黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

いざローベル領へ

「へぇ~、先生ですって!良かったですねぇ。彼、なかなか良い顔するようになったじゃないですか!?」
「セルジオの仕事手伝って大使館に出入りしてたらしい。国を背負う後輩と大人に揉まれて現実が見えたんだろ?」

いつから見ていたのか、エリックがニヤニヤしながら部屋に入ってくる。

「鉄道計画は陛下の悲願でしたけど、これはアーネスト殿下の代で達成が見込めそうですね!まだまだ障害は多いけど、頑張ってほしいなぁ。」
「どうだかな。こういったもんは周りを動かせなきゃ内々止まりだ。国に出す程の計画にするにはまだ早い。」
「ところで、デイビッド様は何してるんですか?」
「例のもらった領地の詳細。貴族院にわかるとこまで寄越せっつったら、20年も前の寄越しやがったんで情報をすり合わせてるとこだ。」
「そんな前から放ったらかしの土地押しつけてきたんですか…?余程なら王家に返上して金銭を受け取るのが普通ですけど、まさかの王家直々にくれたものですからねぇ…」
「あの狸爺国王の事だ、どうせお手並み拝見なんて軽い気持ちで上から物見する気でいるんだろ?ならこっちは限界まで水面下で動いてやる。」
「なんというか…不毛な化かし合いだなぁ…」

少なくとも、見た目がタヌキなのはこっちかな?と思うエリックだった。


生徒がほとんど居ない学園の中はとても静か。
学園へ入学したヴィオラにとって初めての春休み。
浮かれに浮かれてデイビッドの隣にぺったりくっついている。
しかし、特別クラスへの進学者には課題も多く、休み中も予習復習に追われる毎日だ。

そんなある日、ヴィオラの元へ緊急の魔術便が届いた。
赤い封書は危急の知らせ。
急いでデイビッドの元へ走り、震える手で封書を差し出した。

「何かあったのか?!」
「お父様が…魔物に襲われたそうです…」

封書には、領地で他の魔素地へ移動中の魔物が居座ってしまい、様子を見に行った子爵が襲われてしまったらしい。
封書の文字はローベル子爵ではなく、恐らく執事のものではないかとヴィオラは言う。
ヴィオラに助けを求めたというより、その後ろに居るデイビッドを頼りたいという願いが透けて見える。
その事にローベル子爵は反対したはずだ。
しかし、領地に本来居ないはずの魔物が現れた以上どうにかしないといけない。
執事も切実な問題に、お叱り覚悟でこの様な封書を出したのだろう。

「ローベル領にはギルドは無いって話だったな。」
「はい、最寄りの領地までかなり距離もあるんです。そこから依頼していたら、その間にどんどん被害が出てしまうかもしれなくて…」
「わかった!すぐに支度する。行こう、ローベル領へ!」
「ありがとうございます!!」

そこからの行動は早かった。
狩猟道具と魔獣討伐用の装備、常備薬に滅多に使わない火薬と魔獣避け。
それから遠征にも持って行った鞄といつもの革のベスト。
普段より多めの荷物を外に出すと、デイビッドはムスタを連れて一度学園の外へ出て行った。


「領地に魔物ですって?!わかりました、学園のことは気にせずお父様に寄り添って差し上げなさい!落ち着いて、大丈夫よ。さっき貴方の婚約者も期間不確定の外出届けを出して行きましたもの。しっかり護ってもらうといいわ。気をつけて行っていらっしゃい。」
「ああああの!はい!ありがとうございます!!」

教頭のミセス・ミネルバは、ローベル領の知らせを聞くと直ぐに外出届けを出してくれた。

「何かあればいつでも休学の許可を出します。それと、コレを持ってお行きなさい。」
「これは…?」
「信書の魔導具よ。ラムダ国内であればどこからでも学園に飛ばす事ができます。何かあれば直ぐに知らせなさい。いいですね?無理はしない事ですよ?!」
「はいっ!行って参りますミネルバ先生!」

ヴィオラも自室へ戻ると早速支度を整えた。
制服を脱ぎ、ハーフパンツとブーツに着替え、ヘアバンドといつか使おうと思っていたベルトポーチに、日頃のノートとナイフと魔石をしまうと、こっそりグロッグマン商会で手に入れた革のベストを着込んだ。
もちろんただの革のベスト。
しかし、デイビッドのベストを意識して、こっそりお揃いにしてもらった。
縁取りが少しお洒落で、裾にカットの模様が入っている。
鞄に日用品など色々詰め込んで、鏡の前に立つと駆け出しの冒険者の様だ。

緊急事態ということも忘れ、ウキウキしながらデイビッドの元へ戻ると、外に大きな荷物が置かれていた。

「なんですか?!これ。」
「おや!ヴィオラ様、なかなか様になってますね?活動的で素敵ですよ?」
「エリック様!…え…マント、カッコいい…」
「いいでしょう?こう見えてデュロック領ではギルド登録してたんですよ?もう期限は切れちゃいましたけど。」
「そうなんですか?!」
「デイビッド様も確かしてたはずですよ?プレートが何色だったかな…?」
「思い出さなくていい!待たせたなヴィオラ、外の籠に乗ってみてくれないか?」
「かご?」

外に出ると小部屋程はある大きな籠がどんと庭に置かれていた。

「これに乗るんですか?!」
「ああ。ヒポグリフ用のゴンドラだ。重量軽減の魔術式が付いてるからこれならファルコの負担にもならない。いつか使うかと思って商会に預けといたヤツだよ。これなら2~3時間でローベル領まで行ける。」
「と…と…飛んで行くんですね!?空を!デイビッド様と2人で…」
「あ、僕もいます。」

籠の中には、箱がいくつかとその上に荷物が積まれ、人の座る場所があった。

「操縦はぶっつけ本番でいくから、揺れたらごめんな?」
「大丈夫です!外の景色を眺めてるだけできっと楽しいですから!」

ゴンドラの外側に取り付けられた操縦台には、風圧や推進力で籠が斜めにならないよう水平を保つためのペダルと、ヒポグリフの進行方向を操作する指示用のハンドルが付いていて、これらを操りながら空を進むらしい。

「体で覚えるしかねぇな。頼んだぞ、ファルコ!?」
「キュルルピィー!!」

久しぶりのご指名に、ファルコは早くもご機嫌だ。
ゴンドラをファルコに装着すると、デイビッドも操縦台に座り、ベルトを固定して水準計と羅針盤を確認した。

「よーし、いいぞファルコ!飛べ!!」
「キュールルルル!」

ファルコが羽ばたき、ゆっくり飛び上がると、籠が地上を離れて行く。

「わぁーーー!!飛んでます!デイビッド様ぁ!飛んでますよ!」
「割と揺れないものですね。乗り心地も悪くないですよ?!」
「浮遊の魔術式が組んであるのよ。浮かせる程の力はないけれど底から籠を押し上げてバランスを取ってるの。過剰な揺れや振動を抑えてくれるのよ。」
「しれっと乗ってた!!!」

いつの間に乗っていたのだろうか、旅支度を整えたシェルリアーナが籠の縁から身を乗り出し、外の景色を眺めていた。

「私を置いて行こうなんて100年早いわ!」
「せめて一声かけろよ!」
「なによ、討伐に行くんでしょ?なら魔術師は必須よ!?」
「いや、エリックいるし!遊びに行くんじゃねぇんだぞ?!」
「わかってるわよ!魔物だろうが魔獣だろうが、私の魔法で焼き尽くしてやるわ!」
「頼もしいなぁオイ!!」

騒いでいる内に高度はどんどん上がり、雲の上に出た。

「うわぁぁ……デイビッド様!!すごいです!空がすごくキレイ!!雲があんな下に…見て下さい、私達の影が映ってます!」
「確かに、これは絶景ですね…ほら、遠くに虹が見えますよ?!」
「デイビッド様はファルコに乗って、いつもこんな景色を眺めていたんですね…いいなぁ…」
「魔法が使えりゃ空だって飛べそうなもんだけどな…」
「残念。浮遊魔法や飛行魔法はあれど、ここまで高く飛ぶには物凄い魔力がいるんですよ。せいぜい雲の下程度が限界ですからね。」

やがて平野を越え、山岳地帯と深い谷に差し掛かると、徐々に高度を落とし、崖沿いを悠々通り抜けていく。
長く続く谷間を過ぎ、広い湖を越えると遥か下に街道を行き来する人の影が見え始めた。

「寒くないか?」
「大丈夫です。風がとても気持ちがいいですよ?」
「ヴィオラ…さっきから何見てるんだ…?」
「デイビッド様の背中ですけど?」
「景色の方見てなさい!!」
「今なら逃げられないからじっくり見ていられます。」
「落ち着かないから!外見てろ外!!」

そして一行を乗せたゴンドラは、遂にラムダ王国の東南側の巨大な渓谷までやって来た。
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