黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

カタリナ夫人

「いい感じに粉になったわね。仕上げをするからエリック、こっちで手伝って下さる?」
「もちろんですよ。では、デイビッド様はこちらでヴィオラ様をお待ち下さい。」

空気を読んだ2人がパーゴラへ向かってしまうと、ヴィオラの祖母は真面目な顔でデイビッドに深く頭を下げた。

「改めまして、ヴィオラの祖母、カタリナと申します。この度は我が子共がご迷惑をお掛けしたばかりか、孫までお救い下さり、本当にありがとうございました。」
「デイビッド・デュロックです…ヴィオラ令嬢と婚約させて頂いてから1年、ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ありません。」
「忙しい若い方がこんな年寄りに時間を使うなんて勿体ないことですよ。何より、私は娘の教育にも息子の躾けにも失敗した駄目な老いぼれです。責められる事はあっても、敬われるような身ではありません。」
「…ヴィオラは、よく貴女の話をしてくれるんです。母親に疎まれていた過去を補って有り余る程の愛情と優しさで満たしてくれた方だと。今のヴィオラが強く明るくなれたのも貴女のおかげと聞きました。」
「そんな…私は、大切な孫1人守れなかった情けない年寄りですよ…」
「少なくともヴィオラにとって、貴女はなくてはならない存在だったに違いありません。ヴィオラは愛情深く、しっかりとした芯があり、あれだけの過去も経験も乗り越えて行ける強さをきちんと持っています。あんなに良い子は他にいません。こんな俺には勿体ないくらい…」

ハンカチで目元を押さえたカタリナ夫人は、首を横に振った。

「貴方の事も手紙でたくさん知りました。ヴィオラの事をなにより大切にしてくれている事も、あの子が心から慕っている事も…どんな方かずっと気になっておりましたのよ?お会いできて本当に良かった…これからも、末永くあの子のことをよろしくお願いします。」
「はい、然と…」

そこへヴィオラが古ぼけた箱を持って戻って来た。
箱は古くはあるが、一面に美しい組み木の模様が施されている。

「ありましたお祖母様!一番上の棚のこれですよね?!開ける所も鍵穴も無いなんて不思議!」
「そうそうこれよ。ではヴィオラ、箱の裏の模様を回して、側面のひし形の模様を2カ所同時に押してごらんなさい。」
「あ!動いた!」
「そのまま箱の蓋を上に滑らせるようにずらすの。そうしたら蓋を90度ひねって…ほら開いたでしょう?」
「うわぁ!すごい!魔法みたい!」
「ずっと昔に贈られた物よ。中を見てごらんなさい。」

ヴィオラがそっと蓋を開けると、中には真珠を散りばめたブローチが入っていた。

「キレイ…」
「私がお嫁に来た時に主人がくれたのよ。こんな物しか無いけれど、貴女に受け取って欲しいの。」
「お祖母様!こんな大切な物受け取れません!」
「大切だからこそ、貴女に付けてもらいたいのよ。真珠は花嫁のお守りと言うでしょう?」
「お祖母様、私まだ婚約中ですよ?!」
「年寄りは気が早いの。それに次いつ会えるかも分からないもの。」
「そんな事言わないで!!また来ます、絶対に!」


そこへノックの音がして、子爵がデイビッドを呼んでいるとドルトンが知らせに来た。
デイビッドが再び子爵の元へ行くと、珍しく領主の顔をした子爵がベッドから起き上がり、手紙と報告書を読んでいた。

「お呼びですか?」
「ああ、すまない!私が動ければ呼びつけなどしないのだがね。さっき、旧道に捨て置かれた馬車について報告が来てな…旧道を逸れた先に、そう古くない馬の足跡と恐らく冒険者の物と思われる荷物の残骸が見つかったそうだ。」
「それは今どちらに?」
「領主館の方に保管してある。ショーン伯爵にご報告せねばな…」
「なら書けたら直ぐに持って行きますよ?ヒポグリフなら20分足らずで着きますから。」
「馬で半日の距離を…娘の婚約者が有能過ぎる…」


ヴィオラがカタリナ夫人と思い出話に花を咲かせている間に、デイビッドはエリックとシェルリアーナに声を掛けた。

「なぁ、俺はこの後エルピスに立ち寄ったら、その足で一度帰るつもりでいるんだが、お前達もそれでいいか?」
「そうね、ヴィオラもせっかく久々の実家なら、しばらく置いといてあげましょ?」
「迎えに来る時はちゃんとしたお土産持ってきましょうね。」

風が吹き、庭先のリンゴの木から真っ白な花弁が吹雪のように舞っていく。
この中を幼いヴィオラも駆け回ったのだろうか。
そんな事を考えているとひょっこりヴィオラが隣にやって来て、太い木の枝を指差した。

「あの枝の上が特等席だったんです。」
「へぇ、けっこう高いな。」
「2回落ちて、2回目で腕の骨折りました。」
「思ってた以上のやんちゃ!?」

2人でリンゴの木を見上げていると、ヴィオラがデイビッドの腕を引き寄せた。

「…デイビッド様、帰っちゃうんですか…?」
「あ、ああ…子爵の用事もあるし、領主代理で少し動くからな。ヴィオラはゆっくりしてくるといい。2年半振りなんだろ?久々に思い切り家族に甘えて来るといいさ。」
「ありがとうございます…デイビッド様…」

(アイツ、上手いこと口実見つけて逃げる気ね。)
(婚約者の実家に泊まるなんて、土台無理な話ですよ。)
(ドヘタレが…)

完成した薬をミセス・カタリナに渡すと、シェルリアーナとエリックも帰り支度を始めた。

「それじゃヴィオラ、明後日の午後に迎えに来るわね!」
「はい!お薬ありがとうございましたシェル先輩!」
「子爵によろしくお伝え下さい。」

子爵から預かった報告書と証拠品を持って、デイビッドもゴンドラの操縦席に乗り込む。

「じゃあなヴィオラ!楽しんで来いよ?!」
「デイビッド様も気を付けて!行ってらっしゃーい!!」

ファルコが飛び立つと、邸中の者達がそれを見上げていた。
テラスから足を引きずる子爵も手を振り、深々頭を下げるドルトンと、ミセス・カタリナの姿も見える。
デイビッドは軽く手を振ると、ファルコを気流に乗せ再びエルピスの街を目指した。

「所で、シェルはなんでついてきたんだ?用なんか無かったろ?」
「あら、だってここはショーン領の最寄りじゃない。エルピスに行きたかったのよ私。なんなら先に降ろしてもらっててもよかったくらい。」
「知らない街に1人は止めた方が良いですよ?ましてやエルピス。曲者だらけでとても初心者向けではありませんでしたから。それに、ガイドがいた方が絶対に楽しいですよ?!」
「お前…完全に自分の立場忘れてんだろ…?」


魔素地から吹き抜ける強い風を避けながら、山の更に高い所から下を見るとエルピスの街が見えて来る。

「わぁーーー!すごーい!!あんな要塞みたいな壁の中に街があるの?!王都の結界壁より厳重ね。」
「魔物の襲撃に備えた造りになっていて、万が一の際には各所から防壁が張れるようになってるそうですよ。」

今回は貴族同士のやり取りの橋渡しのため、門は潜らず低い位置をローベル領の旗を門番や兵士達に見えるよう掲げ、上空から中へ入って行く。
敬礼する兵達の頭の上を通り過ぎ、目指すは伯爵のいる領主邸。
堅牢な建物の庭先に降り、すぐに寄ってきた守衛に書状と領主の委任状を見せると、サッと中へ通された。

てっきり書状を従者にでも渡したら終わりかと思いきや、奥の部屋に案内され待つように言われてしまった。
(怪しまれたのかしら…?)
(まぁ、この見てくれですからねぇ…)
(聞こえてるからな?!静かにしてろよ!!)

やがてドアが開き、筋骨隆々の古参の冒険者の様な出で立ちの初老の大男が現れた。

「待たせてすまんな!私がショーンだ。お前さんか?ヒポグリフに乗って来たローベル子爵の使いってのは?!ハハハ!なるほど、なかなか良い目をしている。詳細はネストからも聞いている。この度は子爵領を私の管轄内の不祥事に巻き込んでしまい申し訳なかった…私がこの通り謝罪していたと子爵にお伝え願えまいか?」
「もちろんです。早急の対処にも感謝致します。」

残されていた鞄からはギルドでパーティーを組んでいた身分証が見つかり、犯人探しに大いに役立ったそうだ。
これから依頼の出処を割り出し、対象者の探索と処罰について話し合うらしい。
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