黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

ゴキゲンなライラ

王都の祭りに際して、休校となった学園内は生徒達が浮足立っている。
それに巻き込まれまいと、デイビッドはヴィオラを連れ、早々に外へ出てしまっていた。


「あらあらまぁまぁ!すみませんねぇ、そんなことまで!」
「いやぁ、ついでですから…」

やって来たのは郊外の乳児院。
ヴィオラが冬の終わりにライラを預けた所だ。
デイビッドは床に座り、子供用の椅子の脚の高さを調整するため、大工道具を広げていた。
外ではヴィオラが子供達と走り回って遊んでいる。

「あっ!うっ!あっ!」
「あー、頼むからそこから出てくるなよ?」
「だぁ!だぁ!!」
「立つな立つな!面白いもんなんかねーよ!」

デイビッドの横にはベビーサークルが置かれ、中ではライラが外へ出ようと奮闘している。
実は春先から何度か訪問を繰り返し、様子を見に来ていたヴィオラとデイビッドは、すっかり施設の子供達に懐かれていた。

「お姉ちゃん!一緒にお花のかんむり作ろ!」
「えー、ブランコしようよー!」
「喧嘩しないで、順番ね!?」

優しく活発なヴィオラは子供達に大人気で引っ張りだこだ。

「おじちゃん!剣作って!!」
「誰がおじちゃんだ!!」

ぶつぶつ言いながらもデイビッドは薄い板を削り、柄を付けて子供達に渡すと目を輝かせて喜び、どこかへ走って行ってしまう。

「おいちゃんありがとー!」
「人に向けんなよ!」
「あぅーっ!」
「お前は出てこなくて良いんだよ!登って来んな!!」

今度はベビーサークルの壁を制覇したライラがデイビッドの方へ手を伸ばしてくる。

「そのまま落ちるって頭がないのか、俺が助けると確信してんのか…これだから赤ん坊は手に負えねぇよ…」

デイビッドは仕方なくライラを背負い、背中に括り付けて金槌を動かした。
ライラは始終ゴキゲンでキャッキャと笑って手足をバタつかせている。

ガタついていた椅子の脚が直ると、次はドアの建て付け、本棚の歪み、浮き上がった床板も張り替えて今日の所はこんなものかと立ち上がると、ライラはぐっすり眠っていた。

「おいちゃん!今日はごちそうの日でしょ?!」
「お鍋がいっぱいあった!どれ食べてもいいの?」
「僕お肉がいい!」
「おう、好きなの食えよ。」

デイビッドはここへ来る度、厨房に作り置きの効く料理を大鍋にいくつも用意して行く。
捏ねた挽き肉は焼くだけの状態にし、パスタのソースも何種類か作り、スープにシチューに煮込み料理も後は温め直すだけ。
子供達は各々好きなメニューを選んで食べることができ、従業員や教員にも充分に行き渡る量の食事だ。
これだから子供達もデイビッドが来るのを心待ちにしている。

デイビッドはいずれここの事業主となる。
そのため、いくらライラが気になっても1人を贔屓するわけにはいかない。
ライラに与える分、施設全体に等しく恩恵がなければ。
しかし与えるだけで終わりにしないのがデイビッドのやり方だ。
乳幼児から14歳までの子供達がいるここは、デイビッドにとって非常にありがたい場所だ。
食品、医療品薬品に魔道具、それらの実績を上げるには持って来いの言わば実験場。
そのため、絶対に危険がない事を実証してから使用しなければならないので、開発にも身が入る。
中でも病弱な子供や持病を持つ子供の療育には力を入れていて、成果も上がっている。
ジェイムスはここを慈善事業として置いていたが、そんな勿体ない事はしない。
最近では畑も広げ、作物と肥料の試験と、薬草の栽培も進めていて収入も見込んでいる所だ。

「あらあらまぁまぁ!お料理までこんなにたくさん、いつもありがとうございます!この子もこんなに大人しくなって…」
「何か必要な物があったらいつでも言って下さい。では、また来ます。」

目を覚ましたライラを院長に渡し、遊んでいるヴィオラを呼んで帰り支度を始めると、子供達が寄って来た。

「もう帰っちゃうの?」
「お姉ちゃんまた来てね!」
「ねぇ!おいちゃんはお姉ちゃんのコイビトなの?」
「ちがうよ!コンヤクシャって言うんだよ!」
「いつかケッコンするの?」
「お姉ちゃん、もっとカッコいい人いなかったの?」
「おいちゃんやめてボクとケッコンしようよ!」

子供だけに容赦のない言葉が突き刺さるが、ライラは2人が揃うと、とても喜んでにこにこ手を降ってくるようになった。

「覚えててくれてるのかしら。」
「まさか…ヴィオラが優しいから懐いてんだよ。」
「でもいつもデイビッド様の方に行っちゃうんですよね。」
「デカいぬいぐるみかなんかと思われてんじゃねぇの…?」


帰りは馬車は使わず、郊外のマーケットの中を通り、少し買い物をしながら歩いて行く。

「…なぁ、ヴィオラ…来週いっぱい休みだろ?何か予定とかないのか?」
「うーん…皆お祭りの方に行っちゃいますし、あんまり外には出られないし…いつも通りデイビッド様のお部屋に居ます!」
「そっか…なら丁度良かった…」
「なにかあるんですか?」
「んー…まぁちょっとな…」

ヴィオラも薄々感づいてはいるが、敢えて口には出さないでいる。
来週はヴィオラの誕生日。
それをデイビッドが知らないはずがない。
期待で胸が膨らんでしまうのも仕方がない。


紙袋に詰めた揚げ菓子と、スパイスの香りを嗅ぎながら、2人で歩く道すがら遠くで魔術の花が空に舞うのが見えた。
王都の祭りの演出か何かなのだろう。

目と鼻の先に自分達を阻害する大きな壁が立ちはだかるこの環境を、デイビッドはずっと忌々しく思っている。
何故、ここまで自分を嫌う人間達の目の前に縛られていなければならないのだろうか。
どうせなら、ヴィオラを連れて誰の目も気にせず道を歩ける場所に行きたい。
この1年、ただそれだけを願って止まなかった。


ヴィオラを寮まで送ると、ついでに寮母のミセス・セルマに土産と品を渡した。

「おや、いつも悪いね!」
「いえ、こちらこそ…」

セルマは箱を受け取ると、にっこり笑って直ぐに勝手口に引っ込んでしまう。

婚約者が寮にいる男共は、皆このセルマに頭が上がらない。
本来男子禁制の建物周辺に現れても目溢ししてもらうため、どいつも様々な挨拶という名のご機嫌取りをして来るものだ。
中でも一番多いのが甘い菓子と流行りの食べ物、酒、ハンカチ、それから何故か花。
もらえる物はもらって置くが、在り来りでつまらない。
セルマは酒は飲まないし、ハンカチなどパッチワークにする程積み上がり、花も返って世話が大変だ。

そんな中、群を抜いて気に入ったのがミス・ヴィオラの婚約者。
始めての挨拶に持ってきたのが、石鹸とハンドクリーム、そして洗剤と傷薬だ。
その後も、肉の加工品などの食材や、新鮮な野菜、瓶詰めの調味料に新鮮なオリーブオイルなど、台所を預かる身としては嬉しい物ばかり持って来る。
洗剤は洗濯用、食器用とあり、どこから仕入れるのか従来の物より泡立ちも汚れ落ちも段違いだった。
洗濯物が真っ白になる度に清々しい達成感を感じるセルマにとって、これは本当に嬉しい贈り物だ。
「男は見た目より中身」という格言を持つセルマは、前世は主婦だったのではと錯覚する程細やかに気にかけてくれるこの醜男を、密かに応援していた。
気に入らない点はひとつだけ、押しの弱さ…
そろそろ彼女を連れて無断外泊くらいして見せろ!と言うのが本音だったりもする。


デイビッドが部屋に戻ると、エリックがにこにこしながら銀箔押しの大きな封筒を掲げて見せて来た。

「お帰りなさいデイビッド様!こんなん来てましたよ?!」
「うげぇっ!捨てろそんなもん!!」
「もう受け取っちゃいましたよ。相変わらず不敬な人ですねぇ…」

エリックが持っているのは王家からの招待状。
王都を上げて行われる式典に貴族として出席せよと言う御達しだ。

「ついでに言うと、アザーレア殿下とサラム殿下とシャーリーン妃からもお手紙が来てますよ?!」
「どうせ式典に出るから逃げずに来いって釘刺してきたんだろうな…嫌だぁ…」

彼らとて、王族として招かれた国に遠路遥々やって来るのだ。
1年振りに会える友人を逃したくはないのだろう。
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