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四章 臍の街、集うアルビスの女たち
複雑なようで、シンプルな
しおりを挟む「な、なぁ、シグリッド?」
「なぁに?」
「これ、狭くね? ドレもそう思うよな……?」
「え? いや、あたしはこれでも別に……」
ドレは暗がりの中でもはっきりとわかるほど、顔を真っ赤に染めていた。
ベッドから出るどころから、俺へより身を寄せてくる。
「じゃあ私ももっとギュッとしよっと!」
反対側のシグリッドもさらに体を押し付けて来る始末。
ーー俺は今シグリッドとドレに挟まれた状態で、小さなベッドのど真ん中に寝転んでいる。
なんでこんなことになったかというと……話は1時間ほど前の、魔列車の駅前にまで遡る。
●●●
「ドレさんはお兄ちゃんのために強くなる努力をしたんだよね? 今の貴方があるのは全部、お兄ちゃんのおかげなんだよね?」
「は、はい!」
シグリッドに気圧される形で、ドレは返事を返している。
「加えてお兄ちゃんのことが大好きと!?」
「も、もちろん!」
「なら……無理して諦めなくて良いよ? 好きってことはお兄ちゃんのことをすごく大事に思っているってことだし! それに貴方があの噂の西岸事変の英傑ドレならなおのこと! 大歓迎だよ!」
「……本当に良いんですか?」
ドレは落ち着いた声で、シグリッドへ問いかけた。
するとシグリッドは苦笑いを浮かべる。
「こんなこと言ってる私が言うのも変だけど、全く気にならないと言えば嘘になるね……だけど、私は自分のそうした個人的な感情よりも、お兄ちゃんの幸せを優先したい! ただそれだけだから!」
「……」
「それでもドレさんが、お兄ちゃんのことを諦めるっていうなら止めないよ!」
「あたしは……あたしはっ!! やっぱりアルさんのことが大好きっ! 諦めるなんてまっぴらごめんなんだから!」
「それ、私じゃなくてお兄ちゃんの方向いて言ってあげてね?」
「あっーー!?」
ドレは真っ赤な顔を俺へ向けて来た。
「お兄ちゃん! 貴方の答えは!」
「アルさんっ……」
シグリッドとドレ。
二人の真剣な眼差しが俺に集まっている。
なんだかすごい話になってきた。
正直困惑もしている。
だけど、ここで出す答えは、ただ一つ!
俺はシグリッドとドレの二人を思い切り抱き寄せた。
「シグリッドとドレの気持ちよくわかった! 君たち二人が俺を幸せにしてくれようしているのなら、俺も二人を必ず幸せにする! だから、俺について来いっ!」
「うん!」
「はいっ!」
……こうして俺は同時に二人の恋人を得ることになってしまった。
で、夜も遅いので、少し眠りたいと宿屋を探しだす。
でもなかなか見つからず、ようやく見つかったのが狭いシングルルームの部屋だった。
そこでも良いから、とりあえず眠りたいとシグリッドが駄々を捏ねたので……
●●●
「すぅー……すぅー……お兄ちゃん……」
狭いベッドの上、俺に左側ではシグリッドが安らかな寝息をあげている。
「シグリッドさんって、凄い人だね」
右側で寝ていたドレが、そう言った。
「俺も驚いたよ。シグリッドがまさかこんなこと言い出すなんてな」
「うん……もしもあたしが逆の立場だったら、全然違う答えを出していたと思う……」
ドレは不安そうにそう言うと、肩を震わせた。
「これからお互いシグリッドには頭が上がりそうもないな」
「そうだね……」
ドレはより身を寄せてきて、俺へ顔を近づけてくる。
「ねぇ、アルさん」
「ん?」
「シグリッドさんとは……した?」
「何を?」
「キ、キスとか……」
「お、おう……」
何となくドレが何を望んでいるのかわかった。
俺とドレの距離が縮んで行き、まるで成り行きのように口づけを交わす。
「ようやくできた! すっごく嬉しい!」
「俺もだよ」
「あたし、これから頑張るからね。いっぱいいっぱいアルさんの役に立つからね!」
「こちらこそ、よろしく」
俺とドレは再び口づけを交わす。
正直、すごく複雑な関係になってしまったと思った。
だけどやることは至ってシンプル。
これからも俺はドレとシグリッドの二人を頼り、精一杯愛してゆく。
それだけだ。
●●●
「さぁて、これからどうしようかお兄ちゃん?」
「あたしはアルさんの行くところだったら、何処へでもついて行くよ!」
ぐっすり眠って、宿屋を出た頃には昼になっていた。
俺たちは今後の方針を決めるべく、街の噴水広場で話し合いをしていた。
「西の果ての国へ行こうと思う」
「やっぱり魔王のことが気になる?」
俺はシグリッドの言葉に頷き返す。
昨今の魔物の大量発生は、西の果ての国の不安定さが招いていることらしい。
ならば力を持つものとして、英雄の村の出身者として、あの国へ向かうのは当然の判断だ。
ーー俺たち3人は魔列車へ乗車し、西の果ての国を目指すことにした。
果たして、この道の先で俺たちを待ち受けているのは……
「はい、お兄ちゃん! あーんして?」
「え? あ、いいよ、そういうの……」
「ぶぅー! 良いじゃん、恋人なんだから! 素直にするのっ!」
「わ、わかったよ。あ、あーん」
口を開けると、隣に座っているシグリッドがパンの切れ端を放り込んできた。
「ほらほら、もっと食べて?」
シグリッドは楽しそうに、俺へパンを食べさせ続けた。
そんな俺たちの様子を正面に座るドレは恥ずかしいものでも見るよな、しかし羨ましそうな視線を向けている。
ドレは持っていたパンをちぎり始めたが、
「ちょっと待った! ドレ、今朝お兄ちゃんとイチャイチャしたでしょ? だから今はダメっ! 今は私の番!」
「お、起きてたんですか……!?」
「そりゃ、あんな声聞かされたら置きたくなくても起きちゃうって」
「調子に乗り過ぎたぁ……」
ドレは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
もちろん、俺も同じく、赤面してしまう。
そんな俺へシグリッドはグッと身を寄せてきて、
「昨日は色々とあったから曖昧になっちゃったけど……つ、次は私の番だからね……?」
耳元でそう甘く囁きかけてくる。
……こんな感じで、俺たちの初めての列車の旅は続いてゆく。
やがて列車は臍の町と西の果ての国の国境で停車する。
どうやら入国の手続きを行なっているらしい。
そんな中、俺は嫌な予感を感じ取る。
それはシグリッドとドレも同じようだった。
「二人はここで待ってて。ちょっと先頭まで様子を見て来るから……」
しかし俺の言葉に反して、シグリッドとドレは立ち上がる。
「これからはずっと一緒だって言ったよね?」
「もう昔のあたしじゃないんだ! 絶対にアルさんの役に立てるよ!」
「……ありがとう、二人とも。行こう!」
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