女神ノ穢レ

紅雪

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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光

9.出立

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オーゼリス教の司祭イギールは、私が生まれた後半年足らずでセアクトラを去っていた。
現在はセアクトラから北東にあるリュオンカ領にある小さな町、シシルの教会で司祭を続けているらしい。
私とお母さんを運び出したのは、奴隷商人のデダリオと、盗賊集団黒鷲。
それを手配したのがイギール。
教会の司祭、奴隷商人、人をも攫う盗賊集団。
これらはすべて繋がっていて、それぞれ自分に都合の良い利益を得ているのだとか。
私には関係無いけど。
当時、私は黒鷲に攫われた事にされたらしい。
領主の子供を攫う罪を被ってまで請け負うとは、それだけの見返りがあったと想像できる。
つまり、そこまでして追い出したかったわけだ。
攫われて悲劇の領主を演じつつ、烙印を持った子供が生まれた事実を揉み消せたのだから、高いお金を払ったとしても生活は安泰よね。
私は普通の生活すら認められなかった。

楽には殺さない。
最初は漠然としていた復讐も、その時が近付くといろいろと考えてしまう。
殺せばいい。
それだけじゃ、気持ちが収まりそうにない。
私とお母さんが受けた苦痛や恐怖を、少しでも多く植え付けて殺してやる。



帰りの馬車で話しの続きを聞いた。
セアクトラの領主以外に、司祭、黒鷲、奴隷商人と対象は少なくない。
先ずはセアクトラの領主から確実に殺す。
イギールの所在は聞いたが、他についてはそれが終わってからね。
情報はエルメラ頼みとなってしまうけど。

城に戻ったのは昼頃。
時間を考え、セアクトラへの出発は明日にした。
「馬は乗れるか?」
「乗った事ない。」
エルメラに聞かれ答える。
そもそも私にそんな選択肢は無かったら、乗ろうと思った事も無い。
「では昼食後に指導してやろう。」
「え、なんで?」
別に乗れなくても良いし。
「セアクトラまで送ると言った手前すまないが、馬車より馬の方がお主にとって都合が良いじゃろうと考えてな。」
いや、徒歩でいいのだけど。
「徒歩は時間の無駄じゃ。」
・・・
私の思いはきっぱりと否定された。
「面倒見れないわよ。」
「心配無用じゃ。」
もう確定なの!?

エルメラの話しでは、特定の場所で代え馬に乗り換えれば良い。
夜は街等に宿泊すれば、面倒を見る必要は無い。
野宿が必要な場合は、馬屋を同伴させる。
という話しだった。
私はただ、馬に乗って移動するだけ。
エルメラが書簡を用意するので、それを見せれば私でも対応してくれるらしい。
どれだけ対応良いのよ。
私の勝手な復讐にそこまでしてくれるなんて。

「馬の数も限られておる。すまぬが、ガリウも同乗させるのじゃ。」
「うん、わかった。」
それは構わない。
むしろ好都合。
何かあった時、ガリウが離れた場合等対応出来ない可能性もあるし。
「お。つまり俺は乗っているだけで良いんだな。」
「だめじゃ。どちらが手綱を持っても良いようにガリウも覚えるのじゃ。」
楽しようなんて甘いわね。
「まぁいいか。馬に乗れたらかっこ良さそうだし。」
そんな理由で良いんだ。
それから夕方まで、私とガリウは乗馬の仕方を教わった。
エウスに。
エルメラは優雅に紅茶を飲みながら見物しているだけだった。
指導してやろうって言ったじゃない。
あ、でも余がとは言ってないか。
エウスは丁寧に教えてくれるから、乗り易かった。
きっとエルメラだったら厳しそうな気がする。



「なかなか良い筋じゃ。」
翌朝、城門まで送りに来たエルメラが言った。
馬の乗り方も覚えた。
「ありがと。それじゃ、行って来る。」
「復讐自体はお主の問題じゃ、余は手を貸さぬ。」
わかってる。
むしろ他人が入り込んでくると邪魔。
「だが、無事に戻って来るのじゃ。」
「うん。」
そう言ったエルメラの表情は、普段と違って優しく見えた。
そんな顔、他人から向けられた事なんて無い。
『私が守ってあげるからね。』
傷だらけで苦痛に顔を歪めながらも、そう言って微笑んでくれたお母さんを思い出してしまった。
優しい笑みだった。
抱えてくれた温もりも忘れてない。
だから、絶対に許さない。

「じゃ、行くよ。」
後ろに乗ったガリウに言う。
「おう。」
「吐かないでよ。」
「吐くわけねぇだろ!早く行けよ!」
後ろで大きい声出さないでよ。
もう。
エルメラの笑みを背に、私は馬の腹を蹴って走らせた。

セアクトラまで約七日の道程。
ご丁寧に中継箇所や宿泊地、宿泊場所はエルメラがしたためてくれた。
その通りに行けば、食事も寝床も困らない。
必要経費も渡されている。
(計画性って、こういう事を言うのね。)
その日暮らしの旅をしていた自分とは大きな違い。
でも、私はそうするしかなかった。
エルメラに頼るのが良いか悪いか、今は未だわからない。
でも、利用されてでも復讐が果たせるなら、私も利用してやる。
今は、それでいい。




道中何事も無く、セアクトラに到着した。
途中で以前遭遇した、馬に乗った二人組とすれ違ったが逃げる様に去って行ったくらい。

しかし、こんな何日も馬に乗るなんて想像もしてなかった。
思った以上に疲れる。
確かに早いけど、徒歩の方が気楽だと思えた。
あとやっぱりお尻痛い・・・
馬車の荷台よりははるかにましだけど。

「今夜、行くんだよな。」
厩に馬を預け、宿に向かっている時にガリウが聞いてくる。
「そうね。」
当然。
それ以外に、この街に滞在したくない。
「ガリウは宿で待っててね。」
「・・・わかった。」
悪いけど、そこまで連れて行く事はできない。
納得はしていないようだけど。
それとは別に前から何かに苦悩しているような表情を見せる。
エルメラと出会った頃くらいから。
やはりその頃から、夜に何度か泣いているのを聞いている。
時間と共に、自分の中でいろいろ整理が出来てきたのか、わからないけど。
「勝手に死ぬなよ。」
「わかってる。未だ終わりじゃないもの。」

話しながら宿に着いた私とガリウは、夜まで待機する事にした。





**二日前 エルメラデウス領 領主館**

「エル~、帰ったよ。」
髪を二つくくりにした少女が、テラスで紅茶を飲んでいるエルメラデウスに声を掛けた。
「うむ。ご苦労じゃった。」
「リリエル様、遠征お疲れ様でございました。」
エルメラデウスに続き、エウスも労いの言葉を発する。
エウスの態度に少女、リリエルは頬を膨らませた。
「もう、あたしにはそういう態度必要無いって言ってるでしょ~。」
「申し訳ありません。何分、性分なものでして、ご容赦いただけると。」
「まぁいいわ。いつか慣れてね。」
「善処いたします。」
少女はエウスに笑顔で言うと、エルメラデウスに向き直る。
「報告って夜でいい?」
「構わぬ。」
「でぇ、あたしアレに乗りたい!その辺をびゅーっと。」
「はぁ・・・」
言われたエルメラデウスは溜息を吐いた。
「無理じゃ。」
「なんでよ?」
「申し訳ありませんリリエル様。天馬は現在整備中でございます。」
「えぇ・・・」
リリエルは残念そうに肩を落とした。

「何に使ったの?」
リリエルは空いている椅子に座ると、テーブルに置いてあった焼き菓子に手を伸ばし口に放り込んだ。
「急遽、’ハ’と合流するためセアクトラに向かう必要があっての。」
「え?で、合流できたの!?」
リリエルの興味は既に移り、椅子から立ち上がると身を乗り出して声を上げた。
「うむ。」
「どこ?どこに居るの?」
リリエルは言いながら、周囲を見まわした。
「今はセアクトラへ向かっておる。帰るまで待つのじゃな。」
「えぇ、残念。」
エルメラデウスの言葉に、またも肩を落としてリリエルは椅子に凭れ掛かった。
「どんな奴?」
「面白い娘じゃ。帰って来たら直接話してみるとよかろう。」
「うん!そうする。」
リリエルは笑顔で応え、焼き菓子に手を伸ばした。
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