13 / 24
第三話「星団」
「星団」(4)
しおりを挟む
数分前、室外の廊下……
会議室へ通じる扉の前に立ち塞がるのは、彼女たち二人だった。
染夜名琴と井踊静良だ。
ふたりが片耳にはめる小さな無線機からは、室内の会話が包み隠さず流れている。関係者にのみだが、今回の超会議の内容は完全にオープンにされているのだ。それぞれの別室で待機する各世界の護衛たちも、議事を傾聴して悲喜こもごもに違いない。
無線機を押さえる指をかすかに震わせ、ナコトは我が耳を疑った。
「凛々橋、恵渡……似た名前の聞き間違い? この会議室の中にいるのは、もしかしてあのエド?」
ナコトの知るエドは、樋擦帆夏の毒牙にかかって敢えなく命を落としたはずだ。混沌の覇王たるナイアルラソテフでさえ、エドの復活は不可能と結論づけていた。仮に扉の向こうにいるのが本物の彼だとすれば、いったいどうやって?
とにかく、事実の確認は会議の完了後だ。ここはひとまず、会談の清聴や護衛の任務に集中することにしよう。
頑丈な入り口を守りながら、となりのセラにたずねたのはナコトだった。
「移住できるんだってね、異世界に?」
真剣な面持ちで、セラはうなずいた。
「びっくりさ。いままで頑なに他者の侵入を拒んでいたという幻夢境が、ついに別世界の人類を受け入れる気になったんだ。おまけに宇宙人まで協力して、未来からの攻撃に対抗する姿勢らしい。もしかしたらこれは、ホーリーの攻撃がぼくらに与えた怪我の功名かもしれないよ」
「幻夢境、か……」
子イノシシのぬいぐるみを抱きしめ、ナコトは天井に視線を馳せた。はるかなカダス山に建つ縞瑪瑙の巨城で受けたもてなしや、異世界勢の部屋に控えるだろうある風騎士のこと等々を思い出す。
「美味しかったな、テフのお城で食べたごちそう。ダーツを教えてくれる彼も、とっても優しかった……」
「ほほう?」
心ここにあらずのナコトの脇を、セラは意地悪げに肘で小突いた。
「その表情、さてはすぐ身近に好きな人がいるね?」
「好き……って、エぇ? そんな、やめてよ、セラ」
「図星だな。べつに恥ずかしがらなくたっていいさ。ぼくもこの群衆の中に、将来を約束した男性がいる」
「え、ほんと? だれ、だれだれ?」
「秘密、は教えないでもないよ。その代わりにナコトも、お相手の名前を打ち明けるんだ」
「そ、そっかぁ。じゃあ、せ~ので暴露する?」
「うん、せ~の……」
「こら」
第三の気配に驚き、ふたりが飛び上がるのは唐突だった。
大事な護衛任務の真っ最中だというのに、くだらないお喋りに興じるナコトとセラをどやしにきたらしい。
「あのさ、きみたちねぇ……」
細い腰に手をあて、嘆息するのは一人の少女だった。着用した美須賀大付属の学生服から察するに、見知らぬ顔だが組織の関係者のようだ。
すくみ上がるナコトとセラを、少女はたしなめた。
「やっぱり年相応のアルバイト感覚ってところか。もっと真面目にできないの?」
落ち込んだ面持ちで、セラは侘びた。
「すいません……あの、ええっと?」
「私はマタドールシステム・タイプNのニコ」
言われてみれば、その雰囲気はどことなく系列機のフィアやミコに似ている。
廊下の出口を指差し、ニコは呆れがちに促した。
「ナコト、セラ、いったん休憩だ。警備は代わるから、外の空気でも吸っといで」
「はぁい……」
叱られた二名は、しょんぼりと門衛から外れた。
「ところでな」
ニコとすれ違いざま、ささやいたのはナコトだった。顔つきから声遣いから、ナコトの人格は瞬時に戦闘向きのそれへと豹変している。
なにもないニコの背後を鋭い視線で釘刺し、ナコトは聞いた。
「そこのもうひとり、なぜ姿を隠している。わたしの目は誤魔化せんぞ。氷の呪力を応用した光学迷彩だな、それは?」
「!」
その場の四名は、勢いよく四方へ飛び離れた。
そう、三人ではなく、四人いる。超低温の霧のバリアを散らして新たに現れたのは、それまで不可視だった制服姿の女子高生だ。魔法少女の苛野藍薇ではないか。
そしてニコと名乗った少女のほうも、黒砂の魔王ことニコラに他ならない。
いつの間にか、ナコトの腕から子イノシシは消えている。呪力でできた二挺の大型拳銃へと、ナイアルラソテフは形態を変幻したのだ。
素早く回転させた拳銃を前後に引き絞り、ナコトは誰何した。
「ホーリーの差し金だろう、おまえら?」
不敵な笑みを浮かべたのは、少女の機体を与えられたニコだった。その周囲におびただしい砂鉄を上昇させつつ、肯定する。
「いかにも、我々はホーリーさまの古影だ」
「目的は、わたしたちを倒して会議を邪魔することに間違いないな?」
詰問したナコトの横、セラは必死に耳の無線機を叩いた。一方では結果呪の力を指先に込め、戸惑う。
「みんな、応答して! 敵だよ、敵!」
「無駄ね」
片目に呪力の五芒星を燃やし、冷淡に切り捨てたのはアイラだった。
「あんたたちの通信手段は、とっくに水分で凍らせて故障させた。うしろの扉も最大限に凍結させてあるから、撃とうが叫ぼうがいっさい音は届かない。助けは期待しないほうがいいわ」
「八方塞がりか。よかろう。こちらもお前らを逃がすつもりはない」
低い声で告げ、ナコトはセラに合図した。
「いくぞ、セラ。こいつらをできるだけ、会議室から遠ざけるんだ」
「わかったよ、ナコト」
身構えたニコとアイラめがけ、ナコトとセラは床を蹴った。
会議室へ通じる扉の前に立ち塞がるのは、彼女たち二人だった。
染夜名琴と井踊静良だ。
ふたりが片耳にはめる小さな無線機からは、室内の会話が包み隠さず流れている。関係者にのみだが、今回の超会議の内容は完全にオープンにされているのだ。それぞれの別室で待機する各世界の護衛たちも、議事を傾聴して悲喜こもごもに違いない。
無線機を押さえる指をかすかに震わせ、ナコトは我が耳を疑った。
「凛々橋、恵渡……似た名前の聞き間違い? この会議室の中にいるのは、もしかしてあのエド?」
ナコトの知るエドは、樋擦帆夏の毒牙にかかって敢えなく命を落としたはずだ。混沌の覇王たるナイアルラソテフでさえ、エドの復活は不可能と結論づけていた。仮に扉の向こうにいるのが本物の彼だとすれば、いったいどうやって?
とにかく、事実の確認は会議の完了後だ。ここはひとまず、会談の清聴や護衛の任務に集中することにしよう。
頑丈な入り口を守りながら、となりのセラにたずねたのはナコトだった。
「移住できるんだってね、異世界に?」
真剣な面持ちで、セラはうなずいた。
「びっくりさ。いままで頑なに他者の侵入を拒んでいたという幻夢境が、ついに別世界の人類を受け入れる気になったんだ。おまけに宇宙人まで協力して、未来からの攻撃に対抗する姿勢らしい。もしかしたらこれは、ホーリーの攻撃がぼくらに与えた怪我の功名かもしれないよ」
「幻夢境、か……」
子イノシシのぬいぐるみを抱きしめ、ナコトは天井に視線を馳せた。はるかなカダス山に建つ縞瑪瑙の巨城で受けたもてなしや、異世界勢の部屋に控えるだろうある風騎士のこと等々を思い出す。
「美味しかったな、テフのお城で食べたごちそう。ダーツを教えてくれる彼も、とっても優しかった……」
「ほほう?」
心ここにあらずのナコトの脇を、セラは意地悪げに肘で小突いた。
「その表情、さてはすぐ身近に好きな人がいるね?」
「好き……って、エぇ? そんな、やめてよ、セラ」
「図星だな。べつに恥ずかしがらなくたっていいさ。ぼくもこの群衆の中に、将来を約束した男性がいる」
「え、ほんと? だれ、だれだれ?」
「秘密、は教えないでもないよ。その代わりにナコトも、お相手の名前を打ち明けるんだ」
「そ、そっかぁ。じゃあ、せ~ので暴露する?」
「うん、せ~の……」
「こら」
第三の気配に驚き、ふたりが飛び上がるのは唐突だった。
大事な護衛任務の真っ最中だというのに、くだらないお喋りに興じるナコトとセラをどやしにきたらしい。
「あのさ、きみたちねぇ……」
細い腰に手をあて、嘆息するのは一人の少女だった。着用した美須賀大付属の学生服から察するに、見知らぬ顔だが組織の関係者のようだ。
すくみ上がるナコトとセラを、少女はたしなめた。
「やっぱり年相応のアルバイト感覚ってところか。もっと真面目にできないの?」
落ち込んだ面持ちで、セラは侘びた。
「すいません……あの、ええっと?」
「私はマタドールシステム・タイプNのニコ」
言われてみれば、その雰囲気はどことなく系列機のフィアやミコに似ている。
廊下の出口を指差し、ニコは呆れがちに促した。
「ナコト、セラ、いったん休憩だ。警備は代わるから、外の空気でも吸っといで」
「はぁい……」
叱られた二名は、しょんぼりと門衛から外れた。
「ところでな」
ニコとすれ違いざま、ささやいたのはナコトだった。顔つきから声遣いから、ナコトの人格は瞬時に戦闘向きのそれへと豹変している。
なにもないニコの背後を鋭い視線で釘刺し、ナコトは聞いた。
「そこのもうひとり、なぜ姿を隠している。わたしの目は誤魔化せんぞ。氷の呪力を応用した光学迷彩だな、それは?」
「!」
その場の四名は、勢いよく四方へ飛び離れた。
そう、三人ではなく、四人いる。超低温の霧のバリアを散らして新たに現れたのは、それまで不可視だった制服姿の女子高生だ。魔法少女の苛野藍薇ではないか。
そしてニコと名乗った少女のほうも、黒砂の魔王ことニコラに他ならない。
いつの間にか、ナコトの腕から子イノシシは消えている。呪力でできた二挺の大型拳銃へと、ナイアルラソテフは形態を変幻したのだ。
素早く回転させた拳銃を前後に引き絞り、ナコトは誰何した。
「ホーリーの差し金だろう、おまえら?」
不敵な笑みを浮かべたのは、少女の機体を与えられたニコだった。その周囲におびただしい砂鉄を上昇させつつ、肯定する。
「いかにも、我々はホーリーさまの古影だ」
「目的は、わたしたちを倒して会議を邪魔することに間違いないな?」
詰問したナコトの横、セラは必死に耳の無線機を叩いた。一方では結果呪の力を指先に込め、戸惑う。
「みんな、応答して! 敵だよ、敵!」
「無駄ね」
片目に呪力の五芒星を燃やし、冷淡に切り捨てたのはアイラだった。
「あんたたちの通信手段は、とっくに水分で凍らせて故障させた。うしろの扉も最大限に凍結させてあるから、撃とうが叫ぼうがいっさい音は届かない。助けは期待しないほうがいいわ」
「八方塞がりか。よかろう。こちらもお前らを逃がすつもりはない」
低い声で告げ、ナコトはセラに合図した。
「いくぞ、セラ。こいつらをできるだけ、会議室から遠ざけるんだ」
「わかったよ、ナコト」
身構えたニコとアイラめがけ、ナコトとセラは床を蹴った。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる