黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
197 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

忠告

「さっき騎士科の人達が持って来てくれたんです。畑の豆をもう引っこ抜くから、残ってたの全部収穫したんでお裾分けですって!」
「なかなか良く出来てんなぁ。粒も大きくて売り物にも出来そうだ。」
「アンタも剥くの手伝いなさいよ!!」
「今日は豆尽くしになりそうだな。」

柔らかい物はそのままサッと茹でて、硬くなった物はサヤを剥いてグリーンピースに。
選別した豆がザルに山盛りになっていく。
豆を茹でる間、ヴィオラはひたすらデイビッドの鍋をのぞいていた。

「なんで私のお豆はシワッシワなのに、デイビッド様の方はふっくらツヤツヤなんですか…?鮮度がいいとか?」
「鮮度は数秒も違わないと思うぞ…?水がたっぷり被る量で茹でて、ゆで汁ごと人肌まで冷ましとくと浸透圧で時間が経ってもシワになりにくいんだよ。後は塩加減。カップ1杯の水に対して小匙半分の少し濃い目で作ること。これで失敗しないぞ?」
「なんか年寄りの知恵袋みたいになって来たわね。」
「誰が年寄りだ!」
「アンタも塩水に浸けたら、眉間のシワ取れるかしら?」
「んなことしなくても普通に取れてるわ!」

釜に生米と水、豆、刻んだニンジン、タマネギとベーコンを入れ、固形の調味料を放り込み火にかけると、いつもより香ばしい香りが立ち昇る。
炊けたら全体を混ぜ込み、型抜きに入れて皿にひっくり返し、卵で包んでオムライスの完成。
サラダも副菜も豆尽くしの昼食が出来ると、ヴィオラが卵の上にちまちま豆を並べて顔を描いていた。

「出来ました!!」
「あら、すてきね!いい笑顔の卵だわ!」
「頂きまーす!」

しかし、シェルリアーナがサッと手を伸ばしたのは大きなハート模様を描いた皿だった。
果たして誰に向けたハートだったのかは謎のまま、いきなりど真ん中にスプーンを突き立てている。

「はい、僕もやってみました!デイビッド様どうぞ!?」
「なんだこれ…?」
「豚の鼻!あーっ!一瞬でバラバラにした!!」
「遊んでないでさっさと食え!!」
「んー!卵がトロトロで中のご飯と良く合いますね!トマト味じゃないオムライスも美味しい!!」

硬く育ち切ってしまった豆は庭に撒くと、大砂鳥達がついばみにやって来てよく食べていた。
気が付くとまたヒヨコが増えている。
小屋の拡張も急がないといけない。
春はやる事がたくさんだ。


次の日は魔草学の実技試験。
手元に置かれた薬草で、時間内に3種類以上の指定魔法薬を完成させたら合格らしい。
魔法の使用は禁止のため、全体的に進みが遅く焦りの色が見えている。

その点、ベルダ研究室の面々はいつもデイビッドがノロノロやっている手順を横で見ているので、手際が良い。
何より工程に時間がかかるだけで、本人の手は絶え間なく動いているのだから決して遅いわけではない。

(確かこうやって…)
(ここはこうして…)
(入れる順番は…)
(下処理は…)

急いでしまい失敗する者や、手順を間違えてしまう者が続出する中、この時だけは一番に薬が出来上がったのはデイビッドだった。

「この場で合格あげようか?」
「採点しろよ!資格試験だろ?!」

ベルダは魔力遮断性のグローブを着けると、デイビッドの作った薬を特殊なケースに入れた。

「それもなんかすんのか?」
「当たり前さ!君の手で作られた薬品に無価値なものは無いよ?まだ検証段階だけど、もしかしたら本当にすごい物が出来てるかも知れないよ?」
「まさか!使いもんになる程度出来てりゃ恩の字だ。」

早々に試験を終わらせ、まだ授業時間の廊下を一足先に歩いていると、誰かに呼び止められた。

「やぁ!そこの黒豚ちゃん!」
「あ?」

思わず振り返ったが後ろには誰もいない。

「こっちだよ、黒豚ちゃん!」

あるのは廊下の壁に掛けられた大きな古い鏡が1枚。
見ると中に映ったデイビッドの姿が、にたにた笑いながら話しかけて来た。

「うわ…気持ちワリ!」
「そう言うなよ。こっちは人の姿を借りないと、話ができないんだからさ!」
「想像以上に気持ちワリぃ…」
「まぁ聞けって、俺は忠告しに来てやったんだぜ?いいか、欲望にまみれた魂がお前を狙ってるぞ?」
「なんだそりゃ?」
「まだ悪夢は終わっていない。用心しろよ?!」

そう言うと鏡の中のデイビッドはニイッと口の端を引き上げて笑うと、水面の様に揺らめいて元の鏡に戻った。
(びっくりするくらい笑うと人相悪かったな…)

謎の忠告を受けた事は気にせず、魔法棟のアーチを抜けるとそのまま教員室へ向かい、今日はこのまま面倒な書類作業に勤しむ。
仮とはいえ教員である以上、授業の報告は必須なので、度々書類仕事はしなければならない。
かと思えば、資格取得に関する授業の感想やら自己評価など生徒としての提出物まで書かされ、そろそろこの二重生活にも嫌気が差してきた。


そして金曜日。
今日は商業科の最終授業。
講義室へ入ると、教壇の上に見覚えのある分厚いファイルが置かれていた。

「なんだこりゃ?」
「進学後の議題要項です!」
「気が早えぇ!!もう作ってあんのか?」
「そりゃそうですよ!時間は有限なのですから!これだけ社会情勢が動いた後となれば、聞きたい事は山程あるんですよ!?」
「焦点が割と国内流通に向いてるな…苦手分野もあるから全部とはいかねぇぞ?」
「先生の苦手分野って?」
「書籍、美容、ゴシップに娯楽関係…後は酒やら煙草やら食品以外の嗜好品は完全に適任者任せにしてるから俺は関わらない。ギャンブルと風俗業は論外だしな。」
「どうしてですか?!」
「年齢制限だっつーの!!」
「あ!!」
「あ!じゃねぇよ!!」

ラムダの成人年齢は男女共に18。
しかし、学生と同じ年代の内は保護対象と見なされ、大人の遊びは禁止されている。
なので卒業直後に羽目を外して大目玉を食らう若者が後を絶たないという。
商業に関しても同じで、完全に学生の年代を超える20歳になるまでは加担できない仕組みになっている。
デイビッドは今年で19。
まだ側の事業には一切関わっていない。

目処が立った所で解散の号令をかけると、何故か拍手が送られた。
そう言えば、初めて授業をした時も、商業科で拍手を貰った記憶がある。

「基礎は叩き込んだ。進学後はもっと飛ばしていくから覚悟しとけ!?」
「「「はぁーい!!!」」」

元気の良い返事を聞いて講義室を後にすると、何か少し晴れ晴れした気持ちになり、心が軽かった。
茨の道ばかりの生き方をして来たデイビッドに、ようやく温かい目が向けられ始めているのだ。


外に出ると空が曇り、雨が降り始めていた。
この時期の雨は銀の恵みとも呼ばれ、種や苗を植えた畑にも、埃の舞う大地にも、乾いた空気にもありがたい。
薄い雨雲の向こうから透けて見える太陽の光にきらめく雨が、カーテンの様に降り注ぐ。

研究室へ戻ろうとすると、目の端に何かがクルクル動いているのが見えた。
改めて顔を向けると、緑色をした細い傘を手に、ヴィオラが渡り廊下の石畳の上で、ひとり踊っていた。
人目がないのを良いことに、胸元にはデイビッドが贈った魔石のペンダントが揺れている。
まるで満月を待ち切れない妖精がはしゃいでいるようだ。

いよいよ満月も近づき、あと数日で妖精祭りが始まる。
春の妖精は歌と踊りが大好きで、人里へ降りては祭りの輪に入ってこっそり楽しんでいるらしい。
そして去り際にお礼として、祝福や幸運をもたらしてくれるそうだ。
そんな妖精をもてなす為、人々はより明るく楽しい音楽をかき鳴らして祭りを盛り上げる。

「何見惚れてんのよ!?」
「自分の婚約者に見惚れて何が悪いんだよ!」
「悪いわよ!ヴィオラが減るわ!」
「何言ってんだお前ぇ…?」

後ろから頭をはたかれて、振り向くとシェルリアーナが腕を組んで睨んでいる。

「アンタの部屋、今服だらけでエリックがなんかボヤいてたわよ?早く行ってやりなさいよ。」
「服?…まさか…」

デイビッドの元に来る衣類の心当たりと言えばただひとつ。
またフィズ夫人から余計なお節介が届いたようだ、
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。