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第一話「点滅」
「点滅」(4)
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翌日、一限目の終わり……
休憩時間のチャイムが響く中、メグルはセラの席に近寄った。
「よ」
「やあ。あれ?」
お互い手をあげたあと、セラは小首をかしげた。
「メグル、きのうよりケガが増えてないかい?」
どこ吹く風の表情で、メグルは鼻の絆創膏をさすった。
「じぶんでミスったぶんだ、これは」
気の毒そうに眉をひそめ、セラはたずねた。
「病院には?」
「けさ早くに行った。片野先生の診てくれたとおり、どれも大したケガじゃなかったよ」
「そうか、よかった……」
きのうと打って変わったメグルの様子に、セラはすぐに気づいた。
「なにか、ずいぶん雰囲気が晴れやかになってるじゃないか?」
「ああ、じつはな……」
おもむろにメグルは切り出した。
「セラ、放課後は予定はあるか?」
目をぱちくりさせ、セラは答えた。
「とくにないよ。掃除と洗濯は済ませてきたし、あとは夕食を作るくらいだ」
「ゆ、夕食?」
メグルの顔は硬直した。
ほんらい母親に求めるべきスキルを、同級生の彼女はすでに習得している。あるいは大したことのないそれを、遠い異世界の出来事のようにメグルが感じたのも無理はない。
ぼうぜんとメグルは再確認した。
「きのうの裁縫といい、家事ができるのか、セラは?」
「ひととおりはね。得意料理は中華とイタリアン」
感動に、メグルの瞳はかがやいた。
「す、すげえ。お母さんから習ったの?」
「いや、独学だ。残念だけど母さんは、ぼくが小さなころに死んじゃってね。ぼくを育てたのは、父さんの男手ひとつってやつさ」
内心、メグルは納得した。だからセラは、こんなにもボーイッシュなのだ。
そしてセラは、メグルとおなじく片親育ちらしい。
メグルの胸の片隅に芽生えたこの感情はなんだろう。同族ならではの友情?
いや、それだけではない。見るものが見れば気づいはずだ。それはメグル自身も知らぬうちに唐突に生じた淡い〝恋心〟だった。
うつむいたメグルの顔は、かすかに紅潮している。
「その、ごめん」
「ん? なにがだい?」
「お母さんのこと。亡くなってるとは知らなくて」
穏やかにセラはほほえんだ。
「ぜんぜんかまわないよ。思い出すたびに母さんには、ぼくを産んでくれたことにとても感謝してる。もちろん、ここまで育ててくれた父さんにはもっともっと感謝してるよ」
ふとメグルの顔によぎったのは、どこか悲しげな感情だった。
「似てるようで、俺とは境遇がほんと真反対だ。それでなんだが……」
もじもじとメグルは問うた。
「放課後、ちょっと付き合ってくれないか?」
座席から、セラはメグルを上目遣いにした。
「ナンパかい?」
一瞬沈黙したあと、メグルは耳を真っ赤にして慌てた。
「ちがう!」
「なァんだ」
いたずらっぽく、セラは目を細めた。
「ちょっとワクワクしちゃったよ」
「がっかりはさせない。見てもらいたいものがあるんだ。きっとびっくりする」
「へんなものじゃないよね?」
「純真な俺にむかってなにを言う」
メグルは若干、いきどおってみせた。
「これはあれだ。手品っていうのか? 魔法っていうのか? とにかくすごいんだ」
「おもしろそうだね。いいよ、付き合おう。どこで?」
自信ありげに、メグルは告げた。
「河川敷の橋の下だ」
休憩時間のチャイムが響く中、メグルはセラの席に近寄った。
「よ」
「やあ。あれ?」
お互い手をあげたあと、セラは小首をかしげた。
「メグル、きのうよりケガが増えてないかい?」
どこ吹く風の表情で、メグルは鼻の絆創膏をさすった。
「じぶんでミスったぶんだ、これは」
気の毒そうに眉をひそめ、セラはたずねた。
「病院には?」
「けさ早くに行った。片野先生の診てくれたとおり、どれも大したケガじゃなかったよ」
「そうか、よかった……」
きのうと打って変わったメグルの様子に、セラはすぐに気づいた。
「なにか、ずいぶん雰囲気が晴れやかになってるじゃないか?」
「ああ、じつはな……」
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「セラ、放課後は予定はあるか?」
目をぱちくりさせ、セラは答えた。
「とくにないよ。掃除と洗濯は済ませてきたし、あとは夕食を作るくらいだ」
「ゆ、夕食?」
メグルの顔は硬直した。
ほんらい母親に求めるべきスキルを、同級生の彼女はすでに習得している。あるいは大したことのないそれを、遠い異世界の出来事のようにメグルが感じたのも無理はない。
ぼうぜんとメグルは再確認した。
「きのうの裁縫といい、家事ができるのか、セラは?」
「ひととおりはね。得意料理は中華とイタリアン」
感動に、メグルの瞳はかがやいた。
「す、すげえ。お母さんから習ったの?」
「いや、独学だ。残念だけど母さんは、ぼくが小さなころに死んじゃってね。ぼくを育てたのは、父さんの男手ひとつってやつさ」
内心、メグルは納得した。だからセラは、こんなにもボーイッシュなのだ。
そしてセラは、メグルとおなじく片親育ちらしい。
メグルの胸の片隅に芽生えたこの感情はなんだろう。同族ならではの友情?
いや、それだけではない。見るものが見れば気づいはずだ。それはメグル自身も知らぬうちに唐突に生じた淡い〝恋心〟だった。
うつむいたメグルの顔は、かすかに紅潮している。
「その、ごめん」
「ん? なにがだい?」
「お母さんのこと。亡くなってるとは知らなくて」
穏やかにセラはほほえんだ。
「ぜんぜんかまわないよ。思い出すたびに母さんには、ぼくを産んでくれたことにとても感謝してる。もちろん、ここまで育ててくれた父さんにはもっともっと感謝してるよ」
ふとメグルの顔によぎったのは、どこか悲しげな感情だった。
「似てるようで、俺とは境遇がほんと真反対だ。それでなんだが……」
もじもじとメグルは問うた。
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座席から、セラはメグルを上目遣いにした。
「ナンパかい?」
一瞬沈黙したあと、メグルは耳を真っ赤にして慌てた。
「ちがう!」
「なァんだ」
いたずらっぽく、セラは目を細めた。
「ちょっとワクワクしちゃったよ」
「がっかりはさせない。見てもらいたいものがあるんだ。きっとびっくりする」
「へんなものじゃないよね?」
「純真な俺にむかってなにを言う」
メグルは若干、いきどおってみせた。
「これはあれだ。手品っていうのか? 魔法っていうのか? とにかくすごいんだ」
「おもしろそうだね。いいよ、付き合おう。どこで?」
自信ありげに、メグルは告げた。
「河川敷の橋の下だ」
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