黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

不在中の騒動

黄金色の花茶を淹れヴィオラの前に注ぐと、相向かいに座ったヴィオラが大きな饅頭を幸せそうにかじり出す。

「今日はとってもいい日でした!デイビッド様とずーっと2人でいられて…皆といるのも楽しいですけど、2人切りってあまりないから…」
「仕方ないだろ。まだ“婚約”中でヴィオラは未成年なんだから…」
「最近はギュッていうのもあんまりしてくれないし!」
「17才なら当然だって!学園外でも淑女の自覚は持てと教わらなかったか?」
「デイビッド様、先生みたいなコトばっかり言う…」
「これでも一応教員だからな?!」

ヴィオラがチーズ入りの饅頭に喜んでいると、転移門が動いてエリックとシェルリアーナが戻って来た。

「ただいま!あら、今日はダンプリングなのね。」
「いいですよね、片手で食べられて手が汚れなくて。サンドイッチより食べ応えあって好きですよ!」

シェルリアーナは薬の材料を取りに、エリックは読み終わった本を新しい物と交換してきたそうだ。

「ついでに手紙も貰って来ました。」
「束通り越して山になってんな…」
「大騒ぎでしたからね。急ぎの物も入ってるそうなので、午後は開封作業ですよ?!」
「いやだぁ…」
「僕も手伝いますから。」
「お前はゴシップ誌でも読んでろ!!」

手紙でこっそり何かの要求や謝罪、謎の文句を送り付けて来る家は少なからずある。
エリックは昔からそういう手紙を読むのが好きで、デイビッドに付いてからは特にニヤニヤと楽しそうにそういった手紙を選り分けて読んでいる。

シェルリアーナとヴィオラが冷たいゼリーで涼んでいる後ろで、デイビッドは手紙を片っ端から開けてはゴミとそうでないものと重要なものに分けていった。

「商会関係から問い合わせがすごいな。」
「そのくらい大変だったんですよ。あ、こっちは謝罪状ですね。商会に献花しちゃったんですって。ウケる~!」
「それで当人が実は生きてたなんて言われたら、贈った方は真っ青だっただろうにな…」
「こっちは…「息子には反省させた上、再教育致しますので何卒商会の支援は継続して頂きたい」ですって。どこだろう…ピー?…パレット!あ、これ、例のホワイトチョコの商会ですよ!?」
「アデラから相談を受けて、売り出しにツテと販路の一部を回してんだよ。息子の方はちーっとアレだが、親父の方は割と誠実でいい商売相手だった。」
「やらかしたなぁ~、停学受けたらしいですよ?留学までしたのに、馬鹿な事したものですね。」

シュトラールは、あれからデイビッドを排除せんと目論むグループに傾向し、そのまま噂を鵜呑みにしてあろう事かグロッグマン商会のチョコレート部門に乗り込み、技術者の引き抜きをしようとして家にバレ、激怒した父親に丸刈りにされたらしい。

「罰則で髪を切るのってどこも同じなんですね。」
「目に見える烙印みたいなもんだからな。伸びるまでには反省しろって心積もりなんだろ。」

グロッグマン商会からは、各支部からいい加減にしろとお叱りから、今後の方針の提案や指示の催促などが来ていたので返信用の箱に入れる。

「この小包は…アデラからですね。」
「開けてみるか…」

中からはアデラの王族兄弟とシャーリーンからの手紙が出てきて、各々デイビッドを心配する言葉と滞在中の礼と、長男宛ての婚約祝いについて書かれていた。


[君はあれから無事かい?これ以上心配掛けないでくれよ!?それより、兄上にすごい贈り物をありがとう。早速国中の注目を浴びて皆が乗りたがっているよ。]

[次はアデラに来い!楽しい所にたくさん案内してやる!所で、あの船はすごいな!最新式の魔導パドルで風のない日もすごい速さで波の上を滑って行くんだ!船首がちょっとうるさいけど、とても良い船だ!今度一緒に乗ろう、約束だぞ!]

[楽しい時間をありがとうございました。ヴィオラ様にもよろしくお伝え下さい。お怪我の具合はいかがですか?早く完治なさる事をお祈りします。素敵な船を贈って下さり感謝します。一番に乗らせて頂きました。次は是非アデラへいらして下さい。]

[ 覚えてろよ?! ]


「船を贈ったんですか?」
「ああ、船首に金色のサラム像を掲げた新型の魔導式パドルシップな。気に入ってもらえたみてぇだな。」
「趣味悪っ!!サラム様でしょ?!自分と同じ顔の黄金像なんて嫌じゃなかったんですか?」
「国民向けに作った王太子用の顔は似てねぇからな。」
「人を馬鹿にした時の顔はシンクロするレベルで似てるクセに…」

手紙と一緒に、王族専用のアデラまでの通行手形が入っていて、この誘いが単なる社交辞令ではない事を表している。
最後の怨念がこもったような一文を除き、皆デイビッドが来るのを心待ちにしてしている様だ。


手紙を読むデイビッドの横では、大きな鍋がゴトゴトと煮えたぎり、濃厚なスープの香りを漂わせている。

「コレって、アレですよね?!ほら、あの、ツルツルしたスープにつけて食べる…」
「カランの細切り麺な。手に入ったヤツがあるんで、食おうと思ってよ。」
「やったぁ!私大好きなんです、あの麺料理!」

いつの間にか日が傾き、スープと一緒に煮込んだ塊肉がホロホロになった頃、一度スープを濾して沈んだ骨の欠片などを取り除く。

「また豚ですか?」
「いや、実は猪なんだ。豚より旨味が濃厚で良い出汁が出てる。試しだったけど成功だな。」

デイビッドはスープの味を見ると、さっそく麺を茹で始めた。
待ち切れないヴィオラがスープボールを抱えて待機していると、シャッと湯切りをした一人前分の麺が飛び込んて来る。

「いただきますっ!!」

麺が伸びてしまう前に、一気にすすり込み、ツルツルと手繰り寄せて口に入れると、チュルンと遅れた麺が尻尾を振るが、気にせず次の麺をすする。
麺が茹だる先からスープに放り込まれ、髪を縛り直したシェルリアーナも真剣な顔で食べ出した。
呼ばれたベルダは席に着くと、しげしげと珍しい麺を眺めている。

「エルムの東方の麺料理かぁ、珍しい物食べるんだね。」
「…」
「……」
「………」
「誰か喋ろうよ。」
「コレ食い出すと会話止まるんだよな。」

薄切りにした肉の塊と、大砂鳥の大きな卵をゆでて数日調味液に浸した味付きの卵も切る端から無言で消えていく。

「なんか異様な食事風景だね。」
「サッと食うには良いんだよ。見慣れるとこんなもんだ。」

こってり半熟の卵の黄身がスープに溶けると、もうシェルリアーナの手は止まらない。

「…にしても、麺3回足した後にスープごとおかわり2杯目は流石に不安になるな…」
「よく食べるねぇ!」

ヴィオラは2杯目で顔を上げて、冷たいハーブティーを飲み干した。

「ぷはぁっ!美味しかった!!」
「いやぁ夢中で食べちゃいますね!」
「今日は早めに片付けちまうぞ?!」
「まだスープあるのに!?」
「食い尽くす勢いか!いい加減にしとけ?!」

まだ明るい内に洗い物を済ませ、エリックに凍らせるよう言いつけておいたシャーベットを出すと、シェルリアーナとヴィオラはまたスンと静かになる。
その隙にデイビッドはカンテラを片手にマロニエの木を離れて行った。


馬車が遠くなり、辺り一面緑色の草に覆われた所まで来ると、深い草地に突き出た岩に腰掛け、カンテラの火を弱めて一呼吸置く。
(うまくいってくれるといいんだが…)

デイビッドはポケットから笛を取り出すと、世界樹の方を向き、息を吹き込んだ。
滑らかにすべり出す笛の音が、風に乗り草原を駆け抜けて行く。
やがて月が登り、辺りが薄暗く夕焼けが過ぎて紫色に染まる頃、ポツリと草むらに小さな光るものが現れた。

「おっきいの!」
「よぉ、ルーチェ!良かった来てくれて。聞きたい事があってよ…」
「ダメ! ふえを とめないで!」
「え?!」
「みんな こっちをみてる! はやく つづきふいて!」
「みんな…って事はお前だけじゃねぇんだな…?」
「はやくはやく!」

ルーチェに急かされ話もできないまま、デイビッドは再び笛を吹いた。
それを見たルーチェは、パッと駆け出して草地の真ん中でくるりと回転すると、誰かに見せるようにお辞儀をした。
すると、月明かりが草むらにライトの様に差し、ルーチェの周りにもキラキラと蛍の様な光が集まって来た。
(やり方を間違えたか…?)

やがて草地全体が輝くほどの光が集まり、その中央でルーチェが華麗に踊り終わると、金属が擦り合わさるようなキンキンとした音が辺りに広がり、足元の光がさらに大きくなった。
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