黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

マンドラゴラの秘密

ガサガサと草むらをかき分けていよいよ森に入ると、直ぐに小さな崖に行き当たった。
その下を川が流れている。

「マンドラゴラは湿地でも日の当たる地面を好むから、あんな日陰の方を探しても良いのは見つからねぇよ。崖沿いにもう少し上へ行こう。」

少し歩くと足元の草が深くなり、日が差し始めた。
足元が悪いので、岩やぬかるみを後ろに教えながら歩いて行くと、少し平らな開けた場所に出る。

「ほら、あったぞ?」
「え?本当に?ただの草地に見えるけど…」
「まさか…擬態してるの…?」
「ああ、鉢植えしか見たことねぇ奴等にはそう簡単には探せねぇだろうな。」

擬態と言っても必ずするわけではなく、ある程度年季の入った個体が運良く群生できると、周辺の草木を真似て何故かいきなり始めるらしい。
というのもデイビッドが経験則で覚えた事なので、専門書には何とあるのか良く知らない。

「擬態能力の事は知ってたけど…敵に襲われた時にしか使わないものだと思ってた。」
「よし、この辺がいいかな…」

デイビッドは手近にあった大きな個体に縄をかけると、その周りをシャベルで掘り出した。

「ちょっと!まだ防音してないのよ?!」
「大丈夫、コイツら土がはがれなきゃ鳴かねぇからよ。」

4人が急いで離れようとした時、デイビッドはマンドラゴラをそのまま周りの土ごと掘り起こすと下の川へと放り出した。
ザブンと水音がして暫くすると、腹を見せた魚と一緒に浮かび上がってくる。
土が流されたマンドラゴラが水中で叫んだのだろう。
叫び声は水に妨げられ、ここまではほとんど届かない。
縄を引っ張り上げるとかなり大きな個体が収穫できていた。

「な?」
「な?じゃないわよ!!心臓に悪いわね!?」
「そもそも擬態したマンドラゴラを一発で見つけるなんて、君、本当にネクターなのかい?」
「そこは機密事項ってとこだな。俺も見分けられるようになったのは最近だ。」

そこから4人が各々収穫している間に、デイビッドは川へ降りて浮かんできた魚を回収し、他にも何か採集して戻って来た。

「何それ…」
「この時期にしちゃ色々生えてたから…つい…」
「ついでこの量っておかしいでしょ?!」

カゴにごっそり詰め込まれた山菜や薬草を見て、シェルリアーナが呆れている。

「君、本当に面白いね!何もかも規格外って感じ…ますます気に入ったよ。」
「アタシも~!すっごい頼もしいし、ヒポグリフに乗って降りて来た時なんかカッコよかったもん!」
「誰に対しても同じだと思ってたシェルリアーナがここまで懐くのも無理ないよ。美味しそうだしね。」
「…なんて?」
「エドの発言は気にしないで、早く先生の所へ戻りましょ?!」

転移門のある拠点へ向かうと、既に数班が調合を始めているところだった。

「僕達も早く火を起こそうか。」
「今焚き火台作る。少し待ってくれ。」

デイビッドは背負っていた袋から折り畳みの焚き火台を取り出すと、その上に着火綿を置いて手頃な薪を組みマッチで火を着けた。

「地面の上じゃダメなの?」
「火を直置きするとそこの地べたが一度死ぬんだ。戻るまでに何ヶ月も掛かるから、なるべく土地は傷付けずにおきたい。」
「え~そんなの考えた事もなかった…」
「森の事まで考えているのか…君、まるで古の魔法使いみたいだね?」

三脚から吊るした小鍋でマンドラゴラと薬草を煮出し、漉して瓶に詰めたら回復薬の完成。

「ねぇ、僕気になることがあるんだけどさ…」
「うん…僕もだよ。」 
「な~んか…いい匂いしない?」

本来苦くて渋いマンドラゴラは、火にかけると余計に臭いがキツくなる。
室内にいた時は周りの臭いが混ざって気が付かなかったが、この鍋からはふんわり甘い香りが漂ってくるのだ。
シェルリアーナは鍋底に小指を立ててひと掬いすると、ためらいなく口に含んだ。

「甘い…」
「ホントに?!」
「あ…本当だ、甘い!」
「えー?なんでなんで?!」

続いて同じ材料でイヴェットが薬を煮てみる。

「苦い…」
「あ、でも、すこーしだけまろやか…かな…?」
「どうして?」

「それはねぇ!?」

いきなり茂みから現れたベルダに驚く5人。

「ビックリしたぁ!」
「先生、いきなり出てこないで下さい!!」
「だって聞きたいでしょ?マンドラゴラのヒミツ!」

ベルダは焚き火に近づくと手をかざす。

「うん、やっぱり。この火はデイビッド君がつけたんでしょ?マッチで。」
「そうだけど?」
「マンドラゴラ抜いたのも君?」
「最初に使った奴は…」
「原因はそれなんだよ!マンドラゴラは魔力に対して抵抗すると変質化する性質を持っていたんだ!多分、他の魔物に食べられないようにするための防衛手段のひとつなんだろうね!」

本来マンドラゴラを採取するのも使うのも魔法使いだ。
どの過程にも魔力を使うのは当たり前、そもそも魔力の無い者は危険なマンドラゴラには近づかない。
ましてや魔力抵抗の無い者ともなればより警戒するのが普通だ。
それ故今まで誰も気が付かなった新事実。

「採取にも調合にも魔力を一切使わないことが条件になるから、魔力持ちには永遠に分からなかった事だろうね!」

更に、使う火に含まれる魔素にも反応するため、加熱する内にどんどん味が落ちていくのだそうだ。

「魔力で生み出された炎は、性質は通常の火と同じだけど、周辺の魔素も消費してるんだよ。だから熱を通してマンドラゴラにも作用しちゃうの。でもマッチでつけた火ならそれがないってこと!魔法使える人はそんな面倒な事しないから、余計に気が付けないはずだよ!!」
「じゃあこの甘い方がマンドラゴラ本来の味ってことですか?」
「そうなんだよ!コレ実はすごい発見なんだよね!他の魔性植物でも同じ事が起きてないか今検証中!」

ベルダは目を輝かせながら夢中で説明する。

「じゃこれも食ってみるか?」

デイビッドがいつの間にか火の中に入れていたマンドラゴラを取り出し、焦げた分厚い表皮を剥くと、軟らかなクリーム色の中身が顔を出す。

「コレか!君がいつも食べてたっていうマンドラゴラは!」
「え…?美味しそう?」
「こんな風に食べるなんて初めてだよ!」

ナイフで切り分け小枝に刺すと、まずはベルダが一口、続いてシェルリアーナの手が伸びる。

「わぁ!甘くてねっとりしてて、本当にお芋みたいだね!」
「ここまで糖度が高いなんて…まるで質の良いスイートポテトだわ。」

他の3人も恐る恐る手を出した。

「あまぁ~い!アタシこれ好きぃ!」
「マンドラゴラなんて初めて食べた…ずっと薬の原料としか思ってなかったから…」
「僕もだよ…デイビッド君はどうやってこの食べ方を知ったんだい?」
「教わったんだよ。旅先でたまたま居合わせた商隊に招かれて、そこで食わして貰った。旅の知恵みたいに話してたから、ずっと昔から食ってるとこはあったんじゃねぇか?」
「そうか…昔は特に魔力の有無で隔たりが大きかったから、魔力の無い者たちの文化が魔力持ちには伝わらなかったのか…。」

他の生徒そっちのけで、ベルダとその研究生達はマンドラゴラの考察に勤しんでいる。

「話に聞いても魔力持ちには上手く調理出来なかっただろうし、ゲテモノ食い程度にしか思われていなかった可能性はあるね。」
「ええ!これってスゴイ発見じゃないのか?!」
「ねえ~?!そうだよね!君と居れば何かあるとは思ってたけど、やっぱり僕の見立ては間違ってなかったよ!…逃げられる前に捕まえといて本当に良かった…」
「不穏ワード止めろ!!」

他の生徒達も集まって来て、各々調合を始めると、先に来ていたデイビッド達は時間が余ってしまい手持ち無沙汰になってしまう…なんてことはなかった。
手が空く暇もなく、デイビッドには次の指令が下ってしまう。
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