黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

エリックの悪夢

「ヴィオラ?!悪い、探しに来てくれたのか!」
「ずっと待ってても来ないから…」
「ごめんな…つい夢中になって…」
「だからこっちから来てみました。」

テーブルにつくと、ヴィオラはデイビッドの正面に座り、イチゴサンドを取り出してかぶりついた。

「ふふ…切ったイチゴがウサギの耳みたい…」
「育てたイチゴがやっと赤くなったから、初摘みを使ったんだ。」
「すごく甘いイチゴですね!冬にこんなに大きな赤いイチゴ…すごく贅沢!」
「手が空かなくなる時間が増えるから、少しでも喜んでもらえるかと思って…今日また赤いのが増えたから、少し摘んでいくか?」
「はい!」

デイビッドは以前から温室のまだ未整地の一角を間借りして試験的にイチゴやトマトを育てていた。
この真冬に実った温室栽培のイチゴは最高の糖度を誇り、ルビーの様な真っ赤な輝きを放っている。

「う~ん!あまぁ~い!!」
「気に入って貰えて良かった。なかなかいい出来だろ?」
「もう最高です!ときめきました!」
「春先には花壇にもできるからもう一度食べられるはずだ。」
「たくさんできたらジャムにしたいです!」
「それもいいなぁ…」

イチゴ摘みに夢中のヴィオラとそれを見守るデイビッドの様子を、離れた所からアリーとリディアとベルダが眺めている。

「いやぁ、あんな嬉しそうな顔初めて見たなぁ!」
「デイビッド アノコ スキ?」
「そうだよ。アリーはイヤかい?」
「デイビッドガ ウレシイト アリーモ ウレシイ デイビッドノスキ アリー ゼンブスキ」
「なら良かった!デイビッド君にとって彼女はとても大切な人だからね。もし何かあったら守ってあげて?」
「ワカッタ」

時間ギリギリまでデイビッドと過ごしたヴィオラは、雪の残る園庭を抜け、満たされた気持ちで寮へ帰って行った。


その夜のこと。

布団に潜り込んだデイビッドは、エリックがうなされているのに気がついた。
起こそうとしたが、寝言で悪態をつかれたのでそのまま放置したが、何か様子がおかしくて気になり、朝までよく寝付けなかった。


エリックは時たま悪夢を見る。
それはいつも同じ夢で、何度も繰り返し見る明晰夢。

エリックは母親が父に離縁され、自分も親子の縁を切られた直後、妖精を認識し精霊魔法を手に入れた。
父親だったハルフェン侯爵は精霊魔法の血統で、後継者を求め妖精の加護を受けるラルスル伯爵家の娘であった母を金で買うように娶ったが、息子に血統魔法がなかなか発現しない事に痺れを切らし、また金を渡して放り出した。

妖精も精霊も傲慢な人間からは離れて行くものだ。
母親がラルスル家に出戻って直ぐ、エリックは父母両方の血統を受け継ぐ特殊中の特殊な存在となった。
母親は喜ぶよりも元夫に見つかることを恐れ、友人のジェイムス・デュロックを頼って息子と共に辺境へ逃げた。
そこで仕事をすることになり、この時エリックはデュロック家の侍従見習いとして盛大に歓迎された。

10歳まで厳しい侯爵家の教育を受けて育った上、異例の2大属性持ちという特別な力を持ったエリックは、天才、神童と持て囃され、容姿の良さもあり誰にも好かれ認められる完璧な自分に酔っていた。

それが14歳の頃、学園へ入学するため少し早めに王都のデュロック邸へ移った際のこと。
カトレア夫人に呼ばれ、一人息子の12歳の誕生日を祝うので手伝って欲しいと頼まれた。
身内と親しい者だけで行うこじんまりとしたものだが、カトレア夫人は相当な気合いの入れ込みようだった。
料理に飾り付け、プレゼント、ケーキ…お祝いとしては在り来りだが全て自ら采配し、朝からとても楽しみにしていた。

「こんな日にまで王城で剣の稽古だなんて、いくら第一王子と仲良くなったとは言え酷いと思わない?帰ってきたら直ぐに着替えさせて広間に連れて来て頂戴ね?!良い!?絶対に目を離してはいけませんよ?!」
「わかりました奥様。」

やがて邸中の準備が整い、馬車が到着して中からジェイムスが息子を伴い降りてきた。

「エリック、来てたのか!紹介しよう、私の息子のデイビッドだ。よろしく頼むよ?!」
「はじめまして、エリックと申します。」
「…はじめまして…」

第一印象は暗くてボソボソ喋る陰気な子供だった。
周囲から浮いた肌色に黒髪の目つきの悪いこの少年を、エリックはあまり好きにはなれなかった。

完璧に近い両親から生まれたはずが、母の魔力も父の才能も双方の美貌すら受け継がなかった異色の存在。
邸の使用人達もどこか対応がぎこちない。

部屋へ案内され、身支度を整えさせる事になったが、放たれた一言は「いい、自分でやる」だった。
差し出した手を振り払われ、エリックはますます苛立った。
貴族なら幼少時より使用人の扱いは心得ているはずだ。
それを拒否するということは、貴族としての矜持がないと言っているのと同じだ。

エリックは、ピカピカに整えられた部屋の中で、デイビッドが1人着替える姿が、そこだけ黒ずみの様に感じて気分が悪かった。

「ねぇ、立ってるならそこの箱開けてみてよ。」

なぜ侍従がそこに立っていることになったか、考えもしないのだろうかと、エリックはまた苛立った。
部屋の隅には山積みのプレゼントが無造作に置かれ、どれにも有名な最高級の魔道具店の印がついていた。

「いえ、こちらはデイビッド様への大切な贈り物ですので…」
「いいから、開けて。」

仕方なく、エリックは手前の細い箱を丁寧に開いた。
その中身は美しい魔導式のペンだった。

「ご覧下さい!今王都でも人気の魔石仕様の万年筆ですよ?いかがですか?」
「ふーーん。父さんは何にも知らないヤツを寄越したんだ。」
「何を仰って…」
「使えない物はもらっても意味ないし。そこにあるのは全部ただの嫌がらせ。欲しかったら好きにして。」

つまらなそうに言いながら着替えを済ませると、ボサボサ髪のまま部屋を出ようとするので、エリックは慌てて鏡の前に連れて行き、よれた服と髪型を整えさせた。

「魔道具はお嫌いですか?」
「使えない物は持っててもしかたないよ。それとも、ありがたく受け取って飾っとけって言うの?」

そう吐き捨てる生意気な子供にも、エリックは従者としてあるべき対応をしていたが、心中は非常に荒れていた。
何故こんな捻くれた子供クソガキがあの素晴らしい夫妻から生まれたのか…そんなことを考えていると、デイビッドは薄汚れた革のベストを抱えて何処かへ行こうとする。

「どちらへ行かれますか?広間で奥様がお待ちですよ?」
「父さんの書斎。大事な物を渡さなきゃだから、先に行ってて。」
「そんな訳には参りません。私もご一緒します。」
「じゃぁすぐ終わるから、ドアの前で待っててよ。」

書斎に着くと、デイビッドは不意にエリックの方に振り返り、いつの間に持っていたのか、プレゼントの万年筆をエリックの胸ポケットに差し込んだ。

「うん、似合ってる。その方が道具も喜ぶよ。」
「そんな、受け取れません!」
「いいよ。迷惑料と思ってくれれば。エリック…だっけ?たぶん一番迷惑かけると思うから。じゃ、で待ってて!?」

その瞬間、子供らしい無邪気な笑みを見せてデイビッドは書斎のドアを閉めた。

(始めからああして笑っていればいいのに…)
そんなことを考えていると、下の階からジェイムスがやって来た。

「おや?エリック、どうした?1人なのか?デイビッドは?!」
「え、旦那様?!こちらではなかったのですか?」
「忘れ物を取りに来たんだが、デイビッドはどうした?」
「旦那様にお渡しする物があるとかで、中に…」
「やられた!!」

そう叫ぶとジェイムスはドアを開けようとしたが、既に鍵が掛けられている。

「クソッ!鍵を下の部屋に置いてきてしまった…」
「直ぐに取って参ります!」
「いいや…もう手遅れだろう…」

がっくりと項垂れる伯爵を前に、エリックは何が起きているのか理解できなかった。
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