黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

エルピスの街

「しかし、いいパーティーだな。前衛、後衛、サポートと役割がしっかりした上に実力もかなりありそうだ。」
「「「あ、違います!!!」」」
「なんだ、そうなのか?それは勿体ない!素質は充分あるようだがなぁ。気が向いたらいつでも歓迎するぞ!?ハハハハハ!!」


伯爵に礼を言って邸を出ると、一度ファルコをゴンドラごと城壁の外へ送り出し、3人はいよいよ街へ繰り出した。

「ところで、シェル様はここへは何の用だったんですか?」
「ちょっと特殊な魔物素材を探してるの。ペルラコーンの角なんだけど、市場にはあまり出回らないのよ。」
「ああ、あの磨くと宝石みたいに光る奴な。」
「そう!あれの黒いヤツが欲しいのよ!この街にならあるかも知れないと思って探しに来たかったの!」
「それなら昨日見かけませんでした?ほら、素材屋のショーウィンドウに飾られてたの、あれ違うかなぁ?」
「そういやなんかの角が置いてあったな。大通りの方の店だったとおも…」
「それを早く言って!急ぐわよ!!あれは滅多に出ない貴重な素材なんだから!!」

シェルリアーナに急かされて、昨日デイビッドとエリックが2人でうろついた通りを辿って行くと、路地前の素材屋の表に艷やかな黒い魔物の角が飾られていた。

「本当にあったぁぁぁったっっか!!!」
「そりゃそうですよ。宝石と同等の扱いですもん。」
「こういうのは下手に削ると売値が下がるから1本買いが基本だしな。」
「加工品じゃ駄目なんですか?」
「それだと宝飾品になっちゃうのよ…私が欲しいのは薬の原料としてだからこんなに要らないし、なんなら一欠片でも良いのに…」

この手の素材は薬用にする場合、宝石商で加工中に出た粉を買うのが普通だが、それでもこの色はほとんど手に入らないため、どこも扱っていなかったそうだ。

「ううう…せっかく見つけたのに…え?何?お店入るの?」
「中で売ってないか聞いてみる。」
「おもしろそ~!僕も入ってみよ。」

店に入るデイビッドの後を追い、エリックとシェルリアーナも入り口のドアを開ける。
店の中には壁一面に魔物の素材が飾られ、天井からも羽根や植物がいくつも吊り下げられていて、シェルリアーナもワクワクしながら辺りを見回していた。

「凄い…素敵なお店…」
「あ、グリフォンの羽にラミアの鱗もある。夜蜉蝣の目玉にブローチビートル、ケルピーのたてがみ、大蠍の外殻、ドライアドの蔓…隠れた名店って所ですかね。」

しばらくしてデイビッドが店主と話をして戻って来た。

「ありました?」
「やっぱ粉は無かった。買った側の収入原にもなるからこういう店じゃ扱わない物らしい」
「そう…そうよね…仕方ないわ…」
「仕方ねぇから丸ごと買ってきた。」
「「買ってきた!?!」」

にこにこ顔の小柄な店主が、花咲鹿の毛皮と岩トカゲの革で黒々輝く角を包むと、トレントの樹皮の紐でしっかりと縛り、デイビッドに差し出した。

「仕入れたはいいケド、なかなか売れなくて困ってたトコよ。オマケいっぱい付けちゃう!そこの棚からも好きなのドウゾよ?」
「だってよ。どれにする?」
「え?あ!あ!あの…じゃぁ…コレ……」
「針ヨモギね。お姉さん魔法薬作る人?なら、ロロの実とウチャチャの種も入れとくよ!マタのご利用お待ちしてるね!」

デイビッドは受け取った角を大きな鞄の底にしまうと、何でもないように外へ出た。

「っなにしてんのアンタ!?」
「え…なにって、買い物…?」
「馬鹿じゃないの?!金貨3枚よ?!3枚!!わかってんの?!」
「商会の方でも珍しいモンがあったら仕入れてくれって言われてんだよ。」
「にしても限度ってもんがあるでしょ?!」
「もう諦めましょ?こういう人なんですよ。金銭感覚が庶民レベルから一気に王族並みまでいきなり飛ぶんですよ。こんなんで驚いてたら身が持ちませんよ?」
「ちゃんと分けるって。店に持ってく前に好きなだけ削らしてやるからよ。」
「削れって言うの?!無傷の一本角を!?私に?!」
「削らなきゃ使えねぇだろ??」
「不思議そうな顔すんな!!」

その後はまた小腹の空いシェルリアーナとエリックの足が、食べ物街へとふらふらと向いて行った。

「ケンタウロの実のゼリーですって!」
「まん丸ゼリー!かわいいですね!」
「見て!黒目イチゴの飴がけ!」
「目玉みたいで気持ち悪ーい!でも美味しんですよねこのイチゴ!」
「何このピンクのプニプニ!」
「干したスライムの粉と、トレントの根から取れる凝固成分で作る餅みてぇなもんだよ。ちゃんと噛めよ!喉詰まらすぞ?!」
「見て下さいよ~!ネペンテスのジュースですって!」
「人喰い植物でしょ?それってどうなの?」
「別に人を食ってるわけじゃねぇからな。蜜壺が人が入れるくらいデカいってだけで、人は消化しねぇよ。」
「指虫のフライなんてのもありますよ!」
「カリオペ草のマシュマロ!」
「根無しサボテンのシロップ漬け!」
「コレ見て!とぐろ巻いたでっかいワームのおせんべい!」
「おんなじ様なはしゃぎ方するんだなお前等…」


3人がのんびり買い食いを楽しんでいると、後ろからいきなり怒声が聞こえてきた。
荒っぽい連中も多いので、巻き込まれないよう離れようとすると、声がこちらを追って来る。
振り向くと、昨日ネストのギルドで絡んできた女冒険者だった。

「テンメェッ!!昨日はよくもアタイに恥かかせてくれたなっ?!」

昨日と同じ、体の何を守っているのか謎な防具と、ジャラジャラしたアクセサリーがうっとおしい。

「あ、昨日の奴か…」
「あれから律儀に待ってたんですかね。暇なのかな…」
「誰なの?」
「昨日デイビッド様に絡んできた冒険者です。手合わせしろって誘われたのを無視して帰って来ちゃったんですよ。」

どうやらデイビッドが来るのをギルドの修練場でひたすら待っていたらしい。
その事を周りの連中にからかわれでもしたのだろう。
顔を真っ赤にしてデイビッドに迫って来た。

「なんで来なかったんだよ!奥で待ってるって言ったろ?!」
「返事も聞かずにどっか行ったのはそっちだろ?端から断る気でいたよこっちは。」

デイビッドがなんと言おうと、頭に血が登ったサロメには届かない。
拳を握りしめ今にも殴りかかって来そうな勢いだ。

「この人、デイビッド様に勝負しろって持ちかけてきたんです。」
「そういうタイプじゃないって見てわかんないのかしらね。」
「しかも、勝ったら自分のこと好きにしていいとか言い出して…」
「サイテーね。あんな格好してれば男なら誰でも食い付くとでも思ってんのかしら?ただの痴女じゃない、気持ち悪い!」
「あれは俺達は悪くねぇだろ?勝手に一人決めしてどっか行ったんだからよ。受け付けにも変なのに絡まれて奥に呼ばれたからどうしようか聞いたら、放っといていいって言われたしな。」
「なんでアンタはどこ行っても変なの引き寄せちゃうのよ。」
「知るかよ!」

ここではこういう風景も茶飯事なのだろう、周りも邪魔に思うくらいの反応しかしていない。

「こうなったら意地でもテメェをボコボコにしてやる!!」
「だそうですよ?」
「面倒くせぇ…」
「オラァッ!歯食いしばれぇっ!!」

サロメがデイビッドに殴りかかると、逆に腕を捕まれガクンと体勢を崩されて呆気なく道に転がった。

「なっ!なんだ?!今何が起きた!」
「おい、いい加減にしとけよ?ギルド登録者は私闘とこれに準ずる争いを禁ず。規約に書いてあったろ?」
「フンッ!そんなもん、いちいち守ってるイイ子ちゃんなんざいるかよっ!!」

サロメは起き上がり様にデイビッドに下段蹴りを食らわせようとしたが、それも足で止められてしまう。
遂にサロメは奥の手を繰り出した。

「喰らえっ〈ファイアボール〉!!」

こういう時に魔法と武術の両使いは便利だ。
1人でも相手の実力を見て切り替え、ここぞという時に一撃打ち込める。
サロメはこのやり方で、今まで負け知らずの精鋭の一人だった。

迫りくる火の玉がデイビッドにぶつかる寸前、バシンと音がして呆気なく炎が弾け散った。
感想 5

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