黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

雪の日の内緒事

ヴィオラが行ってしまうと、残った分に布を掛け、今日は授業の時間になるとデイビッドも荷物を抱えて早々と魔法学棟へ向って行く。

昼になり、研究室にシェルリアーナが顔を出す頃には、エリックが部屋で寛いでいるだけだった。

「あら、今日は皆いないのね。」
「みんなそれぞれ用があるそうで。」
「なんだそうだったの。それじゃ、私の分も何かに入れて下さる?あっちで論文でも書きながら食べるわ。」
「いいですよ。少々お待ちを。」

エリックに渡された紙袋を持って、シェルリアーナは魔法学棟の研究室へと足を向けた。
第七研究室の扉を開けると、誰もいないのかと思いきや既にデイビッドが来ていて何か作業している。

「やだ、ここに居たの?!」
「全然進んでねぇから、人のいない時間に続きやってんだよ。」
「あ…この前はごめんなさい。勝手に触っちゃって…」
「この作業だけは魔力持ちに触られると困るんだ…それだけ気をつけてくれりゃいい。こう見えて任された以上結果は出したいんだよ。トロくて邪魔に思うかもしれねぇけど…」
「そんな事ないわよ!基礎手順は大切だし、そもそも目的が違うんだから!魔法を一つも使わないなんてなったら、逆に私達は何もできなくなるわ。持ってる強みが違うだけよ!」
「…お前にフォローされんの、なんか裏がありそうで不気味だな…」
「いい加減その捻くれた性格何とかしないと吊り下げてじっくり炙るわよ!?」

素材はその都度一から作り、少しずつストックを増やして置かないといけない。
回数を重ねる毎に同時進行の作業が増え、手順を間違えないよう慎重にノートを確認していく。
デイビッドは自分で取ったノート意外に、時々何か古い紐で綴じられた手製の本をめくっている。
シェルリアーナは興味津々でその本を覗き込んだ。

「ねぇ、その古書みたいの何?」
「古い魔法薬のレシピ。魔力の無い人間でも薬が作れるよう昔貰ったヤツだよ…基礎が同じだから役に立つかと思って。」

シェルリアーナは後ろから覗き込むと、のめり込むように本にかぶりついた。

「ちょっと待ってよ!これ…まさか魔法学がまだ確立する前の時代に書かれたウィッチクラフトのレシピじゃないの?!」
「知らん!重い!」
「嘘でしょ…200年以上昔に書かれた魔法薬の作り方よ?!魔力の認識もまだ曖昧な時代の貴重な資料だわ!!」
「乗っかって来んな!手元が狂う!貸してやるからあっち行ってろ!!」

本を渡すとシェルリアーナは夢中で読み始めた。

「すごい…まさか原初の魔法使いが残したレシピが現存してるなんて…博物館か下手したら王立図書館の閲覧禁止書籍よ?!私一度調べようとして諦めたんだから!!」
「頼むから他人にはバラすなよ?!」
「現代にも通じる製法…この時代にも薬草が持つ効能と魔力は正しく認識されてたのね…長きに渡る伝承と経験の上に魔法が成り立っていたんだわ!」
「俺にはよくわかんねぇし、これは俺専用だって渡された物だからなぁ…」
「…誰に…?」
「しまった余計な事言った!!」
「ねぇ、誰がくれたの?こんなすごい物を価値のわかんないアンタに…」
「………お前の師匠……」
「嘘でしょ?!」

彼の地に住まう魔術師ギディオン直筆のレシピを手に、シェルリアーナは固まってしまう。

「欲しいーっ!!」
「うるせぇ!自分で頼め!!」
「アンタばっかりズルいーっ!!」
「いい歳して地団駄を踏むな!!」

デイビッドはゴネにゴネまくるシェルリアーナからレシピを奪い返すと、肩掛けの鞄に放り込んでしまう。
シェルリアーナはそれからしばらく不貞腐れたままデイビッドを睨んでいた。

「ねぇアンタって師匠の弟子なの?」
「俺はそのつもりねぇけど、向こうはどう思ってんだろうな?領主の血筋だから世話してるだけかも知れねぇし、なんかしら意図があるのかもわかんねぇよ。」
「もし弟子だったら、アンタが私の兄弟子って事になるのかしら…それはなんかイヤね…」
「論文書きに来たんならはよ書け!!」

しかし、シェルリアーナはデイビッドの作業を眺めながらパイとサンドイッチをかじり、ハーブティーを飲むとそのまま机で眠ってしまった。
(何しに来たんだ…?)

「珍しいね。ここまで無防備なマドンナは初めて見たよ。君、癒しの力でも持ってるの?」

次に気怠げに部屋に入って来たのはイヴェットだった。

「腹が膨れたからだろ?」
「わかってないなぁ。淑女は他人に寝顔なんて晒さないものだよ?これで君達婚約者でもないって、どういう関係?」
「…婚約者の友人?いや…なんだろうな…たぶん、こっちはまず人間に見られてはねぇな。」
「ずいぶん消極的だね。相性は良さそうなのに、本当に変わってる。彼女を前にして君からは邪な感情がひとつも見えて来ないんだもの。見えるのは怯えと恐れと、底の見えない闇だけだ…何か別のモノが化けてるとかじゃないよね?」
「これでも純人族だよ。先祖を辿っても豚の血は入ってないはずだ。」
「ただの人間からはこんなに澄んだ気配はしないよ。こう見えて、僕は古い妖精フェイーの血を引いているんだ。人を視る目は確かだよ?」

イヴェットの眼光が猫のように細くなり、デイビッドを映し、試す様な視線を送る。
他人の血統にそこまで関心の無いデイビッドは、この手のやり方で来る相手への反応にはいつも困ってしまう。

「へー…」
「ここまで興味を持って貰えなかったのは初めてだな。結構なカミングアウトのつもりだったんだけど?」
「いや…別に気にすることか?それ言ったらコイツだって魔女だろ?」
「ふ…アハハハ!君にとっちゃ魔女も妖精もおんなじか!いいね、そのくらい柔軟に受け止めてもらえるなら、君とはもっと早くに会いたかったよ!」

イヴェットは喋るだけ喋って、また研究室を出て行ってしまった。
(なんだったんだ…?)

イヴェットが居なくなった途端、デイビッドは頭が重くなる様な感覚に襲われた。
(疲れか…?にしちゃ急に来たな…)
デイビッドは作業に目処をつけると、机を片付け自分の研究室へ戻って行った。

シェルリアーナを放置して。


その頃ヴィオラは、友達のソフィアとローラと一緒に学園の大庭園まで来ていた。
奥の空いた花壇では、色々な生徒が自分の好きな花を育てている。

「やったぁ!咲いてるよ!?」
「わぁぁ…キレイ!まるで宝石みたい…」
「苦労して育てた甲斐があったわね!」

3人が見ているのは、半透明のガラス細工の様な花だ。
幾重にも重なった繊細な花弁が濡れてキラキラと輝き、なんとも美しい。
晴れた雪の日にしか咲かないスノウリコリスの花は、様々な魔法薬の原料になる。

ローラは両手に魔力を集め、冷気を纏わせるとそっと花に触れ、詠唱を始めた。
すると徐々に花が凍りつき、氷の中に閉じ込められていく。

「やったぁ、成功よ!」
「よーし!次は私よ!」

透明な氷の中に咲く花を摘み取り、大切に布に包む。
続いてソフィアが挑戦し、同じく花の氷を手に入れた。

「ヴィオラも頑張って!」
「うん!」

指先がキンと冷え、魔力が変質していく感覚を掴むと、それをゆっくりと花にまとわせる。
その時、渡す相手に問いたいことを考えながら魔力に掛けるといいらしい。
ヴィオラはこの美しい氷花を手にすると、氷が溶けないよう魔力で覆った。

「この氷を溶かして猫目柳と星影草を浸した薬を飲むと、嘘が吐けなくなるんだって!」
「自白剤なの?」
「“恋惑う乙女の導き薬”よ!!相手の本心を知るためのアイテムなの!読んだ本に書いてあったのよ!有名な小説にも出てくるんだから!主人公が婚約者の本音を聞くために使ってたの!」
「やっぱり自白剤じゃない…」

実際そこまでの効果はないが、卑しい考えや、後ろめたい気持ちがあると、心の内が態度や言葉の端に出て来るものらしい。
感想 5

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