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伯爵邸の一室で…

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「あ……」

「え……?」

ヤバッ!?

北条さんもクラスメイト全員をまとめあげるリーダーなんて苦労してそうだなぁ……なんて考えていると……

目が合った!北条さんと!遠目にだけど!絶対合った!

北条さんも気付いたみたいだし……ヤバイ……どうする!?

「アカネ様?どうかしました?」

呆けていた北条さんをグレイスさんが呼ぶと、はっとしたように北条さんはグレイスさんの方を向いた。

「いえ、なんでもないです。ただ、私達が来るためだけに使用人の人達も集まってくれたことに驚いて……」

「ああ、そうでしたか。アカネ様方がいた世界ではあまり見ない光景でしたか?」

「少なくとも私達が住んでいた国では。そもそも貴族もいませんから。」

「ほう……貴族がいないとなれば、どのように国を運営していたのか気になりますね。」

「私が分かる範囲であればお教えしましょうか?」

「それは楽しみです。では応接室の方に案内します。」

そう言ってグレイスさんは屋敷の中に入って行き、北条さんは俺に向かってウインクをしてグレイスさんの後をついて行った。

よかったぁぁぁ!ナイスです!北条さん!



その後、俺達は一度部屋に戻って時間を潰すことにした。ちなみに、1組のほとんどが街に出掛けたこともあり、北条さん以外は俺に気づかなかったみたいだ。

「ヒビキ、ちょっといいか?」

「はい?大丈夫ですよ、ギルアスさん。」

スイと遊んでいるとドアがノックされ、ギルアスさんが入ってきた。

「どうかしましたか?」

「いや……どういう意図があるのかがまったく分からないからな……断ってくれてもいいんだが……」

…?なんだ?

「勇者のリーダー、アカネがお前に面会を求めてきた。理由はこの世界で自分達と同じ黒髪を初めて見たから少し話してみたい、だそうだ。」

「…………」

つまり、北条さんは何かしらの理由をつけてまで俺と話がしたいってことか……とはいえ、ここで俺達の関係がバレるのもお互いよくないはずだ……今のタイミングで俺に話をしなければならない、よほどの事が起きたってことか?けどそれほどの事が起きるだけの時間もない。だって召喚されてまだ2週間程度だぞ?王都に出発するまでは北条さん達も魔王に対抗するための実力をつけるために鍛練に時間を費やしただろうし、問題が起きるだけの余裕もないはずだ……

「ヒビキ?どうしたの?」

スイが黙りこんだ俺の顔を覗き込んだ。

「いいや、なんでもない。ありがとな、スイ。」

「えへへ…」

スイの頭を撫でるとニッコリと笑った。

「で?どうする?お前のことだ。色々考えたんだろう?」

ニヤリとギルアスさんは意地の悪い顔をした。

「会います。」

「よし!お前ならそう言うと思ったぞ。」

どんな内容であれ、北条さんもある程度のリスクがあることを分かったうえで、行動を起こしたはずだ。ならちゃんと聞くべきだろうな。



ということで、ギルアスさんに案内されて俺とスイは北条さんが待っているという部屋の前にやって来た。

「勇者のリーダーはここにいる。俺は一緒にいた方がいいか?スイは連れて行くんだろう?」

今までの俺のコミュ障っぷりを見てきたギルアスさんは少し心配そうに俺の目を見た。

「はい、スイは一緒に行きます。ギルアスさんは外で待っててください。俺は大丈夫ですから。」

「……分かった。ただムリはするなよ?」

「はい、分かりました。」

「じゃ、行ってこい。」

ギルアスさんがニッコリと笑って、俺の頭を撫でた。

「はい、なるべく早く終わらせますね。」

俺が部屋のドアを開けると、そこには真剣な顔で書類を見ている北条さんがいた。

俺は、きちんとドアが閉まっているのを確認した後、外に声が漏れないように、魔法で壁を作った。

「お待たせしました、北条さん。」

「いいえ、こちらこそいきなり呼び出してごめんなさい。」

「だいじょうぶだよ!ねー!ヒビキ!」

「そうだな。何も用事もなかったしな。」

北条さんに向かい合うように椅子に座った俺の膝の上にスイが乗ってきたので、頭を撫でつつ北条さんを見た。

「あの……一つ聞いてもいいかしら……?」

「ええ、なんでも。」

なんだ……?

「その子は一体……?」

あ、スイのことを話すの忘れてた……

「ボクはスイだよ!ヒビキのおともだち!」

「そ、そうなのね……」

スイの大雑把な説明に少し困惑しながら北条さんは俺の顔を見た。これには俺も苦笑いをしながら返す。

「俺もよく分からないんですけど……スイは神様の所から来たらしいです。……俺の友達になってやってくれと言われて……」

「神様?それは…本当なの?」

北条さんが眉間にシワを寄せながらスイを見た。

「そうだよ!ほら!」

そう言ってスイは、人間の姿から本来のピンクスライムの姿に戻った。

「ス、スライムだったの!?……あ……」

つい大声をあげてしまった北条さんは慌てて自分の口をおさえた。

「大丈夫ですよ。外に声が漏れないようにしてますから。」

「あ……そ、そうだったのね……ありがとう。」

「いえ、そこは何か大事な話があるのは分かっていましたから。」

「それもそうね……と、それは別として…スライムはどういうことなの?」

「ヒビキはとくべつだから、ずっとかみさまがみてたんだよ!それでね!ボクがおともだちになってあげてってかみさまにいわれたの!」

「そう……」

スイからはこれ以上何も聞けないと思ったのか北条さんが俺の方を見た。

「すみません…俺もスイからはそれ以外聞いてなくて……」

「そうなのね……でも、確実に私達がこの世界に来たことと関係あるわね。」

「はい、ですがそれ以外は何も……」

「その神様云々はこっちでも神殿に探りを入れてみるわ。それで私が佐藤君を呼び出した本題に入ってもいいかしら?」

「はい、大丈夫ですよ。」

そういえばまだ本題に入ってなかったな。

「佐藤君……あなた、あの城を出た時にもらった通信用の魔道具はまだ持ってる?」

「ええ、もちろん。もらったお金と一緒に入れてますよ。」

その通信用の魔道具は直径5cmくらいのガラス玉みたいだったから、なくさないようにお金と同じ袋にいれてある。

「なら、その魔道具……すぐに捨てる、もしくは破壊した方がいいわ。」

「……え?」

いや……正直言って古代竜討伐について相談か、魔王についての相談の可能性が高いと思っていたから……

これは流石に俺も呆気に取られたのだった……


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