黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

生徒としての時間が濃すぎて忘れがちになるが、デイビッドの本業は今のところ臨時講師だ。

賑わう商業科のクラスで、今日はトラブル対処について法制度や救済措置などの講義をしていた。

そこへ、荒々しい足音と共に数名の騎士がなだれ込んで来た。

「デイビッド・デュロック!貴様を婦女暴行と傷害の容疑で連行する!」

「…全員注目、こんな感じで、商売とか買い付けとかしてると、いきなり変な奴とか頭のおかしいのに絡まれることも世の中割とあったりするんだよ。金が動くところには特に沸きやすい。権力や立場を利用して嫌がらせを受ける事もある。その場合どう動くのが最善か、この後を良く見ておくように。」

「おい、余計な口を聞くな!!」

「ついでに言っとくが、知っての通り俺は大人しくはねぇからな。市場がひっくり返る可能性もある。デカい波に飲まれる前に逃げ道くらいは見つけとけよ?駆けずり回って市井の流れを読んでみろ!情報は商人の命だもんな?あと、この事は後日議題にするから。それじゃ、後は自習なり好きにしてくれ。じゃぁな!」

まるでなんでもない事のように言い残し、どよめく生徒達に軽く手を降ってデイビッドは教室を後にした。

「さっさと歩け!」
「歩いてるだろ…?なんか威張ってないとダメな病気なんか?おっさん。」
「騎士である我々に口答えをするな!!」
「騎士ねぇ…」

縄こそ打たれてはいないが、前後を制服の騎士に挟まれて歩く姿はかなり目立つ。
わざとなのか教室と人の多い廊下を晒し者の様に歩かされると、教員室の並びでデイビッドはひょいと廊下を曲がった。

「どこへ行く!!」
「逃げようなどと考えるなよ?!」

騎士の手が伸びて、デイビッドが肩と後ろ髪をつかまれ、壁に叩きつけられると、隣のドアが乱暴に開き、不機嫌な妙齢の女性が現れた。

「誰だ今壁をどやした奴は!医務室の前で何をしている!」
「あ、シモンズ先生!」

拘束されたままデイビッドが話しかけると、ツカツカ近付いて来たシモンズは、容赦なく動けないその頭にカルテの角を叩きこんだ。

「いぃってぇぇ!!」
「またお前か!今度は何をやらかしたこの馬鹿は!?」

それを見ていい気になった騎士達はニヤニヤしながらデイビッドから手を離し、女医に向かって礼をした。

「この者は暴行罪の容疑者です。どうぞお気をつけを。」
「暴行罪?!現行犯かい?」
「調査内容はお話できなくて…」
「ほう…承知した。では、これより此奴の身柄は私が引き受けよう。足労であった。市井の任務に戻りなさい。」
「は?!何を言って…」

シモンズは白衣の下から胸元の記章を見せると、踵を鳴らし胸に拳を当て、上官から下級官への姿勢を取った。

「私は王妃付き王宮近衛騎士団大佐シモンズである。王宮と大使館に出入りがあり、他国の要人とも交流のある貴族が容疑者となったのならば、この一件国を挙げての調査を要するものだ。」
「近衛騎士?!!」
「おまけにコイツには末席ではあるが騎士の称号が付いている。名を与えたのは私の部下だ。その名を汚した可能性があると言うのなら、尚更厳しく取り調べる必要がある。」
「し、しかしそんないきなり…」
「いきなりはお互い様だろう?心配無用、どのような些細な気がかりも無いよう徹底的に調べ尽くす故。貴殿等は被害者方を第一騎士団に集めておくように。これは厳命と思え。では下がってよし!」

デイビッドの首根っこを捕まえ、歩き出そうとするシモンズを、騎士達が慌てて引き止めようとする。

「お、お待ち下さい!それは困ります!」
「何故だ?!」
「あ、あの…コイツは取り調べの後、聖騎士団に引き渡す予定でして…」
「ならばこちらの調査が終了し、罪状が明らかになり次第連行すると伝えておくと良い。国の大事に関わる事態やも知れんのだぞ?以後、意見は書面で述べよ。以上だ、下がれ!」

有無を言わせず大柄な騎士達を圧すると、シモンズは高らかに靴を鳴らしながら廊下を去って行った。

「あの…助かりました…」
「まっったく!!なにが暴行罪だ!余計な仕事を増やしおって!お前もお前だ!何を呑気に構えている?!事実無根の罪をでっち上げられたのだぞ?!騎士としての誇りはないのか!?ヘラヘラするな!!」
「話の合間合間にどつくの止めてもらえませんか…?」

人の少ない裏手の出入り口から、所用使い用の馬車に放り込まれたデイビッドは、そのままシモンズと第一騎士団の取り調べ室へ向って行った。


その頃、学園の中は大騒ぎになっていた。
学園長の元へはここぞとばかりにデイビッドに対する排斥の嘆願が寄せられ、商業科と領地経営科ではデイビッドの授業に出ていた生徒と、一貫して出席しなかった生徒とで、派閥割れの様な状態が続いている。

授業後にその話を聞いたヴィオラは、その場にへたり込んでしまい、友人達に支えられシモンズのいない医務室へ運ばれた。
そして真っ青な顔で不安で押しつぶされそうになりながら、人目がなくなる時間まで医務室の片隅にじっと座っていて、夕方近く足元もおぼつかないまま寮へ帰ろうと歩き出した。

道中の廊下で、追い打ちのようにヴィオラの前に立ちはだかったのは元妹のリリアだった。

「アラ、お姉様!おかわいそうに、せっかく捕まえた婚約者がまさかの犯罪者になるなんて…まぁ、あの男なら仕方のないことですわ。必ず何か悪い事をするだろうと、私ずっと思っておりましたのよ?!」
「リリア様、なんて姉思いな方でしょう!」
「聖女様がこんなに心配して下さっているというのに、貴女、お礼の一つも言えませんの?!」
「許してあげて、余程ショックなのでしょう。もうお姉様を守ってくれる人なんてどこにもいないのですから…」

呆然としたヴィオラの目に、にんまり笑うリリアの顔がぐにゃぐにゃと歪んで映る。
泣くまいと堪えていた涙が今にも溢れそうになったその時、廊下の向こうから人のざわめきが聞こえ、どんどんこちらへ近づいて来た。


「ヴィオラァァッ!!会いたかったぞぉぉ!!」

まず目に入ったのは燃えるような赤いドレス。
そして艷やかな黒髪と、紅い瞳の輝く弾ける様な笑顔。
エルムの第二王女アザーレアが、踵の高い靴を物ともせずこちらへ駆けて来る。
ヴィオラは驚きのあまり涙が引っ込んだ。

「アザーレア…様…?!」
「ああっ!ヴィオラ、なんという顔色だ!辛かっただろう?私が来たからにはもう大丈夫だ!」

アザーレアはヴィオラを抱きしめ、その手を取った。

「たまたま仕事で大使館に寄ったら、とんでもない話が飛び込んで来てな?デイビィが犯罪の容疑者だと?笑わせてくれる!直ぐに釈放されるだろうが、口さがない連中というのはどこにでも湧いて出るものだ。その間、奴の代わりに私がヴィオラの傍にいようと思ってな、迎えに来た!!」
「あ…ありがとうございます、アザーレア様…」

そこへすかさずリリアが割り込んでこようとする。

「帝国の薔薇、エルムの第二王女殿下にご挨拶申し上げ…」
「なんだ?お前は。」
「ヴィオラの妹のリリアと…」
「ヴィオラには妹なぞいたか?ああ、元の家の話か。もう無縁なのだろう?なら関係無いな。」
「あの…どうかお話を…」
「私はお前と話す事など無い。勝手に話しかけて来るな。礼儀も弁えられない小娘が、邪魔する気か?無礼だぞ?!」

冷たく言い放つと、改めてヴィオラを抱き寄せ、抱える勢いでまた廊下を戻って行く。

「あ…あのどちらへ…?」
「決まっているだろう?アリスとシェルも迎えに行こう!今夜は大使館で3人だけのパーティーだ!!おっと、その前に学園の許可を貰わねばな!」

学園長室には数名の教師たちが集まり、デイビッドの処分について進言中であったが、アザーレアはお構い無しにノックと同時にドアを開けた。
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