上 下
39 / 40

0話 帰結 (最終話)

しおりを挟む
「なぁ莉菜、フィッシュバーガー寄って帰ろうぜ。」
「数音、あれ好きだよね。」
「あそこのタルタルソースが最高なんだって。」

雪待数音と水奈月莉菜は、学校帰りにそんな事を話しながら歩いていた。

「莉菜は将来何になりたいんだ?」
「ん~、まだはっきりしないんだよね。数音は警官よね?」
「ああ。子供のころからな。」
「知ってる、聞き飽きたもん。」
「あ、このやろ。」
雪待はそう言うと、水奈月の首に笑いながら手を回した。
「ちょ、くすぐったいってば。」
莉菜もまんざらではなさそうに笑顔で言う。

「おい莉菜。ちょっと此処で待ってろ。」
「え?」
街中を歩いていると、雪待が真面目な顔になって言う。言うなり走り出した雪待の先に、水奈月が目を向けると集団で一人の学生が暴力を受けていた。
「数音、無茶しないでよ!」
「分かってるって。」

「おいお前ら、それはやりすぎだ。」
四人の学生に、一人の学生が暴行を受け、目は腫れ口の端からは血が伝っていた。
「うるせぇな、関係のねぇ奴は引っ込んでろっ。」
「めんどくせぇ、こいつも一緒にやっちまうか。」
そう言った学生が、雪待に右手で殴りに行く。雪待はそれを左腕で防ぐと、反撃に出ようとしたが別の学生に顔を殴られた。
怯んだ隙に四人が一斉に襲い掛かる。
「数音!ちょっとやめてよ!」
そこへ水奈月が駆け寄って、なんとか止めようとする。
「うるせぇ、邪魔すんならてめぇもやるぞ!」
一人の学生が水奈月の顔を、拳で殴った。
体制を崩して水奈月は倒れる。
「おい、最初の威勢はどうしたんだよ!」
「どの辺がやりすぎか教えてくれませんかぁ?」
倒れた雪待の身体に、四人の蹴りや踏み付けが幾度となく繰り返される。

「動かないな。」
「ったくしょうもねぇな。」
「雑魚のくせに出しゃばってくるからだっての。」
「ってかさっきの女、結構可愛かったぜ。連れてくか。」
「どっかの阿呆が顔面殴らなけりゃな。まぁ楽しむ事は出来るけどよ。」
「うっせぇな。お前らどうせ首から下が目的だろ。」

「おい、女も動いてないぜ・・・」
「ってか、頭んとこ血溜まり出来てんじゃねーか・・・」
「やべぇな、今日は帰るか・・・」
「ああ、そうだな・・・」



「雪待さん、大丈夫?」
「あぁ、水奈月さん。家の息子の所為で申し訳ありません。」
病院の廊下で静かに泣いていた雪待奈津子に、水奈月梨絵が話しかけると、奈津子は泣きながら頭を下げた。
「数音くん、暴行を止めようしたんですってね。」
「ええ。莉菜さん、巻き込まれしてまって本当なんとお詫びしていいか・・・」
「気にしないでください。それより、数音くんの容体は。」
奈津子はその言葉に、首を振ると嗚咽を漏らし始める。
「そんな・・・」



「あの、娘の容体は?」
病室で横たわる水奈月莉菜の横で、両親が医師に確認する。
「倒れた際に縁石に頭を打ち付けているようで、頭がい骨が陥没して脳の一部が損傷しています。正直、意識が戻るか分かりませんし、いつ心臓が止まってもおかしくない状態です。」
「莉菜っ・・・」
泣き崩れそうな梨絵を、父親の和孝が肩を抱いて支える。
「今は、様子を見守るしかありません。出来る限りの事はしますので。」
「ありがとうございます。」
和孝が言うと、医師は病室を出て行った。
「数音くんの方は、どうだったんだ?」
頭を左右に振る梨絵の仕草で、和孝は察する。
「そうか、駄目だったのか、正義感の強い良い子だったのに・・・」

(駄目?駄目ってどういう事!?)
(数音、死んだの!?)
薄ら聞こえる両親の会話に、莉菜は困惑していた。
(やだ・・・どうして数音が。)

「莉菜?・・・」
和孝が莉菜の顔を見ると、目尻から涙が伝っているの気付いた。
「莉菜っ!」
梨絵が駆け寄るも、莉菜の反応は無い。
「もしかすると、数音くんの話しに反応したのかもしれないな・・・」

(どうして数音が死ななければならないの?)
(まだこれからなのに。)
(私、独りでどうしたらいいの・・・)
(数音、会いたいよ・・・)
(独りに、しないでよ・・・)
(もっと、数音と一緒に生きたかったよ・・・)
(私、もっと数音と過ごしたかったよ!)



「・・・ここ、どこ?」
「私、病院にいたんじゃ?」
水奈月莉菜は、病院のベッドではなく、どこかの部屋で目が覚めた事に、戸惑いと疑問だらけで困惑していた。
「そうだ!数音!」
しおりを挟む

処理中です...