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第四話「交錯」
「交錯」(3)
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「〝黄衣の剣壁〟!」
銃撃をかわして、ルリエは側方へ転がった。
片膝をついて起き上がったときには、その肩は深くえぐれて鮮血をしぶかせている。ただの弾丸がかすめた負傷ではない。じぶんを襲った極薄の〝光の壁〟ともとれる呪力の銃弾に思い当たるふしがあり、ルリエは声を震わせた。
「この力は……!」
ルリエは見た。
黒い炎をひいて〝熱砂の琴〟の巨体を超高速で駆け上ってくる人影を。
接近するナコトに狙いを定め、ルリエは標的周辺の重力を一気に圧縮した。
「〝石の都〟!」
「〝冥河の戸口〟!」
叫び返したのはナコトだ。
それは、黒い蝶に見えた。
おびただしい数の羽のちらつきがナコトの足もとに集まったかと思いきや、彼女の姿はじぶんの影に飲まれて消えている。もといた足場を超重力の牙が砕いたときには、数メートル先に生じた別の影からナコトは飛び出していた。お返しとばかりに、ルリエめがけて六連射。銃弾は光の壁と化して縦に横に走り、立て続けにルリエを切り裂く。
大量の出血をおさえて自分の体を抱きながら、ルリエは苦しげにあえいだ。
「指向性ブラックホールによる空間転移、そして光源集束による空間切断……ナコト、なんてこと。あんたにあいつの、あの忌まわしい〝名状しがたきもの〟の呪力が混じってるわ」
ルリエの立つ足場の対面に着地すると、ナコトは腕ごと燃えて輝く拳銃二挺をかまえた。
「ご存知のとおり、わたしに寄生するのは混沌が大得意な悪魔だ。過去にいちど灰になって散りかけたわたしを再構成する際、使える元素は片っ端から使ったという……幸か不幸か、手近にあったハスターの汚らわしい残滓もふくめて、な」
さびしげな風に吹かれてなびく二人のうち、問いかけたのはナコトだった。
「凛々橋恵渡を復活させたがっている、と聞いた。本気か、おまえ?」
「聞いたのね。そうよ。本来であればあんたも、もうちょっとあたしを手伝う立場にいるはずなんだけど。もっとも責任を感じるべきなのはあんたじゃないの、ナコト?」
「わかっているさ。凛々橋の死はわたしの責任だ。だから覚悟はしている。わたしを救ってくれた彼の思いは、生涯この身をかけて背負うと。二度と同じあやまちで犠牲者は出さないと。罰ならあまんじて受けよう。おまえの非難も重く受け止めよう。しかし」
拳銃二挺ぶんの照星の向こうで、ナコトは静かに首を振った。
「あれから長い時間をかけて、わたしも多くの方面に確認した。結論から言うと、あのときの凛々橋はもう二度と戻ってこない。戻ったところで、それは似ているだけのただの人形か、変化した悪意ある他人だ」
「それでも!」
目視不可能なスピードでルリエが払った触手に、弾き飛ばされたのは拳銃二挺のうちひとつだった。体中の傷と同じく、血でも吐くように主張する。
「もういちど笑いかけてくれるなら、彼がたとえ偽物だって構わない! あたしの旅の終点はここよ!」
きりきりと宙を回転して飛んだ拳銃を、しかし素早く掴み取る手はあった。
全身いたるところに、操縦席からの配線がつながったままのミコだ。
血の気を失うほど強く銃把を握り、ナコトは告げた。
「いや、まだ始まったばかりだ、わたしたちの旅は。罪と罰の茨でできた道のりは、遠く長く険しく続く。ならば……合わせろ、ミコ」
「はい」
背中合わせになって二人でルリエに銃口を向けた瞬間、ナコトとミコの台詞は重なった。
「「よい旅を」」
轟然……
血しぶきを残して、ルリエは足場から地面へ落ちた。
銃撃をかわして、ルリエは側方へ転がった。
片膝をついて起き上がったときには、その肩は深くえぐれて鮮血をしぶかせている。ただの弾丸がかすめた負傷ではない。じぶんを襲った極薄の〝光の壁〟ともとれる呪力の銃弾に思い当たるふしがあり、ルリエは声を震わせた。
「この力は……!」
ルリエは見た。
黒い炎をひいて〝熱砂の琴〟の巨体を超高速で駆け上ってくる人影を。
接近するナコトに狙いを定め、ルリエは標的周辺の重力を一気に圧縮した。
「〝石の都〟!」
「〝冥河の戸口〟!」
叫び返したのはナコトだ。
それは、黒い蝶に見えた。
おびただしい数の羽のちらつきがナコトの足もとに集まったかと思いきや、彼女の姿はじぶんの影に飲まれて消えている。もといた足場を超重力の牙が砕いたときには、数メートル先に生じた別の影からナコトは飛び出していた。お返しとばかりに、ルリエめがけて六連射。銃弾は光の壁と化して縦に横に走り、立て続けにルリエを切り裂く。
大量の出血をおさえて自分の体を抱きながら、ルリエは苦しげにあえいだ。
「指向性ブラックホールによる空間転移、そして光源集束による空間切断……ナコト、なんてこと。あんたにあいつの、あの忌まわしい〝名状しがたきもの〟の呪力が混じってるわ」
ルリエの立つ足場の対面に着地すると、ナコトは腕ごと燃えて輝く拳銃二挺をかまえた。
「ご存知のとおり、わたしに寄生するのは混沌が大得意な悪魔だ。過去にいちど灰になって散りかけたわたしを再構成する際、使える元素は片っ端から使ったという……幸か不幸か、手近にあったハスターの汚らわしい残滓もふくめて、な」
さびしげな風に吹かれてなびく二人のうち、問いかけたのはナコトだった。
「凛々橋恵渡を復活させたがっている、と聞いた。本気か、おまえ?」
「聞いたのね。そうよ。本来であればあんたも、もうちょっとあたしを手伝う立場にいるはずなんだけど。もっとも責任を感じるべきなのはあんたじゃないの、ナコト?」
「わかっているさ。凛々橋の死はわたしの責任だ。だから覚悟はしている。わたしを救ってくれた彼の思いは、生涯この身をかけて背負うと。二度と同じあやまちで犠牲者は出さないと。罰ならあまんじて受けよう。おまえの非難も重く受け止めよう。しかし」
拳銃二挺ぶんの照星の向こうで、ナコトは静かに首を振った。
「あれから長い時間をかけて、わたしも多くの方面に確認した。結論から言うと、あのときの凛々橋はもう二度と戻ってこない。戻ったところで、それは似ているだけのただの人形か、変化した悪意ある他人だ」
「それでも!」
目視不可能なスピードでルリエが払った触手に、弾き飛ばされたのは拳銃二挺のうちひとつだった。体中の傷と同じく、血でも吐くように主張する。
「もういちど笑いかけてくれるなら、彼がたとえ偽物だって構わない! あたしの旅の終点はここよ!」
きりきりと宙を回転して飛んだ拳銃を、しかし素早く掴み取る手はあった。
全身いたるところに、操縦席からの配線がつながったままのミコだ。
血の気を失うほど強く銃把を握り、ナコトは告げた。
「いや、まだ始まったばかりだ、わたしたちの旅は。罪と罰の茨でできた道のりは、遠く長く険しく続く。ならば……合わせろ、ミコ」
「はい」
背中合わせになって二人でルリエに銃口を向けた瞬間、ナコトとミコの台詞は重なった。
「「よい旅を」」
轟然……
血しぶきを残して、ルリエは足場から地面へ落ちた。
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