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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜
真夜中の訪問者
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サラム達の口からこんな話が出たのにも訳はある。
実はクロードに何故あの様な愚かな行為を実行したのか問い詰めた所、“ヴィオラ令嬢の婚約者が死んだ”という噂を聞いたからだと答えたそうだ。
そこへ更に教育係達から「婚約者が死んで傷心の今なら、救いの手を差し伸べればきっと過去のことも水に流し、なびいてくれるに違いない」と言う話を聞かされ、あの様な愚行に及んだのだという。
過去の2度に渡るやらかしによって嫁の来手も無く、醜聞だけが広がり続けているクロードにとって、その元となった事件の被害者と和解し婚約する事は、過去の愚行に許しを得て、共に手を取り合えるまでの仲になったと周囲にアピールできる上、王子としての地位の挽回を図るチャンスにもなる。
果たして、その“噂”はどこから流れたものだろうか…?
「既に出回っている噂を軽く上書きしてやるだけの事、造作もなかろ?」
「そもそも死んでもいない奴を、なぜ死んだと言えるのだろうな?つまりこの城の中にも、凶刃に倒れた奴の死を望む連中がある程度いるという訳だ。更に言えば、黒幕にも奴を確実に仕留められたと確信させ、油断させられる!この好機に奴の敵を根こそぎ叩き潰してしまえ!」
「そんな簡単に言うけどな!?人ひとり、それも貴族の次期当主を死んだ事にするなどできると思うか!?」
「案外本人も同じことを考えるのではないか?婚約者のためとなれば、自分が囮になるくらいワケなくやって退けそうだがな!?」
不機嫌を隠さないアザーレアとニヤニヤ笑うサラムにアーネストは押されてしまいっ放しだ。
「婚約者のため…?」
「奴が何より欲しているのはヴィオラの安寧だ。教会の戯言を真に受け彼女を疎外する全てに反撃できる手があるのなら、喜んで受け入れると思うが、どうだ?」
「少なくとも自分の死を喜ぶ貴族を炙り出す良い機会ではないか!郊外に逃げる事も、自領に戻る事も許されず、敵前に縛り続けられねばならんと言うなら、そのくらい許されても良いだろ?!」
そうは言いながらも、家の都合と国の都合と、更には貴族の都合に振り回され、身の置きどころのないデイビッドを、他国の友人達はいつ家を捨て、国を出て来はしないかと手ぐすね引いて待っている。
いっその事、国が放り出してくれても良いのに…と。
アーネストはその透けた腹の内が見え隠れする王族達にカエルを狙うヘビのように見つめられ、居心地を悪くした。
「しかし、おかしな国よのうラムダは。まるで王都に住まう者こそ人類の上澄みとでも言わんかのようだ。これで民草に示しが付くのか?!」
「…その調節を取り、郊外をまとめ国に貢献してくれているのが他でもないデュロックだ…」
「そこまで世話になりながら、未だにその有用性も重要性も理解できんのか?!アホばかりだな!?」
「その扇動をしていたのが他でもない教会だったからな…」
「なんだ?デュロックと女神信仰は不仲なのか?」
「いや…嫌われているのはデイビッドだけだ…悪魔の生まれ変わりと言われて…王都では特に貴族を中心に嫌われている…」
それを聞いたサラムはアーネストに掴み掛かり、凄みのある声で迫った。
「それを見て見ぬふりして国は甘い汁だけ吸ってきたって…?ラムダの王族は家臣を奴隷扱いするのか!?」
「よ…余計な手は出すなと言われて…」
「それを鵜呑みにして放置か?呆れたもんだ…なぁ、ここらで本当に死んだ事にでもして自由にしてやれよ。そしたらアイツはどこへ向かうだろうな…アデラに来たら即取り立てて俺の参謀にしてやる!」
「バカな事を申すなサラム殿。それこそ奴の望まぬ処遇だぞ?それにもう腹は決まっているようだしな。好きにさせてやるのが一番良い。」
アザーレアにたしなめられ、サラムはアーネストから手を離すと一層不機嫌に横柄な態度で座り直した。
「それこそ奴はこの国から出る気は無いだろう。それも愛国心などでは無く、ただひとりの令嬢の為に己の全てを投げうつ覚悟を決めたのだ。そこは理解してやらねば。」
「フン!致し方無い…ただし!例の教会派閥と敵対勢力は王家が責任持って削げるだけ削いでおけよ?!特に刺客を差し向けた黒幕は必ず潰せ!それだけは約束しろ!いいな?!」
「アーネスト、そろそろ時代は我等へ移る。ここらで軽く泥浚いをして置くのも良いだろう。特に暦年の汚れとは落ちにくいモノだ。少しずつでも良い。膿は出しておくに限るぞ?」
アーネストはそれを聞いて力無く頷いた。
「提案は受け入れる。その考えにも、賛同しよう。ただ、本人の意志も確認したい。どうしても拒否するようなら、無理に進めることは出来ない!それでもよろしいか?」
「それなら私共が余計な気を回しただけという事で済まそう。ただし、説得は試みることだ。」
「…わかった」
アーネストの合図でエリック達が結界を順に解いていくと、ドアの隙間からは弟妹達が顔を出して、心配そうにしていた。
「兄上、お話は終わりましたか?」
「姉上…なんのお話があったか、我々にも聞かせて頂けるのでしょうか…?」
「お兄様、お顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?!」
アーネスト達が弟妹を連れ、それぞれの用意された部屋へ戻っていくと、後にはエリックとシェルリアーナが残された。
「今の話、聞いて良い話だったんですかね?」
「バカね!王族が結界の中で交わした会話なんて、絶対守秘に決まってるじゃない!聞かなかったことにするのよ!」
涙目で足の震えるシェルリアーナを支えながら、エリックも自分達の部屋へ戻ると、外はもうすっかり夜になっていた。
真夜中、ヴィオラは喉の渇きと寝苦しさで目が覚めた。
暗闇の中に灯る淡いランプの明かりを頼りに、サイドテーブルへ手を伸ばすと、水差しが空になっていたのでベルを鳴らすか迷っていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。
メイドが入って来るのかと思い、黙って待っていると、ドアが開いて暗がりの中メイドではない影が動いて入って来た。
ヴィオラは咄嗟に身構えたが、直ぐにそれが誰かわかり、ベッドから跳ね起きた。
「デイビッド様ぁっ!!!」
「シーッ!ヴィオラ、声が大きい!外のメイドに水運ぶだけって事にしてもらってるから、あんま騒げねぇんだよ…」
デイビッドがトレイをサイドテーブルに降ろすと、手が空いた隙にヴィオラが思い切り抱き着いた。
「良かった…無事で良かった!デイビッド様!会いたかったです…」
「心配かけて悪かった…もう大丈夫だよ。ヴィオラも大変だったな。何もできなくてごめん…」
「デイビッド様が…居なくなっちゃったら…どうしようって!怖くって…ウッ…絶対に大丈夫って信じてるのに…ヒグッ!怖い考えがずっと消えなくて…ウゥッ…良かった…デイビッド様が元気になって良がっだぁ!!うぁぁぁ…ん!!」
「ちょっ…ヴィオラ!?もう少し静かに!俺も黙って部屋抜けてきたからここで見つかると非常に不味い……」
「何がマズいですって…?」
「ホラなんか来た!!!」
防護魔法3重展開のヴィオラの部屋には、特定のメイド以外が入ると侵入者と認識され、護衛に知らせが入るようになっている。
隣室に陣取ったシェルリアーナが、苦虫を潰したような顔でデイビッドの事を睨んでいる。
「夜中に女の子の寝てる部屋に入るなんて何考えてんの?!」
「入るつもりなかったって!!外のメイドに作ったモン渡して戻る気でいたよ!そしたらせっかくだから顔見てけって言われて、こっちもサッと置いて出てくるつもりだったんだって!ドアは開けてあるし、なんならメイドだってまだ廊下にいたろ?!」
トレイには、果実とハーブの浸った冷たい水と、器に盛られたゼリーが乗っていて、デイビッドがかなり前から起きて動いていたことがわかる。
「シモンズ先生は?いらっしゃらなかったの?」
「いや…見つかって一回どやされた…」
確かに、デイビッドの左額には真新しいコブができている。
どやされついでにシモンズからヴィオラの事情を聞かされ、居ても立ってもいられず、その後懲りずにまたベッドを抜け出したそうだ。
2度目の挑戦で脱出に成功したのは、隙をつけたのか、はたまた見逃してもらえただけなのか…
デイビッドは直ぐに向かった厨房で、城へ来た日に作り置いておいたゼリーを保冷庫から取り出し、切った果物とハーブ水を添えて、夜勤のメイド達に聞き回ってヴィオラの部屋へ来たそうだ。
実はクロードに何故あの様な愚かな行為を実行したのか問い詰めた所、“ヴィオラ令嬢の婚約者が死んだ”という噂を聞いたからだと答えたそうだ。
そこへ更に教育係達から「婚約者が死んで傷心の今なら、救いの手を差し伸べればきっと過去のことも水に流し、なびいてくれるに違いない」と言う話を聞かされ、あの様な愚行に及んだのだという。
過去の2度に渡るやらかしによって嫁の来手も無く、醜聞だけが広がり続けているクロードにとって、その元となった事件の被害者と和解し婚約する事は、過去の愚行に許しを得て、共に手を取り合えるまでの仲になったと周囲にアピールできる上、王子としての地位の挽回を図るチャンスにもなる。
果たして、その“噂”はどこから流れたものだろうか…?
「既に出回っている噂を軽く上書きしてやるだけの事、造作もなかろ?」
「そもそも死んでもいない奴を、なぜ死んだと言えるのだろうな?つまりこの城の中にも、凶刃に倒れた奴の死を望む連中がある程度いるという訳だ。更に言えば、黒幕にも奴を確実に仕留められたと確信させ、油断させられる!この好機に奴の敵を根こそぎ叩き潰してしまえ!」
「そんな簡単に言うけどな!?人ひとり、それも貴族の次期当主を死んだ事にするなどできると思うか!?」
「案外本人も同じことを考えるのではないか?婚約者のためとなれば、自分が囮になるくらいワケなくやって退けそうだがな!?」
不機嫌を隠さないアザーレアとニヤニヤ笑うサラムにアーネストは押されてしまいっ放しだ。
「婚約者のため…?」
「奴が何より欲しているのはヴィオラの安寧だ。教会の戯言を真に受け彼女を疎外する全てに反撃できる手があるのなら、喜んで受け入れると思うが、どうだ?」
「少なくとも自分の死を喜ぶ貴族を炙り出す良い機会ではないか!郊外に逃げる事も、自領に戻る事も許されず、敵前に縛り続けられねばならんと言うなら、そのくらい許されても良いだろ?!」
そうは言いながらも、家の都合と国の都合と、更には貴族の都合に振り回され、身の置きどころのないデイビッドを、他国の友人達はいつ家を捨て、国を出て来はしないかと手ぐすね引いて待っている。
いっその事、国が放り出してくれても良いのに…と。
アーネストはその透けた腹の内が見え隠れする王族達にカエルを狙うヘビのように見つめられ、居心地を悪くした。
「しかし、おかしな国よのうラムダは。まるで王都に住まう者こそ人類の上澄みとでも言わんかのようだ。これで民草に示しが付くのか?!」
「…その調節を取り、郊外をまとめ国に貢献してくれているのが他でもないデュロックだ…」
「そこまで世話になりながら、未だにその有用性も重要性も理解できんのか?!アホばかりだな!?」
「その扇動をしていたのが他でもない教会だったからな…」
「なんだ?デュロックと女神信仰は不仲なのか?」
「いや…嫌われているのはデイビッドだけだ…悪魔の生まれ変わりと言われて…王都では特に貴族を中心に嫌われている…」
それを聞いたサラムはアーネストに掴み掛かり、凄みのある声で迫った。
「それを見て見ぬふりして国は甘い汁だけ吸ってきたって…?ラムダの王族は家臣を奴隷扱いするのか!?」
「よ…余計な手は出すなと言われて…」
「それを鵜呑みにして放置か?呆れたもんだ…なぁ、ここらで本当に死んだ事にでもして自由にしてやれよ。そしたらアイツはどこへ向かうだろうな…アデラに来たら即取り立てて俺の参謀にしてやる!」
「バカな事を申すなサラム殿。それこそ奴の望まぬ処遇だぞ?それにもう腹は決まっているようだしな。好きにさせてやるのが一番良い。」
アザーレアにたしなめられ、サラムはアーネストから手を離すと一層不機嫌に横柄な態度で座り直した。
「それこそ奴はこの国から出る気は無いだろう。それも愛国心などでは無く、ただひとりの令嬢の為に己の全てを投げうつ覚悟を決めたのだ。そこは理解してやらねば。」
「フン!致し方無い…ただし!例の教会派閥と敵対勢力は王家が責任持って削げるだけ削いでおけよ?!特に刺客を差し向けた黒幕は必ず潰せ!それだけは約束しろ!いいな?!」
「アーネスト、そろそろ時代は我等へ移る。ここらで軽く泥浚いをして置くのも良いだろう。特に暦年の汚れとは落ちにくいモノだ。少しずつでも良い。膿は出しておくに限るぞ?」
アーネストはそれを聞いて力無く頷いた。
「提案は受け入れる。その考えにも、賛同しよう。ただ、本人の意志も確認したい。どうしても拒否するようなら、無理に進めることは出来ない!それでもよろしいか?」
「それなら私共が余計な気を回しただけという事で済まそう。ただし、説得は試みることだ。」
「…わかった」
アーネストの合図でエリック達が結界を順に解いていくと、ドアの隙間からは弟妹達が顔を出して、心配そうにしていた。
「兄上、お話は終わりましたか?」
「姉上…なんのお話があったか、我々にも聞かせて頂けるのでしょうか…?」
「お兄様、お顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?!」
アーネスト達が弟妹を連れ、それぞれの用意された部屋へ戻っていくと、後にはエリックとシェルリアーナが残された。
「今の話、聞いて良い話だったんですかね?」
「バカね!王族が結界の中で交わした会話なんて、絶対守秘に決まってるじゃない!聞かなかったことにするのよ!」
涙目で足の震えるシェルリアーナを支えながら、エリックも自分達の部屋へ戻ると、外はもうすっかり夜になっていた。
真夜中、ヴィオラは喉の渇きと寝苦しさで目が覚めた。
暗闇の中に灯る淡いランプの明かりを頼りに、サイドテーブルへ手を伸ばすと、水差しが空になっていたのでベルを鳴らすか迷っていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。
メイドが入って来るのかと思い、黙って待っていると、ドアが開いて暗がりの中メイドではない影が動いて入って来た。
ヴィオラは咄嗟に身構えたが、直ぐにそれが誰かわかり、ベッドから跳ね起きた。
「デイビッド様ぁっ!!!」
「シーッ!ヴィオラ、声が大きい!外のメイドに水運ぶだけって事にしてもらってるから、あんま騒げねぇんだよ…」
デイビッドがトレイをサイドテーブルに降ろすと、手が空いた隙にヴィオラが思い切り抱き着いた。
「良かった…無事で良かった!デイビッド様!会いたかったです…」
「心配かけて悪かった…もう大丈夫だよ。ヴィオラも大変だったな。何もできなくてごめん…」
「デイビッド様が…居なくなっちゃったら…どうしようって!怖くって…ウッ…絶対に大丈夫って信じてるのに…ヒグッ!怖い考えがずっと消えなくて…ウゥッ…良かった…デイビッド様が元気になって良がっだぁ!!うぁぁぁ…ん!!」
「ちょっ…ヴィオラ!?もう少し静かに!俺も黙って部屋抜けてきたからここで見つかると非常に不味い……」
「何がマズいですって…?」
「ホラなんか来た!!!」
防護魔法3重展開のヴィオラの部屋には、特定のメイド以外が入ると侵入者と認識され、護衛に知らせが入るようになっている。
隣室に陣取ったシェルリアーナが、苦虫を潰したような顔でデイビッドの事を睨んでいる。
「夜中に女の子の寝てる部屋に入るなんて何考えてんの?!」
「入るつもりなかったって!!外のメイドに作ったモン渡して戻る気でいたよ!そしたらせっかくだから顔見てけって言われて、こっちもサッと置いて出てくるつもりだったんだって!ドアは開けてあるし、なんならメイドだってまだ廊下にいたろ?!」
トレイには、果実とハーブの浸った冷たい水と、器に盛られたゼリーが乗っていて、デイビッドがかなり前から起きて動いていたことがわかる。
「シモンズ先生は?いらっしゃらなかったの?」
「いや…見つかって一回どやされた…」
確かに、デイビッドの左額には真新しいコブができている。
どやされついでにシモンズからヴィオラの事情を聞かされ、居ても立ってもいられず、その後懲りずにまたベッドを抜け出したそうだ。
2度目の挑戦で脱出に成功したのは、隙をつけたのか、はたまた見逃してもらえただけなのか…
デイビッドは直ぐに向かった厨房で、城へ来た日に作り置いておいたゼリーを保冷庫から取り出し、切った果物とハーブ水を添えて、夜勤のメイド達に聞き回ってヴィオラの部屋へ来たそうだ。
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