黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

貴女のためのパーティー

その頃、綺羅びやかなホールに誘われたヴィオラは、アリスティアとシェルリアーナのダンスを眺めていた。

「ふわぁ…カッコいい…」
「なるほど、新しい世代のドレスか!良いな!!」

騎士の様なスタイルのシェルリアーナと、フリルたっぷりのショートドレスの2人が踊ると、周囲は皆うっとり2人に見入っていた。

「フッフッフ…これぞ私とミセス・アプリコットの集大成!とくとご覧あれ!!」

得意げなアニスが、自身も裾の短いドレスに身を包み、高らかに笑う。

「軽くて動きやすい上に、脱ぎ着も楽で何よりコルセットが無いのに体のラインがスッキリして見えるの!」
「画期的なデザインよ?!」
「ありがとう!シェルリアーナ先輩が協力してくれたおかげで今街中で人気なのよ!本当になんとお礼を言ったら良いのか…」
「あら、私は私を最も輝かせてくれたこのドレスを手掛けた貴女にこそ称賛を浴びせたいわ!本当にありがとう!」
「キャー!シェルリアーナ先輩が笑ってるぅ!!」
「先輩素敵ー!!」

テーブルに並ぶ甘味、特注のドレス、お洒落の道具に素敵な物語、そしてお喋り。
やたら盛りがっているこの空間。
今宵はヴィオラの友人と、アリスティアが信用する人間だけが参加を許されている。
アリスティアはヴィオラに内緒で人を集め、こっそり驚かそうと秘密のパーティーを企んでいた。
1年前のあの夜。
最悪のシナリオに巻き込んでしまったせめてもの償いに、忌々しい過去を楽しい記憶で塗り替えられないかとアザーレアにも協力を仰ぎ、女の子の好きな物だけを詰め込んでこのパーティーを開催した。

「すごいと言えば、ローラもよ!?連載決まったんでしょ?!」
「え!本当に!?」
「ローラおめでとう!!」
「へへへ、まぁね!連載って言っても雑誌のミニコーナーのちょい読み小説だけどね。」
「それだってすごいよ!たくさん連載したら本にだってなるんでしょ?!」
「人気が出ればの話よ?でも、コレをきっかけに頑張るんだ私!」
「それなら今からサインもらっとこうかしら?」
「気が早いわよ!」

喜ぶ少女達の横でやや荒れている面々もいる。

「うわぁ~ん!!」
「こっちはどうしたの?」
「チェルシーが好きな先輩に告白して振られたの。」
「振られた?!誰に?」
「カイン先輩。」
「ああ、あの騎士科の。」
「自分は平民だからって…騎士になれば誰か1人を守る事はでぎないっでぇぇ!カイン様のバカぁぁ!!」
「あー、勘違いケースね!」
「男ってなんで自分が守らなきゃって思うのかしら?」
「守られる程こっちは弱くないわよ!」
「守って欲しいのは2人切りだけの時なのよねぇ…」
「むしろ家を守るのはこっちの仕事よ!」
「騎士なら余計よね!家ん中ぐっちゃぐちゃになって絶望すればいいわ!」
「いっそのこと押しかけちゃえば?」
「寮が女性立ち入り禁止なんだって。」
「押しかける気ではいたんだ…」

女の本音がそこかしこでこぼれ落ちている。

それぞれが友達とおしゃべりを楽しんでいると、アザーレアはヴィオラの手を取り、ホールの真ん中に踊り出した。

「ほう!良いステップだな。ヴィオラはダンスも上手いのか!」
「エリック先生が熱心に教えて下さいました!」
「婚約者は教えてくれなかったのか?」
「…デイビッド様は…踊るのはあまりお好きではないので…」
「アレにも困ったものだ。これがエルムなら落第ものだぞ?!」
「アザーレア様とは踊られたのですよね…?」
「踊ったと言うより踊らせたと言うのが正しいな。体力はあるんがリズムセンスが微妙なんでしごきまくってやった!」

軽快なステップでクルクル回るヴィオラに、皆が注目する。

「どうだ?ヴィオラ。楽しいか?」
「はい!とても楽しいです!」
「ヴィオラは可愛いな!益々綺麗に、魅力的になっていく。」
「ありがとうございます。」
「余程愛されているのだろうな!」
「でも最近は逃げられてばかりで、なかなか捕まえられなくなってしまいました。」
「婚約者を蔑ろにするなど男の風上にも置けんな!私が成敗してくれようか?」
「うふふ!いいえ、今度は私がアザーレアみたいに強くなって追い詰めて見せます!」
「それはいい。もっと強く、美しくなれヴィオラ!」

アザーレアの手が離れると、ヴィオラはふとホールの端の階段下の空間が目に付いた。

(確かここ…)

1年前のあの夜、突き飛ばされて倒れた床はピカピカに磨かれていた。
そこに立って辺りを見回すと、階段の上から下から奥の入り口までずっと見渡すことができる。

(この全てに立ち向かってくれたのね…)

あの夜の出来事がヴィオラの中で悪夢にならないのは、迫り来る悪意に立ちはだかってくれた背中があったから。
ヴィオラが思い出に耽っていると、今度はアリスティアが話しかけて来た。

「ヴィオラ様、今夜はお越し下さりありがとうございます。」
「こちらこそ!素敵なパーティーへのご招待、本当にありがとうございますアリス様!」
「…ここ、なのですね…」
「はい、ここです。私の人生で最高の出会いがあった場所ですよ!?」
「そう仰って下さるのですね…ヴィオラ様…」
「本当の事ですもの。」
「…ヴィオラ様まで寛大になろうとされる必要はないのですよ?」
「でも、私が怒っているのは妹達にですから、アリス様が心配なさることはありませんよ?それに、嫌なことを思い出す時間なんて無いくらい、毎日が幸せで忙しいんです!」

にっこり微笑むヴィオラに、アリスティアは胸の内で王族として最大の敬意を払った。


そこへホールのドアを叩く大きな音がした。

「アリスティア!話がある!アリスティア!?」

外からアーネスト王太子の声がして、困り顔のメイド達が深く頭を下げながらドアを小さく開けた。

「男子禁制の花園に、部外者がなんのご用でしょう?」
「友人を招くとは聞いていたが、こんなパーティー聞いていないぞ!?」
「情けないお兄様の代わりに友人の不幸を上塗りしておりますの。邪魔なので早く帰って下さいますか?」
「そう言うな!デイビッドが来ていると聞いたのだが…まさか中に…?」
「男子禁制の意味わかってます?」
「だよな…ならどこに居るんだアイツは…」
「ベルダ先生がいらしておりましたから、そちらかと?では失礼!」

アーネストの鼻先でドアがバタンと力強く閉まる。
(最近また一段と辛辣になったな…)
仕方なくベルダの居る部屋を探していると、魔道士達が忙しなく出入りしている部屋を見つけた。

「決して瓶に触れないで!!厳重に保管なさい!?扱いには細心の注意を払うのよ?!」
「アーッハッハッハッ!」

王宮筆頭魔導師アンジェリーナの声と共に、誰かの笑い声が漏れてくる。

何事かとドアをノックすると、現れたのはエリックだった。

「これは王太子殿下、今宵もご機嫌麗しゅうございます。」
「え?あ!エリック!と言うことはデイビッドも中に居るのか?」
「はい、一応。お入りになりますか?収拾付かなくなってますけど?!」
「中で何をしているんだ…?」

恐る恐る部屋に入ると、不機嫌な顔のデイビッドとアンジェリーナ、そしてテーブルを叩いて笑うベルダ・オレアンダーの姿があった。

「あー!もー!こんな国の深層部で!まさかの調薬成功させちゃうとか!下手したらこのまま監禁されちゃうよ?!本気で!」
「やれって言われた事しただけだろうがよ!!」
「だからって本当に全力尽くすかなぁ!君さっき自分の立場の危うさ聞いてたよね?!こういう時はそこそこ手を抜くか、ワザと失敗して評価を下げておくんだよ!でないと王家の影とかに捕まって、幽閉されて政治を動かす道具とかにされちゃうかも知れないよ?!」
「勝手に人の信頼を貶めるような発言は控えて頂きたいっ!!」

アーネストは部屋に入るや否や、テーブルに飛び付いて不穏な会話に割って入った。
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