黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

年明け

鹿肉を各部位に切り分け、スパイスを揉み込んで金串に突き刺し、熾き火の横に据えた金網で次々と焼いていく。
ある程度用意が出来るとその隙にスープを作り、小麦粉を捏ねて半発酵の生地を大量に作っておく。
残った小麦粉に砂糖や卵、牛乳を加えて搾り袋に入れて油へ。

「あ、これ知ってます!星祭りで食べたチェロス!お手伝いします!」
「助かる。出来たやつに砂糖まぶしてくれ。」

熱々のチェロスにバットの砂糖をまぶしつけると、シナモンとメープルの香りが漂う。
ヴィオラは揚げ立てのチュロスに釘付けになっていた。

「持ってく前に味見す…」
「いただきまーす!!」

言うが早くかぶりつくヴィオラに、また笑いがこみ上げる。

「はふっ、あっふ、熱々サクサク!」
「スープも飲んでみてくれ。」
「はぁ…玉ねぎが甘ぁい…卵が浮いてて、白胡椒が効いてて温まります…」
「この後ピザも焼こうと思ってる。生地はどうしよう?」
「もちもちのヤツにして下さい!トマトソースにチーズたっぷりで耳まで美味しいの…はっ、パリパリなのも捨てがたい…生ハム乗せてバジリコで…」
「…わかった…全部作ろう…」
「やったぁ!!」

いい笑顔で喜ぶヴィオラを見ていると、もっと食べさせたくなる。
その代わりの笑いを堪えるのも一苦労だ。

「デイビッド、肉まだあるか?!足りなくなりそうだ!」
「追加だ持ってけ。人手回してくれるか?鍋と大皿運んでくれよ。」
「「はーーい!!」」

カインの後ろから数人走り込んで来て、出来た料理を運んで行く。

「女の子がたくさん来てくれて皆大騒ぎなんだ。すごいな!あのマドンナまで一緒なんて信じらんねぇ!」
「猫被ってると他人にしか見えねぇなアイツ…」
「美人が金串持って肉にかじりついてるの、迫力あるな!?」
「猫逃げてた!?」

カインはさっきまでチェルシーとずっと2人でいたそうだ。

「あの子かわいいな。気さくで良く気が利くし、俺ああいう子好きだ。」
「あ?お前、まさか俺相手に話してんのか?」
「あと、あのミルクティー色の髪の子!軟らかい雰囲気の子も捨て難いなぁ…」
「そういう話は他所行ってやれよ…」
「なんだ?婚約者持ち相手じゃこんな話は無理か?!」
「元から興味ねぇんだよ!美人だろうが平凡だろうが、十把一絡げで別世界の生き物だと思って来たんだよこっちは!」
「嘘だろ…せめて気になる子とかいなかったのか…?」
「視界に入ったが最後、後ろ指差されて貶されてりゃ嫌気も差すんだよ…そーゆーのはエリックの方に持ってけ。俺じゃ聞き役にすらなれねぇよ。」
「つまんねー奴…」
「うっせぇわ!!」

鍋を持って演習場へ顔を出すと、丁度ナイフの的当てで盛り上がっている所だった。

「がんばって~!!」
「あー、惜しい!次は当ててよー?!」

女の子の声援もあり、皆いつもとやる気が違う。

「デイビッド様、はいこれどうぞ!」
「え?俺も投げんのか?」
「見たいです!デイビッド様のナイフ投げ!」

デイビッドはヴィオラに差し出されたナイフを手に取り、重さと重心を確認すると、的の周りに集まっている生徒に声を掛けた。

「おーい!危ねぇぞ?ちょっと離れてろ?!」

人が捌けるとその場から軽く振り被り、指に挟んだナイフを飛ばすと、的の中心の誰かが当てたナイフの柄に突き刺さる。

「お、当たった!」
「きゃー!やっぱりデイビッド様が一番かっこいい!!」

はしゃぐヴィオラに飛びつかれるデイビッドを、騎士科の生徒達が羨ましげに見ている。

「おいデイビッド!!お前良いカッコし過ぎだろ!!」
「そんなん的の距離に入んねーよ!あと5ヤード下がれ。」
「そんな遠くから当たるかよ!?」
「当てろよその位!イケるだろ?」
「クッソ…余裕振りやがって!」

その後もゲームや模擬戦など披露しながら、笑いの絶えない時間が過ぎていく。
やがて日が暮れて星が輝き始めると、少しずつ人が少なくなってきた。

「それじゃ、私達下宿先に帰る時間だから、またね!」
「私達、年明けは部屋でずっと本読んで過ごすことにしてるの!ヴィオラも良い年明けを!また来年会いましょう!?」
「ローラ、ミランダ、貴女達も良い年明けを!!」
「女の子達がお帰りよ?!誰か送って行きなさい!」
「「はいっ!仰せのままに!!」」
「おい、変な躾すんな!!」

焚き火の最後は、シェルリアーナが火魔法で大きな鳥を作り夜空に火花を散らして盛大に終わらせた。
後片付けを終え、辺りを見ると星が降るような夜だった。

「デイビッド!今日は本当にありがとう、ここに来て最高の年末だった!毎年冬には体を壊す奴も多かったのに、今年は部屋も温かくて、薬も揃ってたから寝込む奴が1人も居ない!全部お前のおかげだ!」
「大袈裟な奴だな。お前が駆けずり回って後輩の世話してたからだろ?部外者はただうるさく口出しただけだ。」

カイン達を見送り、ヴィオラとシェルリアーナを女子寮へ送る最中、デイビッドはふとエリックが見当たらないことに気がついた。
(そういや、アイツどこ行った?)
途中まで肉を焼く生徒に混じっていたはずが、いつの間にか姿が見えない。

「ハーーーッ!!今日は久々に気楽に楽しめましたわ!」
「私も!楽しかったです!ホントは年が開けるまでずっと一緒にいたいのに…」
「学生の間は我慢するしかないわよ。それじゃ、貴方も良い年明けを。」
「ああ、またな。」

真っ暗な学園の中、エリックを探すと温室の明かりが目に入る。
(まさか…)
クローズの札を気にせず中に入ると、熱気に圧されて酒の匂いがした。

「ここで飲んでたのか…」
「やぁ、デイビッド君!さっきまで二人で飲んでたんだけど、エリック君が潰れてしまってね。ここは寒くないから寝かせておいても良かったんだけど、君に一度確認しなきゃと思ってたとこだよ。来てくれて良かった!」
「ザルのエリックが潰れるって…こっちはウワバミかよ…」
「君も一杯どう?18ならもうお酒も解禁でしょ?」
「わかってて勧めてんだろ?」
「ダメかぁ。いつか付き合ってもらいたいと思ってるんだけどなぁ。」
「諦めろ!」

デイビッドがエリックを担いで温室を出ようとすると、アリーが出て来て戸を開ける。

「デイビッド、アエナイ、サミシイ」
「ここんとこ忙しかったからなぁ、また来るよ。」
「ヤクソク、マッテル」

「デイビッド君!良い年明けを!」
「ああ、そっちもな。」

冷え切った廊下を歩いていると、背中のエリックが動き出す。

「うぅ~寒ぅい…」
「大人しくしてろ!落っことすぞ!?」 

部屋の中も寒いが、外程ではない。
火が入る間にエリックの上着を剥いでカウチに放り出し、適当に毛布を掛ける。

「もう…世話焼きなんだから…」
「じゃお前も世話焼けよ、このダメ従者が!!」

酔ってうわ言を漏らすエリックは思いの外面倒くさかった。

「ほっとくとぉ…またどっかいっちゃうからぁ…みてないと…」
「見てすらねぇじゃねぇかよ!ったく…」
「すぐケガするし…しんぱいでぇ…」
「今心配なのはお前だけだ!はよ寝ろ!」
「なまいきでぇ…かわいげのない…おとうとみたいなもんだからぁ…」
「俺はこんな兄弟いらんわ!」

なかなか眠気が来ないので、薄明かりの中溜まった資料や手紙の整理をしていると、何通か他国から分厚い封書が入ってきていた。
中を見て分別していくと、留学や訪問に関する報告が入って来ていて、ギョッとしたが見なかった事にする。
(今は考えたくねぇ……)

三学期はもう目前。
怒涛の新年がもうすぐ始まろうとしている。
感想 5

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