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最終章 西の果ての国と魔滅の巫女

魔王の側

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「聖光雷!」

「聖光雷!」

 俺はシグリッドの魔法を輪唱のように唱えた。

『ーーーっっっっ!!』

 稲妻が、何発もの聖なる光の稲妻が繰り返しレギンを打つ。

「アルさん! 次はこっち!」

「はいよ!」

 ドレの魔弾を真似て放ち、レギンへ更なる迫撃をしかけた。

「つぁぁぁぁっ!」

「おあぁぁぁぁっ!」

 俺はレオヴォルの美しい足技を真似て、二人でレギンを吹っ飛ばす。
地面へ叩きつけられたレギンは、もはや立ち上がることすらままならないほどボロボロだった。

 そんなレギンへルウが近づく。
そしてそっとレギンの鎧に小さな手を添えた。

「レギン、今までありがとう」

『……ミ、コ様……』

「お休みレギン……ジャガナート、ウルフによろしく……ルウもすぐにそっちへ……」

 ルウの浄化の力が、レギンを分解してゆく。
やはり力の行使は辛いのか、ルウが顔を歪めていた。

 これは実験するのに良い機会かもしれないと思った俺は、ルウの元へ向かってゆく。

「アルビス?」

 俺はルウへ微笑みかけると、今彼女が施している浄化の力を真似てみた。
瞬間、胸が詰まるような感覚に襲われ、意識が別世界へと飛んでゆく。

……
……
……

 レギンはルウの宿命に強く心を痛めていた。

 ジャガナートも、ウルフも同じ気持ちだった。

 3人の誰もがルウのことを深く愛し、そして彼女を笑顔にしたかった。

 だから3人は、ルウをこっそりと外へ連れ出す計画を練った。

 しかし直前で、その企みがバレてしまった。

 3人は護衛役を解かれ、亡者との戦いの最前線へ送り込まれてしまった。

 悍ましい戦場で延々と戦い続けた3人は力つき、やがて……


……
……
……


 意識が元に戻り、既に目の前にレギンの姿は無かった。
 どうやら俺は、レギンの意識を見ていたらしい。

 すごく生々しく、時に戦場の痛みさえ感じるほどだった。

 たった一人の意識で、ここまでダメージを負うとは予想外だった。
しかもこれで、ルウと俺は半部ずつ請け負っていたのだ。

 これがもしも1人だったら……更に怨念の塊である、魔王の浄化だったらどれほどのものなのか。
全く想像がつかない。同時に、これを一手に引き受けるルウの苦しみを思うと、胸が詰まった。

「協力ありがとう。すごく助かった」

「浄化って、大変なんだな」

 俺はせめてもと、ルウの頭を撫でてやった。
ルウは嬉しそうに頬を緩ませてくれた。

「あのさぁ、お二人さん。良い感じのところちょーっと良いかなぁ?」

 怖い声が響いて振り返る。
 こわーい顔をしたシグリッド、ドレ、レオヴィルの3人がじーっと俺のことを睨んでいた。

「アルさんはもしかして、もう巫女様しか眼中に無いの!? あたし達とは遊びだったの……!?」

「そんなわけないだろ!」

「なら、どういう意図があって私達を冷たくあしらったのか、聞かせてもらおうかしら?」

「それは……」

 言い淀む俺の前へルウが立ちはだかった。
そしてドレとレオヴィルへ睨みを効かせる。

「アルビス責めない! 怒られるならルウも一緒に怒る!」

「ルウ、お前……」

「はぁ……もういいよ、この件、今は。時間ないんでしょ?」

 シグリッドは呆れた様子で、そう言ってくる。
そうするとドレもレオヴィルも、それ以上何も言ってこなくなった。

「代わりに全部終わったら、なんであんなこと言ったのかちゃんと聞かせて貰うからね? 良いね? お兄ちゃん?」

 なんとも答えづらく、苦笑いを浮かべることしかできない俺だった。

「おい、アルビス! また亡者が!」

 タイミングよく、ノワルが声をあげてくれた。
漆黒の騎士団も、逃げ出したシュヴァルツ以外は無事だったらしい。

「まずは亡者の殲滅だ! 話はあとだ!」

 俺たちは再び魔列車へ乗り込んだ。

 シグリッドが新たなレールを敷き、列車が動き出す。

 もはや俺たちと止めるものは、何も無かった。


●●●


 周囲を漂う邪悪な気配の密度が急激に増していった。
 普段から太陽が暑い雲によって隠されているのか、風が北の大地以上に冷たい。

 魔列車はまるで南の荒野のような荒地を突き抜けた。

 東の山を彷彿とさせる険しい山岳地帯に入り、魔列車が止まった。

 さすがの魔列車でも、この山の中を走るのは難しいようだ。

「魔王はあの山を越えた先」

 ルウが山を指差す。
 言われずとも、濃密な邪悪の気配が、この先に魔王が存在しているのだと知らせてくる。

 そして、そんな場所だからこそ、予想通りの大歓迎を受ける。

「あ、あんなに亡者が……?」

 山から次々と降りてくる亡者の群れにドレは声を震わせていた。

「ここまで来て何を怖気付いているの? しゃんとなさい!」

 するとレイヴォルが檄を飛ばした。それを受け、ドレは表情を引き締める。
この2人、なかなか良いコンビになったみたいだ。

「さぁ、あと一超えだ! 全力でいくぜぇー!!」

 俺の一声に皆は呼応する。
 俺たちは亡者の群れへ向けて、ルウを取り囲みつつ、まっすぐと進軍して行った。

ーーやはりというべきか、さすがは魔王の近くだった。
いくら俺たちだろうとも、この戦いはかなりの苦労を強いられた。

 なにせ亡者に加えて、強力な魔物も魔王の力に引きつけられて現れたからだ。

「ここは俺たちの任せて先へ行けっ!」

 ノワルがそう叫んできたのは、山を降り始める直前のことだった。

「代わりに巫女様を、大陸のみんなの命を守ってやってくれ!」

「ノワルっ!」

「ここが漆黒の騎士団の見せ場だ! みんな気合いいれてけぇーっ!!」

 ノワルの指示を受け、漆黒の騎士団は山の斜面に群がる亡者と魔物の群れへ突っ込んでいった。

「死ぬなよ、ノワル……!」

 俺たちはその場をノワルへ託し、山の斜面を下ってゆく。

 相変わらず行く先々には多数の亡者と魔物がいて道を塞がれた。

 しかしシグリッドの魔法が、ドレの魔弾が、レオヴィルの技がどんどん道を切り開いてゆく。
 俺はルウを守りつつ、適宜3人の強力な技を真似て、進んでゆく。

 死に物狂いだった。
 全身全霊とはまさにこのことを指すのだと感じた。

 俺たちは必死に亡者と魔物を薙ぎ倒し続ける。

そしてーー

「な、なに、この禍々しい気配は……」

 この中で一番、魔力や気配に敏感なシグリッドが顔色を真っ青に染めている。

 俺たちはシグリッドほどの感受性はない。
しかしそれでも、目の前で不気味に赤く輝く泉に強い不快感を覚えた。

「これが魔王。この大陸の原住民キリエル人の気持ちの塊。ルウのご先祖様の、怒りや恨みが詰まった場所……」

 ルウはそう呟くと、1人泉の形をした魔王へ近づいてゆく。

「あの子、何をするつもりなの……?」

 シグリッドが不安そうに唇を震わせる。
 
 ルウは魔王へかがみ込み、そっと手をかざす。
すると、彼女から泉と同じような赤い輝きが発せられた。

 刹那、周囲に激しい風が巻き起こる。

「な、なに、この風……立っていられない!?」

 ドレは地面へ必死にしがみつき、飛ばされまいとしている。

 そして風の中に、ルウの獣のような悲鳴が響き始めた。

「ああああ!! ああああああっ!!!」

 ルウは苦しそうな声をあげながら、それでも赤い輝きを発し続けている。
よくみてみると真っ赤だった泉が、ほんの少し色味を失っている。


ーーやはりルウの役目とは、命をかけて、魔王を亡者のように浄化することだったようだ。


 実際、俺も浄化を体験して、アレは肉体と精神に多大なダメージを負わせるものだと思った。

 今、ルウが体感しているのは、俺が経験したものの何十倍、何百倍もの苦しみがあるに違いない。
まさに命を燃やして、浄化をしているのは見るも明らかだった。

 きっとルウは、使命感の下、このまま浄化を続けるだろう。
その結果、魔王は消滅し、西の果ての国をはじめとする広大な大陸の国々は平穏を取り戻すだろう。
俺たちも平和な日々に戻るだろう。
ルウの命と引き換えに。ルウの居ない世界で。

……果たして、俺はそんな世界で、ずっと笑顔でいられるだろうか。

「お、お兄ちゃん! 待ってっ!」

「アルさんっ!」

「アル! 何をするつもりよ!」

ああもう……絶対、こういうリアクションされるってわかってたから、突き放したんだけどなぁ……
 
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