黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

相手探し

鼻血の止まらないデイビッドと、険しい顔のシェルリアーナが黙って座っていると、ドアが開いてエドワード達が入って来た。

「あれ?なんだ居たのか君達。」
「あー!どしたのデビィ!?その鼻血とたんこぶ!!すっごい腫れてるよ?!」

するとシェルリアーナがうろたえ出した。

「あ!コレはその、なんでもないのよ!」
「シェルに本で殴られた…」
「なんでもないっつってんでしょ!!話し合わせなさいよ!もう一発ぶん殴るわよ!?」

それを聞いてエリザベスがケラケラ笑う。

「あははは!ドエスリアーナ様が出ちゃったのかぁ!」
「何よそれ!誰がそんな呼び方してるのよ!?」
「だってさぁ、シェリーってば魔草学の授業でデビィにすっごい当たり強かったでしょ?それが女王様みたいだったって話になって、一部の生徒からそう呼ばれてるんだよ!」
「少数だけどそっちのファンも居るって話だよ?」
「イヤァーッ!ヤメてよ!違うんだってば!!そんなんじゃないのよ!」
「それが本当なら、彼は今頃鼻血なんて出してないと思うけどなぁ…?」

引きつるエドワードと笑うエリザベスの横から、仏頂面のイヴェットが出て来て、抱えた古い資料を机に降ろし、黙々と読み出した。

「そう言えば、貴方達は何しに来たの?」
「そうそう!今ねイヴェットの運命の相手探しの手伝いしてるの!」
「運命の相手?」
「親から婚約しろって迫られてるんだよ…僕は昨今の貴族の婚姻に対する意識はどうかと思う!なんで無理やりでも相手を見つけないと不幸だと信じてる輩が多いんだ!!結局その結婚自体が不幸の始まりだったケースの方が確実に多いのに!」
「荒れてるわね。そんなに見つからないの?」
「血統制約があるから国外者なら帰化してくれる人に限られるし、そもそも血統目当てのクズな連中ばっかり寄って来て、その中から選べとか本当にふざけてる!!」

イヴェットが持ってきたのは現在公開されている貴族名簿。
貴族の子供達は生まれてから6歳になるまでに必ずここに名前が載る。

「これは僕達の世代の物…あと1人居るんだ…婚約してない令息が…」
「誰それ?」
「わからない、でも、アカデミーに通ってた形跡はある!そこから1度も名前は出て無いけど…」
「国外にいるとか?あとはどっか別の家に引き取られたとか?」
「改名者や養子のリストも国外移住も留学者名簿も確認した。軍学校と宗教系の学院の進学者の中にもいなかった。」
「って事は病気で療養中とか、よっぽど訳アリで幽閉されてるとか?」
「その手のリストや情報も集めてみたけど、どれもハズレ。でも消されてないって事はどっかに居るはずなんだよ!逆に気になって調べてる所。」

イヴェットが手にした古い名簿には、確かに見慣れない名前が載っていた。

「え?名前のトコ消されてるよ?」
「インクで塗りつぶしたみたいだね。」
「家名も…古語字体ね…ス…?サ…?何かしら?確かに見たことない家名ね…?」
「ねぇデビィ、これなんて読むか知ってる?」

デイビッドはエリザベスが指差す先の文字を見て、嫌そうな顔をした。

「…サウラリース…」
「へぇ、そう読むのか。ずっとスースだと思ってた。」
「流石、よく知ってるね!」
「そりゃそうだ…俺の実家だからな……」
「「「えぇっ!?」」」

4人の目が顔中血だらけのデイビッドに向かう。

「デュロックじゃないの…?」
「それは血筋全体を指す総称。ウチは複合家門運営だから、それぞれ別に家名を持ってる。当主とそれを継ぐ人間だけ、名前を取られてただのデュロックにされて放り出されんだよ。」
「じゃぁ、この名簿は…?」
「当主の正規登録は8歳からだから、まだこっちに来たばっかりの頃に親父が書いたんだろ。その後原本でもいじったんじゃねぇか?たぶん名前の所を消したのは俺だろうな…」

確かに、死亡も幽閉も移住も留学も養子改名もしていない。
単に家の事情で実家名を名乗らなくなっただけだ。
正しくはサウラリース・デュロックと長くなるが、領地から出ると誰もデュロックの名は使わず、皆実家名を名乗るためややこしくなるそうだ。

「俺と親父と爺さんで3代続けて当主に関わっちまったから、今サウラリースを持ってんのは俺の婆ちゃんだけ。だから名前がどこにも載ってないんだよ。」
「そんな…この一枠に賭けてたのに…」
「ご愁傷様、また振り出しに戻ったわね。」
「…ねぇ、あと2年早く気づいてたら君と婚約できてたと思う…?」
「いや?ウチは基本、魔法血統とは相性悪いから釣書も出してねぇし、来ても弾かれてたと思うぞ?」
「偶然出会って交際に発展してた可能性は?」
「それこそ無理だな話だな。おれの噂は知ってんだろ?それにその頃この国に居なかったしな。キリフの岩山で地下道掘ってた。」
「クッ…もしかしたらの夢さえ潰えた…あーもうダメ…ショックでまたネコになりそう…」

イヴェットはデイビッドの研究室でアルラウネのハーブティーを飲むようになってから、ほとんど魔力抑制剤を必要としなくなったが、薬に頼っていた間に自身の持つ本来の制御能力が弱くなってしまい、ちょっとした事で猫化するようになっていた。
今はそれを抑えるための修練中だそうだ。

「今年中に見つけないと、魔法庁にいる12歳も離れた訳アリに嫁がさせる可能性があるんだ!そんなの絶対に嫌だ!!」
「イヴェットの家も相変わらずね…」

項垂れるイヴェットとそれを慰めるエリザベスとシェルリアーナ。
その様子を、エドワードが少し辛そうにじっと見ていた。


鼻血がようやく止まったので、デイビッドが自分の研究室へ戻ると、先にセルジオが来ていてソファに座っていた。

「よぉ、どうだった?テレンスの様子は。」
「かなり悪くて…最悪ここしばらくの記憶を消すしかなくなるかも知れない…」
「忘却系は…精神への負担がでかいんだっけか…?」
「少なくとも、数日は廃人みたいになる。正常な状態ですらそれなのに、精神を弄られて弱くなったところにそんな魔術をかけたら…先輩が壊れてしまうかも知れない!!先生お願いです!!何かいい方法はありませんか?!」
「そんなこと言われても、俺は医者じゃねぇし、薬だって……薬か……うーーん……」

ダメ元でいつもの手帳を開き、まだあまり読んでいないページをめくっていく。
(“幻を断ち切る薬”…“怯える魂を癒す薬”…“過ぎた慕情を滅する薬”…精神系はこの辺か…“心呑まれた者の回帰薬”…これ…か?…言い回しがうっとおしいな!もっとわかりやすく書けよ!?)

詩的な文句が通用しないデイビッドは、イライラしながら手帳を手に研究室を出ると、再びシェルリアーナを探した。

「おーい!シェル!?いねぇな…どこ行った?」
「シェリーを探してるの?さっきまでいたけど、どこだろう?」
「僕たちも探そうか?」
「いや…ここに来たら俺が探してたとだけ伝えてくれ。じゃぁな…」

第七研究室にも図書室にも居なかったので、デイビッドはひとつの策を思いつき、急いで自分の研究室へ戻った。

「…あの…何してるんですか?」
「ああ、ケーキ焼いてんだ。」
「なんで今ケーキなんですか!?そんな場合じゃないのに!?」
「専門家がいねぇと薬の効能の判別がつかねぇんだよ。」
「それとこれと何の関係が…?!」
「まぁ見てろ。」

チョコの塊を混ぜ込んだ濃厚なチョコレートケーキをオーブンに入れて待つこと数十分。
焼き上がったケーキの良い香りが部屋中に漂い、外まで流れて行く頃、研究室のドアが開いた。

「お腹空いたわ。」

「よし、釣れた!!」
「本当に来た!?」

チョコレートの香りに誘われ、のこのこ現れたのはシェルリアーナ。
嬉しそうにチョコレートケーキに寄って行く美女の姿に、セルジオは混乱した。
まさか本当にこの方法で人を呼び寄せることができるとは、倫理的に悩ましい所もあるが、今はそんな事を考えている場合ではない。

唖然とするセルジオを他所に、デイビッドは平然とソファに座るシェルリアーナに、焼きたてのケーキとハーブティーを添えて出した。

「食いながらでいいから、これを少し見て欲しい。」
「あ!このノート!見ていいの?」

シェルリアーナは嬉しそうにノートを受け取ると、真剣な顔で書かれたレシピを読み始めた。
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