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「最初の死者」
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サリオス王城・北塔地下。
そこは、王族直轄の監査局――「封録室」。
普段は使われることもない、“王命に関わる違反行為”を密かに裁く場所。
今日、そこに1人の男が連行されていた。
名前は、ヴィド・ローク。政務記録課に勤める中年の文官。
王子の名を騙る命令書の1通に、自らの筆跡が混じっていたことが発覚したのだ。
「ち、違う……俺は、命令を見た通りに処理しただけで――っ!」
「証拠はある。貴様が“記録文書”を持ち出して書き換えた跡も、目撃者もな」
監査官の冷淡な声。
剣の刃が、男の首元に突き立てられる。
「し、信じてくれ……俺は、命令通りに……!」
だが、その言葉は無情に断ち切られた。
「この国に必要なのは“統制”だ。情報の揺らぎは、戦場より危険だからな」
──ズ、と肉を裂く音。
一人目の“死者”が出た。
* * *
その報は、すぐに王都中に広がった。
「聞いたか? 王命の偽造に関わった文官が処刑されたって……」
「しかも監査局で、“王命違反”として裁かれたらしい……」
「……まるで、戦時中の粛清だな」
静かに、確実に、人々の口が閉じていく。
“知らないふり”をする者が増える中、ただ一人、ルシアだけは顔を上げた。
「……始まったのね。情報に触れる者が、“消される”流れが」
ルシアは、また新たな手紙を手に取る。
差出人は――M.T.
「貴女が“正しさ”を問うなら、私は“必要性”を問う」
「死者が出るのは、間違いではない。間違っているのは、“沈黙が支配する社会”だ」
「私は、その沈黙を壊すために動いている」
(……沈黙を壊す。けれど、それは本当に“正義”なの?)
ルシアは、まだ答えを持てなかった。
* * *
その夜。
エルメス街区・智也の潜伏先。
「……文官が一人、粛清されたそうよ」
セリアが苦々しく呟いた。
智也は淡々と手紙を書き続けていた。
「想定内だ。誰かが“火種”を持っていけば、王子は“火消し”に走る。それだけのことだ」
「ねぇ、智也。あなたさ……いつまで“そういう顔”でいるつもり?」
「どういう意味だ」
「全部計算で動いてる。全部“駒”。ルシアに手紙を出してるときでさえ、あなたの目は冷たい」
智也の手が止まる。
「……お前、俺が“ルシアに心を動かされてる”とでも思ってるのか?」
「そうじゃない。……そうじゃないから、怖いの」
セリアは、初めて声を震わせた。
「あなた、何も感じてないのよね。人が死んでも、利用されても、信頼されても。それが……本当に怖い」
智也は何も言わなかった。
ただ、机の上の白紙に、“自分の名前の頭文字”だけを小さく記した。
M.T.
(……俺は、“あのとき”死んだんだよ)
(勇者だの、希望だの、信頼だの――そんなものに縋った“真木智也”は、あの日、あの王城で殺された)
指輪が冷たく脈を打つ。
“深淵”が、また一歩、智也を奥へと引きずり込んでいく。
そこは、王族直轄の監査局――「封録室」。
普段は使われることもない、“王命に関わる違反行為”を密かに裁く場所。
今日、そこに1人の男が連行されていた。
名前は、ヴィド・ローク。政務記録課に勤める中年の文官。
王子の名を騙る命令書の1通に、自らの筆跡が混じっていたことが発覚したのだ。
「ち、違う……俺は、命令を見た通りに処理しただけで――っ!」
「証拠はある。貴様が“記録文書”を持ち出して書き換えた跡も、目撃者もな」
監査官の冷淡な声。
剣の刃が、男の首元に突き立てられる。
「し、信じてくれ……俺は、命令通りに……!」
だが、その言葉は無情に断ち切られた。
「この国に必要なのは“統制”だ。情報の揺らぎは、戦場より危険だからな」
──ズ、と肉を裂く音。
一人目の“死者”が出た。
* * *
その報は、すぐに王都中に広がった。
「聞いたか? 王命の偽造に関わった文官が処刑されたって……」
「しかも監査局で、“王命違反”として裁かれたらしい……」
「……まるで、戦時中の粛清だな」
静かに、確実に、人々の口が閉じていく。
“知らないふり”をする者が増える中、ただ一人、ルシアだけは顔を上げた。
「……始まったのね。情報に触れる者が、“消される”流れが」
ルシアは、また新たな手紙を手に取る。
差出人は――M.T.
「貴女が“正しさ”を問うなら、私は“必要性”を問う」
「死者が出るのは、間違いではない。間違っているのは、“沈黙が支配する社会”だ」
「私は、その沈黙を壊すために動いている」
(……沈黙を壊す。けれど、それは本当に“正義”なの?)
ルシアは、まだ答えを持てなかった。
* * *
その夜。
エルメス街区・智也の潜伏先。
「……文官が一人、粛清されたそうよ」
セリアが苦々しく呟いた。
智也は淡々と手紙を書き続けていた。
「想定内だ。誰かが“火種”を持っていけば、王子は“火消し”に走る。それだけのことだ」
「ねぇ、智也。あなたさ……いつまで“そういう顔”でいるつもり?」
「どういう意味だ」
「全部計算で動いてる。全部“駒”。ルシアに手紙を出してるときでさえ、あなたの目は冷たい」
智也の手が止まる。
「……お前、俺が“ルシアに心を動かされてる”とでも思ってるのか?」
「そうじゃない。……そうじゃないから、怖いの」
セリアは、初めて声を震わせた。
「あなた、何も感じてないのよね。人が死んでも、利用されても、信頼されても。それが……本当に怖い」
智也は何も言わなかった。
ただ、机の上の白紙に、“自分の名前の頭文字”だけを小さく記した。
M.T.
(……俺は、“あのとき”死んだんだよ)
(勇者だの、希望だの、信頼だの――そんなものに縋った“真木智也”は、あの日、あの王城で殺された)
指輪が冷たく脈を打つ。
“深淵”が、また一歩、智也を奥へと引きずり込んでいく。
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