スウィートカース(Ⅴ):カラミティハニーズ

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)

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第四話「交錯」

「交錯」(13)

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 王による晴れ晴れとした終幕の祝辞を、来賓者たちは残念そうに聞いた。

 それでも打ち上げ花火の最高潮クライマックスを一目するべく、ひとり、またひとりと客足が立ち去りはじめたころ……

 大広間の一角、バーのカウンター席に腰掛けたまま、その男は愚痴った。

「嫉妬、か。言われてみりゃ、そうかもしんねえ」

 一気飲みしたショットグラスで卓を叩くと、ナイ神父は酒臭いしゃっくりを漏らした。

 度数の強い濃厚な酒をグラスへ追加しながら、興味深げに相談を聞くのはバーテンダー代わりのF91だ。左右の席からは、ミコとホシカがナイ神父を挟んでいる。

 数えきれない金貨が詰まった閉店後の袋を背負いながら、ホシカは聞き直した。

「で、つまるところ、そいつは神父さん、あんたの彼女なのかい?」

「彼女というよりは、父親みたいなものさ。いろいろ経緯があって、気づけば俺はあいつの生命維持装置の代わりをやってた」

 あごの無精髭をつくろうナイ神父へ、F91は納得げにうなずいた。

「気に入らなかったのね? 一心同体のはずの我が娘が、なまいきな色男にチヤホヤされるのが?」

「ああ」

 やや逡巡の間をおいたのち、やわらかく告げたのはミコだった。

「お言葉ですが、お子さんはいつか、両親のもとから巣立つものではありませんか?」

 痛くなって外した高級なハイヒールをぶらぶらさせながら、ホシカは続いた。

「そうさ。こんなガキの意見で申し訳ないが、それだけはわかる。それは生き物の常識ってやつで、避けては通れない道みたいだぜ。ところでその、ベタベタ娘を触る男との勝負には勝ったのかい?」

 グラスの小麦色の液体へ身を丸め、ナイ神父は軽く首を振った。

「負けたよ。お恥ずかしいことに男のほうじゃなく、彼女本人にな。俺の力はほとんどあいつに渡してあってさ。俺自身はただの子機にしか過ぎないんだ」

 気の利くF91が用意したつまみの豆を、憎々しげに噛み砕きながらナイ神父は嘆いた。

「ちくしょう。あいつはあのまま、どこの馬の骨ともわからない男に寝取られる運命なんだろうか? 俺はその一挙手一投足を、最後までそばで見守らなきゃなんねえんだぜ?」

 また空になったグラスへ酒を注ぎながら、F91は相槌を打った。

「心底から大切にしてるのね? 娘さんのこと?」

「まあな。俺なんかがあいつと人生をともにするようになった責任は、俺にある」

 質問したのはミコだった。

「では神父様は、お嬢様が嫁にもとつがず、永遠に手もとにいたほうがいいんですか?」

「言われてみれば、それもそれで悲しい話だ」

 元気なく落ちたナイ神父の肩へ手をおき、ホシカはにかっと破顔した。

「決まりだな。そっと見守ってやれよ。力いっぱい応援してやれよ」

 ホシカの注文したカシスオレンジは、なにもかも知っているF91に腕で×マークされている。ちいさく舌打ちしながら、ホシカはささやいた。

「娘は成長し、いずれはほかの男とくっついて子どもをはらむ」

「お爺ちゃんになるという現象も、あんがい幸せだそうですよ。それは社会的な大多数の統計で裏づけされています」

「その産まれてくる子どもだって、神父さんの血をひいてるのよ?」

 口々にじぶんのカラーにあった発言をした少女三名へ、ナイ神父はなんとも言いがたい顔つきをした。

「おまえら三人とも、暗黒神もわからないことを色々と知ってるんだな?」

 天使のような笑顔で、F91は答えた。

「父親ならでは当然の悩みだと思うわ。神父さんは、メロドラマとかはお嫌い?」

「ユーチューブばっかり見てた。反省だな、こりゃ」

 仏頂面にはじめて笑みをともすと、ナイ神父はつぶやいた。

「フィアちゃん、おまえさんのさっきの歌のとおりかもしんねえ。どんな悪夢だって飛べばいつか抜けて、希望にたどり着くんだ」

 あきらめた面持ちで、ナイ神父はやけ酒をやめた。

「もうあいつの好きにさせるさ、あいつの人生は」

「うんうん」

「ご英断です」

「それがいいわ」

「ありがとな。おなじ年頃の女性の恋愛観、ほんとタメになった。じゃ、みんなで花火大会を見にいくまえに、お返しと言っちゃなんだが……」

 おもむろに胸もとから十字架を引き抜くと、ナイ神父は提案した。

「即席の懺悔室の開店だよ。さあお嬢さんたち、なにか過去に犯した償いたい罪はないかい? 千なる無貌の神じきじきに、懇切丁寧に聞くぜ?」

 現代最強の異能力者たちは、はっとお互いの顔を見合わせた。

「あたし、ほんとは両親に……」

「私も、じつは……」

「あたしも……」

 いきなり殺到した少女たちにたまげ、ナイ神父は悲鳴をあげた。

「おい! 順番だ! 罪深い子羊ども! 並べ並べ!」
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