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第四話「棺桶」
「棺桶」(3)
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シヅルとホシカの囚われる牢屋……
通路側の天井で、轟音が響いた。
豪快に表装を蹴破った空調から、侵入した人影は身を畳んで床へ降り立っている。思わず腰を浮かせた魔法少女たちは、ふたりの台詞をハモらせた。
「「ルリエ!?」」
天井裏の埃や蜘蛛の巣にまみれたまま、ルリエは立ち上がった。別れてガラスの独房に拘置されるふたりへ、順番に視線を移しながらつぶやく。
「ごきげんよう、シヅル。そして久しぶりね、伊捨星歌」
「まさかこんな形で再会するとはな。とっとと出せよ、檻のカギ?」
「あいかわらずね、デリカシーのなさは」
嘆息するルリエの手に、小さな装置が輝いた。キスラニから奪い取ったリモコン式のカギだ。そのボタンに指をかけ、ルリエは告げた。
「さて、どっちが開くかしら?」
押下と同時に、格子が開放されたのはシヅルの牢獄のほうだった。
廊下に爪先を踏み出しつつ、たずねたのはシヅルだ。
「片方しか開かへんのけ?」
「そのようね。いったん退却するわ」
憮然とするホシカとルリエを見比べながら、シヅルは問うた。
「ホシカを放ったままでか?」
「そっちの部屋のカギは、おそらくダムナトスが持ってる。でも身をもって体感したでしょ、あいつのシャードの理不尽さは。ここはひとまず仕切り直して、対策を練るわよ」
「せやけどやな……」
ためらうシヅルへ、ガラス越しにホシカは親指を立ててみせた。
「あたしなら心配ない。先に行きな。待ってるぜ」
「…………」
さんざ迷ったのち、シヅルは苦渋の決断を下した。
「わかった。必ず助けに戻るから、くれぐれも気いつけてや」
「そっちもな」
ルリエに続き、シヅルも出口へ向かって駆け出した。
迅速に階段をのぼり、足音を殺して通路を進む。外部へ抜ける最短距離だ。ときおり曲がり角で立ち止まって慎重に確かめるが、警備とおぼしき気配はない。
やがて、シヅルとルリエの視界は唐突に開けた。
「!」
ふたりの目前に広がるのは、邸内の大きなプールだ。その規模感は学校のそれと同等以上と思われ、とくに水底は暗くてまるで見通せない。その恐ろしいまでの深さからは、ただの金持ちの道楽だけではなく、なんらかの呪的な研究の意図さえ感じられる。
そして、プールサイドに立ちふさがる人影はふたつあった。
キスラニと、ダムナトスではないか。
異質な辞書を繰るダムナトスを睨み、ルリエは小さく舌打ちした。
「もうバレたか……!」
「久灯瑠璃絵」
朗々と切り出したのはダムナトスだった。
「とうに知っているぞ。おまえ、俺の部下のシャードを奪ったな。自然牙の指輪に、偏向皮の耳飾り、さらには千里眼の眼鏡だ。大事な品なので、返してくれないだろうか?」
「嫌よ」
「集めた我がシャード、なにに悪用するつもりだ? まさか、幻夢境のメネス・アタールにでも献上するつもりかね?」
「…………」
「当たりだな。顔に書いてある。では多少手荒になるが、奪還させてもらうぞ」
まっすぐ敵手は見据えたまま、ルリエは横のシヅルへ耳打ちした。
「こうなったら腹をくくりましょう。ダムナトスの相手はあたしがする」
「ほならうちが、残ったシャードのほうを?」
「頼むわ。命重装の能力に対抗できるのは、あなたの〝蜘蛛の騎士〟しかない」
油断なく身構えて、ルリエは言い放った。
「魔法少女の力、完全解放を許可するわ。時間切れにだけは注意してね」
「よっしゃ!」
呪力を燃やして、シヅルとルリエは床を蹴った。
通路側の天井で、轟音が響いた。
豪快に表装を蹴破った空調から、侵入した人影は身を畳んで床へ降り立っている。思わず腰を浮かせた魔法少女たちは、ふたりの台詞をハモらせた。
「「ルリエ!?」」
天井裏の埃や蜘蛛の巣にまみれたまま、ルリエは立ち上がった。別れてガラスの独房に拘置されるふたりへ、順番に視線を移しながらつぶやく。
「ごきげんよう、シヅル。そして久しぶりね、伊捨星歌」
「まさかこんな形で再会するとはな。とっとと出せよ、檻のカギ?」
「あいかわらずね、デリカシーのなさは」
嘆息するルリエの手に、小さな装置が輝いた。キスラニから奪い取ったリモコン式のカギだ。そのボタンに指をかけ、ルリエは告げた。
「さて、どっちが開くかしら?」
押下と同時に、格子が開放されたのはシヅルの牢獄のほうだった。
廊下に爪先を踏み出しつつ、たずねたのはシヅルだ。
「片方しか開かへんのけ?」
「そのようね。いったん退却するわ」
憮然とするホシカとルリエを見比べながら、シヅルは問うた。
「ホシカを放ったままでか?」
「そっちの部屋のカギは、おそらくダムナトスが持ってる。でも身をもって体感したでしょ、あいつのシャードの理不尽さは。ここはひとまず仕切り直して、対策を練るわよ」
「せやけどやな……」
ためらうシヅルへ、ガラス越しにホシカは親指を立ててみせた。
「あたしなら心配ない。先に行きな。待ってるぜ」
「…………」
さんざ迷ったのち、シヅルは苦渋の決断を下した。
「わかった。必ず助けに戻るから、くれぐれも気いつけてや」
「そっちもな」
ルリエに続き、シヅルも出口へ向かって駆け出した。
迅速に階段をのぼり、足音を殺して通路を進む。外部へ抜ける最短距離だ。ときおり曲がり角で立ち止まって慎重に確かめるが、警備とおぼしき気配はない。
やがて、シヅルとルリエの視界は唐突に開けた。
「!」
ふたりの目前に広がるのは、邸内の大きなプールだ。その規模感は学校のそれと同等以上と思われ、とくに水底は暗くてまるで見通せない。その恐ろしいまでの深さからは、ただの金持ちの道楽だけではなく、なんらかの呪的な研究の意図さえ感じられる。
そして、プールサイドに立ちふさがる人影はふたつあった。
キスラニと、ダムナトスではないか。
異質な辞書を繰るダムナトスを睨み、ルリエは小さく舌打ちした。
「もうバレたか……!」
「久灯瑠璃絵」
朗々と切り出したのはダムナトスだった。
「とうに知っているぞ。おまえ、俺の部下のシャードを奪ったな。自然牙の指輪に、偏向皮の耳飾り、さらには千里眼の眼鏡だ。大事な品なので、返してくれないだろうか?」
「嫌よ」
「集めた我がシャード、なにに悪用するつもりだ? まさか、幻夢境のメネス・アタールにでも献上するつもりかね?」
「…………」
「当たりだな。顔に書いてある。では多少手荒になるが、奪還させてもらうぞ」
まっすぐ敵手は見据えたまま、ルリエは横のシヅルへ耳打ちした。
「こうなったら腹をくくりましょう。ダムナトスの相手はあたしがする」
「ほならうちが、残ったシャードのほうを?」
「頼むわ。命重装の能力に対抗できるのは、あなたの〝蜘蛛の騎士〟しかない」
油断なく身構えて、ルリエは言い放った。
「魔法少女の力、完全解放を許可するわ。時間切れにだけは注意してね」
「よっしゃ!」
呪力を燃やして、シヅルとルリエは床を蹴った。
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