黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

デビュタント

人目を気にせず階段を登ると、騎士に止められるが招待状とアーネストからの手紙を見せると、すんなり先に通された。

「…あの日はこれが面倒で下に居たんだ…」
「え?!」
「人前を歩くのが嫌で、端でやり過ごそうとして失敗したんだよ。」
「もし、上に来ていたら…?」
「ヴィオラとは会うどころか、顔も見なかったと思う。」
「運命ってあるんですね…」
「ヴィオラにとっては因果だったりしてな。」
「またそんな事を…」

アーネストのいる部屋に向っていると、後ろから元気の良い声が追いかけて来た。

「おい!その後ろ姿、デイビッドだろう?!」

振り向くと、褐色の肌に黒髪黒目の少年が駆けてくる。
護衛と侍従も付いてきているが追いつけていない。

「久しぶりだなデイビッド!遠くからでもひと目でお前だとわかったぞ?!相変わらず太ったままか?!少しは痩せろ!でないとモテないぞ?!」

「えーと…こちらは…?」
「アデラの第三王子、ジャファルだ。関わるとめんどうだから放っといていいぞ?!」

それを聞いて王子が騒ぎ出す。

「おい!めんどうとはなんだ?!不敬だぞ!」
「クソガキに下げる頭はねぇんだよ。敬われたかったらそれなりの人間になって出直して来い。」

デイビッドは王子だろうとお構い無しに首根っこをつかまえると、後ろで疲弊しきりの従者達に引き渡した。

「お前の行動ひとつで、自国がどう見られるか少しは考えろ!兄貴の足引っ張ってる場合じゃねぇぞ?!」

ブツブツ言っているジャファルを置いて、その場を離れようとすると、もう1人同じ様な褐色の青年が前から歩いてきた。

「彼の言う通りだぞジャファル。あまり周りに迷惑掛けるんじゃない。大人しくしていなさい。」

艷やかな黒髪を結い、切れ長のオニキスの様な黒い瞳に異国の顔立ち。

「弟が迷惑かけたね。久しぶり、元気そうで何よりだ。」

エリックはポカンとしたまま爽やかに微笑む青年を見つめていた。

「久しぶりだなカミール。そっちはどうだ?サラムの奴浮かれてるんじゃねぇのか?!」
「もう大変だよ。未来の王妃のために後宮まで解体して、国中大騒ぎさ。でも何かと順調だよ。すまない、また後でゆっくり話そう。」

軽く手を降って弟を連れて行く背中を見送ると、エリックがデイビッドの肩をガクガク揺らし出した。

「ちょちょちょちょ!え?え?ちょっと待って!?彼もアデラの王子ですか?!」
「第二王子のカミールだ。」
「パーツそっくりで驚いた!!!」
「婆さんの妹の孫なんだから似て当然だろ?!」
「ああ!通りで!!デイビッド様ってやっぱり向こうの血が強いんですね?!」
「見てくれだけな。中身ほとんど爺さん譲りらしいぞ?」
「彼めっちゃくちゃカッコ良くなかったですか?!ミステリアスで物腰柔らかで、でも結構鍛えてる体格でしたよね!?すごいモテそう!!パーツはデイビッド様なのに!?」
「うるせぇな!!ベースの問題なんだろ?!」

「さっきから騒がしいと思ったら、デイビッド来てたのか!!」

なんだかんだしていると、奥の部屋からアーネストが現れ2人を手招きした。

「荷物はこの部屋に。そろそろ裏の通路から下に降りていよう。もう直ぐ主役が入場するはずだ。」

貴賓席の奥の目立たない場所に、席が2つ既に用意されている。

「あそこなら目立たずにデビュタントロードを眺められると思って。」
「妹のアイデアか?」
「うるさいな!その通りだよ!!」
「どうせお前は最前席でも用意したんだろ?」
「そこまで読むなよ!良かれと思ったんだって!」

アーネストが侍従達に連れて行かれ、デイビッド達も奥の席に収まると、厳かな音楽と共に真っ赤な絨毯の上を白いドレスの令嬢達が父親に手を引かれて歩いて来た。

13歳のアリスティアに合わせたデビュタントなので、ヴィオラは少し年上になってしまうが、堂々と胸を張って歩いている。

階段を降りて、父親の手から離れると、国王の前まで1人で歩いて行き臣家の礼を取る。
名を名乗り、国王と王妃の言葉を受け、一人の淑女として認められ貴族として立つ初めてのステージ。

娘の手が離れた瞬間、ローベル子爵は堪らず泣き出していた。
少女から大人の女性へ、少しずつ成長して行く令嬢達のまだあどけなさの残る顔が、シャンデリアに照らされて美しい。

最後に兄に手を引かれて現れたアリスティアは、神々しいまでに光りに包まれ、完璧な振る舞いを見せ、誰よりも何よりも輝いて最高の社交界デビューを果たした。

令嬢達が退場すると、ホールは再び賑やかなパーティーの雰囲気に戻った。
音楽が変わり、ダンスの時間が始まる。

まずは王族。
アリスティアは兄と優雅に踊っていた。
王と王妃が下がると、徐々に他の貴族達も加わって、ダンスの輪はどんどん大きくなっていく。

震える足で父親を探していたヴィオラの元へアリスティアが駆け寄り、その手を取ってにっこり笑う。

「ヴィオラ様!私と踊りましょう?!」
「アリス様?!で…でも私、そんな…」
「緊張されているの?大丈夫!シェル様とは踊られたのでしょう?私ともお願いします!いいでしょう?ね?」

アリスティアに手を引かれ、ヴィオラもついに輪の中へ入っていく。
女性同士で踊る場合、相手が男性役でない時は左右対称に2人で同じ動きをすることが多い。
ホールの真ん中で、真っ白なドレスに身を包んだ2人が軽やかに楽しげに踊る姿は、大勢の貴族達の目に焼き付けられた。

「ヴィオラ様、ありがとう!私、今とても楽しいです!」
「私も…楽しい!すごく楽しいですアリス様!」

デイビッドは、それを本当に遠目の人混みの後ろから静かに眺めていた。
(出て行かないつもりですか?)
(今は水差したくねぇんだよ。)

ホールをくるくる踊る2人は、本当に楽しそうで幸せそうだった。
しかし、それより気になるのは、さっきからちらちら視界に入るローベル子爵の方…

「子爵、号泣してますね…」
「うーん…ヴィオラより心配になってきた…」

ホールでハンカチをぐしゃぐしゃにしながら嗚咽を漏らし、今にも倒れてしまいそうだ。
子爵をなんとか宥め、端の休憩スペースに座らせて飲み物を持っていくと、そのまま長い長い親語りが始まってしまった。

(どうする…)
(聞くしかないんじゃないですか…?娘さんを嫁にもらう立場として…)

そこから小一時間、子爵はひたすら語り続け、2人はそこから動けなくなってしまった。


ヴィオラとアリスティアが踊り終わると、わっと他のお誘いの声が掛かる。
アリスティアは他国の王子の手を取ったが、ヴィオラは上手く断れずオロオロしていた。
そこへ颯爽と現れたのはシェルリアーナだ。

マーメイドラインが映えるサファイアの様なドレスに身を包み、ヴィオラの後ろから肩に手を回した。

「ごめんあそばせ坊や達。彼女には先約がありますの。失礼?!」

手にした扇を使い、煽る様に男共を散らすと、改めてヴィオラに向き直る。

「ついにこの日が来ましたのね?!素敵よヴィオラ!とても輝いているわ!!今夜の貴女のは星の女神だって敵わない!最高に綺麗だわ!!」

ぎゅうぎゅう抱きしめられて、ヴィオラはおかしさから緊張が一気に解けてしまった。

「シェル先輩ありがとうございます!あの…ところでデイビッド様…見ませんでしたか…?」
「ヤダ!まだ会ってないの?!アイツ何考えて…そう言えば、さっき子爵が泣き崩れそうになってるの支えてたの、もしかして…」
「お父様…そんな事になってたんですか?恥ずかしい…」
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