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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
そしていつもの日常へ
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朝食後、今度はエリックの淹れた紅茶を飲んで皆が一息つくと、デイビッドは改めて昨夜もらった目録に目を通した。
「チッ…またクソ面倒なモン押し付けやがって…」
「それは…本当に、父上もなんでこんなモノをとは思ったんだ…」
目録の下方に何か長い文が書かれており、3つの判が押されている。
内容は王都郊外の土地の一部を領地として譲渡するというものだが、要は粛清や賠償で貴族から取り上げた持ち主不在の土地の管理者になれと言う訳だ。
位置としては街道から少し外れた場所で、学園から片道20~30分程度。
しかし土地の詳細が一切書かれていない。
「完全にいらねぇ土地の押し付けじゃねぇかよ!!」
「ごめん…ごめんよ…」
おそらく決定は貴族院だろう。
気に入らない相手や、目下の者が報奨を得るという時、こういう手を使って嫌がらせをするのだ。
管理が上手くいかなければその程度と笑い、成功すると逆に取り込んで甘い汁だけ吸おうとする。
昔からよくある汚いやり方だ。
理由はどうあれ、これでこの土地はデュロック領の変な飛び地となってしまった。
「あと半年はほっとくぞ?!それでもいいんだな?」
「半年後には様子見に行くつもりなんだ?」
その後、使用人がヴィオラ達の支度が整ったと知らせに来て、遂にデイビッドは城から出られることになった。
「長かった…」
「やっと帰れますね!」
ヴィオラを迎えに行くと、赤と黒の膝丈スカートに真っ赤なリボンと黒いレースの手袋をして現れた。
「私の着ない服の中にぴったりの物がありまして、着替えて頂きました!」
「何着せても可愛くて迷ってしまったわ!」
「どうだ、私の色だぞ?!」
「自己顕示欲が半端ない!人の婚約者に何してんだ!?」
着せ替え人形にされたヴィオラを回収し、ようやく馬車に向かう。
「ヴィオラ、次来る時も必ず城へ遊びに来い!私が特別に招待しよう!」
「ありがとうございますアザーレア様。」
手を振るアザーレアとアリスティアに見送られ、馬車はまずロシェ家邸へ。
「帰らなきゃダメ…?!」
「夜会の後なんだから一度は帰れよ。」
「はぁ~…つまらない。それじゃヴィオラ、学園で待っててね?!」
シェルの次はローベル家へヴィオラを送って行く。
「寂しいです、デイビッド様…」
「親父さんが領地に帰るまで一緒に居てやれよ。久々なんだから積もる話もあるだろ?」
「それならデイビッド様、家までエスコートして下さい!」
「エ!?ス…コート…」
「そういやきちんとしたことないですよね。普通あり得ないんで、最短距離でもいいからちゃんと婚約者として送ってあげましょうよ。」
2人に追い詰められたデイビッドが、馬車から降りるヴィオラの手を取り、ポーチまでの石畳を手を繋いだまま寄り添って歩いて行くのをエリックが見ている。
(ぎこちなぁ…無言はないでしょ。なんか話せよ…)
ギクシャク動く後ろ姿がなんとかヴィオラを送り届け、足早に戻って来る。
「イヤ、緊張し過ぎですって!特訓しないと駄目ですよ。」
「無理だな、たぶん途中で死ぬ。」
朝のまだ慌ただしい時間。
学園は人もほとんどいないので、馬車を途中で降りて歩いて門をくぐると、騎士科の訓練の音とファルコのいななきが聞こえて来る。
「冷えますねぇ、雪降りそう。」
「もうすぐ年明けだからな。」
研究室に入るとエリックは火を待てず、炎の魔石を手に熱を放出し、一気に部屋を温めた。
「あーつっかれたー!お風呂沸かしてきまーす!」
「従者モードの切り替え早くねぇ?」
堅苦しい服を着替えて普段着になると、急に身体が怠くなる。
億劫になる前に家畜小屋の世話を急いで終わらせ、薪を足して卵を回収するとオーブンの前に立った。
火と炭、卵とバター、温まった鍋の匂い。
使いかけのソーセージと、チーズ入りのラビオリもトマトソースで軽く煮込むと、固くなったパンを蒸気に当てて蒸していく。
エリックが戻るのを待たず、出来立てのオムレツを口に運ぶと、味も匂いもいつも通りで安堵する。
(良かった…まだ壊れてない…)
無味無臭の世界はかつてデイビッドにとって本当に地獄だった。
表には出さないが、たまに思い出して不安になると、こうして確認しては自分を落ち着かせている。
「わぁ、美味しそう!朝ご飯、かしこまっちゃってたから食べた気がしなくって、頂きまーす!」
よく食べるこの従者がいるおかげで、日々食事を作ることも忘れなくなった。
食べる習慣ができると空腹にも満腹にもなる。
ぼんやり考え事をしていたら、眠くなったものと思われてエリックに急かされ風呂場に連れて行かれてしまった。
「ほら!背中流してあげますから!」
「いい、自分でやる!」
「お風呂入りましょうよ!?気持ちいいですよ?!」
「こっちは魔道具の中に入って無事な保証ねぇんだよ!」
「背中に変な2本傷があるのなんですか?」
「バイコーンに後ろから刺された時の傷か?まだ残ってんだな。」
「脇の縦に亀裂になってるのは?」
「キリフの洞窟に落ちた時、突き出てた水晶で抉った痕だよ。触んな!」
邪魔されるので急いで上がって部屋に戻ると、廊下の冷気で髪がすっかり冷え切り、耳が赤くなる。
(眠い…)
部屋の温かさだけで眠ってしまったデイビッドに、エリックが毛布をかけた。
「お疲れ様でした…」
エリックもそのまま横になり目を閉じると、2人は夕刻近くまで眠っていた。
アリスティア姫のデビュタントパーティーは大成功で幕を閉じた。
国王も王妃も満足で、アリスティアは今後正式にアーネストの補佐として動く事が出来るようになる。
「とは言え、学生の内は一生徒としてきちんと学園を楽しむといい。」
「そうさせて頂きます、お兄様。」
「そうだ、この間はお前のケーキをつまみ食いして悪かった。お詫びに私が作ってもらったヤツを一切れどうだ?」
「え?」
「ラムレーズンは膨らみにくいなんてこぼしてたが、充分ふわふわで紅茶によく合うんだ!」
「は??」
「アイツが料理が得意なんて知らなかった。ガレットが、どうやったらあんなにパリパリもちもちになるのか不思議だ!あれなら毎朝食べたいと思ったぞ?!」
「…まさかお兄様、デイビッド様に料理させたのですか…?」
「させたなんて。本人が厨房貸してくれって言うからついて行ったんだ。食べたいもの聞かれたんで、色々リクエストしたら作ってくれて…」
「裏切り者……」
「アリス…?」
アリスティアは出されたラムレーズンのシフォンケーキを持って兄の前から立ち去ると、それから3日間アーネストとは口をきかなかった。
ヴィオラはこの日から父と2人親子水入らずで過ごし、たくさん話をした。
手紙や報告で知った話も、娘の口から語られるのとは全く違う。
親としては心配が絶えない話でも、にこにこ楽しそうに語るヴィオラを見ていると、不思議と安心してしまう。
次の日娘に見送られて領地へ帰った子爵は、馬車の中でまたひとしきり涙を流したのだった。
「今なんと?お父様…」
「だから、お前もそろそろ婚約者を見つけなければならない時期だろう。相手はこちらで見繕うから、準備しておけと言ったんだ。」
「お言葉ですが、私は姫殿下の護衛としてあと1年学園に通わねばなりません。院生として残りますので、婚約は延ばして頂きたいですわ。」
「だが、レオの事もある。ロシェ家が安泰であると周囲に知らせねば示しがつかん。」
一方ロシェ家では、父の書斎に呼びつけられたシェルリアーナが、珍しく反抗的な態度で父親と向き合っていた。
「チッ…またクソ面倒なモン押し付けやがって…」
「それは…本当に、父上もなんでこんなモノをとは思ったんだ…」
目録の下方に何か長い文が書かれており、3つの判が押されている。
内容は王都郊外の土地の一部を領地として譲渡するというものだが、要は粛清や賠償で貴族から取り上げた持ち主不在の土地の管理者になれと言う訳だ。
位置としては街道から少し外れた場所で、学園から片道20~30分程度。
しかし土地の詳細が一切書かれていない。
「完全にいらねぇ土地の押し付けじゃねぇかよ!!」
「ごめん…ごめんよ…」
おそらく決定は貴族院だろう。
気に入らない相手や、目下の者が報奨を得るという時、こういう手を使って嫌がらせをするのだ。
管理が上手くいかなければその程度と笑い、成功すると逆に取り込んで甘い汁だけ吸おうとする。
昔からよくある汚いやり方だ。
理由はどうあれ、これでこの土地はデュロック領の変な飛び地となってしまった。
「あと半年はほっとくぞ?!それでもいいんだな?」
「半年後には様子見に行くつもりなんだ?」
その後、使用人がヴィオラ達の支度が整ったと知らせに来て、遂にデイビッドは城から出られることになった。
「長かった…」
「やっと帰れますね!」
ヴィオラを迎えに行くと、赤と黒の膝丈スカートに真っ赤なリボンと黒いレースの手袋をして現れた。
「私の着ない服の中にぴったりの物がありまして、着替えて頂きました!」
「何着せても可愛くて迷ってしまったわ!」
「どうだ、私の色だぞ?!」
「自己顕示欲が半端ない!人の婚約者に何してんだ!?」
着せ替え人形にされたヴィオラを回収し、ようやく馬車に向かう。
「ヴィオラ、次来る時も必ず城へ遊びに来い!私が特別に招待しよう!」
「ありがとうございますアザーレア様。」
手を振るアザーレアとアリスティアに見送られ、馬車はまずロシェ家邸へ。
「帰らなきゃダメ…?!」
「夜会の後なんだから一度は帰れよ。」
「はぁ~…つまらない。それじゃヴィオラ、学園で待っててね?!」
シェルの次はローベル家へヴィオラを送って行く。
「寂しいです、デイビッド様…」
「親父さんが領地に帰るまで一緒に居てやれよ。久々なんだから積もる話もあるだろ?」
「それならデイビッド様、家までエスコートして下さい!」
「エ!?ス…コート…」
「そういやきちんとしたことないですよね。普通あり得ないんで、最短距離でもいいからちゃんと婚約者として送ってあげましょうよ。」
2人に追い詰められたデイビッドが、馬車から降りるヴィオラの手を取り、ポーチまでの石畳を手を繋いだまま寄り添って歩いて行くのをエリックが見ている。
(ぎこちなぁ…無言はないでしょ。なんか話せよ…)
ギクシャク動く後ろ姿がなんとかヴィオラを送り届け、足早に戻って来る。
「イヤ、緊張し過ぎですって!特訓しないと駄目ですよ。」
「無理だな、たぶん途中で死ぬ。」
朝のまだ慌ただしい時間。
学園は人もほとんどいないので、馬車を途中で降りて歩いて門をくぐると、騎士科の訓練の音とファルコのいななきが聞こえて来る。
「冷えますねぇ、雪降りそう。」
「もうすぐ年明けだからな。」
研究室に入るとエリックは火を待てず、炎の魔石を手に熱を放出し、一気に部屋を温めた。
「あーつっかれたー!お風呂沸かしてきまーす!」
「従者モードの切り替え早くねぇ?」
堅苦しい服を着替えて普段着になると、急に身体が怠くなる。
億劫になる前に家畜小屋の世話を急いで終わらせ、薪を足して卵を回収するとオーブンの前に立った。
火と炭、卵とバター、温まった鍋の匂い。
使いかけのソーセージと、チーズ入りのラビオリもトマトソースで軽く煮込むと、固くなったパンを蒸気に当てて蒸していく。
エリックが戻るのを待たず、出来立てのオムレツを口に運ぶと、味も匂いもいつも通りで安堵する。
(良かった…まだ壊れてない…)
無味無臭の世界はかつてデイビッドにとって本当に地獄だった。
表には出さないが、たまに思い出して不安になると、こうして確認しては自分を落ち着かせている。
「わぁ、美味しそう!朝ご飯、かしこまっちゃってたから食べた気がしなくって、頂きまーす!」
よく食べるこの従者がいるおかげで、日々食事を作ることも忘れなくなった。
食べる習慣ができると空腹にも満腹にもなる。
ぼんやり考え事をしていたら、眠くなったものと思われてエリックに急かされ風呂場に連れて行かれてしまった。
「ほら!背中流してあげますから!」
「いい、自分でやる!」
「お風呂入りましょうよ!?気持ちいいですよ?!」
「こっちは魔道具の中に入って無事な保証ねぇんだよ!」
「背中に変な2本傷があるのなんですか?」
「バイコーンに後ろから刺された時の傷か?まだ残ってんだな。」
「脇の縦に亀裂になってるのは?」
「キリフの洞窟に落ちた時、突き出てた水晶で抉った痕だよ。触んな!」
邪魔されるので急いで上がって部屋に戻ると、廊下の冷気で髪がすっかり冷え切り、耳が赤くなる。
(眠い…)
部屋の温かさだけで眠ってしまったデイビッドに、エリックが毛布をかけた。
「お疲れ様でした…」
エリックもそのまま横になり目を閉じると、2人は夕刻近くまで眠っていた。
アリスティア姫のデビュタントパーティーは大成功で幕を閉じた。
国王も王妃も満足で、アリスティアは今後正式にアーネストの補佐として動く事が出来るようになる。
「とは言え、学生の内は一生徒としてきちんと学園を楽しむといい。」
「そうさせて頂きます、お兄様。」
「そうだ、この間はお前のケーキをつまみ食いして悪かった。お詫びに私が作ってもらったヤツを一切れどうだ?」
「え?」
「ラムレーズンは膨らみにくいなんてこぼしてたが、充分ふわふわで紅茶によく合うんだ!」
「は??」
「アイツが料理が得意なんて知らなかった。ガレットが、どうやったらあんなにパリパリもちもちになるのか不思議だ!あれなら毎朝食べたいと思ったぞ?!」
「…まさかお兄様、デイビッド様に料理させたのですか…?」
「させたなんて。本人が厨房貸してくれって言うからついて行ったんだ。食べたいもの聞かれたんで、色々リクエストしたら作ってくれて…」
「裏切り者……」
「アリス…?」
アリスティアは出されたラムレーズンのシフォンケーキを持って兄の前から立ち去ると、それから3日間アーネストとは口をきかなかった。
ヴィオラはこの日から父と2人親子水入らずで過ごし、たくさん話をした。
手紙や報告で知った話も、娘の口から語られるのとは全く違う。
親としては心配が絶えない話でも、にこにこ楽しそうに語るヴィオラを見ていると、不思議と安心してしまう。
次の日娘に見送られて領地へ帰った子爵は、馬車の中でまたひとしきり涙を流したのだった。
「今なんと?お父様…」
「だから、お前もそろそろ婚約者を見つけなければならない時期だろう。相手はこちらで見繕うから、準備しておけと言ったんだ。」
「お言葉ですが、私は姫殿下の護衛としてあと1年学園に通わねばなりません。院生として残りますので、婚約は延ばして頂きたいですわ。」
「だが、レオの事もある。ロシェ家が安泰であると周囲に知らせねば示しがつかん。」
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