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『籠鳥恋雲』
前編
しおりを挟む『籠鳥雲を恋う』──籠の中の鳥は、自由な大空を恋しがる。
果たしてそれは本当なのだろうか?
贅沢を享受できる安全な籠の中。小鳥はそれを手放してまで自由を求めるものなのか?
それを知るのにちょうどいい獲物──戯れに始めた暇つぶし。
そのはずだったのに……。いつしか、こんなにも深みに嵌ってしまっていた。
何よりも美しい、私の籠の鳥──。
◇◇◇
重厚なマホガニーのベッドが一定のリズムを刻み軋んでいる。
獣のように四つん這いになったラウラは、華奢な腰を掴まれ男の欲望を穿たれ続けていた。
夜明けはまだ遠く、終わりのない官能が彼女を苛んでいく。
「そんなに切なげに締めつけなくとも、私は出ていかないぞ? 安心していくらでも達するといい。なぁ、ラウラ?」
「っ、ん! あぁっ……!」
大陸の覇権を握る帝国・オルドラード。
その頂点に君臨する若き皇帝ニコラウスは、自らの剣と力で全てをねじ伏せ、五人の兄がいたにもかかわらず二十三歳にして玉座に座った男だった。
先帝の崩御からニコラウスが即位するまでの間に起ったことは、もはや誰の口からも語られることはない。
その手を血に染め続けてきた皇帝は、ベッドの上でもその力を誇示するように、容赦なく己の思うままラウラを蹂躙していた。
彼の厚く盛り上がった胸から割れた腹筋へと汗が流れ落ちる。
その逞しい身体には不釣り合いだと思えるほどに甘く整った顔立ち。肩までの滑らかな濡羽色の髪と、同じ色の双眸が彼の美貌を妖艶に引き立てていた。
既に一度彼女の胎へ熱を放ったあとだというのに、ニコラウスは余裕の笑みを浮かべて滾る楔を根元まで打ちつけ続ける。
まるで子を宿す場所に覚醒を促すように、切っ先が与えてくる絶え間ない喜悦。子を宿すことなど許しもしないくせに、この冷酷な男は執拗なまでにそこばかりを責めたててくるのだ。
そうしてシーツを握りしめ必死に耐えていたラウラの腕からふいに力が抜け、彼女がとさりとベッドに胸をついた。
(もう、だめ……)
そう訴えたくとも、ラウラの口からはもう、悲鳴にも似た喘ぎ声しか出てこない。
汗に濡れた透き通る肌。彼女の蜂蜜色の長い髪は乱れ、背中や首筋に張りついていた。
そんな彼女に覆いかぶさり、紅潮した頬にかかる金髪を指先でラウラの耳にかけたニコラウスの低く掠れた声が、悪魔のささやきのようにその耳に注ぎ込まれる。
「気を失うなど許さないよ? ほら、ここも可愛がってあげるから、ちゃんと達ってみせるんだ。さぁ、ラウラ? できるだろう?」
彼女を抱え込んだニコラウスの手が二人の繋がる場所へと伸びていく。そうして強引な指先が熟した種を弄びだしたのだ。
「あぁぁ! やぁっ……──っ!」
息を詰め大きく身体をしならせた彼女がシーツをぐっしょりと濡らし、はしたない染みを作る。
ラウラを吞み込んだその快楽には終わりがみえず、うねる内壁は剛直を喰い締めて彼をもその渦の中へと引き込んでいった。
「はぁ……最高だ。私をこんなにも昂らせることができるのは、ラウラだけ……君だけだよ」
彼女の顔を無理やり自分へと向けさせ、ニコラウスはねっとりとした口づけを与える。
彼が唇を離してみれば、ラウラはこんなにも追い詰められた状況だというのに、濡羽の双眸をきつく睨みつけていた。
(あぁ、これだ……この目だ。私を何度でも虜にする……)
ゾクゾクと沸き上がってくるこの感情の名前は果たして何なのか──それがわからないまま、ニコラウスは答えを求めようともせず、ただ彼女の身体を仰向けにして豊満な果実を味わいだす。
やがて欲望が再び穿たれ、ラウラは抗いようもなく甘美で苦しい渦の中へとまた堕とされていった。
「ラウラのこんな姿を知るのは私だけでいい……。もっと……もっとだ……。私の前で善がり狂ってみせろ、ラウラ!」
「んぁん! や、やぁ……っ、あぁ!」
「そうだよ、ラウラ。そうやって乱れ続けるんだ」
──私が満足するまで離さない……夜明けは、終わりではないからね……。
その言葉を聞いて、ついに耐えきれず恐怖をあらわにしたラウラが、逃れようと必死にもがく。
だがその様子は、己を犯す男を悦ばせただけだったのだ。
ラウラ・スカラティア──血染めの皇帝に囚われた亡国の王女は、この夜も自身を蹂躙する男の腕の中で、欲望を受け入れたまま眠りに落ちていった……。
◇◇◇
スカラリー王国は大陸のほぼ中央に位置する小国だった。
かつては多くの国々がこの大陸に存在していたが、やがて西のオルドラード帝国と東のバルストル王国が次々と周辺国を属国として手に入れ、勢力を拡大していったのだ。
そんな中で、スカラリー王国は二つの大河に挟まれた陸の孤島だったため両国の侵攻を免れ、独自の文化を育んできた国だった。
二十年前、スカラリー国王の第五妃が身ごもると、神殿の大神官が生まれてくる王女こそ神が望まれし神子であり、神の贄であると予言した。
スカラリーには百年に一度、国を守護する水神アノスに清らかな乙女を生贄として捧げる風習がある。そうすることで、二つの大河の氾濫をおさえ、国を守ることができると信じられてきたのだ。
五百年前までは、生贄に選ばれた少女が本当に大河に身を捧げていたのだが、今は生涯を神殿で過ごしアノスに祈りを捧げて清らかに生きることが役目とされていた。
大神官の予言通り、第五妃は王女を出産。ラウラと名付けられた王女は、生まれたその日から神殿に引き取られ、大神官以外の男性は足を踏み入れることが許されない禁域で育てられてきたのだ。
数人の修道女たちの手によって、小さな鳥籠の中で育てられてきたラウラ。
そんな彼女を神殿から強引に連れ出したのがニコラウスだった。
東の大国バルストルへ侵攻するタイミングをずっと見計らっていた彼は、バルストルの王太子が落馬によって急逝し後継者争いが起こった隙を見逃さなかった。
ニコラウスはこの日のために数年をかけて水軍を用意しており、大河を越えスカラリーを通ってバルストルへと侵攻していったのだ。そして当然のようにその過程でスカラリーをも手中に収めた皇帝は、水神アノスへの信仰が厚いこの国を統治するために何が必要なのかをよくわかっていた。
そうして堂々と禁域へと踏み込み、ニコラウスはラウラをさらってバルストルへと向かったのだった。
バルストルの王城が陥落したのはそれからすぐのこと──。
王族や高位貴族たちを次々と処刑し、彼は恐怖と混沌の中で大陸の統一を果たしたのだ。
そしてラウラが初めて彼に抱かれたのは、彼が大陸の覇者として自らの名を世に叫んだその日だった。
バルストル王城の冷たい塔の一室──。
鉄格子に囲われた部屋の簡素なベッドの上で必死に抵抗した彼女は両手を縛られ、ひどい苦痛の中で純潔を散らされた。
「へぇ……。ここまでされても、まだ私を睨みつけるのか……。気に入ったよ。名は、確かラウラだったな?」
「…………」
「いい目だ、ラウラ。これからも楽しませてもらおうか? 存分にな……」
「……っ……」
それから──。
オルドラードの首都・カルメに凱旋するまで二月の間、ラウラは冷酷な皇帝に抱かれ続けた。
頑なに快楽を覚えようとせず、毎回必死で拒んでくるラウラ。次第にニコラウスは、そんな彼女を屈服させることに堪らない愉悦を覚え始める。
「ねぇ、知っているかい? 私は君が拒めば拒むほど、昂ってくるんだよ? 戦場に立っていた時とは比べものにならないくらいゾクゾクとするんだ。こんなラウラを快楽に堕としたら、どれほどだろうね……?」
「い、ったい……何を、飲ませ……っ、あ……」
「ん? さっきキスして飲み込ませたものかい? 薬だよ。媚薬の一種だ。効いてきたみたいだね?」
「んぅっ、あぁ……やっ、あん!」
カルメに到着したニコラウスは、後宮に入れていた女たちを全て放逐した。虎視眈々と皇后の座を狙っていたいくつかの高位貴族の娘たちは、彼の握っていた証拠によって姦通罪や不敬罪に問われ、一族もろとも処刑までされたのだ。
そうして彼はラウラただ一人を後宮に入れ、なんと皇后宮の豪華な一室を与えた。そこは全ての窓に鉄格子がはめられ、入り口のドアには常に鍵がかけられた部屋。
ニコラウスただ一人がそのドアを開く鍵を持つ──そこは、ラウラの新たな鳥籠だった。
始めはただ血による昂りを治めるためだけ──己の欲望を満足させるためだけにラウラを抱いていたニコラウス。
常に血に飢え、猛獣の如く荒ぶる皇帝に、大抵の者は怯え、そうでなければ媚びを売る。
怒りの表情を浮かべることをしない暴君。ニコラウスが冷酷に剣を取るとき、彼は冷えきった笑みで穏やかに話すのだ。
そう、彼の心に火が灯ることなどずっとなかった。凍りついていた心臓に人間らしい鼓動を取り戻させたのは、単なる人質として戯れに手をつけた何の力も持たないはずの小国の王女だったのだ。
ラウラはニコラウスの言葉に、愛撫に──その終わりなき欲望に、真っ直ぐぶつかってくる。
彼の黒き双眸を睨み憎しみをぶつけ、悔しさに涙を流すその姿は、ニコラウスがこれまでに組み敷いてきたどんな女よりも美しく、ラウラへの執着は異常なほど深まっていったのだ。
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