黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

魅了(チャーム)

商業科の授業は前回同様、シュトラールの話題で持ちきりだった。
これはこれでアデラの情勢や、流行、人気の高い交易品の話も聞けて、他国の生の情報に触れられるいい機会になった。
と、デイビッドは思っている。

しかしシュトラールからすると、気に入らない商売敵の授業を潰してやったという気持ちなのだろう。
言葉の端々にトゲトゲしさがある。
気がついた生徒もいるようで、ハラハラする者もいたが、デイビッドにはひとつも刺さっていないようだ。

「ーーまぁ、この程度の情報、王族なら既にご存知のことでしょうけど?」
「港をお持ちなら、このくらいは知ってて当然ですよ!」
「最新の売り上げを確認したら、きっとどこのチョコレート工場も真っ青になりますよ!その時泣きついてきても遅いんですけどね!?」

それらをデイビッドは全く気にせず、こちらからもどんどん質問をしていく。

「カカオの生産も重要だけどよ、他の果樹園だっていい成績出してただろ?え?縮小した?!あそこの果物人気あったのに?!カカオの生産量を増やすため?へぇ~思い切ったなぁ!?」
「港に新しい船入ったから、船内の環境とか聞いてみたいと思ってたんだけどよ!乗ってないのか?!もったいねぇ~帰りは乗ってけよ!」
「輸入品目の変動で、布製品の輸出が軌道に乗ったよな!?アデラの布地はこっちでも需要が高いんだ!生産体系って、今も変わらないのか?専門外か、なら仕方ねぇな。」

最早授業と言うより、いい情報源を見つけたから絞り出し中と言う様な質問をガンガンぶつけてくるので、シュトラールの調子は外れてばかりのようだ。
それを見てヴィオラは、少しだけいい気味だと思っていた。

授業が終わり、やっと解放されたシュトラールは想像以上に消耗しており、いつもの笑顔が崩れ始め、直ぐに寮の自室へこもってしまった。


(生徒に喋らせるのも面白いな…それぞれ情報の強みが違う人間がこれだけ集まってればかなりの量になる…うーん…)
デイビッドが次の課題について少し考えていると、廊下のポスターが目についた。

真っ白なドレスと花に囲まれたリリアが、ホワイトチョコレートを持って微笑んでいる。
シェルリアーナに断られたので、モデルはこっちに頼んだらしい。
良く撮れてはいるが、モデルがモデルだけに気分は良くない。

(ウチもこういうの出した方がいいのか…?)
営業努力の方向性と、広告効果についてまた考え出すと、今度は階段の影からリリア本人が現れ、デイビッドの前で足を止めた。

「あら!先生、ごきげんよう!」
「は?え?あ?えぇ…??」

今の今まで顔すら見せた事も無く、嫌悪と憎悪の対象にしていたデイビッドに自ら近付いて来た理由はなんだろうか。
デイビッドは身構えながら距離を置いた。

「…今のは俺にか?」
「まぁ、先生と生徒ですもの、ごあいさつくらいしますわ?!」

絶対に嘘だ。
現にこの時まで、視界に入れる事すら不快だと言わんばかりの態度だったはずだ。

「淑女科の生徒が、一体なんの用だ…?」
「実は…先生にご相談がありまして…ここでは何ですので、何処か2人きりでお話できませんか?」

上目遣いに瞳をキラキラさせながら一歩ずつ近付いて来るリリアに、得も言えぬ恐ろしさを感じていると、デイビッドは頭の奥に靄がかかる様な妙な感覚に襲われた。

「ねぇ、デイビッド先生…?私の話、聞いて下さいませんか…?」

儚げに微笑むアクアマリンの瞳が、じりじりと寄って来る。

「悪いが…急いでる…話なら…他を当たってくれ…」

パッと視線を逸らし、よろめきながら階段を駆け下りるデイビッドの背中を、リリアはしてやったと言う表情で見送った。


リリア・ランドールは皆に愛される天使だ。
家族、友人、老若男女問わず、皆がリリアに夢中になる。
小首を傾げて上目遣いに視線を合わせれば、男の子などたちまちリリアの虜になってしまう。
そしてどんなお願い事でも聞いてくれるようになるのだ。

(逃げられたわ…でも、あれならもう一押しってところかしら?もうっ!あんなブ男に何度も声を掛けなきゃならないなんて鳥肌が立っちゃう!)
リリアは自身の腕を擦りながら憎々しげにデイビッドのいなくなった階段を睨み付けた。

(あんな気持ちの悪い男のどこがいいんだか、ヴィオラの目は本当に腐ってるのね!でも、財力だけは確かなのよねぇ…こうなったら搾れるだけ搾り取ってやらなきゃ気が済まないわ!!)
どうやらリリアは、デイビッドを自陣に引き込み、金品だけ搾取して捨てる気でいるようだ。

影からデイビッドの様子を伺っていると、ポスターに釘付けになっている所を見つけ、内心大笑いしてしまった。
(なぁんだ!ヴィオラ一筋なんて変な噂もあったけど、やっぱり可愛い私の方が気になるのね!?女好きって話も聞くからきっと上手く釣れるはずよ!)

声をかけ、悍ましさに堪えながら目を合わせると、明らかに動揺しうろたえたように逃げて行ってしまったが、これは奥手な男性には良くある反応だ。
この次会う時、身体に触れながら優しい言葉のひとつも囁けば、どんな男も簡単に心奪われて、言いなり人形に成り下がる。
(あーあ、手間かけさせられた分、しっかり貢いでもらわなくちゃね!)

リリアは欲しい物を山程頭に浮かべながら、ウキウキと取り巻き達の元へ戻って行った。


一方で、階段を下りたデイビッドはそれどころではなかった。

「ゔぇ゙ぇぇぇぇ……」

頭が割れるような痛みと、込み上げる吐き気に耐えながら、なんとか辿り着いた階段下の洗面所で、盛大に胃の中を空にしていた…

「ゲホッゲホッ!!グッ…ゲェェ……」
「…………大丈夫ですか…?」
「あ゙…ぇりっぐか…ちょっ…死にかけてる……」
「貴方が吐くってよっぽどの事ですよ?!なんかの病気ですか!?」
「わかんねぇ…リリアに…話しかけられたら…いきなり…」

廊下で見かけて、何事かと駆け付けたエリックが真剣な顔になる程、デイビッドの様子はおかしかった。
口を濯ぎ鑑を見ると、真っ青な顔に脂汗が浮いて、いかにも具合の悪い人間の顔が映る。

「もしかして…魔力酔いじゃないですか?!」
「魔力酔い…?何されたんだ…俺…」
「以前、魔力尋問を受けた時と比べてどうですか?」
「いや…あの時は吐くほどまではいかなかったし…痛みの種類が違うような…あー…でもこの感じ…たまーに魔法学棟でなったな…もっと軽くて、なんともない程度だったけど…」
「とにかく一度シモンズ先生の所へ…」
「行っても魔力酔いじゃ意味ねぇよ…」
「それじゃどうしたら…そうだ、ベルダ先生の薬!あれなら浄化作用も強いし、魔力無しの体内にも調和してくれます!!直ぐに温室へ行きましょう!!」


壁や手すりに寄りかかりながら、息も絶え絶えやっとの思いで温室へ辿り着くと、そこには魔草学の4人が集まり、新しい課題の見直しをしている最中だった。

「デビィッ!!どうしたの!?顔真っ青だよ!!」
「何があったんだ!?君がこんなになるなんて、ただ事じゃないだろう!?」

エドワードとエリザベスが直ぐに飛んで来て、デイビッドの身体を支えようとする。

「…わかるかい、アナ…ナニか物凄く嫌なモノが絡みついてるこの感じ…」
「ええ、一体ナニをされたっていうのかしらね…?」

魔女と妖精の目には何かが写っているようだが、それが何か言い表すことはできないそうだ。

「何か良くないモノなのよ。」
「うん、何か相当良くないモノに絡みつかれてるとしか言いようがないんだ。」
「何があったか話してくれないか!?でないと対処のしようが無い!」

椅子に座らされたデイビッドは、肩で息をしながらさっき起きた事を思い出しながら話した。

「リリアに…声をかけられて…」
「あのイカレ聖女に!?」
「そしたら…こう…頭の奥でぶわっと…」
「ぶわっと?!」
「大量の蛆が湧くような感じがして…」
「ゔぅわぁぁ…考えたくなかった…」
「どんな表現よ!!想像しちゃったじゃないの!気持ち悪いわね!!」

そこから脳内を蝕まれる様な嫌悪感と不快感に襲われ、唐突に頭の痛みと吐き気が込み上げて来たそうだ。
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