スウィートカース(Ⅴ):カラミティハニーズ

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)

文字の大きさ
19 / 32
第四話「交錯」

「交錯」(2)

しおりを挟む
 ナコトはミコを撃った。

 すばやく六連射された銃撃を、ミコの長刀は的確に弾き飛ばしている。めくるめく跳弾は、ふたりが計算した角度で続けざまにジュズたちの頭を貫いた。地面すれすれまで仰け反ったナコトの鼻先を、風を斬って通過したのはミコの白刃だ。同時に、長刀の峰めがけて発砲。着弾の衝撃が強引に後押しした銀光の軌跡は、通常の倍以上のスピードでジュズたちを薙ぎ払う。

 狂気じみた連携だった。

 だがその先の読めないトリッキーさと精密さで、ジュズの頭数は着実に減っている。ふたりの活躍に勢いづき、あちこちでジュズを打ち倒すのはセレファイスの兵士たちだ。

 背中合わせになったミコへ、ナコトは早口に心境を打ち明けた。

「きりがないな?」

「はい。あの空に開いた入口の門を閉じないかぎりは……ナコト、回避を!」

 あたりに突如降りかかった影から、ナコトは顔を守って身をかがめた。

 みにくい翼を羽ばたいて跳躍したクトゥルフの怪物が、ふたりへ向かって巨大な足を振り下ろしたのだ。

 だがルリエの踏み潰しは、ふたりへ届く寸前で止まっている。見れば、両手で長刀の柄と腹を支えたミコが、ルリエの大質量の足裏を食い止めているではないか。

 ぎりぎりと足を押し込みながら、ルリエは憎らしげに吠えた。

「虫けらは、踏み潰されるのが仕事よ!」

「汚い足をどけろ! クトゥルフ!」

 怒り心頭で叫ぶや、ナコトは拳銃二挺を直上の足裏へ向けた。撃つ撃つ撃つ撃つ。

 だがその桁違いのサイズ感から、ルリエに痛痒を感じた気配はない。機体の全パワーをフル回転させて押し止めるミコの機体は、刻々と力の加わっていく足の下で嫌な軋みと漏電を発し始めている。

 とめどなく銃火にまたたきながら、ナコトはうながした。

「こいつ、ただデカいだけじゃない! いったん退くぞ、ミコ!」

 限界までのけぞって足場を砕きながら、ミコは蚊の泣くような声で応じた。

「い……いいえ。退避するのはあなたのほうです、ナコト」

「なに?」

「なんとか間に合いましたね、ヒデト、メネス……拠点防衛型/制圧型機動装甲:マタドールシステム・タイプZ〝熱砂の琴イズルハープ〟の到着を確認しました。これより私と連結ドッキングします」

 ミコの足もとを中心に広がったのは、巨大な召喚の魔法陣だった。

 轟音とともに、こんどはルリエのほうが大きくつんのめって後退している。五芒星の輝きから現れた特殊複合金属セラミクスチタニウムの……巨大な〝拳〟に見える物体が、大怪獣に凄まじいアッパーカットを見舞ったのだ。

 見よ。魔法陣の中から続けて、極大の頭部が、胴体が、そして脚部が爆発的な勢いで立ち上がったではないか。

 急いでその場から飛び退りながら、ナコトは目を剥いた。

「なんだあれは!?」

 面食らったナコトの横、メネスが両手に展開した魔法陣は、大規模な召喚による呪力の消耗で小刻みにかすれつつある。ようやく輝きを消した両手を疲れたように下ろすと、メネスは嘆息とともに答えた。

「地球と幻夢境、共同で召喚したのさ。組織とっておきの秘密兵器を……さあ、戦いにピリオドを打つのはきみだ、ミコ」

 体高およそ五十メートルのルリエの眼前、地鳴りとともに立ちふさがったのは、こちらも全長五十メートルを超える機械の巨人だった。激しい放熱の蒸気を噴きながら、たえまなく金属音を轟かせ、機体の全身が順番に開閉して戦闘準備を整える。

 決戦兵器〝熱砂の琴イズルハープ〟……

 その胸部に位置する操縦席コックピットで数えきれない量の配線に接続し、ミコは超大型機と自機を同期リンクさせた。拡声器越しに、地上へ警告する。

「みなさん、危険ですので、私たちの足もとにご注意を……さあ、反撃の時間です」

 地響きを連続させて、機械の巨人はクトゥルフの怪物に肉薄した。

 呪力混合のロケットエンジンを肘部に燃やして腕ごと加速し、触腕に覆われたルリエの横面を殴りつける。ガラスの建物を圧し潰して転倒しながら、ルリエは女子高生らしい裏返った悲鳴をあげた。

「痛ったァい! やったわね、この!」

 大地は裂け、土砂は噴火のごとく舞い上がった。

 ルリエの放った大迫力のドロップキックが、ミコを蹴り飛ばしたのだ。ふたつみっつ後退するなり、ミコはルリエめがけて片腕を跳ね上げた。直後、かなりの距離があるにも関わらず、ルリエの腹腔にはミコの前腕が突き刺さっている。ミコの肘から発射され、火を噴いて飛来したのは巨大な鉄拳だ。ワイヤー誘導されたロケットパンチを肘部に巻き戻して再接続しながら、ミコは苦悶して身を折るルリエへ勧告した。

「ラウンド2も私の勝ちです。おとなしく降伏しなさい」

「うるさい!」

 ほとばしった太い触腕たちは、ミコの脚を絡め取ってひといきに横転させた。馬乗りのポジションを取ろうとするルリエを、ミコの全身から展開されたミサイル砲、機関砲、レーザー砲が雨あられと掃射して押し返す。空そのものが落ちてきたようなルリエの拳を迎え撃ったのは、推進力で加速されたミコの右ストレートだ。

 クロスカウンターの状態でおたがいの顔に拳をめり込ませ、両者は動きを止めた。

 触腕に導かれて唐突に現れ、腕と腕でできた足場に降り立ったのは人間サイズのルリエだ。指先の照準を〝熱砂の琴イズルハープ〟の胸部にあわせながら、憮然とつぶやく。

「さすがのあたしも呪力の限界よ。ちょっとずるいけど、核となる操縦士だけ狙わせてもらうわ……〝石の都ルルイエ〟」

 天敵であるミコはルリエの攻撃を耐え抜いたとしても、その他の精密機器は無事ではすまない。ピンポイントで生じた強重力場に、操縦室は尋常ならざる量の火花と電光に包まれている。めずらしく危機感をあらわにして、ミコは歯噛みした。

「これはいけません。こうなったら、彼女を巻き込んで〝熱砂の琴イズルハープ〟ごと自爆を……」

 刹那、響き渡ったのはナコトの低い声だった。

「〝黄衣の剣壁ウォール・オブ・エリュクス〟!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...