黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

新しい魔法薬

「すごい…人の心にこんなに穏やかに浸透するよう考え尽くされた薬なんて初めて見たわ!揺さぶるだけでなく、癒しながら優しく目覚めに誘う…そんな薬ね。この配合は本当に勉強になるわ!」
「それでテレンスの異常を戻せると思うか?」
「そうね…この“心呑まれた者の回帰薬”と、もう一つ“夢幻に惑う心呼び戻す薬”これを合わせればいけるはず。薬の複合には専門知識が要るけど、魔女の秘薬の知識だって負けてないんだからね!?」
「なんか心配になってきたな…」

そこへ更にドアが開いてエリックが現れる。

「精霊薬の知識も忘れないで!?古代魔法薬の融合なんて興味深い話、なんで声掛けてくれないんですか?!僕も力になりますよ!?」
「不安要素が更に増えた…」

最終的な調合過程は資格のあるベルダに監督してもらうことにして、まずは材料を集めて行く。

「夢見草に、カミツレ…って何?」
「カモミールの事だな。」
「ニガヨモギに、ロロの実…コレこないだ貰ったやつね!」
「ケシの実、三日月草、不死の実?!先生これ何ですか?」
「イチジクの異称だ。」
「マンドラゴラの花、ニワトコの皮…」
「銀ホオズキの実に…人魚の涙?!」
「真珠の事だ。粉にして薬にする事がある。」
「流石にそれは直ぐ手に入りませんよ!」
「もっといいものがあるわ…ペルラコーンの角!あれは特殊な真珠質で出来てるの!それも黒曜種!これ以上無い代用品だわ!」
「そんな物がどうして!?むしろ代用超えてますよ!」
「この人そういう引きが強いんですよ。本当に何でも引き付けて来るんだから…」

良いモノも悪いモノも、いつも気が付くとこの部屋に集まって来る。
偶然か巡り合わせか、おかげで薬の最後の材料が揃った。
薬棚からそれぞれの素材を探し、足りない物は魔法学棟へ取りに行き、リストのチェックが埋まっていく。
そしていよいよ革包みからペルラコーンの角が取り出された。

「けずるのね…を…」
「改めて見るとすごい高級感…」
「王族が身に着ける装飾品としても人気なんですよ…?!」

それの丸ごと一本角。

「よし、削るか!」
「待ちなさいよ!!何よその手は!?ど真ん中いこうとすんじゃないわよ!!」
「角の模様や凹凸も重要な宝飾品的価値の判断材料になるんですからね?!削るんなら根本の内側の端っこからにして下さい!!」
「おお…そうか…」

改めて、付け根の端の角がめくれた部分にヤスリを当てると、星屑の様な輝く粉が下へ落ちる。

「今本気で「え?そこいっちゃう?」って場所から削ろうとしてましたよね…」
「この人といて、こんなんで驚いてたら身が持ちませんよ?ホントに…」

揃えた材料を並べたら、次はベルダに調合の確認をさせなければならい。
温室で寛いでいたベルダに、魔法薬の融合薬を作るので監督してくれと頼むと、自分のノート片手にすっ飛んでやって来た。

「ハァハァハァ…お待たせ!…こ…これがレシピかい…?すごいな…なんて緻密で繊細で秩序的なんだ…これを作ったのは、蝶の薬と同じ人かな…?フフフ…いつか写しじゃなくて本物も拝める日が来るといいなぁ…」
「コイツにだけは絶対渡しちゃだめよ?!」
「いや、お前にも渡さねぇよ…?」
(今しれっと先生をコイツ呼ばわりした…?)

シェルリアーナが書き写した2種類のレシピを見ながら、ベルダは丁寧に配合を確認していく。

「魔性植物以外の素材はこのままの量でいい。あとは…ロロの実は半分にして、三日月草とマンドラゴラは同量にしよう。銀ホオズキは種だけ使って、…仕上げがこれか…黒いペルラコーンの角なんてどうやって手に入れたのさ…これを薬匙に一杯と…それじゃ最後にとっておき!コレ!なんだかわかる?」

ベルダが取り出して見せたのは何かの粉。
デイビッドは香りを嗅いで直ぐに何か気が付いた。
「ドライアドの花と…例の果実世界樹モドキの粉末だな…?!」
「御名答!これなら魔力も申し分ないし、何が相手でも必ず調和する。さぁ!手順を教えるから、君の手で作ってくれたまえ!」
「たまえじゃねぇよ…」
「文句言わない!ほら、さっさと手を動かしなさい!」
「結局こうなるのか…」

デイビッドの手が、薬草を刻んで粉にし煮出し濾して煮詰めて合わせてと、言われた通り動いている間、シェルリアーナ達は、さっきデイビッドが焼いたチョコレートケーキを堪能していた。

「本当に大丈夫なんでしょうか…?初見の、それも合成薬なんて…」
「まぁ、効かなくても体に悪い物は入ってないから、せいぜいマズいくらいだよ!」
「少なくとも何かしらの効果は出るでしょうね。三日月草とペルラコーンの粉末だけでもかなりの回復力になるわ。」
「ドライアドの花も入ってますからね、魔力と体力が戻れば、自ずと精神も引かれて戻って来るはずですよ?」
「そうなら良いんですけど…」

やがて出来上がったのは、黄金色に輝く濃い水薬だった。

「1回シモンズ先生に試験してもらおう。そしたら直ぐ飲ませられるよ!?僕も監督者としてついて行くね。それじゃデイビッド君お疲れ様!」
「あの…あの…本当にありがとうございました!!」
「礼は薬が効いてからでいい。テレンスが治ったら、一度顔見せろって言っといてくれよ。」
「わかりました!!それでは失礼します!」


ベルダとセルジオが部屋からいなくなると、しばらくしてヴィオラがやって来た。

「何かあったんですか?!」
「ああ、ちょっと薬の合成実験してたとこだよ。今そこ片付ける。」
「それじゃ私はお昼の支度をしますね!先週漬けたザワークラウト、楽しみにしてたんです!」

酢漬けキャベツに合わせて、今日のメインはソーセージ。
細長く焼いたパンに好きな具材を挟んで、思い切りかぶりつく。

「あー!これこれ!めちゃくちゃジャンクなのに、やめらんない味ですよね!?」
「お野菜も一緒なら栄養も満点ですよ?」
「あえて肉だけで攻めるのもいいわよ!?ガブッといくとストレス発散になるの!」

指で口元のトマトソースを拭いながらシェルリアーナが笑う。
ヴィオラも負けじと口を開けて、大きなサンドイッチを頬張った。

デザートはヴィオラ初挑戦のプリン。
少しが立ってしまったが、硬めのしっかりした王道のプリンができたので、カラメルソースをたっぷりかけて楽しんだ。

「もっとツルツル滑らかにしたかったです…」
「これだってうまく出来てるんだけどなぁ?あとは火加減と、蒸し時間の調整だな。」
「そうよヴィオラ、家庭で作ればこんなものだと思うわ?!」
「お手本のクオリティが高すぎるのも問題ですね。」


片付け中、デイビッドが洗い物をしていると、その横にヴィオラが張り付いた。

「デイビッド様…私、2年生になりましたよね?」
「え?ああ…2年生…だなぁ…?」
「そろそろデイビッド様が何をしてるのか知りたいです。」
「あ?え?なにって?!」
「魔法学棟で勉強したり、ベルダ先生と何か作ってたのは知ってます…でも…私、何も話してもらってない…」
「それは…その……」

顔を逸らすデイビッドを逃がすまいとヴィオラが迫る。

「魔法学の授業が増えて、魔法学棟に行くといつもデイビッド様が見えるんです。同じ場所にいるのに、お話ができないの、寂しいです…誓約とか、守秘義務があるのは分かります…でもひとつくらい教えてくれてもいいんじゃないかなぁって思って…ダメですか…?」

上目遣いのヴィオラに、じりじり壁際まで追い詰められて行くデイビッド。
それを見るエリックとシェルリアーナの目が冷たい。

「なんでもっとスマートに切り替えせないんでしょうね。」
「普段から詭弁振りかざすのはあんなに得意なのに、ヴィオラの前では形無しね。」

秘密、機密、特秘事項に極秘情報…蜂蜜事件から始まり、気がついたら雪だるまの様に膨れ上がった人に話せない話の山。
デイビッドはその中でも近く公開される予定の浅い所ならと、遂にヴィオラを温室の立ち入り禁止室へ案内した。
感想 5

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