女神ノ穢レ

紅雪

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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧

60.遭遇

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ホーリエルには私たちの方が先に到着した。
おそらく、私たちがトルヘンを出るとの、エルメラが王都を発つのは数日程度しか差はない。
王都の方が遠いため、エルメラと合流できるのはもう少し先だろう。
時間があるから行けない事も無かったが、やはり決めた様にすべて終わってからが良いと気持ちは変わらなかった。
そりゃ、顔くらい出したいとは思うけど。
言い出したらきりがない。
だから、その時が来るまでは行かない。


それから一週間程して、エルメラが合流する日が来た。
こっちの到着と、向こうの到着予定はマリアが文を飛ばして確認している。
合流も滞在している宿の食堂。
部屋は到着日に合わせ、マリアが確保したらしい。

日が暮れて暗くなり、エルメラの到着を待っていては晩御飯がいつになるかわからないという事で、先に食べ始めた。
その時、宿の扉があき見慣れた顔が目に入る。
エルメラ、エウス、リリエル・・・って、え?
「フィナ!」
居るとは思わなかったお姉さんに、思わず声を上げながら立ち上がった。
フィナは笑顔で手を振ってくる。
なんで此処に?
と思ったが、ランフェルツに居た時に、食事をしたり買い物をしたりしている時に聞いている。
きっと、塵だから同行したんだろう。
他の理由かも知れないが、今はそれ以上の想像はできない。

「あん、なんでランフェルツの奴が居るんだよ?」
事情を知らないグエンは当然の疑問を口にした。
私も聞いて無ければ同じ事を思っただろう。
「それは後で説明する故、まずは腹ごしらえじゃ。」
だよね、立ち話しもなんだし。
「おねぇ、ちょっとこれ持って。」
「ん?」
そこで、ウリカに何かを渡されたので受け取る。
何これ、紐?
「ぐっ・・・何しやがる!?」
直後にグエンの苦鳴。
・・・
やられた。

「なんじゃ、お主はいつの間に尻尾を振るほど懐いたのじゃ?」
それを見たエルメラが目を細め呆れた様に言った。
「誰が犬だ!」
グエンは嵌められた首輪を外そうと藻掻きながら否定する。
そう言えばと思いながら、マリアを見るとものすごい満面の笑みを浮かべていた。
「ウリカ、いつの間に持ってたのよ。」
「マリアが今夜必要になるから持ってこいって言ってたから。」
「そういう話しには乗らなくていいの。」
「おねぇが楽しいからって言われたから。」
まぁ、ウリカは悪くない。
そう思ってマリアを睨むが、まったく効果は無かった。

「その様な些事はさておき。」
「些事じゃねぇ、俺の沽券に関わる問題だろうが!」
沽券があると思ってるの?
エルメラがどうでもよさそうに席に移動しながら言う。
「レウとメウはどうしたのじゃ?てっきり連れてくると思うておったが。」
椅子に座ったエルメラがグエンを見て言うと、言われた本人は顔を逸らして俯いた。
引き摺るのは勝手だけど。
私はちょうどいいので手に持っていた紐を引っ張る。

「てめぇ、何し・・・」
グエンが私を睨んだ途端、黙り込んだ。
冗談でやったわけじゃない。
「あんたが、自分の口で言わなきゃ誰が言うのよ、それでいいの?ヘタレって言われたままで。」
グエンは口を引き結んで、首輪に手を掛けた。
「確かに、こんな物を付けられても当たり前だな。」
え、私は嫌だけど。
こんなおっさん要らない。
「もう付けられない様にしないと、いつまでも顔向け出来ねぇな。」
グエンは言って、首輪を引き千切った。
金具で切れたのか、首に血が滲む。
マリアが残念そうな顔をしたが、今はそういう空気じゃない。

「エルメラ悪ぃ、レウとメウは俺が殺しちまった。」
「なんじゃと?お主に二人を殺すほどの気概は無い、何があったのじゃ?」
エルメラにもグエンのヘタレっぷりは見透かされていた。
だから、殺したとは本人が言っているだけの結果だろうとわかったんだ。
グエンの気持ちもわからないでもないけれど。
「メウの心が耐えられず、悪い奴らに唆されたんだ。結果二人とも助けられなかった。」
「そうか。詳細はマリアかアリアに聞く。その方がいいじゃろう。」
エルメラが悲しそうな顔で私に目を向けたので、頷いておく。
話す分には構わない。
客観的な状況を確認したいのだろう。

「さて、先ずは状況整理じゃ。今後も含めな。」
グエンの話しは終わりと、エルメラは言うとエウスに料理を頼むよう伝えた。
全員が席に着いたところで、オルディヌの頭を撫でる。
「挨拶できる?」
「はい。」
オルディヌは頷くと、見渡して口を開いた。
「オルディヌ・エンハエンです、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくじゃ。」
丁寧な挨拶に、エルメラも笑顔で応える。

「ではうちも、お初の人もいるので改めて名乗ります。フィナメルシェ・トルシュ・レ・メルディア、よろしくね。」
「あら。」
「な!そういう事かよ。」
マリアは笑みを浮かべただけだったが、グエンは明らかに驚いた反応する。
私は周囲を気にしてみたが、フィナはそれを踏まえた上で私たちだけに聞こえる程度の声量で言ったんだろう。
ただ、グエンの驚きには何人か反応したので、その辺はどうかと思う。
もう少し状況を考えて欲しい。
「本来の目的は国を越えた領主同士の交流と、その交渉で来ておる。」
あ、そういう事なのね。
「当然、余の目的は話したがな。」
「交渉結果を伝える段階で、うちの滞在については掛け合ってみるわ。それまでお願いね。」

「ところでアリアちゃんさ、いつおっさんを飼いならしたの?」
フィナの挨拶に一同が頷いた後、リリエルが笑みを浮かべながら聞いてくる。
「飼いならされてなんかねぇわ。」
「うん、飼ってないし、むしろ要らないし。」
「おぃ、要らねぇってなんだよ。」
そのままの意味だけど。
「リリエルちゃん、一部始終を見てたお姉さんがちゃんと教えてあげるわ。」
「さすがマリア!」
と言ってリリエルが楽しそうに嗤うマリアの方に近付いていく。
まぁ、いいけどさ。
「やめろ、もう終わった話しを蒸し返すな!」
「蒸し返すんじゃないわ。思い出話しをしてあげるだけよ。」
物は言いよう・・・
「グエン、マリアを止められると思ってる?」
「・・・」
あ、黙った。

「えぇ・・・フィナまで興味あるの?」
いつの間にか、マリアの傍に移動していたフィナを見てつい口に出てしまった。
「うちも興味あるもの。」
「もう。」
仕方ない。
あの状態のマリアは止められない。
「で、エルメラの方はどうだったの?」
「伝えた通り狸を追い出し問題無く領は取り戻した。でなければ文を送ってはおらぬ。」
聞き方が悪かった。
「それじゃなく王様との関係。」
「あ、そっちは聞いても面白くないよ。」
エルメラが何かを言おうとしたが、リリエルの方が早く割り込んで来た。
まぁ、予想通りか。
「お主が言うな!別に余はお主らを楽しませるために行動しておるわけでない。」

それから、それぞれの道程を話しながら食事をした。
今後の細かい予定については、塵が主だった内容になるため領に戻ってからとなった。



「さて、もう少しじゃ。」
翌日、馬車を一台調達して、天馬と二組に分かれた。
お互いが馬車に乗る前に、エルメラが言う。
あともう少し、本当に長かった。
馬車にはリリエルが興味津々なため、オルディヌと一緒に私とウリカ。
天馬は大人四人が乗る事になった。
「グエン、御者お願いね。」
「またかよ・・・」
と言いつつも、渋々箱の外に設えられた椅子に腰かけ手綱を握る。

「気楽でしょ。」
「まぁ、そうだけどよ。」
そう思ったのもあるけれど、他に頼める人が居ないのも事実。
勝手は同じだから、グエンでも天馬は問題ないと言ってエウスが買って出てくれたが、いつも通り天馬を操舵してもらう事にした。
その中に居るよりは、外に居る方が楽じゃないかと思って。



ホーリエルを出て、陽が中天になったくらいでそろそろお昼かなぁと思っていたら馬車が止まった。
窓から外を見ると、天馬も止まっていたのでお昼かと思ったが、どうやら違うようだった。
「なにあの馬車?」
リリエルも窓から顔を出すと言った。
確かになんだろう。
街道を横切る様に止め、天馬が進むのを遮っていた。
「ウリカ、オルディヌと一緒に待ってて。」
「ウン。」
私とリリエルは馬車を降りると、天馬の方に近付く。
既にエウスとエルメラが降りて、天馬の前に立っていた。

多分、普通の馬車じゃない。
箱が豪華だから、自分のところで馬車を持っているような生活をしている人。
エルメラの様な領主や、貴族、お金持ちあたりだろうか。
「金持ちの馬車ってわかりやすいよね。」
「そうね。」
小さく言ったリリエルに同意する。

御者台から燕尾を来た老齢の男性が降りると、箱の扉を開ける。
中から降りて来たのは少年だった。
杖を持った少年は、馬車から降りると恭しく一礼する。
「突然の無礼、お許しいただきたい。エルメラデウス領主一行とお見受けし、少々話しを聞いていただきたい。」
「何奴じゃ?」
「これは重ね重ね。ユーテウェリ・トルシュ・ン・ウォーゼハルと申します、お見知り置きを。」
「なんじゃと!?」
塵!?
「お話しを聞いていただけるには不足ない名前かと。」
ユーテウェリは妖しく嗤うと言った。
見た目は少年だけど、その嗤いは少年とは思えなかった。

「よかろう。先ずは通行の邪魔故、街道から馬車をどけよ。話しはそれからじゃ。」
「仰せのままに。カラフ。」
少年は燕尾の男性に目配せをすると男性、カラフは御者台に上がった。
エウスも天馬に戻り、動かし始める。
私はグエンに続くように指で合図した。

「ユーテウェリ卿、何故メイオーリアに?」
天馬から降りたフィナが、真っ先に口を開く。
「貴女がフィナメルシェですね。リヴィラエ卿より伺い、訪ねて来た次第です。」
「たかだか使用人の女一人を、貴族院の一角であるウォーゼハル家嫡男がわざわざ追いかける理由がわかりかねます。」
フィナが話し始めた事により、エルメラも割り込まずに行方を見守っている。
もちろん、私が割り込める事も無い。
どうやら、ランフェルツの貴族同士の話しらしいし。

「確かに、普通の使用人であれば追いかける理由はありません。塵でなければね。」
「どうしてそれを!」
言って嗤うユーテウェリを、フィナは睨み付けた。
怒ったフィナを初めて見た。
「リヴィラエ卿の名誉のために言っておきますが、彼は最後まで知らぬ存ぜぬを通した。僕は僕の力で存在を知ったに過ぎない。」
「どういう事?」
どこかから漏れた情報を知ったという事だろうか。
どのみち、私にわかる範疇じゃないのは確か。
フィナも怪訝な顔をして不安を浮かべている。

「これ以降の話しは、エルメデウス卿も交える必要があるため、此処にいる全員に聞いてもらいたい。」
「どういう事じゃ?」
エルメラが疑問を口にすると、ユーテウェリは口の端を大きく吊り上げ嗤うと、左だけ黄金色をした瞳が妖しく光ったように見えた。
「塵が七人、滓までいるとは僥倖。僕は運が良い。」
!?
「貴様、何者じゃ!?」
何で知っているの?
ユーテウェリの一言で、その場の全員が身構えた。
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