6 / 15
第五話 開花と勝利
しおりを挟む
「らあああああああ!!」
(はやイ)
悪魔はトウヤの刀を小さなモーションで避け、トウヤから距離を取った。
(ノうりょクは、なンダ?こノ速サは、ノウりょク……なノカ?)
「これ以上人を傷つけられてたまるかっっ!!!」
悪魔が先程の隊員たちにした、何かを飛ばす攻撃を仕掛けてきた。
(爪の欠片だったのか……っ)
トウヤはギリギリでそれを避けたが、複数の爪の欠片が体に掠り、プシッ、と小さな傷が増える。
(よケタ……こノおとコも、特せンか?)
トウヤは傷を気にせずに刀を構えて高速で悪魔へ襲いかかる。
(避けるだけじゃダメなんだ、僕は絶対にこの悪魔よりも弱いんだから!でも僕にはソキさんから教えてもらった剣術があるし、ソキさんの方がこの悪魔より強い。能力も使えない僕だからこそ、攻めなきゃ時間稼ぎにもなれない!!)
「はあああああ!!!」
トウヤの刀が悪魔の肩に当たった。
(このまま斬る!!!)
ぶしゃっ!っと、刀傷から悪魔の紫色の血が吹き出し、トウヤの顔にかかった。
(勝て……る……)
トウヤがその場に崩れ落ちた。
(なん、で……力……入らな……)
「おしエてやル」
悪魔がトウヤの頭を掴み、持ち上げた。トウヤの体は軽々と宙に浮く。
「わタシのノウりょクは、どク。わタシの血にハ、もウ毒ガあル」
(それを……僕は顔面で受けた、恐らく悪魔の肩ががら空きだったのは、僕を誘っていたから)
トウヤの腕がピクリと動く。
「イミル、撃ち抜け」
バン!という鋭い銃声がしてキリの銃弾が悪魔を襲うが、悪魔はそれをいとも簡単に避けた。
(くそっ、あいつを助けなきゃなんねぇのに)
キリが自分の脚を睨んだ。
「た……てよぉぉぉっ」
無理な話だ。キリは意識を保つことで精一杯な出血量であるのに、正確にピストルを使えるのが既におかしいのだから。
「キ……リ……」
トウヤが口から血を流しながら呟く。
(キリは恐らく、他の人よりも強いひと?とかを認識するのに長けてる、さっきだって特殲の人よりも早く、悪魔に気づいて動き出してた)
「じゅう……よ……来て……る……?」
トウヤの問いに、キリが目を瞑った。それから、ゆっくりと目を開けて言う。
「……はや、くて……着くのは、五分」
ぺっ、とキリが血の混じった唾を吐いた。
(五分……こいつをここで止められなければ、被害は拡大する)
「……おイ」
悪魔が突然、ニヤリと笑って言った。
「おまエの、かタナ……例ノ、ぶキじゃ……なイナ?」
トウヤは悪魔に突然掴んでいた手を離され、地面に落ちる。慌てて後退して、悪魔から距離を取った。
「そのブキじゃ……おレを、たオせナイ!」
悪魔の左肩にあった刀傷が完全に癒えた。
「そんな、こと……分かってるんだよ」
トウヤが悪魔を睨んだ。
(倒せなくてもいいと思っていた、でも、そんな気持ちじゃダメなんだ……十要を待ってちゃダメなんだよ)
ザッ、という音を立て、トウヤの横に男が立った。
「臓器イカれたぐれぇで、この俺が……動けねぇわけ、ねぇだろ!!」
キリは刺さっていた爪を引き抜き、もう一度銃を咥えて、両手の拳を凍らせた。
「もう……止めたりしないよ、キリ」
トウヤが刀を構え直した。悪魔が目を細める。
(十要なんかに負けてらんない、十要が来るまでに倒してやる。じゃなきゃ僕は)
「あああああああ!!!!」
トウヤが走り出した。
(バカな、あノ毒ガ効いていナイ?)
(最強になんか、なれねええええええ!!)
悪魔がトウヤの攻撃をいなす。
(そレどこロか……さきほドよリモ、はやイ)
ガン!!悪魔はキリに頭を殴られ、一度体勢を崩す。
(いヤ……毒はかラダヲ、たしカニ侵シていル!)
悪魔の長い爪が、トウヤの右腕に突き刺さった。それをすぐに切り落とし、トウヤは一度悪魔から距離をとる。
体勢を崩している悪魔は、キリからもう一発頭に打撃を受けた。
「効かナイ」
しかし悪魔は、すぐに体を治してしまう。
(クソ、この再生能力くそうぜぇ!!!)
キリが果敢に攻めるが、悪魔には傷が残らない。
(一発で仕留めなきゃいけない、でも僕の刀ではそれには至らない)
悪魔掃滅武器でもない刀では、悪魔に対して致命傷を与えることはまず不可能だ。
(キリの、当たれば勝つ攻撃しかない)
トウヤが悪魔の背後に回り込み、背後から走りよる。
(視界が揺れる……毒のせいだ)
走っていたトウヤが、立ち止まった。
(そうだ、僕が攻撃して悪夢の血が飛び散っても、こっちの不利になるだけ……それなら)
カランカランカラン、とトウヤの刀が瓦屋根を滑って地面へと落ちた。
(シめオとす!!!!)
トウヤが素手で悪魔へ襲いかかった。
「下がっ」
ゴボッ、とトウヤが血を吐いた。明らかに毒が体を侵し続けている。
「っ下がれキリ!!!」
キリは拳の氷を溶かし、ピストルを構えて悪魔から距離を取った。
(アイツも限界、俺も限界!だが意識はある!!)
ニヤリとキリが笑った。
「てめぇのことは……気にせずに、撃つぞ!!!避けねぇと、ぶっ殺す!!」
キリの掠れた怒号に、トウヤは笑って応じた。
「上等だゲスやろおおおお!!」
悪魔が顔をしかめてトウヤの格闘技を避け続ける。
(なんナノだ……このもノたチ……たいシテ、強クモなイのに)
トウヤが悪魔の首を絞めた。
「イミル、撃ち抜け」
バン!!バン!!悪魔はトウヤの太腿に爪を突き刺し、その拘束から逃れた。
「ぐっ」
ビュン、とトウヤの髪をキリの銃弾が掠めた。二発とも悪魔に当たらない。
(あっ……ぶない!!)
トウヤは太腿に突き刺さった爪を力ずくで抜いた。
「キリおまえ今僕ねらっただろおおおおお!!!」
叫びながら、悪魔の長い爪を握って悪魔へ襲いかかる。
「あぁ!?てめぇのっ、拘束が未熟なんだよ!!」
キリは舌打ちをした。
(残りは二発……俺が仕留めねぇと!!)
グラァ、とキリの視界が突然歪んだ。
(なん……)
同じ瓦屋根の上で悪魔に何度も攻撃されながら、攻めるトウヤの姿がぼやける。
(血ぃ……流しすぎた)
瓦屋根の上には、悪魔の紫色の血はほとんどなく、真っ赤な血ばかりだ。キリは細かい傷、大きな傷問わず、身体中から血を流し続けている。
(終わらせねぇと……っアイツじゃ、倒せね……)
キリの思考が一瞬、止まった。トウヤが、悪魔に背中から爪を突き刺され、その場に倒れた。動く気配はない。死んでいるかもしれない。
焦点が合わない視界で、キリは銃を撃つ。
「イミル……撃ち抜け……っ」
バン!!
悪魔はキリに近づいてくる。当たらなかったのだ。
バン!!
悪魔の歩みは止まらなかった。その一発も、避けられた。
キリは目を閉じた。
(生ヲ捨テタ)
悪魔は、爪を振り上げた。
「っはは」
笑い声が響き、悪魔は動きをとめた。
「っあはははは……っははっ、っははははは!!!!」
キリが腹を抱えて笑っていた。
(ナンだ?)
悪魔は念の為、キリから距離を取る。
『何か起きて、彼が能力を使おうとして、きみが何か危険だと感じたら、必ず彼を止めてくれ』
マークに言われた言葉が頭を過ぎった。
(悪いなあ副隊長さんよお)
キリが何かを企んでいる笑みを見せた。
(勝つためには……危険も必要なんだ……そうだろ?)
顔をしかめた悪魔だったが、戦況は変わらない。
「トウ……ヤ」
掠れた声で、キリがトウヤを呼んだ。ぴくり、とトウヤの指が動く。
(生きてた)
ニヤリとキリが笑う。
「最後まで戦わずに……てめぇ、負けるぞ」
(俺が知っているこいつは)
「……負……け……ない……」
トウヤの小さな声がキリに届いた。
(見た目は貧弱で、それでも、当時、神童と呼ばれた俺とも互角に渡り合うまで実力をのばしたぐらい)
月が不気味に光ったような気がした。カラカラ、と屋根の石が地面へ転がり、トウヤは立ち上がった。
(なゼ……たテル……?)
「思い……出せ」
入れ替わるように、キリがその場に倒れた。
(死ぬほど負けず嫌いだった!)
「お前の……の、りょくなら……まけ、ねぇ……」
死んだのか、気絶したのか。いつものトウヤならばすぐにキリのもとへと走り、息を確認しただろう。しかし、今は違った。
「のう、りょく……」
トウヤが右手で持っている悪魔の爪を見た。それが姿を変えて……漆黒の刀に変わった。いや、一瞬変わったように見えてから、元に戻った。
(なん、だ……?)
頭の中に、知らない男の声が響いた。
『やっぱりまだトウヤには黒も白も大きすぎたかあ』
記憶、だろうか。幻覚かもしれない。
『いいか、もしもその時が来たら……こう唱えるんだ』
トウヤは小さく口を開いた。
「黒龍……白龍……」
(?いま、なント……)
悪魔がそれを聞き取れず訝しげな顔をした。
「僕が主だ」
その時、国中の強者全員へと届くような、強く、美しい気配が一瞬現れた。
ゾクゾクゾクッ
悪魔は感じたことのないその気配に、慌ててトウヤへ爪を振りかざす。
(きケンだ……!!今すグ殺、)
ザシュッ!!!
悪魔は視界が真っ暗になるのを感じた。
(目ヲ……斬ラレた……!!偵サツが……できナイ!)
「ウガアアアアアア!!!」
トウヤの手元には、右手に漆黒の刀、左手に純白の刀があった。
(サイせい……できナイ!!)
漆黒の刀についた紫色の血を払ったトウヤは、二つの刀を構えた。
(力が漲る……これが能力)
トウヤはふらつく足取りで、目を押さえて喚く第四等級悪魔の前に立った。
「僕の勝……」
刀を振り上げたトウヤは、その場に倒れた。
(何……何で……し……死ぬ……冷……たい……)
毒で侵され、身体中を長く強く鋭い爪で貫かれたトウヤは既に限界などではなかった。瀕死どころか、ほとんど死んでいた。
「イミル」
トウヤの耳に、小さなその声が聞こえた。
「うち……ぬけ……」
バン!!
キリもほとんど意識がなく、その銃弾が第四階級悪魔に当たったのか、当たらなかったのかは、トウヤはもちろんキリも確認できなかった。
「……や……うや……トウヤ……トウヤ!!!」
がばっ!!
トウヤは飛び起きた。
「そ……ソキさ、おええええ」
だばー!と、トウヤの目から大量の涙が、口から大量の血が流れた。
「うげっ、うわっ、えっ、とっ、トウヤああああ!!」
ソキの目からも、だばー!と涙が溢れ、ソキの後ろからマークがその頭を軽く叩いた。
「トウヤくん大丈夫?意識に異常はない?何かおかしなところはない?どこが一番痛い?」
それからトウヤの口もとをハンカチで拭いて、マークが早口で聞いた。
「あっ、えっと、僕は大丈……って、キリはっ!!ごほっ、ごほっ」
トウヤが大声を出してまた咳き込んだ。
「今治療を受けてるよ、トウヤくんよりは状態はマシだ」
トウヤは改めて辺りを見渡した。先程戦闘を繰り広げた家屋の前の道路で、毛布の上に寝ていたらしい。そこにはソキ、マーク、それから複数の特殲隊員がいた。
さらに、特殊悪魔殲滅部隊、と書かれた車両に、担架に乗せられて乗り込むところだったキリの姿も見えた。
「ごめんねトウヤぁぁぁ……俺が、いたぶらずに悪魔をささっとやっつけてたらトウヤはこんなことにはならなかったのにぃぃ」
ソキがぼろぼろと涙を流す。
「あはは……っ、ごほっごほっ」
可笑しそうに笑ってから、トウヤはまた咳き込んだ。
「あっ、そういえばあの緑の……髪の、人の、隊員さん、とかは!」
慌ててそう言ったトウヤに、マークが答える。
「セル班長のことだね。一命は取り留めたよ。他の隊員も、首を傷つけられて危篤な隊員もいたが、これもギリギリ間に合った……まあ油断できるほどじゃあないけど」
ぽん、とマークがトウヤの頭に手を置いた。
「きみとキリくんのおかげで、特殲も一般人も死者はいなかった。よく頑張ってくれた。ありがとう」
トウヤが目をうるませた。そして、
「マークさああああっおええええ」
また、どばー!と目から涙と口から血を流して泣いた。
「トウヤあああああああ!!!!」
ソキもそれを見てまた叫ぶ。
「ぐすっ……あっ、そういえば、悪魔は……?」
はっ、としたようにトウヤが言う。
「十要と一緒に俺がここへ来た時には力尽きてたよ。やったのはトウヤくんかキリくんじゃないの?」
マークが目を丸くした。
「僕かキリ……?」
一度考え込み、思い出す。
(確か……僕は倒れて……キリもダメで……あ!!)
「僕、刀を……!」
トウヤが、ばっ!と自分の両手を見た。
「……あれ?」
そして、首を傾げる。
「能力……あれ、夢だったのかぁ?」
ますます不思議に思って、呟く。
「夢じゃないよ」
ソキがここへ来て始めて冷静になって言った。
「トウヤは能力を再発現させることに成功した。刀っていうのは、白と黒の立派なやつだね?」
(白と黒の立派な……)
トウヤが当時のことを思い出して、
「あっ、そうです、そうです!でもでも、たぶん僕、みんながやってるみたいに、氷をドーン!みたいなやつとか、能力ぽいこと?やってないと思うんですけど……僕の能力て何なんですか?」
不思議そうに言った。マークも気になっているようで、ソキの言葉を待っている。
「……うーん、それは俺にも分かんないなぁ」
ソキは慎重に言葉を選んでいるようだった。
「今の時点で言えることは、トウヤの悪魔掃滅武器は、人体憑依型なんだろうってことだけだね」
(悪魔掃滅武器……僕も持ってたんだ!)
キラッ、とトウヤが顔を輝かせた。
「ソキ、お前はトウヤくん連れて今日は帰れ。報告はしておく」
マークがぱん、と手を叩いた。公私の切り替えの合図だろうか。
「あれ、いいの?」
ソキがトウヤを毛布にくるめながら言った。
「奮闘した少年たちもそうですが、隊長も今回のMVPなので」
仕事モードのマークのソキへの言葉は、トウヤにとって新鮮だった。
「あぁっ、じゃあソキさんも戦ったんですか?さっき、悪魔いたぶったって」
トウヤが思い出したように言うと、ソキが笑って言った。
「俺も雑務続きで溜まってたからさ。それに偵察の悪魔が出たって聞いたし。俺が倒したのはそれじゃなかったけど」
(偵察の悪魔……何なんだろう、それ。まあ後で聞いてみよう)
「明日の仕事も俺がやります。一人で第四を五体一斉に相手して、さすがの隊長でも休みは必要でしょうから」
(ご……五体!?あ、あれを……一人で!?)
トウヤが毛布にくるまれながら目を丸くした。
「気遣い感謝するよ。討伐報告書もよろしく。それから、キリは隊員の治療を受けているからその報告も。あと、トウヤはひどい傷だから、俺が預かって治療をするって伝えておいて」
ソキはトウヤを担いでマークに言った。
「……隊長、討伐報告書は本人が書くものですよ」
「頼むよ副隊長。俺は疲れてるんだから」
わざとらしくウインクをしたソキは、トウヤを連れてその場から一瞬で消えた。
「ねーえあの子何者なのぉー?お姉さん気になっちゃーう」
「ミルディさん、それは俺も気になってたことですよ」
マークが、話しかけてきた、妖艶な女に言った。彼女こそが十要の中で唯一の女性である、ミルディだ。
「たいちょぉがあれだけ気にかけるんだもんなぁ。普段からふざけた人だから何を考えてるのか分かんないけど、今までたいちょー自身が隊員を連れて帰って治療なんて……夢でも起きなかったことなのにねぇ」
大きな葉巻を吸いながら、ミルディは微笑んだ。
「んー、気になるわぁ」
「それよりミルディさん、現場処理終わったら時間あります?」
ミルディが目を見開いた。
「あらぁ、いい男からデートのお誘い?えぇ、乗るわ」
「ありがとうございます」
(まあソキに押し付けられた事務作業手伝ってもらうだけだけど)
マークは笑った。
「副隊長、こっちにも銃弾がありまーす!」
「はいはい、気をつけて回収ー」
「なんだか……どっと疲れが……」
家に着いて、ソキはすぐにトウヤをベッドへ運んだ。既に時刻は深夜一時に近くなっていた。
「当たり前だよ、もう、無茶するなぁ……」
トウヤの体の穴は塞がっていた。ソキの能力だろうか。
「ほんとは一般人に悪魔の相手をさせてしまった時点で特殲の不甲斐なさが問われる大問題なんだ。到着が遅れてごめんね」
ソキはトウヤの手を両手で掴んだ。温かいその手に、トウヤは眠くなるほど安心した。
「なんか……眠くなります」
「細かい傷は治せてなかったからね、今治癒してるんだ。寝ていいよ」
(これが治癒かぁ)
トウヤは少し笑った。
「すごい一日でした。祭り、楽しかったけど、すごく怖い思いもした……死ぬかと思った」
でも、とトウヤは言葉を続ける。
「一人じゃなくて……キリと戦ってるときは、ちょっとだけ楽しかったです」
ゆっくりとトウヤの体が治癒により温かくなっていく。
「ソキさんの……剣術が、役に立ちました」
ソキが笑う。
「あははっ、じゃなきゃ困るよ。そういえば、能力は戻ったみたいだけど、何か記憶は?」
うーん……とトウヤが唸る。
「ハッキリしたことはなんにも……でも、誰かが、刀について……教えてくれたような気がします」
重い瞼を開けてトウヤが答えた。
「そっか。……よく頑張ったね。トウヤが立派になったら、俺の弟子なんだって自慢して回ってやるんだから、その調子で頑張っていこうね」
だって、とソキがお茶目に笑って言った。
「俺を超えて最強になるんでしょ?」
トウヤがへにゃっと笑った。
「また……僕の刀でも……黒龍と白龍でも、ぐえっ」
突然、トウヤの身体の上に重い二つの大きな刀が現れた。
「うわあ」
「おえぇ」
「ドヴヤ゛ァァァァァァァ」
そのことには大して驚かなかったソキだが、重さに耐えきれず再び吐血したトウヤに対して、ソキが叫んだ。
慌てて刀をどけて、トウヤは青白い顔をした。
「なんでぇ……」
「黒龍、白龍……この刀……というより、この刀に宿っているモノの呼称だね。呼んだら現れるようになっているんだろう」
ソキが目を細めた。
(黒は話にしか聞いてなかったが……)
その紅い目には、二つの刀が放つ禍々しいオーラがしっかりと写っていた。
(相変わらず凄まじいモノが憑いてんなぁ)
ピリピリとその威圧を感じながら、ソキはトウヤに言った。
「で、これらが何って?」
「あ……黒龍と白龍を使って、訓練してくださいって」
ソキが苦笑いをした。
「いいよ、嫌だけど……」
「あははっ、どっち、ごほっごほっ」
笑ったらすぐに咳き込んでしまう。
「ごめんごめん……もう寝な、それしまえる?」
「あ……戻れ」
しゅるるっ、とそれら二つが消えた。
(しっかり主従関係は成り立ってるな、さすがだ)
もう一度ソキがトウヤの手を握る。身体が温もって、トウヤはゆっくりと目を閉じた。
「明日の朝ごはん……何が……いいですかぁ……?」
寝る直前、トウヤはソキに尋ねたが、寝てしまって結局答えを聞くことが出来なかった。
(はやイ)
悪魔はトウヤの刀を小さなモーションで避け、トウヤから距離を取った。
(ノうりょクは、なンダ?こノ速サは、ノウりょク……なノカ?)
「これ以上人を傷つけられてたまるかっっ!!!」
悪魔が先程の隊員たちにした、何かを飛ばす攻撃を仕掛けてきた。
(爪の欠片だったのか……っ)
トウヤはギリギリでそれを避けたが、複数の爪の欠片が体に掠り、プシッ、と小さな傷が増える。
(よケタ……こノおとコも、特せンか?)
トウヤは傷を気にせずに刀を構えて高速で悪魔へ襲いかかる。
(避けるだけじゃダメなんだ、僕は絶対にこの悪魔よりも弱いんだから!でも僕にはソキさんから教えてもらった剣術があるし、ソキさんの方がこの悪魔より強い。能力も使えない僕だからこそ、攻めなきゃ時間稼ぎにもなれない!!)
「はあああああ!!!」
トウヤの刀が悪魔の肩に当たった。
(このまま斬る!!!)
ぶしゃっ!っと、刀傷から悪魔の紫色の血が吹き出し、トウヤの顔にかかった。
(勝て……る……)
トウヤがその場に崩れ落ちた。
(なん、で……力……入らな……)
「おしエてやル」
悪魔がトウヤの頭を掴み、持ち上げた。トウヤの体は軽々と宙に浮く。
「わタシのノウりょクは、どク。わタシの血にハ、もウ毒ガあル」
(それを……僕は顔面で受けた、恐らく悪魔の肩ががら空きだったのは、僕を誘っていたから)
トウヤの腕がピクリと動く。
「イミル、撃ち抜け」
バン!という鋭い銃声がしてキリの銃弾が悪魔を襲うが、悪魔はそれをいとも簡単に避けた。
(くそっ、あいつを助けなきゃなんねぇのに)
キリが自分の脚を睨んだ。
「た……てよぉぉぉっ」
無理な話だ。キリは意識を保つことで精一杯な出血量であるのに、正確にピストルを使えるのが既におかしいのだから。
「キ……リ……」
トウヤが口から血を流しながら呟く。
(キリは恐らく、他の人よりも強いひと?とかを認識するのに長けてる、さっきだって特殲の人よりも早く、悪魔に気づいて動き出してた)
「じゅう……よ……来て……る……?」
トウヤの問いに、キリが目を瞑った。それから、ゆっくりと目を開けて言う。
「……はや、くて……着くのは、五分」
ぺっ、とキリが血の混じった唾を吐いた。
(五分……こいつをここで止められなければ、被害は拡大する)
「……おイ」
悪魔が突然、ニヤリと笑って言った。
「おまエの、かタナ……例ノ、ぶキじゃ……なイナ?」
トウヤは悪魔に突然掴んでいた手を離され、地面に落ちる。慌てて後退して、悪魔から距離を取った。
「そのブキじゃ……おレを、たオせナイ!」
悪魔の左肩にあった刀傷が完全に癒えた。
「そんな、こと……分かってるんだよ」
トウヤが悪魔を睨んだ。
(倒せなくてもいいと思っていた、でも、そんな気持ちじゃダメなんだ……十要を待ってちゃダメなんだよ)
ザッ、という音を立て、トウヤの横に男が立った。
「臓器イカれたぐれぇで、この俺が……動けねぇわけ、ねぇだろ!!」
キリは刺さっていた爪を引き抜き、もう一度銃を咥えて、両手の拳を凍らせた。
「もう……止めたりしないよ、キリ」
トウヤが刀を構え直した。悪魔が目を細める。
(十要なんかに負けてらんない、十要が来るまでに倒してやる。じゃなきゃ僕は)
「あああああああ!!!!」
トウヤが走り出した。
(バカな、あノ毒ガ効いていナイ?)
(最強になんか、なれねええええええ!!)
悪魔がトウヤの攻撃をいなす。
(そレどこロか……さきほドよリモ、はやイ)
ガン!!悪魔はキリに頭を殴られ、一度体勢を崩す。
(いヤ……毒はかラダヲ、たしカニ侵シていル!)
悪魔の長い爪が、トウヤの右腕に突き刺さった。それをすぐに切り落とし、トウヤは一度悪魔から距離をとる。
体勢を崩している悪魔は、キリからもう一発頭に打撃を受けた。
「効かナイ」
しかし悪魔は、すぐに体を治してしまう。
(クソ、この再生能力くそうぜぇ!!!)
キリが果敢に攻めるが、悪魔には傷が残らない。
(一発で仕留めなきゃいけない、でも僕の刀ではそれには至らない)
悪魔掃滅武器でもない刀では、悪魔に対して致命傷を与えることはまず不可能だ。
(キリの、当たれば勝つ攻撃しかない)
トウヤが悪魔の背後に回り込み、背後から走りよる。
(視界が揺れる……毒のせいだ)
走っていたトウヤが、立ち止まった。
(そうだ、僕が攻撃して悪夢の血が飛び散っても、こっちの不利になるだけ……それなら)
カランカランカラン、とトウヤの刀が瓦屋根を滑って地面へと落ちた。
(シめオとす!!!!)
トウヤが素手で悪魔へ襲いかかった。
「下がっ」
ゴボッ、とトウヤが血を吐いた。明らかに毒が体を侵し続けている。
「っ下がれキリ!!!」
キリは拳の氷を溶かし、ピストルを構えて悪魔から距離を取った。
(アイツも限界、俺も限界!だが意識はある!!)
ニヤリとキリが笑った。
「てめぇのことは……気にせずに、撃つぞ!!!避けねぇと、ぶっ殺す!!」
キリの掠れた怒号に、トウヤは笑って応じた。
「上等だゲスやろおおおお!!」
悪魔が顔をしかめてトウヤの格闘技を避け続ける。
(なんナノだ……このもノたチ……たいシテ、強クモなイのに)
トウヤが悪魔の首を絞めた。
「イミル、撃ち抜け」
バン!!バン!!悪魔はトウヤの太腿に爪を突き刺し、その拘束から逃れた。
「ぐっ」
ビュン、とトウヤの髪をキリの銃弾が掠めた。二発とも悪魔に当たらない。
(あっ……ぶない!!)
トウヤは太腿に突き刺さった爪を力ずくで抜いた。
「キリおまえ今僕ねらっただろおおおおお!!!」
叫びながら、悪魔の長い爪を握って悪魔へ襲いかかる。
「あぁ!?てめぇのっ、拘束が未熟なんだよ!!」
キリは舌打ちをした。
(残りは二発……俺が仕留めねぇと!!)
グラァ、とキリの視界が突然歪んだ。
(なん……)
同じ瓦屋根の上で悪魔に何度も攻撃されながら、攻めるトウヤの姿がぼやける。
(血ぃ……流しすぎた)
瓦屋根の上には、悪魔の紫色の血はほとんどなく、真っ赤な血ばかりだ。キリは細かい傷、大きな傷問わず、身体中から血を流し続けている。
(終わらせねぇと……っアイツじゃ、倒せね……)
キリの思考が一瞬、止まった。トウヤが、悪魔に背中から爪を突き刺され、その場に倒れた。動く気配はない。死んでいるかもしれない。
焦点が合わない視界で、キリは銃を撃つ。
「イミル……撃ち抜け……っ」
バン!!
悪魔はキリに近づいてくる。当たらなかったのだ。
バン!!
悪魔の歩みは止まらなかった。その一発も、避けられた。
キリは目を閉じた。
(生ヲ捨テタ)
悪魔は、爪を振り上げた。
「っはは」
笑い声が響き、悪魔は動きをとめた。
「っあはははは……っははっ、っははははは!!!!」
キリが腹を抱えて笑っていた。
(ナンだ?)
悪魔は念の為、キリから距離を取る。
『何か起きて、彼が能力を使おうとして、きみが何か危険だと感じたら、必ず彼を止めてくれ』
マークに言われた言葉が頭を過ぎった。
(悪いなあ副隊長さんよお)
キリが何かを企んでいる笑みを見せた。
(勝つためには……危険も必要なんだ……そうだろ?)
顔をしかめた悪魔だったが、戦況は変わらない。
「トウ……ヤ」
掠れた声で、キリがトウヤを呼んだ。ぴくり、とトウヤの指が動く。
(生きてた)
ニヤリとキリが笑う。
「最後まで戦わずに……てめぇ、負けるぞ」
(俺が知っているこいつは)
「……負……け……ない……」
トウヤの小さな声がキリに届いた。
(見た目は貧弱で、それでも、当時、神童と呼ばれた俺とも互角に渡り合うまで実力をのばしたぐらい)
月が不気味に光ったような気がした。カラカラ、と屋根の石が地面へ転がり、トウヤは立ち上がった。
(なゼ……たテル……?)
「思い……出せ」
入れ替わるように、キリがその場に倒れた。
(死ぬほど負けず嫌いだった!)
「お前の……の、りょくなら……まけ、ねぇ……」
死んだのか、気絶したのか。いつものトウヤならばすぐにキリのもとへと走り、息を確認しただろう。しかし、今は違った。
「のう、りょく……」
トウヤが右手で持っている悪魔の爪を見た。それが姿を変えて……漆黒の刀に変わった。いや、一瞬変わったように見えてから、元に戻った。
(なん、だ……?)
頭の中に、知らない男の声が響いた。
『やっぱりまだトウヤには黒も白も大きすぎたかあ』
記憶、だろうか。幻覚かもしれない。
『いいか、もしもその時が来たら……こう唱えるんだ』
トウヤは小さく口を開いた。
「黒龍……白龍……」
(?いま、なント……)
悪魔がそれを聞き取れず訝しげな顔をした。
「僕が主だ」
その時、国中の強者全員へと届くような、強く、美しい気配が一瞬現れた。
ゾクゾクゾクッ
悪魔は感じたことのないその気配に、慌ててトウヤへ爪を振りかざす。
(きケンだ……!!今すグ殺、)
ザシュッ!!!
悪魔は視界が真っ暗になるのを感じた。
(目ヲ……斬ラレた……!!偵サツが……できナイ!)
「ウガアアアアアア!!!」
トウヤの手元には、右手に漆黒の刀、左手に純白の刀があった。
(サイせい……できナイ!!)
漆黒の刀についた紫色の血を払ったトウヤは、二つの刀を構えた。
(力が漲る……これが能力)
トウヤはふらつく足取りで、目を押さえて喚く第四等級悪魔の前に立った。
「僕の勝……」
刀を振り上げたトウヤは、その場に倒れた。
(何……何で……し……死ぬ……冷……たい……)
毒で侵され、身体中を長く強く鋭い爪で貫かれたトウヤは既に限界などではなかった。瀕死どころか、ほとんど死んでいた。
「イミル」
トウヤの耳に、小さなその声が聞こえた。
「うち……ぬけ……」
バン!!
キリもほとんど意識がなく、その銃弾が第四階級悪魔に当たったのか、当たらなかったのかは、トウヤはもちろんキリも確認できなかった。
「……や……うや……トウヤ……トウヤ!!!」
がばっ!!
トウヤは飛び起きた。
「そ……ソキさ、おええええ」
だばー!と、トウヤの目から大量の涙が、口から大量の血が流れた。
「うげっ、うわっ、えっ、とっ、トウヤああああ!!」
ソキの目からも、だばー!と涙が溢れ、ソキの後ろからマークがその頭を軽く叩いた。
「トウヤくん大丈夫?意識に異常はない?何かおかしなところはない?どこが一番痛い?」
それからトウヤの口もとをハンカチで拭いて、マークが早口で聞いた。
「あっ、えっと、僕は大丈……って、キリはっ!!ごほっ、ごほっ」
トウヤが大声を出してまた咳き込んだ。
「今治療を受けてるよ、トウヤくんよりは状態はマシだ」
トウヤは改めて辺りを見渡した。先程戦闘を繰り広げた家屋の前の道路で、毛布の上に寝ていたらしい。そこにはソキ、マーク、それから複数の特殲隊員がいた。
さらに、特殊悪魔殲滅部隊、と書かれた車両に、担架に乗せられて乗り込むところだったキリの姿も見えた。
「ごめんねトウヤぁぁぁ……俺が、いたぶらずに悪魔をささっとやっつけてたらトウヤはこんなことにはならなかったのにぃぃ」
ソキがぼろぼろと涙を流す。
「あはは……っ、ごほっごほっ」
可笑しそうに笑ってから、トウヤはまた咳き込んだ。
「あっ、そういえばあの緑の……髪の、人の、隊員さん、とかは!」
慌ててそう言ったトウヤに、マークが答える。
「セル班長のことだね。一命は取り留めたよ。他の隊員も、首を傷つけられて危篤な隊員もいたが、これもギリギリ間に合った……まあ油断できるほどじゃあないけど」
ぽん、とマークがトウヤの頭に手を置いた。
「きみとキリくんのおかげで、特殲も一般人も死者はいなかった。よく頑張ってくれた。ありがとう」
トウヤが目をうるませた。そして、
「マークさああああっおええええ」
また、どばー!と目から涙と口から血を流して泣いた。
「トウヤあああああああ!!!!」
ソキもそれを見てまた叫ぶ。
「ぐすっ……あっ、そういえば、悪魔は……?」
はっ、としたようにトウヤが言う。
「十要と一緒に俺がここへ来た時には力尽きてたよ。やったのはトウヤくんかキリくんじゃないの?」
マークが目を丸くした。
「僕かキリ……?」
一度考え込み、思い出す。
(確か……僕は倒れて……キリもダメで……あ!!)
「僕、刀を……!」
トウヤが、ばっ!と自分の両手を見た。
「……あれ?」
そして、首を傾げる。
「能力……あれ、夢だったのかぁ?」
ますます不思議に思って、呟く。
「夢じゃないよ」
ソキがここへ来て始めて冷静になって言った。
「トウヤは能力を再発現させることに成功した。刀っていうのは、白と黒の立派なやつだね?」
(白と黒の立派な……)
トウヤが当時のことを思い出して、
「あっ、そうです、そうです!でもでも、たぶん僕、みんながやってるみたいに、氷をドーン!みたいなやつとか、能力ぽいこと?やってないと思うんですけど……僕の能力て何なんですか?」
不思議そうに言った。マークも気になっているようで、ソキの言葉を待っている。
「……うーん、それは俺にも分かんないなぁ」
ソキは慎重に言葉を選んでいるようだった。
「今の時点で言えることは、トウヤの悪魔掃滅武器は、人体憑依型なんだろうってことだけだね」
(悪魔掃滅武器……僕も持ってたんだ!)
キラッ、とトウヤが顔を輝かせた。
「ソキ、お前はトウヤくん連れて今日は帰れ。報告はしておく」
マークがぱん、と手を叩いた。公私の切り替えの合図だろうか。
「あれ、いいの?」
ソキがトウヤを毛布にくるめながら言った。
「奮闘した少年たちもそうですが、隊長も今回のMVPなので」
仕事モードのマークのソキへの言葉は、トウヤにとって新鮮だった。
「あぁっ、じゃあソキさんも戦ったんですか?さっき、悪魔いたぶったって」
トウヤが思い出したように言うと、ソキが笑って言った。
「俺も雑務続きで溜まってたからさ。それに偵察の悪魔が出たって聞いたし。俺が倒したのはそれじゃなかったけど」
(偵察の悪魔……何なんだろう、それ。まあ後で聞いてみよう)
「明日の仕事も俺がやります。一人で第四を五体一斉に相手して、さすがの隊長でも休みは必要でしょうから」
(ご……五体!?あ、あれを……一人で!?)
トウヤが毛布にくるまれながら目を丸くした。
「気遣い感謝するよ。討伐報告書もよろしく。それから、キリは隊員の治療を受けているからその報告も。あと、トウヤはひどい傷だから、俺が預かって治療をするって伝えておいて」
ソキはトウヤを担いでマークに言った。
「……隊長、討伐報告書は本人が書くものですよ」
「頼むよ副隊長。俺は疲れてるんだから」
わざとらしくウインクをしたソキは、トウヤを連れてその場から一瞬で消えた。
「ねーえあの子何者なのぉー?お姉さん気になっちゃーう」
「ミルディさん、それは俺も気になってたことですよ」
マークが、話しかけてきた、妖艶な女に言った。彼女こそが十要の中で唯一の女性である、ミルディだ。
「たいちょぉがあれだけ気にかけるんだもんなぁ。普段からふざけた人だから何を考えてるのか分かんないけど、今までたいちょー自身が隊員を連れて帰って治療なんて……夢でも起きなかったことなのにねぇ」
大きな葉巻を吸いながら、ミルディは微笑んだ。
「んー、気になるわぁ」
「それよりミルディさん、現場処理終わったら時間あります?」
ミルディが目を見開いた。
「あらぁ、いい男からデートのお誘い?えぇ、乗るわ」
「ありがとうございます」
(まあソキに押し付けられた事務作業手伝ってもらうだけだけど)
マークは笑った。
「副隊長、こっちにも銃弾がありまーす!」
「はいはい、気をつけて回収ー」
「なんだか……どっと疲れが……」
家に着いて、ソキはすぐにトウヤをベッドへ運んだ。既に時刻は深夜一時に近くなっていた。
「当たり前だよ、もう、無茶するなぁ……」
トウヤの体の穴は塞がっていた。ソキの能力だろうか。
「ほんとは一般人に悪魔の相手をさせてしまった時点で特殲の不甲斐なさが問われる大問題なんだ。到着が遅れてごめんね」
ソキはトウヤの手を両手で掴んだ。温かいその手に、トウヤは眠くなるほど安心した。
「なんか……眠くなります」
「細かい傷は治せてなかったからね、今治癒してるんだ。寝ていいよ」
(これが治癒かぁ)
トウヤは少し笑った。
「すごい一日でした。祭り、楽しかったけど、すごく怖い思いもした……死ぬかと思った」
でも、とトウヤは言葉を続ける。
「一人じゃなくて……キリと戦ってるときは、ちょっとだけ楽しかったです」
ゆっくりとトウヤの体が治癒により温かくなっていく。
「ソキさんの……剣術が、役に立ちました」
ソキが笑う。
「あははっ、じゃなきゃ困るよ。そういえば、能力は戻ったみたいだけど、何か記憶は?」
うーん……とトウヤが唸る。
「ハッキリしたことはなんにも……でも、誰かが、刀について……教えてくれたような気がします」
重い瞼を開けてトウヤが答えた。
「そっか。……よく頑張ったね。トウヤが立派になったら、俺の弟子なんだって自慢して回ってやるんだから、その調子で頑張っていこうね」
だって、とソキがお茶目に笑って言った。
「俺を超えて最強になるんでしょ?」
トウヤがへにゃっと笑った。
「また……僕の刀でも……黒龍と白龍でも、ぐえっ」
突然、トウヤの身体の上に重い二つの大きな刀が現れた。
「うわあ」
「おえぇ」
「ドヴヤ゛ァァァァァァァ」
そのことには大して驚かなかったソキだが、重さに耐えきれず再び吐血したトウヤに対して、ソキが叫んだ。
慌てて刀をどけて、トウヤは青白い顔をした。
「なんでぇ……」
「黒龍、白龍……この刀……というより、この刀に宿っているモノの呼称だね。呼んだら現れるようになっているんだろう」
ソキが目を細めた。
(黒は話にしか聞いてなかったが……)
その紅い目には、二つの刀が放つ禍々しいオーラがしっかりと写っていた。
(相変わらず凄まじいモノが憑いてんなぁ)
ピリピリとその威圧を感じながら、ソキはトウヤに言った。
「で、これらが何って?」
「あ……黒龍と白龍を使って、訓練してくださいって」
ソキが苦笑いをした。
「いいよ、嫌だけど……」
「あははっ、どっち、ごほっごほっ」
笑ったらすぐに咳き込んでしまう。
「ごめんごめん……もう寝な、それしまえる?」
「あ……戻れ」
しゅるるっ、とそれら二つが消えた。
(しっかり主従関係は成り立ってるな、さすがだ)
もう一度ソキがトウヤの手を握る。身体が温もって、トウヤはゆっくりと目を閉じた。
「明日の朝ごはん……何が……いいですかぁ……?」
寝る直前、トウヤはソキに尋ねたが、寝てしまって結局答えを聞くことが出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる