捨てられ勇者は深淵より微笑む ――知略と復讐の異世界契約録

うなぎ

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「歪んだ感情と第三階の兆し」

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──サリオス王国、王城内・南図書室。

ルシアは誰もいない書架の間で、封をされた書物の裏に1通の書簡を隠した。

“宛先:M.T.”
差出人の名はどこにも書かれていない。だが中には、こう綴られていた。

「あなたの言う“沈黙を壊すこと”には、確かに意味があると感じ始めました」
「ですが、誰かを傷つけても尚、進む覚悟があるのなら――私もまた、目を逸らさないつもりです」

「この国の中で、“あなたが生きている”のだと信じている」

智也の名を知らぬまま、彼女は確かに“彼”に近づき始めていた。

* * *

その頃、智也は灰翼の報告書を読んでいた。

「……ルシアが“第三書庫”に頻繁に出入りしている?」

接触員はうなずく。

「内部の情報を独自に集めているようです。“上”では、彼女が王子への内通者である可能性があると見て、監視対象に」

智也は書簡を折りたたんだ。

(動いてるな……着実に。俺の言葉を“自分の意思”に変えて)

“観察者”の力を通して見えるルシアは、日に日にその視線に芯を宿していた。
ただ情報を集めるのではなく、自ら“選ぶ”ようになっていた。

そして――智也は感じていた。

(次だ。次で“深淵”が開く)

彼の中の契約が、蠢いていた。



その夜。

翡翠の灯の一室で、セリアが智也の机に封書を置いていた。

「あなたの計画に加わって、私はあなたの“影”でいるつもりだった」
「でも今、あなたの目に映ってるのは“別の誰か”よね?」

「だから、私も動くわ。あなたの知らない“もう一つの策”として」

「……」

智也はそれを読み、しばらく無言だった。

やがて立ち上がり、セリアの痕跡を【観察者】の力で追おうとする――

が、その時。

指輪が脈動を始めた。



『深淵の契約 第三階段・条件達成』
『トリガー:予測不能の裏切り/感情の断絶』

【第三階:支配の語り部】
――対象の記憶・関係・評判・噂を操作し、“他人の中の印象”を作り変える能力

※発動には“密接な接触”か、“信頼の痕跡”が必要

智也の背中に、冷たい汗が流れる。

(……感情を切ったつもりだった。けど……)

セリアの行動が、想定を超えた瞬間――“契約”は開かれた。



同時刻、王城内。

ルシアは、封録室の資料にこっそり手を伸ばしていた女性に出くわす。

「……あなた、王家の文官じゃないわね?」

その女は、しばらくルシアを見つめたあと――こう答えた。

「私は、あなたの“味方”になりたい」

名は、マルグリット・ゼイン。
元・灰翼の監査補佐。現在は王城で書記をしている女性。

「貴女が追っている真実……私も、それを暴く側に立ちたいの」

ルシアは、初めて自分から“共犯者”に手を伸ばした。
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