捨てられ勇者は深淵より微笑む ――知略と復讐の異世界契約録

うなぎ

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「観察の指輪と白い仮面」

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――視える。

真木智也は、安宿の薄暗い部屋で指輪を見つめていた。
その黒い指輪が脈動を始めてから、彼の意識の中には「他者の行動と思考の断片」が浮かぶようになっていた。

(……この男、毎晩決まった時間に、裏通りの市場を巡回。立ち止まる回数、視線の動き、会話のタイミング……軍の巡回と同じ動きだ)

【影の観察者】の力――それは対象の行動を“見なくても”読み取れるスキル。智也はそれを使い、数日間にわたってエルメス街区に潜む一人の男を追っていた。

仮面を被った情報屋――“レッドの仮面”。

その男は、ただの情報屋を装っていたが、行動パターンと使用する言葉の癖、さらには目に見えない“巡回経路”まで一致していた。

(こいつ……王国の諜報機関の一員だ。俺の監視も含めて、この街に潜伏してる……!)

智也は、壁に貼り付けた羊皮紙に記録を書き足していく。文字は簡略化され、読む者が限られる形式。彼は、ゲームと現代社会で培った情報整理術を異世界に応用していた。

そしてその夜。

智也はついに、“接触”を決意する。

* * *

細い路地の奥、月明かりの下。
仮面の男が背中を向けて歩いていた。肩に羽織ったマントの裏に、小型の短剣が隠れていることも、智也はすでに知っていた。

「……なあ、ひとつ聞いてもいいか?」

レッドの仮面が立ち止まる。

「“灰翼”って名を聞いたことあるか?」

「……誰だ、お前は」
低く冷たい声。男は振り向くが、まだ武器には手を伸ばさない。

「元・勇者。名前は真木智也」
智也は自分の素性をあえて晒した。

「そうか……追放された、“ハズレ”か」

「ハズレでも、観察はできる。お前が三日前に接触していた猫背の男――あれ、“灰翼”の副長だったろ」

仮面の奥で、男の表情が動いた。

それだけで智也は“確信”した。
情報は、当てるのではなく“反応で証明する”。

「取引を持ちかけたい」

「取引?」
仮面の男が目を細める。

「この街で俺が観察したもの、全て記録してある。お前が情報を欲しているなら渡してもいい。その代わり、俺を“王城の情報網”に繋げろ」

沈黙が流れる。やがて男が歩を一歩、智也に近づけた。

「お前は……何が目的だ」

「復讐」
即答だった。

「王と王子に裏切られ、見下され、捨てられた。俺は奴らの“王国”そのものを瓦解させたい。そのために、最初の“手札”を得たいだけだ」

男はその言葉に、しばらく口を閉ざしていたが、やがて静かに言った。

「……面白い。ならば“試す”価値はある。明日の夜、北側倉庫街の裏通路。そこで、連絡役を会わせよう。そこで渡せ、“観察の記録”を」

「承知した」

取引は成立した。
これはまだ前哨戦に過ぎない。だが、王国の牙を内部から砕くための、確実な第一歩だった。

* * *

夜更け。

智也は宿に戻ると、再び指輪を嵌め直す。思考が研ぎ澄まされ、脳の奥がじんじんと疼く。

『契約進捗:10%達成』
『新たな契約階層への条件:「初手の交渉成功」達成』
『次階層:第二階・欺瞞の紡ぎ手 ※ロック中』

(この指輪……段階的に成長するのか?)

深淵の契約は、“知略で勝つたびに進化する”。
力ではない。知恵こそが、真木智也の武器だ。

「さて……“王城”にヒビを入れる準備を始めるか」

智也の復讐は、静かに、着実に――
血を流すことなく、“情報”という刃で進行していく。
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