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0夜 星拓の大英雄
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かつて、この世界には人と魔獣による大きな戦があった。
魔獣はその身体に魔力を宿し、奴らが小突くだけで人は絶命したと言う。
一口に魔獣と言っても、見目は様々である。
頭に角が生えた個体も居れば、硬い鱗に覆われた個体も居て、長く太い脚を持った個体も居る。
幻想上の生き物に見えるが、殆どはよくよく見知った動物に似ているのが特徴とも言えるだろう。
口から火を噴く魔獣も居れば、光線を繰り出す魔獣も居て、重力を駆使して人間をぺちゃんこにする魔獣も存在した。
槍も弓も剣も、奴らには通じない。銃も大砲も毒も、焼け石に水となるだけ。
人々は魔獣の圧倒的な力に畏怖の念を頂き、隠れることしか出来なかった。
個が駄目なら、衆で戦え! そう指揮を執った司令官は、真っ先に喰われたのだ。
余りに呆気なく戦を生業としている者が捕食され、一般市民は「何をどうしても勝てない」と悟った。
死を間際にした情緒もなく、ない力も湧かず、ナッツを貪るように同じ人間が喰われたのだ。
人類史は、途絶えてしまうのであろう。
嫌でも人々は、現実を突きつけられてしまった。
子供達にしてあげたかったことが、浮かぶ者。恋人だけはどうか生き残って欲しい。と願う者。叶わなかった夢を、憂う者。
死に際に浮かぶ願いこそが、真の願いと言えるだろう。
同じ人間が居ないように、願いもまた千差万別。
人々の共通の願いがあるとすればーー楽園に行って神様の元で平和に暮らしたい。
この一言に、限る。
窃盗犯、殺人犯、放火魔などの悪人と呼ばれる人間も楽園に連れて行ってあげて下さい。
人々を食い散らかすあの畜生共に比べたら、人間の悪業なんてやさしいものだ。
あの化け物達以上の悪など、存在しない。あの化け物は、真性の悪である。絶対悪と言えよう。
快晴の青空の下にある、大草原の小さな隠れ住む親子は魔獣の姿を見て死を悟った。
隠れ家と言うには余りにも粗末な、風が吹くだけでも傾きそうなほったて小屋。
とある学者が「魔獣は光を恐れるから、明るい場所に家を建てれば良い」なんて言っていたから、雨だらけの生まれ故郷を離れたのに。人間なんて居やしない、こんな辺境に移り住んだのに。大嘘吐きめ!
魔獣の大きな口が、ぱかりと開く。
ああ……子供だけは、逃がしてあげないと。
母親は腕から、ようやく歩き始めた子供を下ろした。
その母親をも困らす好奇心で、どこまでもお行きなさい。
どうか振り返らないでーー拾われるならば、優しい人でありますように。
私の自慢の息子。太陽のような赤い髪は、この時代の灯となるだろう。翠玉のような瞳は、人々に希望を与えるだろう。
こんな時代だけれど、生まれて来たことをどうか憎まないで。
他人に褒められなくったって、いい。感謝されなくても、いい。
自分が正しいと信じることを、出来る子になって欲しい。
母親の最期の願いは、息子のことだけであった。
私を食べて、魔獣の腹の足しに少しでもなればいい。そうすれば、息子は食べられないかもしれない。
息子への愛で、彼女の心は満ちていた。
新生物である魔獣の出現から、数ヶ月後。
救世主は、突如湧いて出た。
道具も無しに火を起こし、竜巻を発生させ、光線で魔獣達を一網打尽に焼き尽くした。
全く「魔獣と同じ力を持った」人間が、現れたのである。
数多の人々は、彼の勇気ある行動と実力を称賛した。
しかし、当然そうでない人間も居た。
魔獣が殺した人間の皮を被っているのだ! そいつは、人類の味方ではない! 騙されるな! そうでないと、人間を苦しめた魔獣と同じ力を持っている証明にはならない!
人間は自分に実践や想像出来ないことや、未知の力を畏怖するきらいがある。
今まで散々人間の命を踏み躙った力と、同じ力を持つ人間と同じ姿形をした者。
恐れるには、十分過ぎる存在だ。
今でこそ人類史を存続させた救世主と形容詞されるが、生前はそうではなかった。
彼の名前は、レンソイン ウェイノン。魔術の始祖である。
そして、この世界ーーアルストレンジを作り出した、天才中の鬼才だ。
妖しげな紫がかった銀の髪に、紫水晶の瞳は神話から抜き出て来たような天使のようだったと言う。
彼を護衛する六人の勇者達は、後に六勇者と呼ばれるようになる。
レンソイン ウェイノンが造り上げた、異能付きの対魔獣特化武器「魔装武器」を装備して、人類の存続を賭けた戦で彼らは最前線で戦ったのだ。
踏み躙られた、誇りと命に報いる戦いとも言えよう。
世界の大英雄達は、戦争の終わりと同時に姿を消したと言う。
まるで「この戦争を終わらせて欲しい」と言う、人々の願いを叶えた流星のように。
ただの骨になったのか、宇宙の塵となったのか、誰も知らない。
かのレンソイン ウェイノンすら、六勇者の消息は知らなかった。
六勇者を憂いてからか、彼らの伝記は必ずこう記されている。
「こうして、アルストレンジは平和になりました。六勇者はお星様となり、今日も人々を見っているのです。めでたしめでたし」と。
魔獣はその身体に魔力を宿し、奴らが小突くだけで人は絶命したと言う。
一口に魔獣と言っても、見目は様々である。
頭に角が生えた個体も居れば、硬い鱗に覆われた個体も居て、長く太い脚を持った個体も居る。
幻想上の生き物に見えるが、殆どはよくよく見知った動物に似ているのが特徴とも言えるだろう。
口から火を噴く魔獣も居れば、光線を繰り出す魔獣も居て、重力を駆使して人間をぺちゃんこにする魔獣も存在した。
槍も弓も剣も、奴らには通じない。銃も大砲も毒も、焼け石に水となるだけ。
人々は魔獣の圧倒的な力に畏怖の念を頂き、隠れることしか出来なかった。
個が駄目なら、衆で戦え! そう指揮を執った司令官は、真っ先に喰われたのだ。
余りに呆気なく戦を生業としている者が捕食され、一般市民は「何をどうしても勝てない」と悟った。
死を間際にした情緒もなく、ない力も湧かず、ナッツを貪るように同じ人間が喰われたのだ。
人類史は、途絶えてしまうのであろう。
嫌でも人々は、現実を突きつけられてしまった。
子供達にしてあげたかったことが、浮かぶ者。恋人だけはどうか生き残って欲しい。と願う者。叶わなかった夢を、憂う者。
死に際に浮かぶ願いこそが、真の願いと言えるだろう。
同じ人間が居ないように、願いもまた千差万別。
人々の共通の願いがあるとすればーー楽園に行って神様の元で平和に暮らしたい。
この一言に、限る。
窃盗犯、殺人犯、放火魔などの悪人と呼ばれる人間も楽園に連れて行ってあげて下さい。
人々を食い散らかすあの畜生共に比べたら、人間の悪業なんてやさしいものだ。
あの化け物達以上の悪など、存在しない。あの化け物は、真性の悪である。絶対悪と言えよう。
快晴の青空の下にある、大草原の小さな隠れ住む親子は魔獣の姿を見て死を悟った。
隠れ家と言うには余りにも粗末な、風が吹くだけでも傾きそうなほったて小屋。
とある学者が「魔獣は光を恐れるから、明るい場所に家を建てれば良い」なんて言っていたから、雨だらけの生まれ故郷を離れたのに。人間なんて居やしない、こんな辺境に移り住んだのに。大嘘吐きめ!
魔獣の大きな口が、ぱかりと開く。
ああ……子供だけは、逃がしてあげないと。
母親は腕から、ようやく歩き始めた子供を下ろした。
その母親をも困らす好奇心で、どこまでもお行きなさい。
どうか振り返らないでーー拾われるならば、優しい人でありますように。
私の自慢の息子。太陽のような赤い髪は、この時代の灯となるだろう。翠玉のような瞳は、人々に希望を与えるだろう。
こんな時代だけれど、生まれて来たことをどうか憎まないで。
他人に褒められなくったって、いい。感謝されなくても、いい。
自分が正しいと信じることを、出来る子になって欲しい。
母親の最期の願いは、息子のことだけであった。
私を食べて、魔獣の腹の足しに少しでもなればいい。そうすれば、息子は食べられないかもしれない。
息子への愛で、彼女の心は満ちていた。
新生物である魔獣の出現から、数ヶ月後。
救世主は、突如湧いて出た。
道具も無しに火を起こし、竜巻を発生させ、光線で魔獣達を一網打尽に焼き尽くした。
全く「魔獣と同じ力を持った」人間が、現れたのである。
数多の人々は、彼の勇気ある行動と実力を称賛した。
しかし、当然そうでない人間も居た。
魔獣が殺した人間の皮を被っているのだ! そいつは、人類の味方ではない! 騙されるな! そうでないと、人間を苦しめた魔獣と同じ力を持っている証明にはならない!
人間は自分に実践や想像出来ないことや、未知の力を畏怖するきらいがある。
今まで散々人間の命を踏み躙った力と、同じ力を持つ人間と同じ姿形をした者。
恐れるには、十分過ぎる存在だ。
今でこそ人類史を存続させた救世主と形容詞されるが、生前はそうではなかった。
彼の名前は、レンソイン ウェイノン。魔術の始祖である。
そして、この世界ーーアルストレンジを作り出した、天才中の鬼才だ。
妖しげな紫がかった銀の髪に、紫水晶の瞳は神話から抜き出て来たような天使のようだったと言う。
彼を護衛する六人の勇者達は、後に六勇者と呼ばれるようになる。
レンソイン ウェイノンが造り上げた、異能付きの対魔獣特化武器「魔装武器」を装備して、人類の存続を賭けた戦で彼らは最前線で戦ったのだ。
踏み躙られた、誇りと命に報いる戦いとも言えよう。
世界の大英雄達は、戦争の終わりと同時に姿を消したと言う。
まるで「この戦争を終わらせて欲しい」と言う、人々の願いを叶えた流星のように。
ただの骨になったのか、宇宙の塵となったのか、誰も知らない。
かのレンソイン ウェイノンすら、六勇者の消息は知らなかった。
六勇者を憂いてからか、彼らの伝記は必ずこう記されている。
「こうして、アルストレンジは平和になりました。六勇者はお星様となり、今日も人々を見っているのです。めでたしめでたし」と。
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