黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
265 / 512
黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活〜怒涛の進学編〜

休暇

呆れ顔の男性が、冷ややかな目でクロードを見ている。

「そう仰るのなら、謝罪はされたのですか?」
「当たり前だろう?向こうも快く許してくれた。これでもうお互いわだかまりは無いはずだ。」
「…本気でそう仰られているのですか?」
「当然だろう?!向こうが謝罪を受け入れたのだから、あの話は終わったんだ!なのに、あのアデラ人の猪女め!私の求婚を邪魔しおって…アデラに抗議して何か償いをさせねば気がすまない!」

その様子を少し離れた所からアリスティアも冷然と見ていた。

「…私は…昔のクロードお兄様に何か幻想を抱いておりました。優しくて、勉学に悩む私を励ましてくれた頼りがいのある兄だと…でもそれは私が幼いが故の思い違いのようでした。アーネストお兄様は、クロードお兄様が例え毒物が身体から抜けても外に出すとこに反対しておりました。でも私は…両親と共にな判断ができるようになれば、例え王族としてではなくとも外に出ても良いだろうと…。」

王族の発言は絶対だ。
王が、王妃が、姫がそう言ったのだから、と小賢しい者達はワザと意味を極端に捉えたり、揚げ足を取ろうとする。
だからこそ自身の言葉の重さを自覚し、民を導く者として相応しくあるべく振る舞いが求められ、そのための教育を施されるのだ。

「クロードを外に出したのは、アーネストお兄様をいち早く王へと推す一派の仕業とわかりました。現王には既に側近も直下の臣下もおりますから、新たな王を据える際に、自分達に都合の良い人材を捩じ込もうと躍起になっている様で…」

アーネストは聡明だが、やや優柔不断なところがあり、本人もそれを自覚しているからこそ、自身に苦言を呈してくれる視野の広い側近を欲しがっている。
これまでも何人か試しに入れてみたが、どうにも合わず、今まではアリスティアがその役目を果たしてきた。

「クロードが失態を犯せば犯すほど、王の信用は下がります。そこを突いて代替えの時期を早め、隙の多いアーネストお兄様を担ぎ上げ、あわよくば傀儡にせんと目論む輩がいるようです。私ももっと気を引き締めて参りませんと、この国が腑抜け共の言いなりになってしまう…」
「…その様に気負われませんように…たかが箱庭の中で何を目論もうと、根幹は揺るぎませんわ。この国の根となり、民を支えているのはなにも王だけではございませんから…」
「そうね…その通りだわ…」

そう言ってアリスティアは次兄の最後の姿を目を焼き付けた。

「明日、幽閉先へ移送します。二度と世間に出てくる事は叶いません。これが最後です。…今まで大変ご迷惑おかけしました。」

シェルリアーナは何も言わずアリスティアにハンカチを差し出すと、その震える肩をそっと抱きしめた。



馬車が学園の裏手から中に入ると、甲高いファルコの嘶きと小屋の壁を爪でこする音が聞こえて来た。

「ありゃりゃ…世話は騎士科の生徒にお願いしてたんですけど、やっぱり寂しかったみたいですね。」
「残り物悪くなってませんかね?」
「コールマン卿にカギ預けて、騎士科で適当に食ってもらったから、むしろ何もねぇだろうな…。」
「また商会に連絡入れときますよ。」

庭先から中に入ろうとすると、窓に人影が張り付いてこちらを睨んでいて、目が合ったヴィオラが飛び上がった。

「キャァッ!びっくりした!!」
「テレンス君?!お化けかと思いましたよ~!やぁ顔半分腫れまくってますね!」
「なんだ、留守番しててくれたのか?」

不機嫌な上に顔の右半分が唇から頬から瞼まで腫れ上がったテレンスが、惨敗兵の幽霊の様な顔でソファに座っていた。

「…んで…くれなかった…」
「え?」
「なんで!なんの連絡もくれなかったんだよ!アンタが死んだって、みんな大騒ぎだったのに!」
「説明が面倒くせぇな…」
「王太子命で死んだ事になってた、でいいんじゃないんですか?」
「は…?王太子命?!なんで?!」
「敵と味方を白黒させた上で、小蝿共を黙らせるためだよ。いい加減うっとおしくてな…にしてもお前無茶したなぁ?!顔の形変わってんじゃねぇか。」
「うるさいな…人の死を喜ぶなと苦言を呈しただけだ!そしたらぶ…豚の肩を持つ負け組とか言われて…」
「で、殴られたのか?」
「でも、相手は暴力を振るった事で停学にできたから、気分は悪くないね!」
「大変でしたねぇ、ホラじっとして、今薬を貼ってあげますから。」

エリックがテレンスの顔に新しい膏薬を貼り付けている間に、ヴィオラとデイビッドはオーブン周りを確認した。

「わぁ…ホントになんにもない…」
「塩と香辛料くらいしか残ってねぇな。ま、古くなる前に一掃できて良かった。」
「どうします?今日こそ食堂でも行きますか?」
「いや、このまま郊外まで行って、今日は買い出しだな。」
「わぁい!久々のお買い物、楽しみです!直ぐに着替えてきますね!?」

ヴィオラが戻る前に学園長と教員達に報告をするため、デイビッドは廊下に出た。
すると、廊下の先の曲がり角に物が積まれ、カーテンの様な布が掛けられて道を塞いでいる。

「なんだありゃ?」
「簡易の立ち入り制限。ああしないと、この部屋まで勝手に撤去しようって奴がけっこういたから…それっぽく見せて人が来ないようにしといたんだ…」
「そんな事までしてくれたのか。助かった、ありがとよ!」
「いいよ、別に…ここがなくなったら、僕が色々困るだけだから…」

テレンスはそっぽを向き、ボソボソ話しながら掛けられた布をめくって外に出た。

布には大きく“この先改装中立ち入り禁止”と書かれ、何故か足元に花がいくつも添えられていた。

「…完全に死んだ事になってねぇか…?」
「善意あっての物もあるんでしょうねぇ…笑っちゃダメなんでしょうけど、笑っていいですか?!」
「けっこういるんだよ。ショック受けて泣いてた子とか、不安で授業に集中できなかった子とか。」
「なんか悪ぃことしたな…」
「当たり前だよ!刺客に襲われて刺されたなんて噂まで出てきてさ!ホントに大変だったんだからな!?嘘なら嘘ってちゃんと説明しないと、学園中大混乱だぞ?!」
「刺客に襲われて刺されたのは本当だから、そこはどうにもなぁ。」
「一番あり得ないトコが事実なの?なんで?!」

テレンスはカリカリ怒りながら自分の教室に戻って行った。しかし、その足取りは軽く、どこか嬉しそうだった。


デイビッドが緑の廊下を歩いて行くと、大勢の足音と騒がしい声があちこちの教室から聞こえ、いくつもの視線がドアから窓から押し合いへし合いデイビッドの方へ集まった。

「デイビッド先生ぇー!!」
「やっぱり生きてた!」
「だから言ったじゃん!絶対に大丈夫って!」
「わぁぁん!先生おかえんなさい!」
「エラい騒ぎになってんなぁ!」
「だっでぇ、政務科の先輩がお城で死亡が確認されだどが言ってて…」
「城勤め系の連中か。適当言いやがって…」
「良かったぁ!先生が本当に死んじゃってたらどうしようかと思った!」
「どうもしねぇだろ。臨時講師が1人いなくなるだけだ。」
「そんな事言わないでぇ!」

生徒に圧されながら青い廊下に差し掛かると、今度は悲鳴の様な声が上がり、幽霊でも見るような目と落胆した顔が見え隠れしている。
壁に張られたビラには、葬式用の装丁にデイビッドの写真が張られ、大きく「黒豚ついに死す!」と書かれていた。
(残念だったな…生きててよ。)
紙切れを剥がしてデイビッドは教員室へとゆっくり歩いて行った。

学園長室のドアをノックすると、穏やかな声をしたアルフレッド学園長がデイビッドを招き入れた。

「まずは顔が見られて安心しましたよ。噂とは言え、人の死を告げられるのは良い気はしません。ましてや未来を背負う若い世代が仲間を貶す姿は、例え生徒でも見苦しいものがありましたからな。」
「ご心配お掛けしました。この通り無事戻って来ました。」
「無事…と言うのは“無傷で”と言う意味ですよ?」
「はぁ…まぁ…この通り治ってはおりますので…」
「シモンズ先生より、半月の療養と休業を徹底させるよう言い使っておりますでな。明日からしばらく学園には通わず、のんびり過ごされると良いでしょう!」
「は?休業?半月?!そんな…」
「学園内のゴタゴタもありますので、ここはひとつ受けてはもらえませんか?」
「あ…はい…わかりました。」

穏やかに話す学園長に、デイビッドは何かあると悟り、急な休業を受け入れた。
恐らく今回のこの騒動、学園も巻き込んで何かしらの措置が取られるのだろう。
そこにデイビッドがいては何か都合の悪い事が起きてしまう可能性があるらしい。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。