スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)

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第一話「点滅」

「点滅」(4)

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 翌日、一限目の終わり……

 休憩時間のチャイムが響く中、メグルはセラの席に近寄った。

「よ」

「やあ。あれ?」

 お互い手をあげたあと、セラは小首をかしげた。

「メグル、きのうよりケガが増えてないかい?」

 どこ吹く風の表情で、メグルは鼻の絆創膏をさすった。

「じぶんでミスったぶんだ、これは」

 気の毒そうに眉をひそめ、セラはたずねた。

「病院には?」

「けさ早くに行った。片野かたの先生の診てくれたとおり、どれも大したケガじゃなかったよ」

「そうか、よかった……」

 きのうと打って変わったメグルの様子に、セラはすぐに気づいた。

「なにか、ずいぶん雰囲気が晴れやかになってるじゃないか?」

「ああ、じつはな……」

 おもむろにメグルは切り出した。

「セラ、放課後は予定はあるか?」

 目をぱちくりさせ、セラは答えた。

「とくにないよ。掃除と洗濯は済ませてきたし、あとは夕食を作るくらいだ」

「ゆ、夕食?」

 メグルの顔は硬直した。

 ほんらい母親に求めるべきスキルを、同級生の彼女はすでに習得している。あるいは大したことのないそれを、遠い異世界の出来事のようにメグルが感じたのも無理はない。

 ぼうぜんとメグルは再確認した。

「きのうの裁縫といい、家事ができるのか、セラは?」

「ひととおりはね。得意料理は中華とイタリアン」

 感動に、メグルの瞳はかがやいた。

「す、すげえ。お母さんから習ったの?」

「いや、独学だ。残念だけど母さんは、ぼくが小さなころに死んじゃってね。ぼくを育てたのは、父さんの男手ひとつってやつさ」

 内心、メグルは納得した。だからセラは、こんなにもボーイッシュなのだ。

 そしてセラは、メグルとおなじく片親育ちらしい。

 メグルの胸の片隅に芽生えたこの感情はなんだろう。同族ならではの友情?

 いや、それだけではない。見るものが見れば気づいはずだ。それはメグル自身も知らぬうちに唐突に生じた淡い〝恋心〟だった。

 うつむいたメグルの顔は、かすかに紅潮している。

「その、ごめん」

「ん? なにがだい?」

「お母さんのこと。亡くなってるとは知らなくて」

 穏やかにセラはほほえんだ。

「ぜんぜんかまわないよ。思い出すたびに母さんには、ぼくを産んでくれたことにとても感謝してる。もちろん、ここまで育ててくれた父さんにはもっともっと感謝してるよ」

 ふとメグルの顔によぎったのは、どこか悲しげな感情だった。

「似てるようで、俺とは境遇がほんと真反対だ。それでなんだが……」

 もじもじとメグルは問うた。

「放課後、ちょっと付き合ってくれないか?」

 座席から、セラはメグルを上目遣いにした。

「ナンパかい?」

 一瞬沈黙したあと、メグルは耳を真っ赤にして慌てた。

「ちがう!」

「なァんだ」

 いたずらっぽく、セラは目を細めた。

「ちょっとワクワクしちゃったよ」

「がっかりはさせない。見てもらいたいものがあるんだ。きっとびっくりする」

「へんなものじゃないよね?」

「純真な俺にむかってなにを言う」

 メグルは若干、いきどおってみせた。

「これはあれだ。手品っていうのか? 魔法っていうのか? とにかくすごいんだ」

「おもしろそうだね。いいよ、付き合おう。どこで?」

 自信ありげに、メグルは告げた。

「河川敷の橋の下だ」
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