黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

勘当

ペンター伯爵家は、王都の生産ギルドの重鎮であり、多くの著名な技術者を輩出してきた家門である。
持ち前の感覚の鋭敏さと、長い年月で培われた魔導式魔術具の粋を集めた高い技術でこの国の技術者を圧倒し、その頂点に君臨してきた。と、本人達は信じて疑わない。

邸は、庭から建物から調度品、日用品、生活必需品に至る全てが魔道具でできている。
エリザベスは帰るなり、直ぐにメイド型の自動人形に迎えられ執務室へ連れて行かれた。
その後ろをデイビッドとエリックがついて行く。
エリザベスが執務室に入るなり、当主の怒鳴り声が外まで響いて来た。

「この出来損ないが!!せっかく見繕ってやった相手の機嫌を損ねた挙げ句、見合いを台無しにするとは何事だ!!先方もお怒りで、渡した支度金を返せと言ってきている!金貨10枚!貴様が1人で働いて返せ!!我が家はもう関与せんぞ!?さっさと出て行け!二度と顔を見せるな!!」
「はいっ!今までお世話になりました!それでは失礼します!!」
「なっ…なに?!ちょっと待て!!おい!エリザベス!?」

エリザベスは勢い良く一礼し、急いでドアを出ると廊下を走って自分の部屋へ向かった。

「こっち!入っていいよ、ほとんど何にもないけど。学園で使ってた物とか、着替えとか詰めちゃうね!?」

ベッドの下から引っ張り出した手提げ鞄に、手当たり次第突っ込むとスルスルとつっかえもせず何でも入って行く。

「この家で貰ったものは服とか以外は全部置いてくつもり。ドレスもアクセサリーも、もういーらない!」

そこへまたメイド人形が用を言いつけに来るが、エリザベスはにっこり手を振った。

「伯爵に伝えて?!エリザベスは言われた通り、もうこの家には帰りません!って。あと、使い込んだお金はちゃんと自分で払うように言ってね?!アタシそんなお金知らないから!それじゃバイバーイ」

エリザベスは、人が出て来て捕まる前に玄関を通り抜けようとしたが、今度は当主によく似た男性が立ちはだかる。

「エリザベス!婚約ひとつまともに受けられず、おまけに我が家の顔に泥を塗りやがって、落ちこぼれの分際で良くもそんな恩知らずな真似ができたものだな!?」
「兄さん…」
「部屋に戻れ!明日からお前は外出を禁止する!次の相手が見つかるまで出て来るな!!」

エリザベスが今までどんな扱いをされていたのか、この家族を見れば一目だ。
(言ってることが親子でちぐはぐだな…?)
(当主は泣きついて来た所を奴隷にしようとしてて、兄の方は早く追い出して、顔も見たくないって感じですかね。)
(どっちも碌なもんじゃねぇ…)

「そもそもなんだその男共は!誰の許可を得てここへ連れ込んだ!この阿婆擦れが!!」

兄がようやくデイビッド達に気が付くと、デイビッドはにやにやしながら兄の方へ近づいて行った。

「いやいや、俺達は別の用があってここまで連れて来て貰っただけだよ。」
「なんだと?」
「俺達はボンド商会の掛け取り金の回収を頼まれて来た。いわゆる借金取りさ。」
「借金取り?!」

((借金取り!?))
エリックとエリザベスが驚いて顔を見合わせていると、デイビッドが話を続ける。

「店に行ったら金はなくて、代わりにここで金貨10枚返してもらう予定だと聞いたんで、先回りして来たらここにも返せる金はねぇときた。お宅の当主は使い込んだ分はこのお嬢さんに払わせるってんで、ならひとまず連れて帰ろうって事になったとこだよ。」
「そ…それは…」
「ボンドはここの返済金をアテにしてる。でもここの当主はそれを娘に払わせる気でいる。かわいそうに借金の借金を肩代わりさせられて。で、これから今後どうするか、こっちの上の人間と、このお嬢さん含め相談するとこだ。」
「そ…それは、人身売買になるのではないか?!」
「それ言ったらよ、先に娘を金で売ったのはお宅のご当主様だぜ?それを銅貨1枚娘には渡さずに使い込んだ挙げ句、返せとなったら娘に押し付けて放り出した。これが人身売買じゃなくてなんだってんだ?まぁ、こっちも困っちゃいるんだよな。金じゃなくて娘渡されても、それこそ商館に売るくらいしかねぇからよ。兄さん何とかなるなら助けてやってくれよ?兄妹なんだろ?」
「い…いや…そういう理由なら仕方がない…エリザベス、今日を以てお前はこの家から勘当する。血統の制約は覚えているな!?国との契約はしかと守れ!これ以上我が家に迷惑は掛けるなよ!?…さっさと出て行け…」

悔しそうにエリザベスを一睨みしてから、兄が指を鳴らすと入り口のドアが自動で開き、3人が外へ出ると鉄格子の門扉が閉まってもう中へは戻れなくなった。


「…口先ってのはこうやって使うんだよ…」
「わっっっるぅぅーー!!女衒一歩手前の借金取りそのものだったじゃないですか!?」
「アハハハハハ!!デビィすごいね!役者さんみたいだった!」
「今の発言も全部記録させてもらった。これで彼奴等はもうリズに手は出さねぇだろ。しっかし、金貨10枚なんて貴族なら簡単に払えそうなもんだけどな?」
「無理だと思う。兄さん達、独立はしたけど自立はしてないもん。高級素材ばっかり仕入れて、いつも父さんにツケてるの。魔道具は作れば売れるけど、基本好きなものしか作りたくない人達だから、注文品が遅れて違約金なんかも発生してるんだって。今まではアタシが間に合わせてたけど、もう自分達で頑張ってもらうしかないよね。」
「それで当主はエリザベス様を手放したくなかったんですね。」
「兄さんはアタシが作った道具にペンターの名前が入るの嫌がって、いつも文句言ってたの。…これで良かったのよ、アタシもやっと前に進める!デビィのおかげでね!?」

馬車に揺られるエリザベスは、重い鎖から解放され、晴れ晴れとした笑顔で窓の外を眺めていた。


エリザベスの件で、デイビッドが少し忙しくしている間に、学園ではシュトラールがまた問題を起こしていた。

「ごきげんよう、ミス・シェルリアーナ!今日こそ色良い返事を聞かせて頂きに上がりました!」
「出たわねミスターホワイトチョコレート。何度来ても同じでしてよ?」
「果たしてそうでしょうか?これを見れば貴女の気も変わるのではないかと…」

シュトラールが差し出したのは、瓶に詰められた乾燥した何かの花の様だった。

「これは…アルラウネの花弁?」
「流石はミス・シェルリアーナ、良くおわかりに!今年の春先の採集で採れた物です。オークションで手に入れて参りました!」
「………話に…なるのよね本当だったら…きっと魔法薬に関わる者なら喉から手が出るほど欲しい物なんでしょうね…本当なら…」

既に見慣れた上に、今朝はそれのの花をフレッシュハーブティーにして3杯おかわりしてきたシェルリアーナは、悲しげな顔で差し出された瓶の中身を見つめていた。
(もう戻れない所まで来ちゃってるのね私も…)
おかげで力が漲るような清々しさで毎日が絶好調だ。

「悪いけど、それ程魅力的でもありませんわね…」
「そんな!?アルラウネの花ですよ?!」
「ごめんなさいね。私、生の花を貰ったことがあるの。どうしてもその時の感動と比べてしまって…その花はもっと喜んで下さる方にお渡しすべきですわ。」
「ア…アルラウネの生花を…?!まさかあのブタ…デュロックの跡取りにそんなコネと財力があるなんて思えない!!」

(よく考えたらゾッとする話なのよねぇ…)
あの時の花は咲いたばかりの一輪花だった。
その時の輝きを、香りを、感動を、シェルリアーナは決して忘れることは無いだろう。

「ならば…一体何なら納得して頂けると言うのですか?!アイツから受け取った報酬は何だったんです?教えて下さい!!」
「そんなに聞きたい?」
「僕は、あんな王族である事を鼻にかけた意地汚い商人上がりに負ける訳にはいかないんです!これは商人としてのプライドの問題なのです!!どうか僕にもチャンスを下さい、シェルリアーナ様!!」

(むしろその王族から逃げ回ってるのよねぇ…)
シェルリアーナは、この勘違い留学生の眼を魔力越しに凝視した。
シュトラールの腹の中は、燃え盛る嫉妬と僻みの炎が渦巻き、 あらゆる物を手に入れようと、真っ黒な手をてんでに伸ばして掴もうともがいている、そんな印象だった。
感想 5

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