黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

破落戸

荷馬車の上で、ヴィオラは休みの間何がしたいか、デイビッドに一生懸命語っていた。
森を探検して、湖で泳いで、釣りをして、もしも雨が降ったら1日中本を読んで過ごすのもいい。
ベリーや木の実も摘みにも行きたいし、採れた物でまたパンやお菓子を焼いてみるのもいい。
あれもこれも並べて話す内に、辺りはすっかり暗くなって来た。

「それじゃ、また明日なヴィオラ。」
「明日は絶対に冒険に連れてって下さいね!?」
「わかったよ。そのためにもよく休まないとな、お休み。」
「はい!お休みなさい!」

笑顔のヴィオラを見送ると、デイビッドは急いで家畜小屋まで行き、空の鳥カゴに、群れで特に元気の良い雌の大砂鳥を4羽と一番喧嘩っ早い雄を1羽入れ、ファルコの鎖を外して荷馬車に繋ぎ、そのまま温室へと向かった。

「アリー、大丈夫か?約束通り迎えに来たぞ?!」
「アリー…ココニイル…」
「もちろん。ただ、たまには外に出てみるのも悪くないぞ?」
「デイビッド アリート サヨナラシナイ…?」
「しないよ。一緒にちゃんとここに帰って来よう?な?」
「デテイイノ? アリー ソトニデテイイノ?」
「特別な?今までたくさん我慢させてきたんだ、たまには思い切り動き回りに行こうぜ?」

アリーは恐る恐る温室のドアから外に出ると、パァッと明るい顔を見せた。

「ソラガヒロイ カゼガキモチイイ…」
「本当だねぇ。アルラウネと屋外に出られるなんて、本当に夢の様だよ!」
「なんかいた!」

荷馬車には、はち切れんばかりの大荷物を抱えたベルダが先に乗り込み、ファルコに迷惑そうな顔をされながらノートに何か書いて待っていた。

「おい、なんでお前までついて来ようとしてんだよ!」
「万が一の保護監督者として、アリーを護るために同行しようと思って。」
「邪魔だ帰れ!」
「そんな事言わないでよ!自然界におけるアルラウネの活動記録を取るチャンスなんて普通は無いんだよ?!それに、アリーはこう見えて寂しがりだからね!誰かが側に居た方が安心するんだ!」
「メガネモイッショ アリー チャントオセワスルカラ ツレテッテイイ?」
「世話される側かよ!!しょうがねぇなぁ…」

確かに、万一どこかで人と出くわす可能性を考えると、人の目がある方が安心ではある。

「森の奥にある湖周辺なら人目も無いはずだ…地図渡すから、隣領まで抜けて行かないよう気をつけてくれ。迷子にはなるなよ?」
「わかった!へぇ…結構広いとこもらったんだね。」
「押し付けられたんだよ!本当に森と湖しか無くて参ってるとこだ…」
「力になれることがあったらいつでも呼んでよ!って言っても君、連絡手段無いのかぁ!アハハハ数日毎に様子見に来るから、手伝うことあったら言って!」
「だったら、森に入る前に一仕事あるから、そっちに手ぇ貸してくれ。」
「いいよ!何すればいい?」
「…掃除だよ。」

すっかり暗くなった草むらを、カンテラで照らしながら進んで行くと、マロニエの木の下のなにもない所にいきなり馬車が現れた。

「はぁ~…外から見るとこんな風になってんのか!?」
「なるほど、認識阻害か。」

まずは大砂鳥達の囲いを立てて中に放し、藁を敷いて餌をやり、ファルコを放してやるとムスタの隣で大人しく丸まった。
タンクから水を汲んでヤカンを竈門に掛け、腰にナイフを差し、今度は森の方へ向かって行く。

「さてと、早い内に片付けに行くか。」
「え?何か始まるの?!」

訝しむベルダを他所に、昼間見つけた建物に忍び寄ると、明かりと煙が見え、人の話し声がする。

「へぇ…こんな人気の無い場所の空き家に居着く人間って、あんまり印象良くないね。」
「家無しの移民や行商の宿代わりくらいならまだ見逃してやれる。でもな…昼間から気配消してこそこそしてるとこ見ると、怪しさしか無くてよ。」
「じゃ、中覗いて見ようか!」

ベルダがそう言うと、アリーがにっこり笑って2人をツタで抱え、屋根の上まで持ち上げた。

「…アリー!いきなり人を吊り上げるのはヤメような?!」
「そんなビックリしなくてもいいじゃない。天井近くの花とか高い木の上の観察なんかで良くやってもらうんだよ。」
「普通の人間はいきなり足が地面から離れたら驚くんだよ!!」

屋根伝いに高窓から中を除くと、一見商人風の男達が酒を飲んでいるのが見えた。
旅の荷物と、商品だろうか部屋の隅に積まれた箱。
そしてとても商人には似つかわしからぬ剣と斧とライフル。
酒を飲み交わす男達も、よく見ると数人が腰のベルトに通したガンホルダーに短銃を差している。

「黒だな…」
「わぉ!ここまで野盗らしい野盗って初めて見た!」
「様相の良い奴が引き込み役で、商人や金持ちのいそうな馬車に潜り込むんだよ。で、油断した所で仲間を呼んで襲わせんだ。」

男達はラムダ語ではなくキリフのそれも山岳訛りが強い言葉で話しているので、恐らくそちらから流れてきたのだろう。

「俺が正面から声かけてみるから、なんかあったら頼むぞアリー!?」
「ワカッタ! アリー ガンバル!」
「僕もいるよ!?」

屋根から降りたデイビッドは、背中に忍ばせたナイフを確認すると、明かりの漏れる入り口のベルを鳴らし、ドアを強く叩いた。

「おーい!中に誰かいるのか!?出て来てくれ、話がある!」

すると話し声がピタリと止み、若いアデラ人風の男性が現れた。

「おや…?こんな夜に、それもこんな山奥になんの御用でしょう?」
「夜分に悪いな。俺はこの辺りの管理を任された貴族から頼まれて土地の調査に来た冒険者なんだ。役人からは無人と聞いてたのに、まさか明かりが灯いてて驚いた。ここで何してるか教えてくれないか?」
「ああ、我々は怪しい者ではありませんよ。行商の分隊で、今夜は宿がなく仕方ないので空き家にお邪魔しただけなんです。勝手に上がり込んで申し訳ない、良ければ中に入って確かめて下さい。」

ドアが大きく開かれ、デイビッドが足を踏み入れようとしている間、酒盛りの手を止めた男達は、2人はドアの後ろに、1人は壁際に、残りは死角からいつでも襲いかかれるように獲物を手に構えていた。

「上から見ると間抜けだねぇ、アリー。」
「ゼンブ ツカマエル?」
「そうしてくれるかい?」

若い男は背中にナイフを握りながら、この間抜けな獲物を部屋に招き入れ、さぁどうするつもりだったのか。
昼間の内に馬車が来ていたことはとっくに知っていて、目星は付けていた事だろう。
なら、騒がれる前にさっさと殺してしまう方が安全で確実だ。
(女は居なくなったようだが、まぁいい。馬とあの馬車が手に入れば早くここから出て行ける…)
男はそんな事を考えながら、振り向きざまにデイビッドの背中にナイフを突き付けた。

「オイ、大人しくしろ!他の仲間はどこだ?吐かねぇと袋叩きにしちまうぞ?」
「お前一人でか?」
「は?!」

男は何が起きているのかわからないという顔で、部屋の中をぐるぐる見渡した。
さっきまでいたはずの仲間は、部屋のどこにも一人もいない。

「な…おい!どこだ!?お前等どこ行った!!」
「よそ見してていいのかよ?」
「あっ……」

男がうろたえる隙に、デイビッドがその首筋にナイフの柄を叩き込むと、一撃で倒れ込み動かなくなった。
倒れた男の上から、更に気を失った男共がドサドサと落ちて来る。
全員アリーがツルで締め上げ、声も出させずに意識を奪って吊し上げていたのだ。

「良くやったな!アリー!」
「アリーエライ? デイビッドノ ヤクニタッタ?」
「もちろん!流石だなアリー!ここまで頼もしい相棒はいねぇよ!」

アリーは嬉しそうに天井の梁から降りてくると、デイビッドに抱き着いた。

「イイコイイコシテ!」
「あー…そういや前は良くやってたな…」
「モウシテクレナイノ サミシイ」
「わかったわかった…」

様相が変わっても、どんなに人の目に禍々しく映ろうと、人の言葉を覚えて成長しようと、アリーはあの日連れて来たアリーのままだ。
デイビッドに撫でられて大喜びしたアリーは、呻く男共を端からツルでぐるぐる巻きにして外へ放り出した。
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