黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
237 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

掲示版の依頼

庭園の東屋では男子生徒が4人、何か話し合っていて、その中の1人が何か魔術の呪文を唱えると、たちまちデイビッドの姿に変化した。
上手くいったことを確認すると、それを見て皆でゲラゲラ笑い、更に何か打ち合わせの様な事を始めた。

(なるほど…どっちかが偽物ってワケね!?)
(一部始終見ててこっちを疑うな!!)
(混ざったらわかんなくなるじゃない。そしたら見分けるのが面倒なのよ。)
(お前、かまわずどっちも締め上げる気だろ…)
恐らくシェルリアーナはどちらが偽物かなどと悩まない。
本物だろうと偽物だろうとお構い無しに全力で張り倒すだろう。
(頼むから止めてくれ…)
(でも…そうね…あの見た目ならいいとこ30点てとこかしら?)
(写し身系は見分けが難しいんだろ?)
(そうでも無いわよ?姿だけ真似られても演技も必要だもの。人相のが偽物ね…わかったわ!)
(どうせ俺は悪人面だよ!!)

例えば他人の婚約者に成りすますことが出来たら、どんな悪事を思い付くだろう。
しかもそれをカメラに納めようなどという悪趣味な悪戯を目の当たりにしてを、この2人が許すはずがない。

まずはシェルリアーナが出て行き、デイビッドモドキに声をかけた。

「あらぁ!デイビッドじゃない、こんな所で何してるの?」
「やぁ、ミス・シェルリアーナ、奇遇だな。今婚約者と待ち合わせしてるとこだ。」
「はい、原点!」
「へ?」
「表情が明る過ぎ、あと姿勢が良過ぎ。極めつけは話し方ね。そんな爽やかに喋らないわよアイツは…あとその顔でその呼び方ヤメて…気持ち悪いわ…」
(いや、お前こそあんな声の掛け方した事ねぇじゃん…)

言うが早く、シェルリアーナの足元から四方に伸びた黒い影が、隠れていた3人とデイビッドの偽物を縛り上げ、引きずり出して壁に思い切り叩き付けた。
崩れ落ちた4人をギリギリと締め上げていると、やがて魔法が解け、デイビッドの姿が消えて3年生の生徒の1人に戻る。

声も出ないこの4人をどう料理してやろうか考えていると、庭園の向こうからヴィオラが現れたので、デイビッドが出て行き、久々に2人切りで話をした。


シェルリアーナはその様子を影から見守りながら、隠蔽魔法の結界の中で男共に尋問していた。

「ホラ!言ってみなさいよ!?何が目的だったの?!」
「お…俺達はなにも…」
「他人に成り済ましてカメラまで構えて、その言い訳は苦しいわね!?淑女科の庭園まで来て、一体何をしようとしてたのかしら…さ、白状なさい!?」

すると中のひとりが降参してペラペラ喋り出した。

「お、俺達、あの令嬢の弱みを握れって言われて…」
「誰によ?!」
「し…知らない!ただ、一番いいネタが手に入ったヤツには次のテストの問題の予想がもらえるって話で…」
「だから!誰がそんな事言ってんのかって聞いてんの!」
「け…掲示版だよ!廊下の魔法掲示版に…書いてあったから…」
「黒幕もわかんないで下級生の女の子を騙してネタにしようとしてたの?予想を上回るクズね!」
「手でも握った瞬間に魔法を解いて、浮気の証拠にしようと思って…」
「お、俺は違う!この姿でキスでも迫れば流石に嫌がるだろうから…黒豚ついに破局か?ってタイトル付けて新聞にする予定だったんだ!!」
「言い訳した所で、どっちもクズよ!!」

久々にブチギレたシェルリアーナは、このところ溜まっていた鬱憤をこの4人に向けて叩き付けた。

「そこそこスッキリしたわ。」
「こっちも、ヴィオラと話ができた。ずいぶん溜め込んでたみたいだったな…ここに来ていきなり妙な噂が増えて来たせいだ。一度流れた噂を消すのは難しい…でも…」
「噂を噂で塗り潰す事は出来るわ!」
「そーゆーの…あんま得意じゃねぇんだけどな…」
「あら、だったら私に任せてよ。ちょっとカフェ行ってため息混じりに誰かに愚痴ればあっと言う間に話題総取りよ?!」
「こわぁ……」

まだ動けない4人を放ったまま、シェルリアーナとデイビッドは政務科の廊下にある件の掲示版まで来ると、シェルリアーナが真っ白な掲示版に魔力を流し、浮かび上がってきた書き込みを読んでいく。

〈ヴィオラ令嬢の聖女虐め〉
〈特待クラスでカンニング疑惑〉
〈王族を誑し込む悪女の実態〉
〈黒豚の婚約者チョコレートの王子と浮気か!?〉

ずらずら書き込まれた、根も葉もない本当にただの一人歩きした噂話が集まる中心に、何かでかでかと書かれている。

〈ヴィオラ・ローベル令嬢のネタ大募集。聖女を脅かす悪女追放に向けてご協力を!(デイビッド・デュロックの醜態その他悪事についても随時募集中。)〉

「燃やしていい?」
「公共物ならそれもダメなんだろ?確かここに書き込んだ本人以外消去できねぇんだったよな?じゃ、ここは教員として正しく動くしかねぇな…」

そう言うとデイビッドは何故そんな物を持っているのか、ポケットから取り出したドライバーで四隅のネジを外すと、掲示版を壁から剥がした。

「風紀違反ってヤツだ。このまま魔力判別に出して、書き込んだ奴を片っ端から取っ捕まえて罰則対象にしてやるよ。」
「確かに、それは生徒側じゃ出来ないわね。じゃそっちは任せたわよ!?」

その場で別れた2人は、それぞれの向かうべき場所へ進んで行った。


教員室ではデイビッドが持ち込んだ掲示版に、他の教員達が群がり事態の深刻さを話し合っていた。

「これは酷い…」
「学園が何をする所か分かっていないのかしら!」
「この様な不特定多数による卑劣な行為が見過ごされていたと言うのですか!?」
「この掲示版は生徒の自己表現の自由を尊重し、互いに意見を交換し合える重要な情報共有の場として長年親しまれてきましたが…以前からこの様な使い方もされていたのでしょうなぁ…教員ももっと目を光らせておくべきでした…」
「直ぐに魔法学棟へ持って行って生徒の特定を!関わった者は懲罰、首謀者は停学とします!!」

渋ったのは淑女科と政務科の教員達だけで、他の教員達の怒りもあり、こちらは直ぐに対処してもらえることになった。

「迅速な対処、ありがとうございます。」
「何呑気な事言ってるの!?貴方の名前も書いてあるのよ!?」
「まぁそうですが、でもこの程度…」
「何がこの程度ですか!!貴方が貶されることで婚約者の立場も危うくなるのですよ!?もっと危機感を持たなければ!自分で何とかしようとせずに、今回の様に学園を巻き込みなさい!貴方自身も護られるべき対象である事をもっと自覚する事!良いですね?!」

久々にミセス・ミネルバの説教を食らい、耳が痛くなるのを我慢してから研究室へ戻ろうとすると、エリックが付いてきた。

「とんでもない事になりましたね…あれ、淑女科でないと知らない情報も書かれてましたよ?情報提供者やまた聞きの噂もあるんでしょう…どうなさるおつもりですか?」
「ひとまず、噂の方はシェルに任せて、こっちはヴィオラをなんとかしないとな。直接的な攻撃じゃない以上魔法でも防げないとなると、あとできることは何だ?…」


考えている内に羊のスペアリブの煮込みと、ヴィオラの好きなニンジンと玉ねぎのポタージュができ上がる。
カブとニンジンの葉っぱでサラダを作り、ふわふわの白パンとゴマの入ったパンを添えて待っていると、本を抱えたヴィオラが走って来た。

「遅くなっちゃいました!お手伝いできなかった…」
「そんなんかまわねぇよ。どうだった?少しは気晴らしできたか?」
「はい!面白い本、たくさん借りてきました!」
「気持ちの切り替え方は人それぞれだ。ため込むのは一番良くない。ここで我慢は禁物!いいな?!」
「わかってます!もう溜め込んだりしません!心配かけてごめんなさい…」
「謝る必要はないさ。これからも無理に笑わなくていい。不機嫌なヴィオラも怒ってるヴィオラも、全部見せてくれて構わない。俺にとっちゃ何しててもヴィオラは可愛いから問題無いしな。」
「かわいくない!かわいくないです!!」

「どうでもいいから早く支度して…」
「そろそろシェル様がお腹空き過ぎて不機嫌ですよ?」

シェルリアーナとデイビッドにあれこれ世話されながら、スープを口に運ぶヴィオラの表情はスッキリと明るくなっていた。

(ダブル過保護に挟まれてまぁ…でも…なんだろう、婚約者と友人と言うより…これあれだ、保護者的な目線になってない?パパとママの立場逆転してるけど!…って言ったらなんか言われるから黙っとこ…)
エリックは賢く口を閉ざした。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。