黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
227 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

シュガービター

そして更にその少し後、図書室から出てきたヴィオラにも、この巻き毛の優男は声を掛けた。

「やぁ、こんにちはミス・ヴィオラ!お急ぎですか?」
「あら、これはシュトラール様。ごきげんよう。」

ふんわり微笑むヴィオラに、シュトラールも笑み返す。

「先日は珍しいチョコレートをありがとうございました。とても美味しかったです。」
「気に入って頂けて何よりです。所で、折り入って貴女にご相談がありまして…」
「なんでしょう?」
「実は僕、エルム語を勉強をしているのですが、どうも発音と文法が苦手で…どうか力を貸して頂けないでしょうか?」
「私が…ですか…?」
「はい!ミス・ヴィオラはエルムの王女とも懇意とお聞きしております。放課後に学習室でご指導頂けませんか?例のホワイトチョコも色々なフレーバーを取り揃えてご用意しておきますよ?」
「まぁ!それは嬉しいです。」
「授業後に教室までお迎えに上がります。では、楽しみにしておりますね!?」
「わかりました!お待ちしております!」

無邪気に笑うヴィオラに、シュトラールは含みのある笑みを向け、次の教室へと移動して行った。


「ーーってことがあったんですよ!!」

お昼のパスタをクルクル巻きながら、ヴィオラはいつも通りデイビッドの隣に座り、好物尽くしの食事に舌鼓を打っていた。

「その話を何のためらいもなくするのね、自分の婚約者相手に…」
「天然て怖い…」

ヴィオラが隣を見ると、デイビッドは何とも言えない顔をしている。

「私、もしかして舐められてませんかね?」

そう言われてもなんと返していいのかわからず、デイビッドは黙ったままだ。

「わかってて話してたのね。試されてるわアイツ…」
「養殖だった…もっと怖い…」

くりくりした目でデイビッドの顔を見上げると、遂にデイビッドの視線は何処かへ泳いで行った。

「どうしたらいいですか?デイビッド様ぁ…?」
「どう…って、ヴィオラの好きにしたらいいと思う…けど…」
「本当に好きにして良いんですか?私がぽっと出の男子生徒に誘われてるのに、引き留めてくれないんですか?」
「そういう…権利は…俺には…ない…から…」
「本当にそう思ってるんですか?ヤキモチとか、焼いてくれないんですか?」
「そういうのは…気にしない事にするって、誓約にも書いてあったろ…?留学生との交流だって、特待生には必要なんだ。誘われて、返事したなら行ってこいよ。」

デイビッドがなんとか視線をヴィオラに戻すと、その頬に涙が伝ってポタリと落ちた。
それを見たデイビッドの表情が一瞬で焦りと自責に染まり、狼狽え出す。

「ヴィオラ?!違う!そうじゃなくて!ヴィオラの事を信じてるから送り出せるってだけで…ヴィオラが断れなくて困ってるなら力になるし!学生同士なら交流だって必要な事だって理解してる!行って欲しくない気持ちはあっても、口に出せる立場じゃないんだよ俺は…だから…」

「その涙、偽物よ?」
「今がっつり目薬挿してましたからね…?!」

なんの茶番を見せられているのか、シラけたエリックとシェルリアーナが堪え切れず横から口を挟む。

「…ヴィオラさん…?」
「良かった!デイビッド様も、ヤキモチ焼いてくれてた!安心しました!」

イタズラが成功して喜ぶヴィオラの隣で、デイビッドは死んだ様な顔で黙々とフォークを動かした。


そして放課後。
何のつもりか胸に白い薔薇の花を挿したシュトラールが、淑女科の廊下を歩いている。
(案外チョロいもんだったな。やっぱりラムダの女は皆、色白の美形に弱いんだ。)

髪型を整え、タイを直すと、特待クラスのドアをノックする。

「失礼します、ミス・ヴィオラ、お迎えに上がりました!」
「お待ちしておりましたシュトラール様!さ、参りましょう?!」
「え…?あの?」

にっこり笑うヴィオラは、アリスティアとディアナ、更にセルジオとテオを連れて教室から出て来た。

「アリス様とディアナ様はエルム語のエキスパートですのよ?セルジオ様とテオ様は何を隠そうエルムのご出身で、大使館でお仕事もされておりますの。皆様喜んでご協力下さるそうですわ!?」
「あ…あの…ミス・ヴィオラ…」
「時間がもったいないですわ!学習室がいっぱいにならない内に急ぎましょう?」
「そうですね。そうだ、ここからはエルム語のみで会話しませんか?」 
『 あら、ステキなアイデアですね、テオ様! 』
『 ほら君も、始めは間違いだらけでもいいから、とにかく口にしていかないと覚えられないぞ? 』
『 私の発音、おかしくないですか? 』
『 とても聞き取りやすくてキレイな発音ですよディアナ様! 』
『 流石アリス様!なんて流暢なエルム語でしょう! 』
『 ありがとう!でも、悔しい事にデイビッド先生には敵わないんですよ?! 』
『 あれはエルムの土着語も入ってますからね。言語に分けたら7カ国語くらい話してるのと同じなんですよ。 』
『 どうやって覚えたのかしら? 』
『 死ぬ気でって言ってました。 』
「あ…あ…」
『 さぁ、シュトラール様もお早く!エルム語の勉強会に参りましょう? 』

ぞろぞろと王族に囲まれたシュトラールは、その後容赦の無い超スパルタでエルム語を覚えさせられた。


そんな大騒ぎの放課後勉強会の間、デイビッドは部屋で大量のソーセージとジャガイモを茹で、米と肉にバジルを撒いたチーズキャセロールと、卵とハムのサンドイッチに、レバーパテとハーブの効いたディップを作り、バゲットとグリシーニを焼いていた。

「うわっ!昼間から飲みたくなるメニュー!!」
「珍しいわね。ケーキじゃないの?」
「あぁ、どうせあいつら口ん中甘ったるくして来るだろうからな。」

早くもソーセージをかじり出しているシェルリアーナとエリックを止めながらテーブルの支度をしていると、やり切った顔の4人がヴィオラと共にやって来た。

「デイビッド様ぁ!ただいま戻りました!」
「あー!嬉しい!今食べたい物ばっかり揃ってる!!」
「白いチョコは色んな味があって楽しいんですが、口の中が甘くなってしまうのが難点ですね。」
「大使館にも大量に届いてて、お茶請けがしばらくチョコになりそうなんですよ。塩気が欲しくなりますよね。」

勝手知った様にどんどん好きな席に座るアリス達に、気後れしたディアナが続く。

「お…お邪魔します…」
「こちらへどうぞディアナ様。紹介しますね?院生のシェルリアーナ様です!」
「はじめまして、ディアナと申します!アデラから参りました…」
「ディアナ様はアデラの第二王女なんです!」
「まぁ!ではカミール様の妹君ですのね?なんて愛らしい方なのかしら!はじめまして、シェルリアーナですわ!」

外交モードに切り替わったシェルリアーナが、ディアナの手を取り女神の微笑みを向ける。

「瞳がまるでオニキスの様ですのね。御髪も夜空を映した海の様ですわ!小麦色の肌も、とても魅力的でしてよ?」

横にいる同じ色の存在は、たった今シェルリアーナの中では無かった事にされたようだ。

「あーん!これです!こういうお料理!!お兄様が絶対に許して下さらないフォークだけで頂ける味の濃いぃお食事!最高です!!」
「分かります。大使館でも、王族となると見られますからね。下手な物食べると直ぐバレて何か言われるんですよ。」
「細引き麺…次はもっと持ってきましょうか…?」
「お米とチーズ美味しいです!」

ディアナもそろりそろりスパイスの効いたソーセージを口にする。

「デイビッド殿は、いつもこのお部屋で料理をされているのですか?」
「こんなんでも一応、仕事の一環なんだよ…」
「弟のジャファルが言ってました。絶対に卵料理は食べさせてもらって来いって。」
「今使ってるのは、ほとんど大砂鳥の卵なんですよ。味が濃くてまろやかで美味しいですよ!?」
「大砂鳥…?!王族の食事にも出される高級品でしょう?!」
「今何羽いるんでしたっけ?」 
「ヒヨコ合わせて31羽…卵を産む雌は18羽いるな。」
「だそうです!卵サンドふわふわですよ!?遠慮せず召し上がって下さい!」
「え?美味しい…卵だけじゃない…全てが調和してて非常に美味です…」

王族だらけの食事会はにこやかに終わり、普段口にできない料理を堪能した4人はそれぞれ礼を述べて帰って行った。

そして、シュトラールをやり込めたヴィオラは、次は彼がどんな手でデイビッドの邪魔をしてくるのか懸念が消えず、何が来ようと確実に打ち返す為の仮想練習に余念がなくなった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。