払い下げた旧聖堂でしょう?あそこは元々神話の神々を祀っていた場所だから、今の教会とは別物だわ?聖女様の加護の及ばない場所に入るだけですので、どうぞご安心下さいな。では失礼します。」
「なっ!優しいリリア様がせっかく心配していると言うのに、なんだその言い草は!?」
「王都に入る事すら許されないというのに、姫殿下の側近だと?笑わせるな!今すぐ辞退しろ!」
「リリア様、やはり悪魔には何を言っても無駄なようです。戻りましょう。」
今回は男子生徒を丸め込んだようだが、ただ口先だけで騒ぐ男など怖くもない。
背中を向けて早足になりかけると、廊下の角からエリックとデイビッドが現れた。
「うへぁ…イヤ~な組み合わせ…」
「おーい、歩行者の邪魔だぞ?後ろ見ろ、詰まってんじゃねぇか。図書室の前で何してんだ?」
「あ、あの!この人達が通せんぼするので、中に入れなくて!」
確かに、リリア達は図書室のドア前で固まっているので、利用者と見られる生徒が何人か、遠巻きに迷惑そうにしているのが見える。
ヴィオラは困っているということを前面に押し出して、助けを求める振りをした。
「お喋りは広い所でしましょうね?!皆さんの迷惑になってしまいますから。」
「も…申し訳ありません!私ったらお姉様が心配で周りが見えず…」
甲高い声でワザと周りに聞こえるよう叫ぶリリアに、エリックが笑いかける。
「ミス・リリアは感情豊かでいらっしゃる。でも、時には抑えることも淑女の嗜みですよ?お友達は気にされないでしょうが、公共の場では慎みを持ちましょうね?!」
にっこり笑顔で優しげに諭すと、リリアは頬を赤らめてお辞儀し、取り巻きと去って行った。
「嫌味なヤツ…」
「でもあれは通じてませんでしたねぇ!すんごい図太くて笑っちゃいますよ!」
エリックの“程度の低い者同士、他所で仲良くやっとけ”という遠回しなトゲは、どうもあの聖女には刺さらなかったようだ。
「して?これを作った術者は…」
「最初に申しました通り、合成なのですよ。ロシェ家の令嬢の魔力と精霊の力と特殊な素材を使って作られた、それこそ唯一無二の守護霊獣です!」
材料は…確かに色々特殊かも知れない。
「なるほど…ではその様に報告させて頂きます。ここで聞いた話は全て王家にお伝え致しますのでご了承を。それでは失礼。」
使者は納得したようなしなかったような顔で帰って行った。
「さて、僕等も帰りましょ?ヴィオラ様もそろそろ門限でしょう?」
「エリック様!お願いがあります!!」
「僕にですか?」
「ジェットに乗って帰ってもいいですか?!」
「え?!まぁ…その代わり落ちないよう気を付けて下さいね…?」
「はいっ!」
ヴィオラはためらいもせずジェットに跨ると、羽ばたきに合わせて地面を蹴った。
「ヒュルルルッ!」
「わぁぁ!!すごいすごい!こんなに高ぁい!!見て下さい!デイビッド様、私飛んでますよ!?」
飛ぶ高度を建物の2階程度の高さまでにしているとは言え、落ちるという不安が全く無いかのように振る舞うヴィオラを、下の2人は若干ハラハラしながら見守った。
「俺より度胸があるかも知れねぇな…」
「あんな乗り難そうなモノによく怖気もせず…せめてベルトくらい着けないと危ないですね。」
あっという間に寮に着き、ヴィオラはジェットから降りるとデイビッドに抱きついた。
「すごかったです!空を飛ぶって楽しい!ファルコに乗るデイビッド様の気持ち、よくわかりました!」
「そ…そうか?!」
「いつかファルコにも乗せて下さいね!約束ですよ?!」
「わかった、約束な?!」
寮の鐘がなり、玄関に明かりが灯ってもヴィオラは手を離さない。
「ヴィオラ?」
「空中は寒かったので…もう少しこうしてたい…」
「早く入って来なさいヴィオラ!!鍵かけられるわよ?!」
その時、甘い空気に痺れを切らしたシェルリアーナが、引きつった顔で玄関から現れた。
「人目につくとこでベタベタしないの!そういうのは2人っ切りの時にして!!」
「ねぇじゃん…そんな時…」
「デイビッド様、今日もありがとうございました!お休みなさい!」
ふわふわの小兎がドアの向こうへ消えて行くと、ジェットもスルリと魔石に戻った。
「僕達も帰りましょ!帰って朝から煮込んでたシチュー食べたいです!」
「お前から食い気が消えたら何が残るんだ?」
その夜、シチューを鍋半分も平らげるエリックの胃袋に疑念を抱きながら、デイビッドはノエルパーティーの支度について書かれた資料を読み込んだ。
教員陣で分担する役割、会場の見取り図、業者や出演者の搬入口と警備体制、当日の参加者の大まかなリスト。
公共の場を借りるため、前回のような失態は何が何でも阻止せねばならない。
一人で気負う気など無いが、以前から何かと絡まれやすく、トラブルに巻き込まれやすい事から、心構えと対策は万端にしておきたい。
学園中が浮足立つ中、試験後の休みが明けて、木曜の商業科は少しざわついていた。
「あの、先生…イメチェンですか?!」
「あ?ああ、コレか。事故だ!」
事故であんなに長い髪が無くなるのだろうか。
生徒の間に色々な憶測が飛び交う中、気にせず板書を書いていく。
それも近頃輸入品の品質管理が甘くなっている事を話すと、すぐに話題は逸れ、何人かが反応した。
「家は仕入れたトウモロコシがカビてた事がありました!」
「小麦も、なんだか古い物が混じってる気がして…」
輸出側に問題があるのは分かるが、輸入する側の検問体制にも大きな穴がありそうだ。
一度検問所に問い合わせる必要があることは確かだが、その前に帝国側には抗議文を出しているので、今は返信待ちという所だ。
「健康被害が出てからじゃ遅い。なるべく仕入れの際に細かい確認ができるといいんだが、この分だと自国内にも問題がありそうでキナ臭いな。関係者は充分注意してくれ。」
いい感じにまとまった所で終業の鐘が鳴り、解散しようとするとまた質問が上がる。
「ところで先生、パーティーには出ないんですか?」
「出るも何もずっといるな。搬入口の通路に。」
「なんで搬入口に?!」
「…担当だから?」
「婚約者居るのに!?」
「居ようが居まいがホールにはほとんど出ねぇよ?」
「婚約者居ても?!」
「関係ねぇだろ!!」
その日から教員達も慌ただしくなり、ヴィオラと会える時間も少なくなっていった。
そんなパーティーも目前のある日、ヴィオラはまた妹に絡まれ、少々面倒なことになっていた。
「お姉様、どうかパーティーはご辞退下さい。これ以上お姉様が傷付く所を私は見たくありません!」
相変わらず取り巻きを連れたリリアが、人の多い廊下で肩を震わせて涙を浮かべている。
今日はヴィオラ1人の時を狙ってきたので、前回の言い返しが余程悔しかった様だ。
「王都の中央にも近い聖堂にお姉様が受け入れて貰えるはずはありません…ここは引き下がって頂けませんか…?」
「ごめんなさいね、ミス・リリア。私の参加は王族命令なのよ。取り消したいなら、私ではなく、王太子殿下に直接申し出て下さらないと。」
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ヴィオラはにっこりと王家の紋章に金の線が入ったタイ着きのバッヂを見せた。
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「なっ!優しいリリア様がせっかく心配していると言うのに、なんだその言い草は!?」
「王都に入る事すら許されないというのに、姫殿下の側近だと?笑わせるな!今すぐ辞退しろ!」
「リリア様、やはり悪魔には何を言っても無駄なようです。戻りましょう。」
今回は男子生徒を丸め込んだようだが、ただ口先だけで騒ぐ男など怖くもない。
背中を向けて早足になりかけると、廊下の角からエリックとデイビッドが現れた。
「うへぁ…イヤ~な組み合わせ…」
「おーい、歩行者の邪魔だぞ?後ろ見ろ、詰まってんじゃねぇか。図書室の前で何してんだ?」
「あ、あの!この人達が通せんぼするので、中に入れなくて!」
確かに、リリア達は図書室のドア前で固まっているので、利用者と見られる生徒が何人か、遠巻きに迷惑そうにしているのが見える。
ヴィオラは困っているということを前面に押し出して、助けを求める振りをした。
「お喋りは広い所でしましょうね?!皆さんの迷惑になってしまいますから。」
「も…申し訳ありません!私ったらお姉様が心配で周りが見えず…」
甲高い声でワザと周りに聞こえるよう叫ぶリリアに、エリックが笑いかける。
「ミス・リリアは感情豊かでいらっしゃる。でも、時には抑えることも淑女の嗜みですよ?お友達は気にされないでしょうが、公共の場では慎みを持ちましょうね?!」
にっこり笑顔で優しげに諭すと、リリアは頬を赤らめてお辞儀し、取り巻きと去って行った。
「嫌味なヤツ…」
「でもあれは通じてませんでしたねぇ!すんごい図太くて笑っちゃいますよ!」
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